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ニューキーツ 作者:奈備 光

4章 砂塵の向こうに

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58 記憶の同期

 イコマが目覚めたとき、フライングアイの思考体は真っ暗な箱に入れられていた。
 思考が強制中断されたのは、スジーウォンの肩に乗って、チューブを突き進んでいたときだった。
 あれから、七時間が経過しているはず。

 ここはどこだ。
「スジーウォン」
 すぐに返事があった。
「スゥよ」
「君か。ここから出してくれ」
「出てきてもいいけど、景色は変わらないよ」
「今どこだ」
「チューブの中」

 どういうことだろう。
 まだアヤを探し続けているのだろうか。
「実はさ」
 救出はできた。しかしそれは、あなたの娘さんではないようだという。

「あの声が言ったとおりの地点に女の人が倒れていたから、てっきり……。もし違っていたとしても、その人を助けなければいけなかったし……」
「もちろんだ」
 そう言いながらも、イコマは歯軋りをする思いだった。

「レイチェルじゃないかってンドペキが言い出して……」
「なんと……」
 力が抜けていくようだった。
 もし、自分が立っていたとしたら、まともに立ってはいられなかっただろう。
「誰も分からなかったから」
 それで、スゥとパキトポークが、再びチューブに入ったのだと言う。

「今度もあの声だけ男は入れてくれた。無言だったけどね」
「他の隊員は?」
「それがさ、大変なことになって」
 パキトポークの声が割り込んできた。
「俺から説明しよう」


「うーむ。それであんた方ふたりは、またここに飛び込んでくれたというのか」
「そういうことになったのさ」
「すまない。迷惑をかけて」
「いいさ、どうせ俺は兵士だ。人助けができるなんてことは、めったにあることじゃない」
 パキトポークが快活に笑った。
「それに、ここの景色も見慣れたもんさ」

「今、どのあたりだ?」
 イコマは気を取り直して聞いた。
「予定では、後三十分くらいで着くだろう」

 後、三十分。そこでアヤと会えるかもしれない!
 喜びが押し寄せてきたが、自分を戒めた。
 それが喜びとなるのか、悲しみなのか、まだ分からない。
 覚悟はしておいたほうがいい。


「ところで、頼みがある」
 パキトポークの声だ。
「なんでも言ってくれ」
「あんたは、いくつ思考体を持っている?」
「本体と、別働の思考体がふたつだ」
「その本体と思考体はひとつの思考を、つまり、同期しているんだろ」
「そうだ」
「今、ここで話していることは、本体と話しているのと同じことだよな」
「そのとおりだ。現に今、本体はバードの行方について、ある人と話している」
 パキトポークはそれを確かめると、ふっと息を吐き出した。
「俺達には外部との連絡手段がない」
「なるほど」
「すまないが、もう一体、フライングアイを放ってくれないか」
 そうすれば、イコマの思考を通じて、外部との接点ができるというわけだ。

「お安い御用だ、と言いたいところだが」
 街から施設の入り口まで、かなりの距離がある。
 フライトにはかなりの時間を要する。

「それでもいい」
「分かった。とにかく、ハクシュウ達が今どこにいるか、探すことから始める」
 今度はスゥが割って入った。
「それなら、分かっているわ」
「ンドペキが案内するっていう洞窟か?」
 パキトポークとスゥが話している。
「問題がなければ、絶対にそこにいるはず。安全だから」
 イコマは、すぐにひとつの思考体をフライングアイとして放ち、街を飛んだ。


「今、出発した。場所を教えてくれ」
 スゥは考えているようだった。
「どうした? 教えられないのか?」
「そういうことじゃなくて、どう伝えればいいのかな」
「座標でもなんでもいい」
「座標だけでは、洞窟の入り口は見つからないわ。それに覚えていない。そうね、まず、この施設の入り口まで飛んで。そこから口頭で誘導するわ」
「分かった」
「何時間後に着く?」
「飛行スピードは時速三十キロしかない。半日はかかるだろう」
 パキトポークが溜息をついた。
 スゥが提案した。
「もっと速いフライングアイがあるよ。ジャンク品だけど」
「どこで借りれる?」

 イコマのもうひとつの思考体は、スゥが教えてくれた店に向かい、そこで乗り換えた。
 びっくりするほどの値段を吹っかけられたが、そんなことは言っていられない。
 百キロ近いスピードが出る。
 それでも、施設の入り口に着くまで、三、四時間ほどかかるだろう。


 後三十分で、アヤの所へ行き着く。
 ん、いや、そうではない、ということに気づいた。
 あの施設の声が言ったとおりの位置に、女が倒れていた。
 それがアヤでなかったとしたら、アヤはどこにいるのだ。

「今回は、あの声は何も教えてくれないのか」
「何度も声を掛けてみるんだが、ずっと無言のままだ」

 もしアヤが見つからなければ、彼らふたりを無駄死にさせることになるかもしれない。
 イコマは迷った。
 それでもいいのか、と。
 パキトポークとスゥも、もういいから引き返そうと言ったところで、一蹴するだろう。
 もう少しで現場に着くのだ。
 どうか無事でいてくれと、アヤとパキトポークとスゥに向かって祈るしかない。


 ハワードが訪ねてきた。
「まだ、私は生きています。新しい情報があります」
 挨拶抜きでハワードは本題に入った。
 私は生きていると断る無神経さに腹が立ったが、そんなことをやり合っているときではない。
「聞きましょう」

 ハワードが得た情報は、一見して無関係な情報のように思えた。
 エネルギー省の友人が言うには、ある施設で、一時的に膨大なエネルギーが使われたというのだった。
「その施設というのが、大昔の科学の産物で、ある実験施設だそうです。そこは表向きはもう使われていないのですが、どういうわけか時々、エネルギーが消費されているようなのです。そして昨日、こまでにない大きなエネルギーが使われたというのです」

 イコマは、ハワードの関心がどこに向いているのか、理解できなかった。
「そのことと、どんな関係があるのです?」
 と、かなりつっけんどんな言い方になった。
「はい。その施設こそが、彼女が閉じ込められている施設ではないかと、私は思うのです」
 イコマは、一瞬でその意味を悟った。
 昨日、大量に使われたエネルギーとは、今、パキトポークが話してくれたときのことではないのか。
 百五十人の兵が、一瞬にして真っ二つになったとき。
 チューブに出現した軍について、ハワードの情報はなかった。

 ただ、ハワードの想像が正しいとすれば、アヤを探す場所は間違っていなかったということになる。
 後、三十分、いや、もう二十五分後だ。
 死体が転がっている一帯のどこかに、アヤがいる可能性があるということだ。


「大切なことを言い忘れていた」
 パキトポークが声を掛けてきた。
「あの男が要求した条件を説明する。エーエージーエスで待っているオーエンに、弟子のホトキンを連れてくること。エーエージーエスとはなんなのか。オーエンとは誰なのか、ホトキンとは誰なのか。ホトキンには、どこに行けば会えるのか。これを調べてくれないか」
「それが叶わなければ、あんたらはここから出られない。そういうことだな」
「きっとそうだろう」
「わかった。できる限りのことをする」
「ありがとう」
「礼を言うのはこちらだ。本当に申し訳ない」
「いや、それはいいさ。で、もうひとつ、頼みがある」
「言ってくれ」
「俺の予想では、ハクシュウは自らホトキンを探しに行くだろう。あいつの性格からすれば、きっと自分で行くはず。コリネウルスやスジーウォンではなく、ンドペキでもなく、あいつ自身が街に戻ろうとするだろう。うまくいけば、あんたが洞窟とやらに向かう際に、ハクシュウと出会えるかもしれない。そのことを念頭においてフライトして欲しい」
「わかった」
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