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ニューキーツ 作者:奈備 光

4章 砂塵の向こうに

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55 それぞれの色模様

「あっ」
 後方から、コリネウルスが叫ぶ声がした。
「上を!」
「なんだ、あれは!」
 上空に黒い塊ができつつあった。
「パリサイド!」

 数体の集団で移動している。
 群れては離れを繰り返しながら、東の空へ向かっている。
 急降下したかと思うと、上空に舞い上がる。
 発砲音が激しくなった。
 政府軍が攻撃しているのだ。

「おい、まるで」
 軍を挑発しているかのようだ。
「攻撃しているのか!」
「いや。空を飛んでいるだけのようだ!」
「だな!」
「離れていくぞ!」
「そいつはいい!」
「おい、ンドペキ! 思わぬところから援軍が来たようだな」
 応えようがなかったが、代わりにスジーウォンが軽口を叩いた。
「知り合いでもいるの?」
 ハクシュウが笑い声を上げた。
「ああ、昔の彼女がね!」
「本当?」
「ハハ、そうさ!」
「おい!」


 ハクシュウとスジーウォンが、部隊の切迫感を和らげようとしていた。
 政府軍に追われている。
 自分達は朝敵になってしまったのだ。
 これから先、どうなるか、まるで分からない。
 今はただ、命からがら逃げるだけ。

 そんな状況では、どんな檄も効果は低い。
 リーダーが落ち着いているということを見せているのだ。

「そろそろ体勢を立て直すぞ」
 ハクシュウが命じた。
「各隊としての行動を取れ! パキトポークの隊員はスジーウォン隊に合流しろ!」
 ンドペキの隊もスジーウォンの隊も、すでにそれぞれの隊長のそばを走っていた。
 パキトポークの隊員達も、スジーウォン隊に合流し始めた。

 ンドペキは叫んだ。
「向かう先は広い洞窟だ! 二十分後に着く!」
 ハクシュウの声が飛んできた。
「到達したら、どうする! それを説明しろ!」
 ンドペキは再び叫んだ。
「洞窟の入り口は小さい。まず、ハクシュウ隊、コリネウルス隊、スジーウォン隊、俺の隊の順に中に入る」
 そして、洞窟の入り口の構造を説明した。
「あわてずに飛び降りろ!」
 ハクシュウがぼそりと言った。
「やれやれ、俺を一番に入れてくれるのか。こいつを背負うんじゃなかったな」


 パリサイドの群れは、かなり遠い空を旋回しながら遠ざかって行きつつあった。
 その下に政府軍がいるとするなら、もう安全だ。
 ンドペキの胸にわずかな安堵感が訪れた。
 思わず漏れそうになった吐息を飲み込んだ。
 後はチョットマと上手く合流すればいい。
 陽動作戦のふたりは、すばやさでは隊の一、二を争う兵士だ。攻撃力はないが、弾をかわすだけなら問題はないはず。パリサイトが相手を引き付けてくれるなら、無事である確率は高い。

 しかし、パキトポークとスゥの安否はまったく分からない。
 政府軍の一部が、あの施設に乗り込んでいったのなら、上手く戦えるだろうか。
 また、あの声が助けてくれるだろうか。
 そもそも、施設に入ることはできただろうか。
 声が要求した、見返りの条件はまだ満たしていないのだ。


 ンドペキはキュートモードに切り替えた。
「ハクシュウ」
「ん?」
「ホトキンという男、どうする気だ」
 パキトポークとスゥは、無事に施設には入れただろうと思うしかない。
 もし政府軍が追ってきていても、声はあの時と同じように、助けてくれただろうと思うしかない。
 なぜならふたりは、あるいはバードを含めた三人は、約束を果たさせるための人質になるから。

「難しそうだな。だが、やるしかあるまい」
 ハクシュウが返してきた文字が流れる。
「やる気なんだな」
「引き換え条件でもあるし」
 パキトポークとスゥを見殺しにはできない。
「手段は、落ち着いてから考えよう」
「そうだな」
「ところで、洞窟とやらの内部を、全員に説明してくれ。向こうに着けば、すぐにやらなくてはいけないことが山積みだ。着いてからゆっくり説明を聞いている暇はない」

 ンドペキは全隊員に向かって、洞窟内部の構造について説明した。
 それを聞いてから、ハクシュウが自分の隊の隊員三名に命令を出した。
「おまえ達は、洞窟に入らず、敵の来襲を警戒しろ! 敵の別働隊が追走してきているかもしれない。洞窟の入り口を発見されないようにしろ!」
「ラジャー!」
 そして、全員向かって、改まった声で命令を出した。
「洞窟に入ったら、まず、休息をとれ! スジーウォン、着いたらすぐに部屋割を決めろ!」
「了解!」
「休息は三十分。三十分後に大広間に集まれ。大切な話がある。ンドペキとコリネウルスは大広間に食事を用意しろ!」
「了解だ!」


 ハクシュウがキュートモードで話しかけてきた。
 コリネウルスとスジーウォンにも繋がっている。
「これからどうするか、意見を聞こう」
 コリネウルスがいの一番に発言した。
「まずすべきことは、我々を襲った軍がどこのものか、正確に把握する必要がある。今後のことはそれからだ」
「うむ」
「地下施設の敵は記章をつけていなかった。つまり、防衛軍ではないということだ。しかし、この街にそれほどの兵数を擁する隊は他にはない」
「ああ」
「他の街からの攻撃という考えもあるが、もしそうだとしたら、これは歴史的な奇襲攻撃ということになる。今襲ってきた軍が敵だとすれば、街はすでに敵の手に落ちていると考えるべきだ」
「うむう」
「そうなれば、この女がレイチェルだとして、あそこに倒れていたことの説明もつく」

「他の街が攻撃してくる可能性はあるのか?」
「そんな情報は聞いたことがない。ありえない。しかし、パリサイドも出現したことだし、なにが起きても不思議じゃない」
 ンドペキはこれまで、他の街と交戦状態になるとは思ってもみなかった。意識したこともなかった。
 数百年にわたり平和が続いてきたのだ。
 敵とみなしているのは、前の大戦に使われた自己増殖可能なマシン類と動物兵器だけなのだ。


「もしあれが正規の政府軍だとすれば」
「かなり厄介なことになる」
「レイチェルの軍だぞ。ところがこちらには、その女がいる。もしかするとレイチェルかもしれない女が」
「レイチェルが仕向けたわけではない、ということになるな」
「むしろレイチェルを救出するための軍だと」
「うむう」
 ハクシュウもンドペキも唸った。

「納得できないようだな」
「襲ってきた軍は、我々がレイチェルを保護しているということを知らない、ということになる」
 彼らは総攻撃を仕掛けてきた。それも、問答無用で。
 レイチェルがここで生きているということを知っておれば、たとえチョットマが散発的に発砲したからといって、森を焼き払うというような掃討作戦には出ないだろう。
「ただし、正規の政府軍だとしての話だ」 


 スジーウォンが別のことを言った。
「パキトポークらが地下施設に入ったかどうか、それを確かめる必要もあるわ」
「うむ」
「できればついでに、あそこに残してきた物を回収したい」
「うむ」
「隊としては大損害よ」

 ンドペキは、誰が街に戻ってホトキンを連れてくるか、が最も難しい作戦だと思った。
 チョットマ達のことも気になるが、あえてそれは口にしない。いずれ、ハクシュウに彼らを探しに戻る許可を得ればいい。
「その問題とは別に、喫緊の課題はホトキン連れ出し作戦をどうするか。これはよほど知恵を絞らないといけないな」
「うむ」
「コリネウルスが示唆したように、もしあいつらが正規の政府軍ではなかったなら、案外、俺達はたやすく街に戻れるかもしれない。そうなれば、ホトキンを見つけ出しさえすればいい。しかし、もし街に戻れないようだったら、ことはかなり難しいことになる」
「うむ」
 ンドペキは自分の考えていることを正直に話した。
「俺は、ホトキンを連れてこない限り、パキトポークもスゥも、バードという女もあそこから出られないのではないかと思う」
「うーむ」
「街の様子を探ること、つまり俺達の置かれた状況を確認することも、すぐに取り掛からねば」


 ハクシュウが「よし」と言った。
「考えていることはみんな同じだな。いずれも優先順位は高い。すぐに作戦にかかろう」
 スジーウォンが、今すぐに担当を決めて欲しいと言った。
「それは少し待て。隊員全員にきちんと話をしてからだ。きっと、不安に思っている者もいるだろう」
 スジーウィンは不満げな様子だ。
「パキトポークの隊員達は、すぐに地下施設に向かいたいと思うけど」
「だろうな。しかし、それはだめだ。ここが正念場だ」
 ンドペキは、正念場というのが、この部隊全体が軍としての行動を取れるかどうかの正念場だと言っているように聞こえた。
 今ここで、それぞれの思いで動き始めたら、東部方面攻撃隊は崩壊してしまうだろう。
 スジーウォンもそれを理解したようで、もう異議を唱えようとはしなかった。
「それに、もうひとつ重要なことがある」
「ん?」

「この女だ。こいつが目を覚ませば、いろんなことが見えてくるだろう」
「うむ、その通りだな」
「わが隊、最高の名医は誰だ?」
 コリネウルスが、ひとりの隊員の名を挙げた。
「そいつがさっきまで、治療していたんじゃなかったか?」
「そうだ。彼の報告によれば、助かる見込みは二割ということだった」
「二割! まずいじゃないか!」
「なにしろ、重傷を負った者が、何時間も背負子で揺られているんだ」
「うーむ」
「あいつに任せるしかない」
「この森には、奇跡を起こせる妖精なんぞ、住んでいないのか」
「知らんぞ、そんな話。そんな連中をあてにするより、俺の部下を信頼しろ」
「任す」

 ンドペキは、自分はどの役割に就きたいかを考えた。
 ことの起こりは自分に責任がある。
 何をすれば、今回の事態の責任を取れるだろう。

 街に向かう。
 これしかないと思った。
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