挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューキーツ 作者:奈備 光

3章 チューブ

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

54/126

53 戦慄の色

 チューブの斜面に、ハクシュウ隊は位置取りをしようとしたが、声がそれを遮った。

「おまえ達に頼みたいことがある」
「なんだ!」
「話している時間はない。頼みを受けるのなら、俺が連中を排除してやろう」
「なに!」
「どうだ、受けるのか」

 相手が追っ手なら、それ相応の準備もしてきていることだろう。
 しかも百五十人。
 手練の部隊なら、勝ち目はない。
 こちらは頼みのエネルギーさえ枯渇している。
 しかも、ひとりは民間人で、意識不明の女を背負っているときている。
 数分ももたずに、かたはついてしまうだろう。


 ハクシュウが一拍の間をおいて、
「やろう。ただし、俺たちにできることなら」と怒鳴った。
「では、伏せろ。一番低いところに。すぐにだ!」
 言われたとおりにするしかない。
「女を降ろせ!」
 すばやく背負子を外し、女がうつ伏せになるように床に降ろした。
「絶対に頭を上げるな!」

 クソ、とんでもないことになりやがった。
 ンドペキが思ったのも束の間、
「終ったぞ」という声がした。

「約束は守ってもらう」
「待て。撃破したのか!」
 ハクシュウが怒鳴った。

「頼みとはなんだ!」
 が、声はもう返ってこなかった。
 声は終ったと言ったが、腹這いになっていた時間は、わずか数秒。
 その間、なんの音もしなかったし、前方が光ったわけでもない。空気さえ、フワリとも動いていない。チューブにはなんの変化もなかった。
「クソッタレめ!」


「どうだ、女の具合は」
 女はまだ生きていた。
 依然として意識はない。鼓動は弱く、呼吸も乱れている。
「とにかく戻ろう」
 その後一分も経たないうちに、ンドペキは身の毛がよだった。

 チューブの中は、凄惨を極めていた。
 転がった大量の死体。
 すべて、腹部から胸部の位置で、装備もろとも真っ二つに切り離されていたのだ。
 チューブの底に溜まった大量の血。
 誰一人生きているものはいなかった。

 もし、浮遊走行でなければ、累々と続く死体と血で、進むこともままならなかったであろう。
「生き残りがいるかもしれない。注意して進め」
 しかし、ピクリとも動くものはいない。
「たった今、殺されたんだな」
 真っ赤な血がどの体からも、流れ出していた。


「立派な装備だ」
 死体の川を飛び越えながら、ハクシュウとパキトポークが分析した。
「攻撃隊ではないようだ。装備が統一されている」
「防衛軍か!」
「うーむ。だが、記章はない」
 街政府の正規軍のうち、防衛隊はトカゲ型の記章をつけている。
 青いトカゲが普通の防衛隊。赤いトカゲがホメムの周りを固める親衛隊。
 赤いトカゲの白ずくめの一団ならレイチェル騎士団ということになる。
 対して、我々のような攻撃隊に統一した記章はない。記章を決めている隊もあるが、ハクシュウ率いる東部方面攻撃隊には決まった印はないし、装備もばらばらだ。

「まずいことになった」
 ンドペキはそう呟いたが、応えるものはいない。
「この軍は!」
 怒鳴ってはみたが、チューブにむなしく声がこだまするだけ。
 返事はない。

「応戦した形跡もない」
 真っ二つになった兵士たちは、戦闘準備はしていたようで、おのおのの武器の安全装置は外され、いつでも発射できる状態で散乱していた。
「エネルギーパットを奪おうか?」
「やめておこう」
 自分たちは兵士といえども、人を殺したことはない。相手はいつも、マシンや兵器生物だ。
 真っ二つにされて血みどろになった人間の死体から、パッドを取り出すことは生理的にできないことだった。


「どんな兵器なんだ。これだけの人数を一瞬で切り殺すことができるのは」
「たぶん、このチューブそのものに組み込まれた殺傷装置だろ」
 いずれにしろ、自分たちはあの声の男によって生かされている。
 その現実を目の当たりにして、戦慄を覚えた。

 もし、この軍が自分たちが降りてきた入り口から入ってきたのなら、地上にいる部隊は無事ではすまない。
 誰の胸にも、その考えは去来しただろう。
「急ごう」
 ハクシュウの声はいつものように穏やかだったが、それ以来、口をきくものはいなくなった。


 四つ辻を通過し、もう一本のチューブに入ってから、ンドペキはひとつの思考に思いが至った。
 背負っている女は、レイチェルではないかと。

 仮面を外した彼女を見たのは、自分の部屋の前で会った時。
 ほんの一分ほどの短い時間。
 しかも、夜。
 面影の記憶は、それほど強くはない。

 自信はなかったが、一旦そう思い始めるとその考えを振りほどけなくなった。
「ハクシュウ、この女、レイチェルだと思わないか?」
 すぐに返事はなかった。
 他の隊員達からも、スゥからも返事はない。
 誰しも、答えようのない質問だったのだろう。

 間をおいて、ハクシュウの返事が来た。
「そうだとしても、もうバードを探しに戻ることはできない」
 そのとおりだった。

 ンドペキは自分だけが探しに戻ることも頭をよぎったが、エネルギー残量がそれを許さなかった。
 一旦、地上に戻って準備を整え、再度捜索するのが最善だった。
 八人は黙り込んで、地上への扉のある地点に向かって走り続けた。


「このあたりだ」
 パキトポークの声に、部隊は停止した。
「扉を開けてくれ!」
 ハクシュウが暗闇に向かって声を掛けた。
 声が返ってきた。
「無事に連れてこれたようだな」

 扉が開くのを待った。

 しかし、チューブは依然暗闇のまま。
 不吉な予感。

 騙されたのではないか。
 扉を開ける気など、最初からないのではないか。

 武器を用いて破壊することも最後の手段としてはあるが、扉の位置が分からない。闇雲に撃つことになる。
 うまくいくとは思えなかった。
「扉を開けないわけではない」
 声が言った。

「では、すぐに開けろ! この人は衰弱している。一刻も早く手当てをしたい」
「条件を忘れたのか」
「言え!」
「難しいことではない。あいつを連れて来い」

 声がつけた条件。
 それは、ニューキーツの街にいるホトキンという男を連れてくることだった。

「誰だ、そいつは!」
「弟子だと言っておこう」
「もし、拒んだら?」
「連れてくるんだ」
「……、あんたの名前は?」
「エーエージーエスで、オーエンが待っていると言え」
「……わかった」
 扉がスパンッと開き、光が溢れた。
cont_access.php?citi_cont_id=526017838&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ