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ニューキーツ 作者:奈備 光

3章 チューブ

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52 私が悪いのかもの歌

 チョットマは、隊員八人とパパが施設に入ってから、不安でたまらなかった。
 階下の扉が閉ざされてしまったからである。

 瓦礫は撤去され、宿営地が建設された。
 見張りが立てられ、施設の階段の下奥深くにも要員が配置された。
 コリネウルスがてきぱきと指示し、隊員たちは効率よく動いた。
 万一、敵が攻めてきても大丈夫だったし、いつンドペキ達が帰ってきてもいいように、救護の体制も整っていた。
 しかし、扉が閉まってしまう事態は、誰も予想していなかった。

 応援隊を派遣しようにも、扉は硬く閉ざされたままで、びくとも動かない。
 通信も途絶えたままで、中の様子を掴むこともできない。
 無事に帰ってくることを祈るしかなかったのである。


 ほんとにンドペキは。
 それはないよ。
 私にひと言もないなんて。

 それに、なぜあんな女と一緒なの?
 あの女、一体、あなたのなんなの?

 私はただ振り回されるだけの役?
 それならそれでも、いいけど。
 あなたが無事でさえあれば。

 でも、まだ信じられない。
 サリ。
 ンドペキ、あなたサリを……。
 絶対に、信じられない……。
 きっと、何かの間違い……。

 だって、サリを食事に誘ったじゃない。
 私、パパ以外にそのことを話していないけど。
 誰にも絶対に言えないじゃない。そんなこと。
 それにもう、言いそびれてしまったし。


「なんだってサリを」
 ンドペキの告白は地上にいる者たちにも、衝撃を与えた。
 チョットマにすれば、こんな裏切られ方はない、と悲嘆にくれたのである。

 おおぴらに言い合うようなことはしなかったが、地上にいる誰もが、ンドペキには絶望しただろう。
 殺そうと思っただけで、実際には殺していない。そういう意味だが、だからといって心が収まるものでもなかった。


 ンドペキは大切な存在……。
 愛とか恋って、考えてみたこともないけど。
 やっぱりンドペキは私の上官だから。
 そして仲間だし。
 友達。
 兄貴。

 慕う存在……。

 自分の気持ち。
 揺らぎ始めてる?

 ううん。
 あなたの言葉が、実感として伝わってこないから。
 早く、上がってきて。
 そして、もう少し話をして。
 私に。


 チョットマは溜息をついた。
 久しぶりにサリのことを思い出したい気分になっていた。

 パリサイドがサリの顔を拝借したと言ったことも思い出した。
 サリは死んだのだ、という考えも浮かんできて、すぐにそれを打ち消そうとした。
 そして思いついた。
 バードという人がここに閉じ込められているのなら、サリもここにいるのではないか、と。

 サリ。
 レイチェル。
 バード。
 スゥ。
 それにパリサイドの、あの女。

 もしかして、みんなライバル?
 はあ、なんだかなあ。
 何でもいいけど、早く出てきて、私に声を聞かせて。


 地上部隊では、ちょっとした揉め事が起きていた。
 パキトポーク隊の数人が、意見があるという。
 シルバックという女性隊員が代表して、コリネウルスに進言した。
 数人だけでも街に戻って、装備や携行品を整えた方がいいのではないかと。

 確かに、急いで出てきたせいで、それぞれの隊員が持つ装備にはばらつきがあった。
 完全武装ではあるが、広いところで戦う武器を持っているものが大半で、地下の施設で戦うに適した近接戦用の武器を持っているものは多くない。
 それに、発破や照明弾、センサー感知器、小型のバリヤーなど、施設内での戦闘に役に立ちそうなものはほとんどないというに等しかった。 

「朝まで待って、ハクシュウ達が戻らないようなら、考えよう」
 コリネウルスにそう言われても、シルバック達は引き下がらない。
「隊長以下、最も戦闘能力の高い人たちが入って戻って来れないなら、地上の私達は最善の準備をしなくてはいけないんじゃないでしょうか」
 一理はある。
 しかし、コリネウルスは首を縦に振らない。
「ハクシュウ達は失いたくない。それに、街に戻ろうとする君達も失いたくはない」


 チョットマは、コリネウルスの言うことが正しいと思った。
 自分達の置かれた状況は、必ずしも良好とはいえない。
 街政府は、自分達の行動をどのように見ているだろうか。

 ンドペキは、消滅させられる恐れがあると言った。
 それを追ってきた自分達はンドペキの仲間であるし、見つけ出したンドペキを街に連れ戻そうとしないばかりか、政府の施設に突入していったのだ。
 通信を切り、隠れるように行動し、街から遠く離れた位置で宿営を建設したのだ。
 異星人との会談の翌日、という微妙なタイミングに。

 政府にとって、危険な部隊と映っていてもおかしくはない。
 街に戻ろうとする君達も失いたくはないというコリネウルスの言葉は、そのことを意味している。
 シルバック達も、考えていないわけではないだろう。
 しかし、まさか自分達が反逆人として捕らえられたり、死をもたらされることはないだろう、とたかをくくっているのだ。

 チョットマはンドペキの性格を考えた。
 彼は自分に何も伝えずに街を出た。
 彼なら、普通では考えられないことだった。
 ニュアンスとしては、ンドペキのあの行動は「逃げた」ということになる。

 何から?
 消滅させられるから?
 でも、なぜ?
 サリを殺そうと思ったから?
 思っただけで?

 コリネウルスは、ンドペキにほとんど何も聞こうとしなかった。
 それはハクシュウの仕事だと思ったからだろうし、追及口調になってはいけないという配慮もあったのだろう。
 ンドペキの方も、詳しく話そうとはせず、ただうなだれて、すまないとばかり繰り返していた。
 チョットマは、自分がンドペキに話すとしても、コリネウルスと同じような質問しかできなかっただろうと思う。

 真相は霧の中。
 あいまいな輪郭さえも見せてはいない。
 チョットマはそう感じた。

 そんな状況の中で、シルバックの言うように、街に帰れば何が起きるかわかったものではない。
 政府の判断如何によっては、街に帰りつくことさえできないかもしれない。
 いや、すでに政府軍がこちらに進軍しているかもしれないのだ。
 いくら政府でも、このハクシュウ隊全員を一気に消滅させるのは、問題が大きくなりすぎるかもしれない。
 むしろ、ここで戦闘によって殺し、再生した方が政府としては御しやすいかもしれないのだ。
 チョットマはそんなことを考えながら、思わず身震いした。


「ほんとに、ンドペキは」
 さっきから、このフレーズの繰り返しだ。
 ンドペキのおかげで、部隊全員が窮地に陥っているようなものだった。

 チョットマは視線を感じて目を上げた。
 コリネウルスに説得されて、シルバック達が引き上げていく。
 視線は彼らから向けられていた。
「そうよね」
 チョットマは呟いた。
「私が原因かも」
 パパの願いを聞いたから、こういう事態に陥ったともいえる。
 バードを救出するという作戦は、今回の行動のおまけのようなものだったはずが、現実は違う。
 今は、その作戦に全軍が集中し、様々な謎と危険をそのままにして、ここで夜を明かそうとしているのだ。

 シルバック達の本音も、もう街に帰ろう、ということなのかもしれない。
 バードの救出なんて、無駄なことはやめて、と。


 ンドペキが自分が救出に向かうと言い出したことは、理解できた。
 迷惑をかけた埋め合わせに、そして自分だけはこのまま街には帰れないという状況の中で、施設に飛び込んで行こうという気になったに違いない。

 しかし、チョットマはこの点でも、意味がわからなかった。
 スゥという女が、自分が行くと言い出したことだ。
 武器も持たず、この得体の知れない施設に飛び込んでいくのは、まさに血迷ったとしか思えない。無謀すぎることではないのか。
 たとえ、パパやバードとなんらかの関係があるとしても、あるいはどんな借りがあるにしても。

 あいつがあんなことを言い出して、状況が悪い方へと動き出したのだ。
 ンドペキだけなら、ハクシュウたちが取り押さえてでも、止めることはできただろう。
 そして、あのまま地上へ上がってきたはず。
 あの女があんなことを言い出したおかげでパパも取り乱し、あの狭い階段のど真ん中で、もみ合いになったのだ。

 しかし、なぜか扉が開いた。
 そして結局は、ハクシュウはじめ八人もの仲間が閉じ込められてしまったのだ。

 パパの頼みを持ち込んだ自分にも責任があるのかもしれない。
 チョットマはそう感じて、シルバック達の視線を受け止めた。

 そう思い始めると、シルバックだけでなく、隊員の多くからそんな眼で見られているような気がして、いたたまれなくなってきた。


 チョットマは眠れなかった。
 様々な思いが去来し、謎を反芻し、中に入っていったメンバーの無事を祈った。

 パパには悪いが、もうバードという女性のことは、どうでもよくなっていた。
 全員が無事に戻ってきてくれるに越したことはない。
 しかし、せめてンドペキとハクシュウだけは、という思いが湧き出してきてしまう。
 それを跳ね返そうにも、心に張り付いてしまい、離れなかった。
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