挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューキーツ 作者:奈備 光

3章 チューブ

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

51/126

50 チューブを照らす光の色

 ンドペキは少し落下したものの、無事に床に降り立った。
「くっ、来るなというのに!」
 ハクシュウたちも続いてくる。
「なぜ、聞いてくれない!」
「邪魔はしないさ」
 ハクシュウの声は、幾分穏やかになっていた。
「おまえを援護する」
 声がこだましていた。

 上部の入り口から漏れる光で、お互いの姿は見えたが、他に光はない。
 かなり暗い空間だった。
 床は傾いていて、立ちにくい。
 隊員たちは辺りを窺った。

「なぜだ」
 ンドペキは、情けなさに憤りと喜びが混じった気分だった。
 ハクシュウが追いかけてくることは、半ば予想していた。
 隊員を見捨てるような男ではない。
 しかし、これは自分に与えられた課題だ。
 ンドペキはそう思おうとしていた。


「これは、俺のミッションだと思っている」
「俺も、チョットマのパパに約束したからな。できるだけのことはするって」
「しかし、こんなわけの分からないところに入り込んで、もし死んだらどうするつもりだ」
「監禁施設なんだから、わけが分からなくて当然だろ」
「引き返せと頼んでも、もう無駄か?」
「無駄。俺たちは全員で、この先へ進む」
 ハクシュウが翻意することはないだろう。
 ンドペキも、すでに説得をあきらめていた。
 しかし、言わずにおれなかったのだ。

「俺はみんなに迷惑をかけた。挽回させてくれ」
「誰がおまえに迷惑だなんて言った? 俺たちは兵士だ。常勝というわけではない。いつも誰かが誰かを助ける。助けられる。そういうことだ」
「しかし今回のことは、戦闘で助け合うというようなことじゃない。俺は逃げたんだ」
「逃げるのも戦法って言うからな」


「すまない。じゃ、隊長、よろしく頼む」

 むっ!
 暗くなっていく。
 あっ、扉が閉まる!
 そう思ったときには、真っ暗闇に包まれていた。

 男の声がした。
「話がついたところで、扉はすべて閉じさせてもらった」
「くそ! 嵌めやがったな!」
「最後まで聞け。必要なときには、また開けてやる」
 すべてのものが視界から消えていた。
 スコープを通せば暗視はできるものだが、それはかすかでも光があってこそ。

「ここに照明はない。自分たちで何とかしろ」
 これほどの闇は、誰も経験したことがなかった。
「うっ、これは……一歩も前が……」
 ハクシュウの唸る声が聞こえた。
「投光器を!」
 誰も応えなかった。
 さっきの揉み合いで、忘れてきたのだ。


 と、あたりが明るくなった。
 一筋の強烈な光が、空間を舐め回していく。
「そうか、ンドペキは夜の狩が趣味だったな」
 どんな状況下でも、隊員の心を和ませる気遣いを見せるのがハクシュウだ。
 光はンドペキのヘッダーから発せられている。

「長い時間は持たない。せいぜい一時間。もっと照度を落とせば、五時間くらいは持つ」
 全員が何らかの照明器具を装備していたが、いずれも小さなパワーしかなく、光が届く範囲は限られている。
 それでも、この空間の概略はつかめた。

 横に転がした筒のような空間だった。
 完全な円筒形。
 天井と壁と床という区別はない。
 光沢のある金属でできたチューブ。
 継ぎ目もなく、留め金具の類も見当たらない。
 巨大な金属パイプだ。

 入ってきた入り口は、もうどこにあるのかさえ分からなかった。
 スライドした扉は完全に壁と同化している。
 スイッチらしきものもない。
 平滑な壁面が緩やかに傾き、円筒の底へ、天井へと続いているだけだ。

 円筒の先は、どこまで続いているのか分からない。
 光はかなり遠くまで飛んでいるはずだが、照らし出しているものはない。
 長い長いチューブに入り込んで、天地も分からないと言えばいいだろうか。


 ンドペキ達はチューブの斜めになった床に立っていた。
 しかも暗闇。
 平衡感覚を失いそうで、眩暈がした。
「ここでは話しにくい。底に移動しよう」
 ハクシュウが、斜面を注意深く降りていった。
「直径五十メートルはありそうだな」

 ンドペキは、スゥがいることに気づいた。
「あっ、おまえも」
「言ったでしょ。私が行かなくちゃって」
「どうして」
「あれこれ言ってても仕方ないよ。もう扉は閉まっちゃったんだし」
 ハクシュウが言った。
「ンドペキ、も一度左右の奥を照らしてくれ」
「了解」

 どれだけ丁寧に照らしても、左右共に、なんの物体も認められなかった。
 あるのはただ暗闇だけ。

 男の声がした。
「右へ」
「よし!」
 慎重に進んでいった。
 どこかに倒れているかもしれない人影を探しながら。


「女を助けたくはないのか」
 声がした。
「ハクシュウ、そんな悠長なことをしていたら、間に合うものも間に合わなくなるぞ」
「どこなんだ!」
「このまま、二十三キロ進め。四つ辻がある。見落とすな。そこを右に。その先、三百二十一キロ五百六十六メートル付近だ」
「……」
 そんなに遠いのか。

「おい!お前! なぜ俺の名を知っている!」
 もう声は何も応えなかった。

「行くぞ!」
 ハクシュウの号令に弾かれたように、隊員たちはスピードを上げた。
「全速! 密集隊形!」
「了解!」
「パキトポーク! 距離をモニターしろ!」
「ラジャー!」
「ンドペキ! 俺と並べ! 前方の床を照らせ!」
「了解!」
「全員、武器を構えておけ!」
「了解!」
「明かりは大切に使え。消せる者は消せ!」
「了解!」

 どこまで行っても、単調な景観が続いていた。
 全く変化はない。ただ、円筒の中を走るだけ。

 ンドペキは集中してハクシュウの手前数十メートルを見当に床を照らし続けていたが、帰りの時間も考慮して照度はセーブしている。
 他の隊員は全員が明かりを消し、ンドペキの光だけが頼りだった。

 圧倒的な暗闇に、か細い光が一筋。
 それを頼りに全速で走っていくのは、かなり勇気がいった。
 それでもンドペキとハクシュウを先頭とする八名は、チューブの中を全速力で飛んだ。


 ンドペキは思った。
 ハクシュウは、この救出にできるだけのことをするとフライングアイに約束したからだと言った。
 しかし実際は、俺を一人残して行けるか、というのが本音だろう。
 ハクシュウだけではなく、スジーウォンもパキトポークも他の隊員たちも。

 今ほど、仲間達の気遣いがうれしいと感じたことはなかった。
 それに応えるためには、身を賭しても救出を成功させる。
 そして無事に全員を地上に帰らせる。
 自分を犠牲にしてでもやり遂げる。
 強くそう思った。


 走りながら、違和感があった。
 一直線に走っているつもりだったが、いつの間にかハクシュウと近づきすぎている。
 普通なら、ふたりの間の距離がこれほどぶれることはない。
 自分かハクシュウのどちらかの走り方が異常なのだ。

 そう思ったが、後ろを振り返ることはできない。明かりは自分の頭に点いている。
 他の隊員たちの走行を確認することはできなかったが、その答はやがて分かった。
 スゥが呟いたのだ。
「わずかに左にカーブしているのね」
 ンドペキは、男が何か言うかと思ったが、あれきり声はない。

「二十一キロ地点通過!」
 パキトポークだ。
「二十二キロ!」
「減速! スジーウォン! 右の壁を照らしながら進め!」
「了解!」
「走りにくいだろうが、頼むぞ」
「大丈夫よ。あんたの背中を見るのも飽きたから」
「いつもそうしてるじゃないか」
「こんなに近寄って走ったりはしないでしょ。あっ」
「止まれ!」
「壁が消えた!」

 そこは三叉路だった。
 先は、今までのようなチューブが続いている。
 ただ、幅は倍で扁平だ。
 そして今来たチューブと同じようなチューブが、左後方にもう一本伸びていた。
「確か四つ辻と言ったな。ここじゃないのか」
「しかし、距離はピッタリだぞ」
「よし、もう少し進んでみよう」

 かなり進んだ。
 先ほどの地点から、数キロ進んでいる。
 チューブの幅は一旦狭くなり、もとの幅になったかと思うと、再び広がっていく。
「止まれ!」
 ンドペキは光線を最大パワーに切り替えた。
「ん?」
 先にふたつのチューブが見えた。
「二股に分かれている」
「なるほど」
「そういうことか」
 数人から声が上がった。
「巨大なチューブがふたつ、ここで接しているのよ」
 スゥだ。
「だからここは、とても長い交差点の中。四つ辻ね」

「よし、ここからが本番だ。体力勝負になるぞ」
 ハクシュウが全員の肩を叩いていった。
「エネルギーは大丈夫か」
「腹は減ってないか」
「限界になる前に、言えよ」
 と、声を掛けていく。
「三百二十一キロ五百六十六メートル、一気に進む。パキトポーク、さっきの分岐から距離をモニターしてくれ」
「了解」
「体力を温存しよう。武器の水平携行は最前列のひとりだけに。適宜交代する。ここにマシンが出没するなら、それはそのときだ」
cont_access.php?citi_cont_id=526017838&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ