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ニューキーツ 作者:奈備 光

3章 チューブ

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49 声、別の記憶体

 ンドペキの告白は隊員たちを驚愕させた。

 俺はあの日、サリを殺そうと思っていた……。
「死にたいと思っていた。どんな罪でもいい。俺は、生きていくのが……、もう、億劫になっていたんだ」

 イコマも驚いたが、ハクシュウにもよほどショックだったのだろう。
 階段を踏み外しそうなほどあわてて、
「待て、それ以上は話すな」と遮った。
 しかし、だからこそ、とンドペキは言う。
「俺はどうなってもいい。救出に向かうなら、一刻を争うはず。俺が行く」

 イコマはなんと言ったらよいか、分からなかった。
 ンドペキが死を恐れないのなら、この先に進むことはできるかもしれない。
 そして、そこに待ち受けているものが絶望であっても、事実を明らかにすることができるかもしれない。


「許さん!」と、ハクシュウが怒鳴った。
「いい加減にしろ!」と、パキトポークもンドペキを羽交い絞めにする。

 その声にかぶせるように、
「今すぐ、救出に向かうべきかもしれない……」と、スゥが呟いた。

「なんだと!」
 ハクシュウが怒りを爆発させた。
「おまえに指示権はない! ンドペキは俺たちの仲間だ!」


 あたりはしんと静まり返った。
 投光器に照らされて、薄い埃が舞っていた。

 スゥの目がこちらを向いた。
「あなた、イコマっていう人?」
「そうだ」
「そして、囚われているのはあなたの娘?」
「そうだ」

 スゥが、うなだれた。
「そうか……、こういうことになるのか……」
「どういう意味だ」
「ううん、なんでもない」
「どういう意味だ!」
 イコマは大声を上げた。
 わけのわからない怒りがこみ上げていた。

 アヤが何をしたというんだ!
 この女は何を言いかけたんだ!


「なんでもない」
 スゥが再び呟いた。
「知っていることがあるんなら、言ってくれ!」
「そうじゃない。私は何も知らない」

 ハクシュウやンドペキ達があっけにとられていた。
「こういうこと、って、何なんだ!」
「私が言おうとしたのは……、私が行かなくちゃ、ということ」
「どこに!」
「アヤの救出に」
「なんだと!」

 理解できない状況が、イコマの怒りを歪ませ始めていた。
「おまえは!」
「友達になろうと思ってたのに、とんでもないことになっちゃったね」
「ぶぶぶっ」
 何を言っているのか、自分でも分からなくなり始めていた。

 ハクシュウが怒鳴った。
「行かせないぞ!」
 と、スゥに飛び掛る。
 パキトポークも。
「何するの!」
 狭い空間で、しかも急な階段だ。
「危ない! 落ち着いて! 抵抗しないから!」
 スゥはハクシュウとパキトポークをいともたやすくかわすと、数段上に立っていた。


 そのときだった。
 とてつもない大声がした。
「扉を開ける!」


 その場にいた者すべてが、凍りついた。
 誰が発した声なのか。

「入れ!」
 声が再び響いた。
 厳かだが、威圧的な響き。
 男の声だ。
 階段を揺るがし、天井から砕片がぱらぱらと落ちてきた。


「誰だ!」
 ハクシュウが怒鳴った。
「女を助けたいのだろう。今なら間に合うぞ!」
 声が返ってくる。

 その言葉を聞くやいなや、イコマは最速で階段を飛び降りていった。
「あっ」
 後方でハクシュウたちが浮き足立っていたが、構ってはいられなかった。

 フライングアイの体だ。
 死ぬことはない。
 フライングアイが破壊されるようなことになったとしても、ペナルティはたかが知れている。
 もとより、自分の命など、もう惜しくはない。

 声の主が誰であろうと、何らかの策謀であろうと、このチャンスを逃すわけにはいかない!


 ンドペキが追いかけてくる。
「俺も行く!」
「来ないでください!」
 イコマが叫ぶのと同時に、
「待て!」とハクシュウが叫んでいた。

「あんたじゃ、救出できないだろ!」
 ンドペキの声がすぐ後ろから追いかけてくる。
「しかし、あんたは死ぬ必要はない!」
「そう決まったわけじゃない!」


 声が言うように、扉はすべて全開されていた。
 扉の前でイコマは止まった。
「お気持ちはうれしいが」
 と言いかけたが、ンドペキがたちまち追い抜いて、風除室に飛び込んでいった。
「センサーが!」
 イコマの声に、男の声が被さった。
「センサーを恐れることはない。どこにも繋がってやしない」

 ンドペキを追って、イコマは突進した。
 すでにンドペキは二箇所目の扉を抜けている。
 いつ点いたのか、風除室には照明が灯されていた。
 明るい廊下をンドペキが駆けていく。


「あっ」
 イコマをハクシュウたちが追い抜いていった。
 追い抜きざまに、スゥの手がフライングアイを掴んで、肩に乗せた。
「掴まっていて!」
「みんな、ちょっと待ってくれ! 危険かもしれないぞ! 止まるんだ!」
 イコマの叫びはむなしく、誰も耳をかそうとしない。
「止まるんだ! 命を粗末にするな!」


 廊下の突き当たりに、三つ目の入り口が見えた。
 ここも扉は開いている。
 人がひとり通れるだけの小さな入り口。
 その先は暗い。

 ンドペキがようやく立ち止まった。
 ハクシュウ達がたちまち追いついた。

「勝手な真似をするな!」
「すまない、ハクシュウ。引き返してくれ。ここから先は俺が行く。どうせ死ぬ身だ」
「行かせるものか!」
「頼む!」
「だめだ!」
「最後の頼みだ。消滅させられるならまだしも、こんなところに閉じ込められた女がいて、それを助けたい人がいる。俺が最後にできる人助けだ。行かせてくれ!」
 言うが早いか、ンドペキは暗い空間の中に飛び込んでいった。
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