挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューキーツ 作者:奈備 光

3章 チューブ

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

48/126

47 再会の歌

 ハクシュウは怒鳴りつけたものの、目はチラチラと辺りを窺うようにせわしなく動いている。
 きっと、ンドペキの姿を探しているのだ。
「今晩は明るくてよかったね。暗い夜だったら、こんなところに座り込んでちゃ、おっかないものね」
 女は、組んでいた脚を伸ばして、横座りになった。
 完全にリラックスムードだ。
 チョットマはそんな女の態度にも腹が立ってきた。

 ハクシュウを差し置いて、発言するのは憚られたが、チョットマは思わず食って掛かっていた。
「あんた、いったいどういうつもり!」
 女は、悪びれる様子もなく、
「それは、ンドペキから聞いて」と流し目で言う。
 またどよめきが起きた。
 やはりもう一体はンドペキだったのだ、という安堵感が含まれるどよめきだった。
「もう、来ると思うよ」

 声があった。
「もう来ている」
 窪地の端に人影。
「ンドペキ!」
 ハクシュウが手を上げた。
「早く降りて来い!」
 ンドペキは、躊躇することなく斜面を駆け下りてきて、ハクシュウの前に立った。

 チョットマはンドペキに駆け寄った。
「ンドペキ!」
 ンドペキが振り向いて、ヘッダーを取った。
 ハクシュウに向き直ると、頭を下げた。
「申しわけありませんでした!」
「ンドペキ!」と叫んで、チョットマはンドペキに抱きついていた。
「ごめんよ。チョットマ」


 ハクシュウが、チョットマがンドペキから離れるのを待って、「おまえ!」と叫ぶと、殴りかかった。
 誰もがンドペキの顎が砕けたと思った。
 装甲をつけた拳で素顔を殴られたのでは、頬の骨が折れるだけではすまない。
 チョットマは血の気が引いていくのを感じた。

 ンドペキが倒れこんでいる。
 思わず駆け寄ろうとしたが、脚が動かなかった。
 ハクシュウが「立て!」と怒鳴ったからだ。
 ただ、おろおろと倒れたンドペキの様子を見ているだけだった。

 ンドペキがよろめきながら立ち上がった。
 唇は切っているようだが、致命傷ではないようだ。
 ハクシュウはいつの間にか右のグローブを外していた。素手だったのだ。
 チョットマは涙が出てきた。

「おまえ、よく帰ってきた!」
 ハクシュウが乱暴にンドペキの肩を掴んだ。
「はい。また会えて本当にうれしいです!」
「皆にも謝れ! こうして探しに来てくれた仲間に謝れ!」
 ンドペキは、「すみませんでした。本当にありがとう」と四方に頭を下げた。


 ハクシュウが腰を降ろす。
 ンドペキもそれに倣う。
 隊員たちも、輪を縮めて、二人を取り囲み、何人かは座り込んだ。

 チョットマは、落ち着いてくるにつれ、先ほどの自分の行為が恥ずかしくなってきた。
 あんなに取り乱すとは。自分でも驚きだった。
 あれでは、自分がンドペキに好意を抱いているというようなものではないか。
 そんなつもりではなかったのに。
 隊員たちのいくつかの目が自分に注がれているような気がして、いたたまれなくなってきた。
 それでもチョットマはンドペキを見つめていた。

 ハクシュウが事情を聞き始めた。
「それが、この女が言うには……」
 ンドペキが説明を始めたが、途中でハクシュウが遮った。
「長い話だな」
「わからないことが多すぎて」
「つまり、おまえは危機に陥っているかもしれない、ということだな」
「はい」
「で、街には帰れないと」
「そのようです」
「それじゃ、これからどうするつもりだ」
「まだなにも考えていません。どうすればいいのか、見当もつかない状態で」


 ンドペキが、傍らでリラックスしている女を見やった。
 それに釣られて、ハクシュウも女に目をやる。
 いったいぜんたい、こいつ誰なの! とチョットマはまた言いそうになったが、ぐっと堪えた。
「情けないことに、この女に助けられているという状況なんです」
 女が口を開いた。
「情けないなんて言わなくていいよ。私はあなたを助けたかっただけ。これからどうするかは、あなたが決めること。私は最善のことをするだけ」
 また、生意気な! と、チョットマは心の中で息巻いた。

 ハクシュウが、
「おまえが決めることだと、この人は言ってるぞ。街に帰れないというなら、俺もそう思う」
 チョットマはついに、我慢ができなくなった。
「そんな!」

「言いたいことはわかるけど、あんたは黙っていなさい」と、スジーウォンにたしなめられる。
「でも!」
 こんなことってあるか!

「黙れと言ったのが聞こえなかったのか! これはンドペキが決めること、私もそう思う」
 スジーウォンにさらに一喝されようが、チョットマは今の状況が許せない。
「どうして!」
 しかし、自分でもどうしようもないことはわかっていた。
 涙がこぼれてきた。
「どうして……」


 ハクシュウが穏やかに言った。
「抹消されるかもしれないという瀬戸際に立たされている。そういったな。もしそれが本当のことなら、隊長としてどうしろと命令することはできない。おまえの命に関わることだから」
「しかし」
「命を賭してまで実行しなくてはならない任務なんて、今の時代にはないよ」
「しかし、ハクシュウ」
「昔の戦争のように、殺し殺されというような状況なら、そういう重い任務もあるだろう。しかし、今は命以上に大事なものは何もないんだよ。俺がいつも命令を出し、皆がそれを忠実に実行してくれるが、それは戦闘を最大に有効に行うため。損害を最小限に抑えるため。そして、皆が気持ちをひとつにして有意義に毎日を送るためだ」
「しかし迷惑をかけた上に、自分だけが……」
「自分だけがなんだ?」
「こんな荒野のど真ん中で、隠れて暮らすことはできません」


 チョットマは自分の考えを整理できないでいた。
 結論を出すのは自分ではないが、今、どうすればンドペキが一番、安心できる答なのだろうか。
 ンドペキは荒野に隠れ住み、自分たちはンドペキを置いて街に帰るのだろうか。
 そして、その後はどうなっていくのだろう。


 ハクシュウが、「俺たちはまだ街には帰らない」と言った。
 ンドペキがハクシュウの次の言葉を待っている。
 自分のために荒野にとどまることはやめてください、などと言い出さないように、とチョットマは祈った。

「俺たちにはやり残したことがある」
 そうだ、忘れていた!
 それだ!
 バードの救出!
 それをやりながら、ンドペキや部隊の今後の取るべき行動を探ればいいのだ!

 まさしく、ハクシュウが言った。
「ある女性が政府に捕らえられているという情報がある」
 チョットマは、バックパックからフライングアイを取り出した。
「そして彼女を救出して欲しいという依頼があった。そこの御仁からだ。そこで、おまえに聞きたい。街の北部にその監禁施設はあるということらしいのだが、場所を知らないか?」

 ンドペキには事情が飲み込めないようで、また女を見た。
 なんだ! ンドペキは! だらしないぞ!

「監禁施設ですか……」
「ああ、どんな建物なのか、大きさも位置もわからない」
「俺は知らない。スゥ。知らないか?」
 そうか、この女はスゥというのか!
 名前を知ったことで、チョットマはますますこの女が嫌いになった。
 怒りの対象が明快になったというわけだ。


「知らない。でも、心当たりはあるわね」
「おお」
 ハクシュウが女に向き直った。
「教えてくれ」
「いいよ。でも、今から行くの?」
「そうだ。一刻を争う」
 そういって、ハクシュウが立ち上がる。
「全員、出発準備!」
 準備といっても、全員がすぐに走り出せる体勢は整っている。

 女は座り込んだままだ。

 チョットマはフライングアイに声を掛けた。
「パパ。起きてる?」
「ああ」
「よかったね。後、どれだけ起きていられる?」
 アギの思考時間は限られていて、時間が来れば強制的に眠らされるということを思い出したのである。
「一時間二十二分程度」
 チョットマはそれをハクシュウに伝えようとしたが、女が先に口を開いた。

「かなり遠いよ」
「どれくらいか。遠くても構わない」
「一時間はかかる」
「よし。なんでもない距離だ。案内を頼めるか」
「いいよ」
「ンドペキ、自分の部隊を指揮しろ」
 チョットマの胸に熱いものがこみ上げてきたが、それはたちまち女の声に水を掛けられてしまった。

「それはだめ!」
 なんということを言うのだ!この女は!

「せっかくンドペキが政府の監視網にかからないようになっているのに、それを台無しにするつもり? ンドペキを危険に晒すのなら、協力はできない」
「なに!」
 ハクシュウは女と睨みあっていたが、やがて大きく息を吐き出した。
「あんたの言うとおりだな」
 そしてンドペキに向かって言った。
「悪いが、俺の隊に入ってくれるか」
 ンドペキが身を低くして、また謝った。
「すみません」

 チョットマはハクシュウに声を掛けた。
「急いで。パパは一時間二十二分で寝てしまうんだって」
 言葉の意味は全員に分かったようだ。
「了解。じゃ、案内を頼む」
「わかったよ。でも、通信は復活するんでしょ。じゃ、ンドペキはここにいないことにしてね。私も。不必要に声を掛けたりしないでよ」

 部隊は窪地を出て、女を追って駆け出した。
 チョットマは、できるだけンドペキの近くでいようと思った。
cont_access.php?citi_cont_id=526017838&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ