挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューキーツ 作者:奈備 光

3章 チューブ

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

42/126

41 トモダチの歌

 部隊の隊員が参集しつつあった。
 入れ替わりにチョットマは部屋に戻り、装備と携行品を準備し始めた。
 盗聴器は仕掛けられていないとパパが言うので、ずいぶん気持ちは楽になっていた。
 おしゃべりする余裕がある。
 しかし、パパの置かれた状況を考えると、浮ついた話をするわけにはいかない。
 それでもチョットマは声を掛けた。
「ねえ、パパ。よかったらバードさんのこと、話してくれない?」

 パパが語ってくれた話は、チョットマには新鮮だった。
 その女性の人柄が、という意味ではなく、パパやバードが生きてきた時代。その社会が。
「へえ。そのころのニッポンって国、とっても自由で活気があって、穏やかな感じだったんだね。上手く言えないけど」
「ああ、今のように顔を隠して閉じこもっているという社会じゃなかった」
「うん」

 ハクシュウから、先行隊は出発したという連絡が入った。
「急がなきゃ」
 チョットマは、パッキングする前に携行品を床に並べていた。
「足らないものがあるわね。ね、パパ、買い物、付き合ってくれる?」
「もちろん。俺は君とずっと一緒にいる」
 そんな言い方をされて、チョットマはうれしかった。
 そういや、ンドペキも同じような言い方をしてくれたなあ……。
「すぐ近くだから」


 部屋を出て、街路に出た。
 気持ちは走りたかったが、意識してゆっくり歩く。
「目立っちゃだめという社会は窮屈?」
「そうだね。僕の住んでいた大阪って街は、目だってなんぼ、人を笑わせた方が勝ちって風土の街だったんだよ」
「へえ! 信じられない。面白いところだね!」
「大げさに言えば、面白いって言われることが一種のステータスだったよ」
「へええ!」
 想像もできない話だった。
 そんな街で、パパは暮らしていたのだ。
 自分はパパのことを何も知らないのだと実感した。

「ねえ、パパ。家族と住んでいたんだよね。家族ってどんな感じ?」
 チョットマは、自分の親の顔も名前も知らなかった。
 父親や母親がマトなのかメルキトなのかも知らなかった。
「うーん。難しい質問だね。自分の暮らしの基盤って感じかな。いつも一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、お風呂に入って。いろんなことを話して」
「ふうん。バードさんとも?」
「そうだよ。バードは血の繋がりのある子ではないけど、家族だった」
「血の繋がりって?」
「自分の遺伝子を受け継いだ子。バードはそうじゃなかったということだよ」
「ああ、そういうことね。じゃ、私もパパの娘かな」
「当然じゃないか」

 チョットマは気分が快晴になったように感じた。
「ということは、バードさんと私、姉妹ね!」
「ハハ、まあ、そういうことになるかな」
「やった!」


 チョットマは武器弾薬を売る店のドアを開けた。
「あっ」
 そこに、ひとりの女がいた。
「あなた」
 チョットマは、少し逡巡してから声を掛けた。
「あなたは」
 相手もこちらを知っているようだ。

「ンドペキの知り合いでしょ」
 チョットマは、こんな風に知らない人間に声を掛けることに慣れていない。
 むしろ初めての経験である。
 声を掛けた方のチョットマがモジモジしているうちに、相手に主導権を握られてしまった。
「あなた、チョットマさんよね」

「何をしているの?」
「濃縮ビタミン剤を」
「ふうん。でも、こんなところでのんびりしてていいの?」
「は?」
「だって、もうみんなは出発したんじゃない?」
「えっ」

 いきなりガツンと頭を殴られたような気がした。
 なぜそれを知っているのだろう。
 誰なのだ、この女は。

 チョットマはかろうじて体勢を立て直すと、逆襲に出た。
「あなた、あの異星人を撃ったでしょ。どうしてあんなことを?」
 相手は、ひるむ様子もなく、ふふんと笑った。
 チョットマは畳み掛けた。
「それに、ンドペキとどういう関係?」
 これにも、応えようとしない。


 店員が見ている。
 これ以上、ここで話をするのはまずい。
 店の中では生声が原則だ。
 武器弾薬の店や兵士用のバーなど、つまり兵士のみが出入りする店では顔を隠すヘッダーやゴーグルをつけていてもいいが、その他の店ではそれらを外して入らなくてはいけない。
 店に入ると同時に、チョットマはヘッダーを外している。
 もちろん、店員など一般市民は、だれも顔を隠してはいない。

「ちょっと待ってて。買い物を済ませるから」
 チョットマは急いで大量の飲料を買い求めると、女を誘って表に出ようとした。
 しかし、女は動こうとしない。
「この店の中の方が顔を見ながら話ができて、いいと思わない? そんなものをつけて話してても、友達になれないよ」
 チョットマはたじろいだ。
 この女は、友達になりたいというのか。

 突っ立っていると、女は、この店員は信用できるよ、と微笑んだ。
 そして、チョットマの肩の上にとまっているフライングアイに目を向けた。
「そちらの方は?」
「信用できる方です。私のパパ」
 店員よりよほど信用できるぞ、といわんばかりにむきになって応えた。

「そういうことじゃなくて、なぜここに?」
 返答に迷っていると、イコマ自身が口を開いた。
「あんた、質問ばかりだな。まず、この子が聞いたことに応えたらどうだ」 
 ビシリと言ってくれた。


「ふうん」
 女は、品定めするような目でフライングアイを睨むと、そうよね、と素直に謝った。
「ごめんなさい。でも、まだそれは言えないの。でも、もうすぐきちんとお話します。もうすぐです」
 女の言葉遣いが変わっていた。
「いつだ?」
「そうですね。たぶん数時間もすれば。遅くとも、明日になれば」
「やけに自信があるんだな。それにまるで、ずっと一緒にいるとでもいうような言い方だな」
「すみません。これ以上、追求しないで。でも、きっとそうなると思います」
「じゃ、期待しておくよ」
「はい」
「で、そのとき、ちゃんと名乗りあって、君のいう友達になれるものならなろう」
「もちろんです」

 女はチョットマに顔を向けた。
「あなた、急がなくちゃいけないでしょ。私もそう。会えてよかったわ。じゃ、また」
 と、ドアを開けた。
「どうぞ先に行って。私はまだ買わなくちゃいけないものがあるから」

 チョットマは外に出た。
「感じ悪いね」
「ああ」
「買い物はこれだけ。急がなくちゃ」
「走らないで」
「うん」
 集合時間まで、後三十分。
 部屋に帰りながら、チョットマは女が言ったことを思い出していた。
 心に残った言葉がある。
「ね、パパ、さっきのやつ、顔を見て話さないと友達になれないなんて、言ってたよね。どう思う?」
 そんなことはない、とチョットマ自身は思っていたが、自分の意見を先に言うのは苦手だ。

 パパは、黙っていた。
「ねえ、パパ」
 チョットマは、パパがバードのことを考えているのかと思ったが、何か話していないと辛かった。
 ハクシュウから、街の北北西に進軍中、街からの距離百二十キロメートル地点、という連絡が入っていた。
 もうすぐ、自分が指揮を執る補給部隊がそれを追いかけなくてはいけない。
 やはり緊張していた。


 やがて、パパが応えてくれた。
「君がいう友達と、彼女が言った友達はかなり違うんじゃないかな。ひとことで友達って言っても、中身は違うだろ」
「じゃ、私が友達って言ってるのは、本当の意味での友達じゃないってこと?」
「友達、親友、知り合い、仲間、級友。それぞれ意味合いは違うだろ。ンドペキは君の友達かい?」

 チョットマは、これまでそんなふうに考えてみたことはなかった。
 仲間ではあるけれども、友達になりたい、いや友達なんだと思っていた。
 なんとなく漠然と。

 そう応えた。
「君の心の中では友達だって思っていても、相手はそう思っていないかもしれない。仲間だと思っているかもしれない」
「そうだけど……」
「君がンドペキのことを大好きなんだってことは、分かっているよ。でもね、だから友達って呼べるのかい?」
 チョットマは、難しすぎて自分にはよくわからないと思った。

「本当の意味での親友ができれば、すべてがクリアに見えてくるよ」
「うん」
「もうやめよう、こんな話は。頭で考えるより、たくさん友達を作って、親友と呼べる相手も見つけて、そして愛する人が見つかればいいんだから」
「はい」
 チョットマは自分はまだ、そのどれも見つけられていないのだと指摘されたような気がした。
 でも、そうなのだ。
 パパの言うとおりなのだ。
 きっと。
cont_access.php?citi_cont_id=526017838&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ