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ニューキーツ 作者:奈備 光

3章 チューブ

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40 喜びの歌

 チョットマとコリネウルスの元に、ハクシュウの一隊が合流したのは、午後を少し回った頃だった。
 ンドペキはついに現れなかった。

「ここで解散する。午後八時にここに集合しろ。それまで、十分に休め!」
 ハクシュウの命令の意味は、誰にでもわかった。
 ンドペキの捜索に向かうということである。
 ハクシュウの下にレイチェルから照会が来ていた。ンドペキの行方について。

「各隊、十日分の食料を持て!」
 どよめきが起きた。
 食料を十日分!

 それ程長い行軍は未経験である。
 まともに走れば、地球を半周できるかもしれない。
「弾薬、エネルギーがもたない隊員がいるかもしれない。各伍長は注意するように。では、解散!」


「もうここで見ていなくてもいいんですか?」
 そう聞いたチョットマに、ハクシュウがニッと笑う。
「俺が見ている。おまえは帰って休め」
「私も交替に来ます!」
「おまえには食料や備品類を整える大事な仕事がある」

 スジーウォンが駆け戻ってきた。
「ちょっと、あんた達! そんな話があるんなら、私に言わなきゃ。隊長こそ帰って休んでください。そしてバッチリな作戦を考えておいてください。私の隊で監視をします」
 スジーウォンはその場で、隊員に輪番を指示した。
「でも、うちの隊長なんだから」

 チョットマはンドペキをスジーウォンに渡してたまるか、という気分になっていた。
 疲れている。睡眠不足だ。
 だからそんなことを。
 自分でもわかっていた。

「やかましい! ンドペキは誰にとっても、仲間なんだよ!」
 スジーウォンに一喝されて、チョットマは引き下がった。
 確かに、一晩中しゃがみこんでいたせいで、膝ががくがくしていた。
「さ、帰った帰った! 先はまだ長いんだから」


 チョットマはスジーウォンに甘えることにした。
 なんとなく、うれしかった。
 レイチェルの命令に背き、隊に連絡もなく勝手な行動をとったンドペキは、今や罰せられてもいい存在である。
 チョットマはそのことを気にしていたのだ。
 ハクシュウやスジーウォンや、パキトポークがどう言うだろうと。

 八時に集合したとき、ハクシュウは作戦の目的を言うだろう。
 どう説明するかだ。
 そして、隊員達がどんな反応をするかだ。
 もし、とんでもないことを言うようだったら、と思ってチョットマは顔を引き締めた。

 部屋に戻るのは、憂鬱だった。
 監視装置が仕掛けられているかもしれない。
 誰からも連絡が入りませんように、と祈るしかない。
 と、部屋の前にフライングアイが浮かんでいた。
「あっ、パパ!」


 イコマは、すぐにでもハクシュウに会いたいと言った。
「でも、今、私達、ンドペキのことで大変なの」
 夜になれば、十日間もの作戦で街を離れることになる。しかし、それを話すことはできない。
「隊長は疲れているし、忙しいと思う」
 しかし、ちょっとだけでいいからと、イコマは引き下がろうとしない。
 緊急だから、と。

 チョットマは困ってしまった。
 こんなとき、サリならどうするのだろう。

 サリのことを思うのは久しぶりのような気がした。
 つい一昨日、シリー川でサリの顔を見たというのに。

 サリなら、自分の信じる方に進むはず。
 でも、私はパパもハクシュウも信じている。
 もちろんンドペキも。
 だから、どうすればいい?


「ねえ、チョットマ」
「はい」
「僕はひとりの人間を、心の底から愛している。その人が危険な状況にある。ところが僕には手も足も出ない。ハクシュウの部隊の力が必要なんだ。ンドペキのことで手が一杯だというのはよくわかっているつもりだ。だが、僕にはハクシュウやチョットマに頼むしか、もう手段は残されていない。ここでは詳しく話せない。それに一刻を争うんだ」

 気持ちは決まった。
 愛する人が危険な状況にあって、パパのようなアギなら、誰かに頼むしか方法はない。
 その話を聞くことさえ拒むようなハクシュウではない。
 チョットマは、その場でハクシュウに連絡を入れた。

「ンドペキのことじゃないんですけど、パパが緊急の要件で会いたいって」
 最後まで聞かず、声が返ってきた。
「こちらもお会いしたい。おまえがエスコートしろ!」
 チョットマは思い出した。
 そうだ、昨夜、ハクシュウもパパに聞きたいことがあるって言ってた!

「はい! 街中で話すことじゃないようなので、取り急ぎブルーバード城門の外で待ち合わせしましょう。すぐに、パパと向かいます」
「了解!」


 イコマの話は、強烈だった。
 政府を敵に回すかもしれない。

 ハクシュウも即答はできず、腕組みをして荒野の真ん中に突っ立ったままだ。
 チョットマは、とんでもないことを聞いてしまったと思った。
 万一、今の会話が政府に捕捉されていたら、と思うとぞっとした。


 ハクシュウが口を開いた。
「レイチェルとはどういう人物ですか? ンドペキが姿を消す前に、レイチェルと部屋の前で話していたんですよね」
 イコマが話したレイチェルの人となりは、かなり違和感のあるものだった。

 レイチェルはバードというパパの娘を監獄に放り込み、ンドペキに何かを命じた。
 そしてその指示は、隊の誰にも告げるなという秘密の命令だったはずだ。
 そうでなければチョットマには伝えただろう。四時間おきに連絡を取り合おうと、あれだけ約束していたのだから。

 チョットマは、そのどこかに、あるいはすべてに悪意があるように感じた。


「かなりきわどい話ですね。イコマさん、私達と一緒に来ますか?」
「お邪魔でさえなければ、連れて行ってください」
 チョットマは驚き半分と、うれしさ半分だ。
 ハクシュウは、明確には言わないまでも、パパの願いを受けようというのだ。
「でも、少し待ってください。急いで部隊に招集をかけます」
「ありがとうございます。なにとぞよろしくお願いします」

 ハクシュウが、当初の集合場所に全員至急集まるように指示を出した。
「隊長! でも、私、手ぶらです!」
「うむ」
 ハクシュウは、補給班は二時間後に出発せよ、と指示を付け加えた。
「補給班のリーダーはチョットマとする!」
「ええっ! 私が?」
 ハクシュウは通信を切ると、
「やってみろ。パパと連絡を取りながら新しい情報が入れば、俺に連絡しろ」
「ハイ!」

 チョットマは、自分がリーダーに初めて指名されて、わくわくした。
 コリネウルスが言ったように、人情型のリーダーになるのだろうか。
 自分ではそう思わなくても、メンバー達にそう思われるのだろうか。
 二時間後に出発してから、先行しているハクシュウの部隊に合流するまでの数時間の間だけだから、トラブルは発生しないだろう。それでも少し緊張した。

 チョットマは自分が持っていかなくてはいけないものを頭の中で計算した。
 十日分の食料、飲料水精製器具、シェルターや寝具、トイレキットや非常用エネルギーパット、汎用弾薬、医薬品の数々、万一の場合の信号弾、毛布やタオル、インナーなど。それをチーム六人分だ。
 これらをカートに収納して、運ばなくてはならない。
 もちろん完全武装した状態で。
 浮遊タイプのカートなので、重くて閉口するということはないが、それでもかなりの重労働だし、危険でもある。

「二名の支援要員を残しておく」
 ハクシュウが言った。
「ありがとうございます!」
「必要はないだろうがな」
「あ、いえ、お願いします!」
「俺はぜんぜん心配していないぞ」
「……」
 ということは、心配しているということではないか。

 チョットマは少し心配になってきた。
「あの、追いつけるようにしてくださいね」
「バカめ! おまえが俺たちに追いつけないで、誰が追いつけるというんだ!」
 ンドペキを探しながらの行軍だ。
 追いつけないほど速くはないだろう。

 チョットマの気分はめまぐるしく変わった。
 嫉妬、不安、心配。そして、喜び。
「頑張ります!」
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