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ニューキーツ 作者:奈備 光

2章 シリー川と洞窟

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30 砲撃の色

 見れば、駆け寄ってこようとするチョットマを、ハクシュウが押し留めている。

「サリ!」
 チョットマがまた叫んでいる。
 ンドペキは思わず口にしていた。
「サリなのか?」

 ンドペキがサリの素顔を見たのは、彼女をスカウトした当初の数日だけだ。
 しかし面影はしっかり記憶の中にある。
 サリの金髪とエメラルド色の瞳は強烈な印象として残っている。
 しかも、チョットマがあれだけ騒ぐのだから……。

 レイチェルが息を呑むのがわかった。
 しかし、ンドペキは一歩踏み出した。
「サリなのか?」
 女が困った顔をして、JP01を振り返った。

 ンドペキの頭の中に、不吉な予感が走った。
 サリは、まさか。
 しかしその疑念の意味を理解する前に、JP01が女を庇うように立ち位置を変えた。


「サリって? あなたのお知り合い?」
 馴れ馴れしい口ぶりにンドペキは気分を逆撫でされながらも、IP01の背後に立つ女を見つめた。
 目を合わせようとはしない。
 不安げな表情で、口を閉じている。
 それが、ますますサリに違いないという気持ちにさせた。

 JP01が仁王立ちになっている。
 回答を要求しているのだ。

 声を掛けたからには、知り合いに決まっているではないか。
 しかし、部隊の仲間だとは言わない方が賢明だろう。
 ンドペキは短く応えた。
「そうです」
 JP01は女に顔を向け、
「そのかわいいお顔、どうしたの?」と聞いた。
 女がはじめて口を開いた。
「気にいったので。ちょっと拝借しました」
「そう。あなたはもう戻っていいわ」
「はい」

 女はそう言うが早いか、パッと跳躍したかと思うと、体を捻って川に飛び込んだ。
 ンドペキは息を呑んで、川面に女の姿を探したが、浮かび上がっては来ない。
 シリー川の流れは速く、しかも川幅は広い。どんな人間でも、泳ぎ渡れるものではない。

「心配は要らないわ」
 JP01が口元だけで笑った。
「私達は水中でも生きていけます。地球に帰ることを決めてから、体を作り変えましたから。それに彼女は、かなり優秀なスイマーです」

 ンドペキは今見た顔を、心に焼き付けようとした。
 そして、ふと思った。
 チョットマは、なぜサリだと思ったのだろう。
 サリとチョットマは仲がよかった。互いに素顔で付き合っていた、ただそれだけのことかもしれないが。

 あっという間に対岸に上がった女が、手を振っていた。
 なんというスピードだろう。
 ンドペキは思わず手を振り返した。
 それを見届けたからなのか、女はくるりと背を向けると森の中に消えていった。


 JP01がレイチェルに向き直り、
「さて、お願いのこと、なにとぞお聞き届けくださいますよう、よろしくお願いいたします」
 と、深々と頭を下げた。
 レイチェルは何も言わなかったが、ンドペキの頭の中では警報が鳴り響いていた。

 最初に感じた「侵略ではないか」という思いが、ますます強くなっていた。
 しかも、相手はかなり手ごわい。
 空を自由に飛べる。水中でも活動できる。
 食料は不要で、常にエネルギーは満タン。
 しかも、JP01の言うことが本当なら、かなりの数だ。

 武器は?
 いや、武器など必要はないのかもしれない。
 体の一部に何かを組み込むことは、この連中には朝飯前なのだろうから。

 勝てるか?
 自問するンドペキにJP01が声を掛けた。
「ねえ、ンドペキ」
「ん!」
 JP01が背を折って、顔を覗き込んできた。


 と、その瞬間、後方で砲撃音がした。

 ハッとしてンドペキは身構えたが、JP01に異変が起きていた。
 発砲されたのはプラズマ弾。
 JP01の胸を貫通していたのだ。
 しかし、その瞬間にはJP01の姿は掻き消えていた。

 まずい!

 ンドペキはとっさにレイチェルの前に立ちはだかり、対岸からの攻撃に備えて、簡易なバリアを張った。
 すぐに、レイチェルを抱えてステージを降りようとした。
 しかし、レイチェルはすでに自軍に向き直り、両腕を大きく広げていた。
 そして、「静まれ! 決して攻撃するな!」と、叫んでいた。
 ンドペキはレンチェルを抱え込もうとしたが、緑の瞳がそれを拒む。

 レイチェルが対岸に向かって立った。
 まずい!
 これでは撃ってくれと言っているようなものだ。

 自軍では、戦闘体勢に入ろうとしている者が大勢いた。
 レイチェルの言葉が聞こえなかったはずはないのに、多くの者が銃口を対岸に向けている。
 それらは攻撃部隊の一団で、レイチェル直属の防衛隊は、指示に従ってすぐに戦闘姿勢を解いている。

「くっ」
 ンドペキは、せめてもの盾にとレイチェルの前に立つ。
「ありがとう。でもそれはやめて」
「しかし」
「命令です」

 対岸にはなんの動きもない。
「銃をおろせ!」
 ハクシュウの声が響いていた。
「発砲したものを拘束しろ!」


 数秒後、
「その必要はないわ」
と、声が聞こえ、JP01が先ほど立っていた位置に立ち現れた。

「むっ」
 JP01がひとりの女性を脇に抱えていた。
「殺してはいないわ」
 ンドペキはその者を見て、再び声をあげた。
「あああっ!」
 それは、昨夜、洞窟を案内してくれた女だった。

「ンドペキ、あなた、誰でも知っているのね」
 JP01が微笑んだ。
 女は気絶しているようで、ぐったりとJP01に抱え込まれている。


「まことに申しわけありません!」
 レイチェルが叫んだ。
「いいのです。この人は一般人のようですし」
 レイチェルがJP01に再び頭を下げた。

 JP01がレイチェルの頬に手を添えて、顔をあげさせた。
「今日の会談は、これで終わりとしましょう」
「……」
「お願いの件、くれぐれもよろしくお願いします。色よいご返答をお待ちしています。この女性は預かっておきますね」
「それは……」
「ご心配なく。人質という意味ではありませんし、傷つけるつもりもありません」
 JP01の瞳がチラリとンドペキを捉えた。
「でも、私どもにも、少し尋問をする権利はあるのではないでしょうか。数日以内には、お返しできると思います」
 言うが早いか、JP01の体が宙に浮いた。
「では、私達があなた方と仲良く、この地球で暮らせますように!」
 JP01はこちらを向いたまま、ふわりと遠ざかり、川面を渡って帰っていった。
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