挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューキーツ 作者:奈備 光

1章 海は知っている

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

23/126

22 湧き上がる不安の記憶

 このニューキーツの街にも、隠された広大な別の市街があるといわれている。
 一部のアギによって、ささやかれている噂だ。
 政府の機関が集積している巨大な建物は、人の目には見えないが、より大きな建物郡の玄関部分にしか過ぎないというのだ。
 次元の位相をかすかに変えることによって、普通の市民は、そのエリアの存在にさえ気づくことはできない。
 多くのアンドロはその次元にたやすく行き来することができるという。そういう能力を持ったアンドロが開発されていたということなのだ。

 もちろん、初期のアンドロを製造していたのは、ホメムである。
 しかし、ホメムの数が急速に少なくなっていった時期に、特殊なアンドロや高度な知能を持ったアンドロを数多く開発し製造した。
 地球上のひとつの次元であるアギやマトが住む地上ではなく、生産拠点あるいは行政拠点としての新天地を求めた時期のことである。
 地上の汚染が過去最悪だった頃のことで、宇宙空間に浮かぶ生産拠点だけではまかなえないし、膨大な物流エネルギーの将来性も危ぶまれたからであった。
 そのような次元にアンドロを送り込み、彼ら自身の知性でその世界を運営させる必要があった。

 アンドロたちが、その新天地に、自分たちの王国を作り始めたのは必然の流れだった。
 果たして、まさに桃源郷ともいえる豊かな世界を異次元に築きあげたと言われている。

 アギやマトが住む次元は、今やアンドロによって生かされ、運営されているのだ。
 中世を懐かしむための博物館のようなものだ。見世物なのだ。そう、一部のアギのメッセージは訴えていた。
 メッセージはすでに削除され、その人物のIDは凍結された。記憶も知識もすべて抹消されてしまったそうだが。


 ふとイコマは心配になった。
 アヤはその世界と紙一重のところで働いている。
 言い寄ってくるアンドロがいるという。

 アンドロは、かつてのロボット代わりの人造人間ではなく、完全な人間なのだ。
 強大なコンピュータによって生かされているアギやマトより、よほど人間らしいといえるかもしれない。
 恋をし、結婚し、子供を生み育て、人生の輪廻を人間らしく送っているのかもしれない。

 彼らの世界は、かつて人間が御し切れなかった世界中の様々なひずみや、最大の過ちであった世界戦争がなかった場合に進化していったであろう、輝かしい未来の地球の姿であるのかもしれないのだ。


「アンドロは私の仕事場にもたくさんいるよ。というか、アンドロばかり」
 アヤはそう言った。
「メルキトの方が少ないくらい。マトなんて、ほとんどいないわ」
「政府機関なんだから、そうなんだろうね」
「さすがに上層部ともなるとアンドロとメルキトの勢力は拮抗しているけどね」
「アンドロの部下のメルキトやマトは、微妙な気分なんじゃないかな」
「ううん。そんな意識はないんじゃないかな」
 アヤが肩をすくめた。
「アンドロだからって、奴隷じゃないし、マシンでもないから。仕事場じゃ、対等」
「うん」
「相手の素性なんて、意識もしないし」
「へえ、もうそこまできているのか」


 アヤは、アンドロの方が全般的に優秀な人材が多い、と話してくれた。
「仕事ができるという意味でね。人間らしい感覚とか、やさしさとか弱さとか、といった意味では彼らは平板な感じがするけど」
「人間臭くない、ということかな」
「うーん、ちょっと違うかな。人間ってさ、仕事イコール権力とか、仕事イコール名声という方向に繋がりやすいじゃない。そういう人間臭さっていうのかな。つまり、待遇とか、権力とか、名声とか、を志向するとういうことにかけては、アンドロの方が強いみたい」
「へえ」
 それって、まずいんじゃないか、とイコマは言いかけてやめた。

 アンドロに対して批判的なことを言うのは避けておいた方がアヤのためだ。
 ましてや、人造人間ごときが、と聞こえかねないことは口にするべきではない。
「仕事場の友達は、メルキトもいるけど、アンドロもたくさんいるよ」
 と、アヤも言う。
 コンピュータに聞かせる言葉かもしれないし、本当のことかもしれない。


 ポツリと、アヤが自分のことを口にした。
「ねえ、パパ、親友がいるんだ」
「おっ、いいじゃないか。今度、紹介してよ」
「うん」
 自分で言い出しておきながら、アヤの口は重たい。
「そうしたいんだけど……。話しておく。なかなか、外には出て来れないやつなんだ」
「そのアンドロかい?」
「ううん。女性なんだけど、とても忙しいみたいで」
 イコマは、重ねて聞くことはしなかった。その代わり、話題を変えた。


「ところで、街の外に出てみない?」
 チョットマなら、ふたりを連れ出してくれるかもしれないと思ったのだ。
「出るのは、まずいかい?」
「さあ、どうかな……。支障はないかもしれないけど……」
「最近、街の外へ出たことはある?」
「ないよ。以前は、私も兵士をしていたことがあるから、そのときは毎日出ていたけど。ニューキーツの街じゃなく、サイロンって街にいたとき」
「そうか、サイロンにいたことがあるのか。あそこはいいだろ。街がどことなくアジア風で」
「うん。ちょっと暑いけどね。たまには道端に花が咲いていたりね」
 話がそれていく。
 アヤにとって、街の外に出ることは、やはり深入りしたくない話だったのかもしれない。


 イコマはサイロンの街もよく知っている。
 自分自身はどの街に属しているという概念はないし、パパと呼んで訪ねてくる「子供達」は世界中に散らばっている。
 現に今も、サイロンの街にも「息子」がいる。
 ぶっきらぼうな男で、心を通わすことのない相手だが。

 そんなことを話すうちに時間が来て、アヤは帰っていった。
 また明日、という言葉を残して。
 イコマは、アヤと郊外で話したいと切実に思った。
 アヤの身の安全を考えると、ここでかなりきわどい話をすることと、郊外に出かけることの危険度はどちらが大きいだろうか、と考えた。
 ただ、ピクニックのお供を頼むかどうかは別にして、チョットマに紹介しようと思った。
cont_access.php?citi_cont_id=526017838&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ