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ニューキーツ 作者:奈備 光

1章 海は知っている

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18 乙女の恥じらいの歌

 ランランララ、ランランラン!
 ランランラララ!

 パパはやっぱり素敵だな!
 あの人に会うって!
 どんな話をするんだろ。
 うれしい!
 でも、ちょっと恥ずかしい。

 ねえ、あなた。
 私のこと、パパにどう話すの?

 ん!
 なんだよ、こんなときに!


 チョットマは背後に悪寒がした。
 強い殺意を感じる。
「きっと、ンドペキもそうしてくれると思うよ!」
 と、パパとはしゃぎながらも、背後の悪意の大きさを測っていた。

 何かが近付いてくる。
 同時に、心の中のアラームの針が急上昇している。
 チョットマの体は臨戦態勢をとった。

 まずい!
 何者かの気配との間合いは、概ね二百メートル!
 パパをどうする!
 バックパックに入ってもらうのは間に合わない!


 チョットマがフライングアイを掴んだとき、背後の何者かの殺意が最高潮に達し、武器のエネルギーゲージが振り切れたことを感じた。
 横っ飛びに、百メートルばかり移動。
 と同時に、元いた場所のコンクリートの塊が、すさまじいエネルギー弾で粉々に吹き飛んだ。

 立ち止まるやいなや、お手玉のようにフライングアイを空中に置くように手を離し、その間に応戦した。
 スコープには何も映っていない。
 それでも、攻撃を仕掛けられたと思える位置に、レーザー弾を放つ。
 手応えはない。

 その間、フライングアイは数センチばかり落下している。羽を広げようとしているが、構わず引っ掴み、再度移動。
 依然、スコープに敵の存在は表示されない。


 くっ。
 許さないからね!
 乙女を背後から攻めるなんて、卑劣なんだから!

 移動しつつ、フライングアイをバックパックに放り込んだ。
 これで、いつでも反撃できる。


 バカね!
 エネルギー弾で私を狙うなんて!
 さあ、撃って来い!
 もう充填されたでしょ!
 エネルギー弾がこちらに到達するまでに、レーザー弾をお見舞いしてやる!


 エネルギー弾のように物的な質量を持つ弾での攻撃なら、敵との距離が二百メートルあれば、チョットマの俊敏さをもってすれば、弾を避けることも、その間に反撃することも可能だ。
 こちらはレーザー弾。
 光速とほぼ同じ速度で相手に到達する。


 さあ!
 どうしたの!
 撃って来い!
 あんたが瞬きする間に、息の根を止めてあげるわ!


 すでにチョットマは、視界の利く空地に出ていた。
 港のコンテナヤードか、巨大駐車場の名残だろう。
 自分の姿を晒す位置だが、その方がチョットマには都合がよい。
 敵の攻撃を避ける自信はある。
 対して、反撃が容易だからだ。
 建物の残骸やコンクリートの塊など、反撃のレーザー弾を遮るものがない。
 相手の姿が見えておれば、なお好都合だ。


 さあ、出て来い!
 でかいネズミめ!


 敵の放ったエネルギー弾の破壊力から見れば、かなり大型のマシンだ。
 少なくとも人体以上の図体でないと、あれほどの武器を搭載することはできない。
 かつ、飛翔系ではないはず。
 建物の残骸などの瓦礫に埋もれた場所でなく、開けた場所に出れば、姿を視認できるはず。

 チョットマはスコープのモードを変えた。
 意識するだけで変わる優れものだ。
 可視光線で見る景と、様々なエネルギー探査モードで見る景が自動的に切り替わるパターンである。
 切り替えといっても、きわめて高速なので、ひとつの画像に見える。
 可視光線で見る景に、エネルギーの存在が重なって見えるのだ。
 隠れた敵と対峙するときに有効なモードである。

 しかし、エネルギー弾の着弾点とその軌跡以外に、エネルギーの存在は確認できない。
 ハエほどの小さな飛翔系のマシンなどは探知しにくいが、それ以上の大きさがあれば、たとえ巨大なコンクリート塊に阻まれていても、探査し損ねるということはない。
 精度の高い装備であるにもかかわらず、敵の位置は表示されていなかった。


 どこに隠れているのさ。
 それにしても、強烈なエネルギー弾ね。


 最初に放たれた攻撃の着弾点からは、盛大な炎が上がり始めた。
 コンクリートさえ瞬時に沸騰し、激しく燃えているのだ。
 エネルギーが通過した軌跡にも、まだエネルギーが渦巻いている。
 大気中のあらゆる物質が燃えて、七色の光の帯の中にキラキラした粒子が舞っている。


「援護する!」
 ヘッダーの中に、ンドペキの声が響いた。

 ヤタッ!
 来てくれるのね!


 チョットマは空地の中をゆっくり駆け回りながら、相手の二の矢を待った。
 撃って来いとばかりに。

「相手は!」
「わからない!」

 ンドペキの位置がスコープに表示されている。
 モニタには所属部隊員を示す緑色の点。
 ンドペキという名と到達予測の三十セカンドという数字も。
 しかし、敵を示すオレンジ色の点も、他部隊員を示すピンク色の点も、非戦闘員を示す白い点も表示されていない。
 もともと、この辺りには敵の存在は稀だ。
 ニューキーツ攻撃軍が制圧しているエリアである。
 ほぼ毎日、誰かが巡回し、マシンの侵入を阻止している。


 パパとのせっかくのピクニックが。
 でも、いいっか。
 ンドペキが助けてくれるのなら。

 ん?
 ということは、パパとンドペキの会談も、ここでということに?
 私がいる前で!
 うわ!
 恥ずかしい!
 どうしよ!
 というより、私が紹介しなくちゃいけないのかな?


 ンドペキの緑ポイントは、一直線にチョットマに向かってくるのではなかった。
 攻撃が発せられた地点に向かっている。

「おまえはそこにおれ!」
「ハイ!」

 敵がまだ近くに潜んでいるとしたら、地下かなり深く潜ったとしか考えられない。
 さすがに十メートル以深の地下に潜り込まれたら、エネルギー探査モードは役に立たない。

 気をつけて。
 と、あやうく言いそうになった。
 上官であり、熟練の兵士であるンドペキに、チョットマが掛ける言葉ではない。

 でも、もし地下に潜んだ敵の真上にンドペキがうっかり近付いたら……。
 ンドペキに限って、そんなへまをやらかすはずがない。


「チョットマ! 状況を説明しろ!」
「ハイ!」

 突然、背後から撃たれたこと。
 それ以外に、説明することはなかった。

 ンドペキは既にかなりの距離を移動している。
 敵をくまなく捜索しながら、空地の周りをジグザグに走り回っている。

「敵を視認していません! 系統、機種共に確認できませんでした!」
「マシンか?」
「ん……?」

 わからない。
 てっきりマシン系だと思ったけど……。

 生体系の敵に、エネルギー弾を放つものはいない。
 やつらは肉弾戦か、肉体に組み込まれた旧式のマシンガンを派手にぶっ放すか、あるいは火薬系の弾を放つだけだ。
 エネルギー弾はもちろん、レーザー弾や、量子弾、核エネルギー系の武器を装備しているものはいない。


 えええっ!
 そんな!
 マシンでなければ、人間ということになるけど……。

 チョットマはこれまで、人間に攻撃されたことはない。

 なんだって、私が!
 ありえないじゃない!
 誰にも迷惑かけてないし!


 結局、敵は姿を消していた。
 ンドペキのスコープにも、何も映らなかったという。
 まだ、地下に潜んでいる可能性を考えて、チョットマとンドペキはアリーナに移動した。
 アリーナであれば、常時、要員が警護に当たっている。
 地下であれ、大半が崩れ去った大屋根であれ、大量の付室であれ、大階段下の巨大倉庫であれ、敵が潜んでいる恐れは小さい。

 念のため、アリーナのど真ん中に突っ立って、チョットマはンドペキに改めて報告した。
 互いに背を向け、周囲を警戒しつつ。
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