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ニューキーツ 作者:奈備 光

9章 解決編

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123 レイチェルの謎

 サリは、マトでもメルキトでもない、つまり連綿と続く人再生システムから外れた人物ではないか、ということが思い浮かびます。

「サリの事件は、この辺りでひとまず置いておきましょう」

 イコマは話題転換のために間を取った。
 一気に結論のみを話すこともできる。
 しかし、今や重要なのは、レイチェルを殺したのが誰なのか、ということより、なぜ、ということの方が重要なのだ。
 そのためには、順を追って丁寧に話すことが必要となる。
 詳しく話せば話すほど、苦しめる者を増やすことになるかもしれない。
 しかし、乗り越えなければならないのだ。

「次に、レイチェルにスポットを当てておきます」


 レイチェルは地球上にいる六十七人のホメムのひとり。
 彼女には大きな責務があります。
 それは、子孫を残すこと。
 しかし、もうできない相談なのでしょう。
 相手となるホメムがいないと思われるからです。

 レイチェルはこのことに、我々が想像さえできないほど、思い悩んでいました。
 彼女は、相手はマトでもメルキトでもいい、とにかく自分の子を、と望んでいたと思います。
 それがホメム最年少である自分の最低限の責務であると。
 そして、涙ぐましい努力を重ねていたのです。
 あんなにかわいらしい、まだあんなに若い女の子なのに。
 普通なら、友達と騒いだりしたかったでしょう。誰が好きだとか別れたとか言って、経験をいくつも積んでいく年頃なのに。

 彼女は、今すぐにでも伴侶を見つける必要がある、という観念に囚われていました。
 ところが、日常は多忙です。
 日々の行政決済は山済み。ワールドの会議。
 マトやメルキトの男性と普通に出会える機会は、レイチェルにはほとんどありません。
 なにしろ、街政府の代表であり、行政長官であり、軍の司令官なのですから。
 そんな中で、自由な恋愛を望むことができるでしょうか。

 それでも、彼女は少ない持ち時間をフルに活用して、友達を作っていました。
 ただ、その数は数えるほどです。
 そのうちのひとりが、アヤ。
 そして、なんと、サリなのです。


 彼女の葛藤。
 ややもすれば、歪んでいるとも思える彼女の輻輳した精神構造。
 皆さんもお気付きになってましたよね。

 二十そこそこの女の子が、けなげにも、恋をしたい女の子としてのレイチェルと、行政長官あるいは軍の最高司令官としてのレイチェルを、必死で演じていたわけです。
 泣き言も言わずに、自暴自棄になることもなく、強靭な精神力で。

 私は彼女のそんな姿を見て、心を痛めました。
 そして、月並みな言い方ですが、レイチェルの未来に幸あれ、と祈りました。


「さて、次はンドペキに視点を変えましょう。サリとのことではなく、レイチェルとの関係に」

 ンドペキが初めてレイチェルという女性を意識したのは、例のシリー川の会談です。
 代表者としてのレイチェルの、いわば付き人というような立場で、ンドペキは会談に臨みました。

 それは、JP01が希望したから、ということになっています。
 それは確かなことです。
 しかし、それだけでしょうか。
 レイチェルはなぜ、そのイレギュラーな要求を受け入れたのでしょうか。
 ンドペキは一兵士。それも親衛隊でもない、攻撃隊の一兵士。
 誰が見ても、不自然なペアです。

 しかも当日、レイチェルはこう言っています。
 私はあなたを信じています。あなたがおっしゃることを、私は信じます。
 会ったばかりのンドペキの手を握ったまま。


 いかがでしょう。
 会ったばかりの一兵士に向かって最高司令官が掛ける言葉として、おかしくはないでしょうか。

 それ以降、ンドペキの苦悩が始まります。
 まずその第一弾は、ンドペキの部屋の前で、レイチェルが待っていたときのことです。
 彼女はまるで、ボーイフレンドの部屋を訪ねたかのように振舞います。
 恋人みたいにしろとは言わないけど、もうちょっと、やさしくできないかな、などと甘えて。

 それ以降のことは、枚挙に暇がありません。
 皆さんも、そのいくつかを目にし、耳にされたことでしょう。

 そして、ついに……。
 それはまだ、数時間前のことです。
 レイチェル騎士団がシェルターに立て篭もっているかもしれない。それを知りながら、レイチェルはその救出及び合流作戦にゴーサインを出しませんでした。
 出さないばかりか、ンドペキの家族はどんな人たちだったの、今も連絡を取り合ってるの、などと言ったのです。
 まるで、あなたと一緒にいたい、と言わんばかりに。

 このレイチェルの一連の態度。
 これが何を意味するのか、もう解説する必要もないでしょう。
 言わせていただけるとしたら、ンドペキはこういう面で、でくの坊だといわざるを得ません。


 さすがにスジーウォンはンドペキの顔色を見たが、当のンドペキは黙ったままうつむいている。
 言いすぎだとは思うが、イコマはこの点ではンドペキのふがいなさ、つまり自分のふがいなさを責めないではおれなかった。
 昔の自分と同じではないか、と。


「一方、街の噂に、クローンが製造されている、というものがありました。チョットマがライラから聞いてきた話です」
 イコマは再び、ここで間をおいた。
 これから話すことは、多分に憶測を交えた話になる。
 憶測どころか、脆弱な仮説である。
「今お話ししたいくつかの視点を繋ぎ合わせて、私はひとつのストーリーを思いつきました」
 そういって、イコマは話を再開した。
「ずばり申し上げます」


 レイチェルは自分の伴侶を探すため、自分のクローンを作りました。
 そして、それを街に放ちました。
 極めて不謹慎な言い方をお許しいただくとして、それはクローンに、私の「いい人」を見つけておいで、ということです。
 そして、白羽の矢が立ったのがンドペキだった、というわけです。

「そんな……」
 チョットマが呟いたが、イコマはそれを無視して、
「それで、すべての説明が可能になります」と、言いきった。


 サリは、ンドペキが気に入りました。
 ンドペキもそれなりに。

 その会話や行動は、常にモニターされていました。
 そう。ンドペキがサリを食事に誘ったあの瞬間も。
 ンドペキの誘いを、サリは拒みはしませんでした。イエスとも言いませんでしたが。

 その直後、サリの姿が掻き消えました。
 強制死亡処置。
 それは、レイチェルの指示ないし承認なしに行われることはありません。


 そして、サリとまさしく瓜二つのレイチェルが、ンドペキの前に現れたのです。
 まるで、恋人候補といわんばかりに。

 あえて、レイチェルにはかなり失礼な言い方をしています。
 お許しください。
 しかし、私は当たらずとも遠からじ、だと思っています。
 彼女の言動は、それほど顕著だったと思うからです。


「異論はありませんね」
 イコマは、念を押した。
 予想通り、ロクモンが口を開いた。
「それは、おぬしの仮説でござるな」
 口調に怒気を含んでいる。
 立場からすれば、聞き捨てならぬというのは当然だ。
「そうです。あくまで推論の域を出ません」

 ここから先は、いよいよ思いつきレベルの話になる。
 花を添えてくれるのはハワードだ。
 本人と下打ち合わせなどしてはいないが、きっと応えてくれると信じるほかない。
 応えてくれなければ、推論は崩壊してしまうだろう。

「ですが、仮説を裏付ける事実を発見したのです」
 イコマは間をおかずに、話を展開していった。


 サリはレイチェルの恋人探しのためのクローン。
 その任務を果たしたため、一旦、強制死亡処置となった。
 秘密裏に製造されたクローンのため、サリの基本データはなかったのです。
 これが私の推論です。

 ちなみに、サリの再生が遅れたことには理由があります。
 自動的に再生される対象ではありません。なぜなら、レイチェルがサインした強制死亡処置だからです。
 ところがそのころ、レイチェルは多忙を極めました。パリサイドの問題です。
 当時、一般にはまだ伏せられていましたが、パリサイドのコロニーが形成されていくのを政府が発見できなかったはずがありません。

 政府内部では、いえ、ワールドの会議では、そのことが喫緊の課題になっていたのです。
 パリサイド側の要求は、概ね予想がついていたことでしょう。一年前には、友好のための使節団が地球を訪問しているのですから。
 連日、ワールドの首都であるアームストロングで会議がもたれていました。
 レイチェルはほとんどそこに滞在したきりでした。バーチャルなシステムを使った会議もありましたが、さすがにこの議題は、実際に会って話し合われていたようです。
 当時、ニューキーツの行政庁内にレイチェルがいないことは、アヤから聞いていました。
 単純な話なのです。
 レイチェルは、サリの再生許可のサインをする時間がなかっただけなのです。
 むろん、サリの再生はレイチェルにとって、今や急ぐ必要はありません。
 ンドペキは自分のもの、だからです。


「では、仮説を裏付ける事実とはなにか」
 この話をすれば、今この部屋に集まっている者の中に、傷つく者がいる。
 成り行きに任せるしかないが、どうか、傷は浅いものでありますように。
 そう祈るしかない。
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