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ニューキーツ 作者:奈備 光

9章 解決編

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122 サリの謎

いよいよ最終章「解決編」となりました。
一応、ミステリー小説ですので。
完結まで、あと少しです。
 作戦室に集まった面々は、ンドペキ、スジーウォン、パキトポーク、コリネウルス、ロクモン。
 チョットマとアヤ、スゥが部屋の壁際に呆然と立っている。部屋の隅に蹲るハワードは頭を抱えている。
 そして、中央のテーブルの上には、フライングアイ。

「ヘッダーもマスクもとってください。でなければ、こういう話はできませんから」
 誰に指名されるまでもなく、イコマは、そんな言葉で話を始めた。
 これは作戦会議ではない。
 数時間前に起きたレイチェル殺害事件を解明するための会議。
 ならば、ンドペキとして話すより、イコマとして話した方が、会の冷静さを保てるだろう。
 レイチェルの死の最終的な責任者は、洞窟の長であり、部隊の長として責を負うべきンドペキなのだから。
 それより、表情のないフライングアイが淡々と議事を進めた方がいい。


「そもそも、サリの失踪事件。あれは、どういうことだったのでしょうか。このことから紐解いていかねばならないでしょう。すべての謎は、あの事件から始まっていると思うからです」
 ンドペキはもちろんのこと、誰も異議を挟む者はいなかった。
「そのために、隊幹部以外の方々にも参加してもらいました」
 チョットマを見た。
 真っ青な顔でンドペキを見つめている。
 彼女は、こんな状況になってさえ、ンドペキを心配しているのだ。
 胸が傷む。

「ハワードには、私は謝らなくてはいけません。彼は、正真正銘のレイチェル派でした。レイチェルを追って水に飛び込みました。心底、レイチェルを慕っていなければ、できることではありません」
 ハワードは、顔をあげようともしない。
 依然として頭を抱えたまま。時々、すすり上げる音が聞こえる。

「こうして謎の解明を作戦会議の前に行うのは、この結果如何によって、作戦内容が異なるかもしれないと思ったからです。隊幹部の方々はしばらくお付き合いくださるよう、お願いいたします」
 アヤとスゥは手を握り合っている。
 表情に緊張が漲っている。
 特に、親友を亡くしたアヤは、必死で涙を堪えている。

 自分とンドペキが、そしてJP01とスゥが同期していることは伏せておこう。
 気付かれぬよう、話を進めていかなければならない。
「うまく話せないかもしれません。まどろっこしい話になるかもしれません。実は、私もまだ頭の中が完全に整理できているわけではありません。なにとぞご容赦くださいますよう」


「まずは、目に見える形で起きたいくつかの事柄を、時系列に並べて整理してみましょう」
 サリの話をするに当たって、イコマには自責の念がある。
 もっと早くに気付いておれば、という思い。
 そうすれば、レイチェルの死は避けることができたかもしれない。
 暗澹たる思いが胸を掠める。
 その気持ちが収まるのを待って、イコマは話し始めた。


 サリの失踪。
 それは、遡ること約二ヵ月。
 ンドペキと二騎、アドホールへ向かう最中でした。

 ハワードの調査によれば、サリの死亡記録はない。
 戦闘であれ病であれ、通常死の場合は、自動的に死体は回収され、再生処理が始まります。
 そして、記録に残されます。
 強制死亡処置の場合は、長官であるレイチェルのサインが必要となりますが、通常死の場合はその必要はありません。そしてその記録は、誰でもその気になれば閲覧できるものです。
 ハクシュウは隊長として、その記録簿を確認したのだと思います。
 ところがサリの名はない。
 従ってハクシュウは、死亡したのかどうかを、現地で確かめたかったのでしょう。

 ハクシュウ隊は全員で、サリが失踪したエリアに捜索に出ました。
 彼の頭の中では、弔いの意味も込めた訓練の一環であったでしょう。そしてもちろん、シリー川にコロニーを築いた謎の生体群の視認調査も兼ねていました。

 結局、サリの痕跡、つまり肉体及び装備品は何ひとつ見つからず、やはり死んだのだということが確認されただけに終わりました。


 ところで、KC36632がサリの顔を持っていたことによって、サリはつまりパリサイドではないか、言ってしまえばKC36632とサリは同一人物ではないか、と考える向きもありました。
 しかし、これは違います。
 なぜ、私がそう言い切れるのか。
 KC36632は、サリの顔を拝借したと言いましたが、そのときの状況を聞くことができたからです。
 その内容を今ここで述べることはしません。ただ、KC36632の話は信じるに値すると私は考えています。

 現実に、レイチェルを刺した者が、その後の戦闘で、刺した相手の仲間を支援するなど、ありえることでしょうか。なんら悪びれることなく。
 パリサイドは人間です。ロボットではありません。
 心があるのです。
 つい数時間前に自分が人を殺したことを忘れて、あのようにその正反対ともいえる行動をとることはできません。

 思い出していただきたいことがあります。
 パーティに現れたサリは兵士用のブーツをはいていました。
 KC36632には、そんなものは必要ありません。

 サリは、KC36632ではない。
 パリサイドでもない。

「そのことは、これからお話しすることの前提となります。よろしいでしょうか」
 異論を挟む者はいない。
 イコマは、話を続けた。


 重要なもうひとつの側面について、考察してみます。
 それはサリの死因。
 つまり、誰かに殺されたのか、戦闘によって命を落としたのか、はたまた何らかの理由によって強制死亡処置が執られたのか。

 最初に、人によって殺された場合。
 犯人は誰でしょう。
 真っ先に思い浮かぶのは、同行していたンドペキです。
 もうひとり、クシという人物がいます。
 東部方面隊の元兵士で、放逐処分になった男です。
 いすれも、完全武装したサリを倒す能力を有しています。

 まず、ンドペキについて考えてみましょう。

「ちがう!」
 そう叫んだのはチョットマだった。
「最後までお聞き」
 イコマは穏やかに諭して、チョットマが落着くのを待った。
 先ほどからチョットマは、嗚咽を漏らすまいと堪えている。
「チョットマ、あの話をしてもいいかい?」
 耐え切れず、チョットマは泣き出してしまった。
 それでも「うん」と頷いた。


 では、結論から申しましょう。
 ンドペキは、サリを殺して自分の生を終わりにしようと考えていた。
 このことは、自ら告白しています。東部方面隊の皆さんは覚えておられることと思います。
 実は、アドホールへ向かうンドペキとサリの会話を、チョットマは聞いていたのです。
 別に盗み聞きしたわけではありません。ンドペキとサリは普通に、キュートFモードで話していたからです。

 隊員でない人のために、少しだけ説明を加えます。
 チームを組んで戦闘に入る場合、東部方面隊の通信モードは、通常、キュートFモードを使っています。
 音声と文字による通信で、半径十キロ程度の距離にいる東部方面隊員であれば全員が交信可能です。戦闘が始まると、音声通話では聞こえない場合があるからです。先ほどの戦闘でも、キュートFモードが使われていました。

 さて、どんな会話が交わされていたのでしょう。
 ンドペキはサリを食事に誘ったのです。
 それがどんな意味を持つか、お分かりですね。

 もし、ンドペキがサリを殺したのなら、政府のシステムは何をしていたのでしょう。
 業務怠慢としか言いようがないですね。
 同じことは、クシの場合も言えます。
 人がサリを殺したのなら、殺人者は罰せられるはずです。
 ちなみにンドペキは当時、その場に他の人はいなかったと言っています。

 よろしいですか。
 では、人ではなく、殺傷マシンなどに殺された場合。
 先ほども言いましたように、自動的に再生処理が行われ、記録に残ります。
 しかし、記録にはない。

 つまり、サリの死亡は強制死亡処置しか考えられないということなのです。

 死亡ではなく、自発的な失踪ではないかという疑問も残りますが、これはありえません。
 なぜなら、KC36632が、人が死んだときに送られる次元の隙間でサリを見ているからです。
 失踪ではない。
 サリは強制死亡だったのです。

 では、強制死亡処置リストには?
 ここにもサリの名はなかったのです。


 さて、視点を変えて、ひとつ、問題提起をしておきます。
 私は、サリの情報の少なさに疑問を持ちました。
 ハワードによれば、全世界の基本のデータベースに、彼女の情報がないというのです。
 この地球に生まれ、社会の一員として生きていくには、そのデータはなくてはならないものです。
 アクセスIDというような、使い捨ての番号とは違います。
 極めて厳密に管理されたこの世界で、最終的に個人を特定する、大元の原本のデータがない。

 このことは、何を意味するでしょうか。
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