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ニューキーツ 作者:奈備 光

8章 タブレットを飲んで

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121 巨大クレーター

 もちろん、パーティはすぐにお開きになった。
 食べるものは粗末にできない。誰もが無理やり口に入れて、テーブルの上のものを片付けた。

 ンドペキを初めとする幹部が、作戦会議に入った。
 チョットマはフライングアイと共に、アヤの部屋にいた。
 パパもアヤも口をきかなかった。
 時間だけがだらだらと過ぎた。

 スゥは、KC36632じゃないと言った。
 私もそう思う。
 しかしチョットマは、それを言い出せないでいた。
 KC36632でなかったとすれば、サリだったということになる。

 なぜサリではないかと思ったか。
 これまで、KC36632はチョットマと一瞬たりとも目を合わせたり、ましてや微笑んだりはしなかったからである。
 しかし、KC36632が大広間に入ってきたとき、確かにチョットマにチラリと微笑んでみせたのだ。

 サリがレイチェルを殺した……。
 到底信じられることではない。
 しかし、逆にKC36632がレイチェルを殺すことも考えられないのだ。


 突然、洞窟内に警報が鳴り響いた。
「軍が接近中! 軍が接近中! 所属は不明! 兵数二百! 十八分後に到達の模様!」
 チョットマはすぐさま、自分の部屋に戻った。
 軍が接近してくるのは、ロクモン達が来て以来のことだった。
 ついにアンドロ軍か。

「全員、戦闘態勢!」
「直ちに洞窟の外に出ろ!」
「命令があるまで、発砲厳禁!」
 ンドペキから立て続けに命令が飛んだ。
「ロクモン! 相手がレイチェルの親衛隊かどうか、わかるか!」
「正装しているなら!」
 ンドペキは隊全員に聞こえるように、オープンモードにしている。
「見分け方は!」
「鎧は全身シルバー。輝くばかりの! 騎士団なら純白だ!」
「監視室! 映像を確認しろ!」
「了解!」
「幹部! 現在位置を報告しろ!」

 ンドペキ自身も、洞窟の入り口に到達しつつあった。
 パキトポークとコリネルスはようやく大広間を出たところだ。
 スジーウォンはすでに洞窟から出ていた。
 チョットマはすでにスジーウォンのそばいた。

「スジーウォン!」
「はい!」
「相手と交信しろ! どこの隊のものか、聞け!」
「了解!」

 すぐに、スジーウォンが呼びかけた。
「当方は東部方面攻撃隊及び防衛軍である! 貴軍はどこの所属か!」
 その横を、フライングアイが飛び去っていった。

 返事はない。
「繰り返す! 貴軍はどこの所属か! 返答なくば、敵とみなす!」

 ンドペキが洞窟から躍り出てきた。
 ロクモンから報告が入った。
 既に戦闘時用のキュートFモードに変えている。
「装備を見る限り、レイチェルの隊とはいえない!」
 ンドペキはすぐさま攻撃態勢を敷いた。
「ユー隊形!」
「展開しろ! 迎え撃つ!」
「野戦は当方に有利! 経験にものを言わせろ!」
「パキトポーク隊! 丘陵地に着いたら照明弾を撃て!」
「ロクモン隊は右方の高台へ!」
 相手から、まだ何の返答もない。

 展開位置の最も遠いパキトポークとスジーウォン隊が、所定の位置に着くまで、後二分程度。
 チョットマは、武者震いがした。
 人間相手に、まともにぶつかるのは初めてのことだ。
 しかし、恐怖はない。
 スコープに映し出される相手の動きが整然としていればいるほど、なぜか、勝てる!という気がした。


 フライングアイが戻ってきた。
「向こうも攻撃態勢に入っている!」
 イコマの報告にンドペキが頷くと、チョットマは叫んだ。
「パパは洞窟に下がっていて!」
 そして、前方に意識を集中した。

 チョットマの持つ火力はそれほど大きくはない。
 むしろ敵を撹乱させる攻撃が主だ。
 しかし、いざとなればその敏捷さを生かして相手の懐に切り込む。
 それが自分の戦い方だと、知っている。
 すでに再生装置は止まっている。
 ここで死ねば、本当の死が待っている。
 チョットマも、そして誰もがそのことを認識している。
 まさしく正念場だ。


「ぬかりないか!」
 ンドペキの檄に誰も応えない。
 準備は整ったということだ。
 チョットマは、自分が奇妙な緊張をしていると思った。
 恐怖ではないし、呆然としているのでもない。
 やってやる!
 ただそれだけの強い意識が全身に漲っていた。

 やがて南方に光が満ちた。
 照明弾に照らされ、敵軍の接近が手にとるようにわかった。
 明るい光の中で見ると、その装備や隊形まではっきりと認識できた。
 整った装備だ。
 一団となって突き進んでくる。

「繰り返す! 貴軍はどこの所属か! 返答なくば、敵とみなす!」
 返事はない。


「撃て!」
 左遠方のパキトポーク隊が攻撃を開始した。
 敵もすぐさま応戦してきた。

 順に、右手前のコリネルス隊、左手前のロクモン隊、右遠方のスジーウォン隊が、そして最後に中央のンドペキ隊が、それぞれきっかり三秒の間をおいて砲火を放った。
 五秒撃っては、二秒間左へ移動。
 その繰り返しだ。
 二秒待つのは、エネルギー充填のためだし、移動するのは敵の的を絞らせないようにするためだ。
 二秒の移動で、概ね二百メートル移動する。
 敵を突き抜けて味方を誤射してしまうこともない。
 ハクシュウの指揮の元、何度も訓練してきたし、実戦でも何度も経験済みだ。
 ロクモン隊は、高台から中心部に向かって、砲撃を浴びせている。

「間合いを詰められるな! 数は敵の方が多い! 敵と五キロの距離を保て!」
 ンドペキが叫んだ。

 チョットマは、相手の位置を示すオレンジの点がひときわ輝くやいなや、位置をずらし、攻撃を避けた。
 こちらに照準が合った敵を示す機能だ。
 もう、あたりは何も見えない。見えるのは様々な色の光の渦だけ。
 敵も味方も、ゴーグルのスコープに示される小さな点のみ。
 音声も聞き取れない。ゴーグルモニタに流れる文字のみが頼りだ。
 誰が生きていて、誰が死んだのか、わからない。
 戦闘の終了は、敵か味方の攻撃が止んだとき。


 五秒撃って二秒移動。
 それを三回繰り返すと、今度は右へ移動する。
 二回目に左へ移動したときだった。
 うあっ、これは!
 これまでとは全く違う強い光が、前方に降り注いだ。
 スコープに映っていた、敵の点の群れが一瞬の内に消えた。
 と同時に、敵の攻撃が止んだ。

「攻撃停止!」
 ンドペキの声がした。
「全員、待機!」
 一瞬の内に、あたりは夜の闇に包まれた。
 ただあるのは、あちこちで燃え上がった炎と、エネルギー弾の軌跡の光の帯のみ。

 巻き上げられた人頭大の岩が、大量に降り注いでいた。
 戦闘はわずか十四秒足らずで集結した。


 照明弾が撃たれた。
「うっ」
 チョットマからも、他の隊員からも呻き声が聞こえた。
「すごいな」
 すさまじい土煙が舞っていた。
 その中に、なんと巨大な穴ができていた。
 まるで隕石が落ちたかのようなクレーター。

「あっ」
 上空にひとりのパリサイドの姿があった。


「負傷兵を確認しろ!」
 ンドペキの指示が飛んだ。
「全員無事!」
 すぐに声が返ってきた。
 どの隊にも、かすり傷ひとつ負ったものはいなかった。
「パキトポーク隊! スジーウォン隊! 敵陣を確認しろ! 生きているものがあれば確保しろ!」
「了解!」

 チョットマはまだそこに立ち止まったままだった。
 振り返ると、岩の上に仁王立ちになったンドペキの姿があった。

 完全な勝利だった。
 胸に込み上げてくるものがあった。

 戦闘に勝利した喜びなのか。
 とうとう本気で人間同士で殺し合いをしてしまったことのプレッシャーなのか。
 それを、今頃になって感じたからなのか。
 はたまた、単に緊張感がほぐれてきただけなのか。

 ジワリと身体中に血液が流れていることを感じ、汗が流れた。
 ゆっくりと長い息を吐き出した。


「なにもない!」
 パキトポークから報告があった。
「見事に消滅している!」
「幅二キロ、深さは百メートルほど! 巨大クレーターだ!」
「底の岩が溶けている! まるで溶岩プールだ!」

 ストン!
 パリサイドがンドペキの脇に降り立った。
「支援を感謝する」
 ンドペキがオープンモードで言った。
 パリサイドは、ひと言ふた言ンドペキにささやくと、飛び立った。
 ンドペキが、パキトポークとスジーウォンに命じた。
「周辺も探索しろ!」
「了解!」

「みんな! よくやった!」
 ンドペキが叫んだ。
「幸先のいいスタートが切れたぞ!」
 その通りだった。
 アンドロとの戦いは始まったばかりだ。
 困難はこれから。
 緒戦を制したことで意気は上がるし、敵軍の戦闘力をかなり削減したことになる。

「今のパリサイドは、俺達が圧倒していたと言った」
「おおおっ!」
「当方にひとりの死者も出さないために、助太刀したということだった!」
 隊員達から歓声が上がった。


「今のは、JP01だったのか?」
 聞いたのはコリネルスだ。
「……」
 ンドペキはすぐには応えなかった。
 チョットマはなんとく嫌な予感がした。
 そして、その予感は的中した。

「いや、KC36632だった」
「なに!」
 たちまち、そんな声が聞こえた。

「なぜ!」
 ロクモンの発した疑問も、後が続かなかった。
 KC36632なら、なぜ捕らえなかったのか、と言いたかったのかもしれない。

 しかし、それは無理だと見せつけられたばかりだ。
 巨大な攻撃力を。
 たったひとりのパリサイドの力。
 あの巨大クレーターを生む力。
 とても、捕らえることなどできない。


「KC36632は、レイチェルが殺されたことを知っていた」
 ンドペキの言葉に、再びロクモンが反応した。
「それは」
 当然ではないか、と言うのだろうか。
 しかし、その声も発せられることはなかった。
 ンドペキが、
「KC36632がレイチェルを殺したんじゃない」と、言ったのである。

「おい! そんな話は、俺達の仕事が終ってからにしてくれ!」
 パキトポークが叫んでいた。

 戦勝気分は吹き飛んでしまい、チョットマは強烈な不安を感じた。
 ンドペキが断言した言葉が意味することは、明らかだった。
 ンドペキも、あれはサリだったと思っている!


 クレーターの周囲にも、敵軍の生き残りはいなかった。
「洞窟へ!」
 ンドペキの言葉に、隊員達が戻り始めた。
 軽口を叩くものもいたが、まるで敗戦だったかのように、総じて沈鬱なムードが漂っていた。
 チョットマはンドペキに声を掛けたいという衝動に駆られたが、口を開けばサリという名が出てくる。
 黙って後ろに従うしかなかった。


※いよいよ、次章は最終章「解決編」です。
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