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ニューキーツ 作者:奈備 光

8章 タブレットを飲んで

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117 心を震わせる話

 森には朝霧が立ち込めていた。
 鳥が鳴き始めている。
 夜露に濡れた草の葉先が垂れている。
 ンドペキは膝から下を濡らしながら、KC36632の後をついて行った。
 後ろからはフライングアイ。

 ここは。
 以前、スゥと聞き耳頭巾の布を使った場所。
 まさしくその木の下に、JP01とスゥが待っていた。
 KC36632は、軽く会釈をすると、もと来た道を戻っていった。
「再生と消去のシステムの破壊は完了したわ。それをレイチェルに伝えに行ったのよ」

 JP01はユウの姿で、木の根に跨っている。
 スゥは、少し離れて、苔むした岩に腰を掛けていた。
 まるでホトキンの間の再現のように、ユウとスゥの間にはバリアが張られたような緊張があった。
「話の続きをしたいと思って」
 ユウが、呼び出した理由を説明した。
「あのままじゃ、みんな納得いかないでしょ」

 その通りだった。
 あなたは実はイコマなのよ、と言われても、はいそうですか、とはいかない。
 実際は、イコマの思考が自分のものになってはいるが、まだ違和感は大きい。
 自分がイコマ本人だと思うときもあるが、やはり別人の思考を覗き込んでいる感触もあるのだ。


 ユウに促され、手近な岩に腰を降ろした。意図したわけではないが、ユウとスゥの中間あたり。
 フライングアイは、ホトキンの間でそうしたように、ユウのすぐ近くの木の枝にとまった。

「ノブ、ここからが本当に聞いて欲しい話。いい?」
 ユウが真剣な顔をした。
「手身近に話すわね。ンドペキはこれからますます忙しくなるだろうし」
「ああ、そうしたい」
 再生と消去のシステムを破壊されたのなら、街の奪還に全力を注ぎたい。
 レイチェルとも話をしたいし、ロクモンやコリネルスらとも打ち合わせたい。
 やっと本気の作戦が立てられるのだ。

 ンドペキの心にはそんな思いが強くなっていたが、一方でイコマの心として、JP01の、ユウの話を聞きたいという気持ちも抑え切れなかった。


「きっと、仰天するようなことを言うんだろうな」
 イコマが応えた。
 ンドペキにとって、こういう瞬間が気持ちが悪くなる。
 自分でも、今のように応えただろう。
 しかし、本当の自分ならそうはいわなかった。
 そんな冗談めかした言い方はしないはずだ。

 ただ、自分と同一であるイコマが、そう応えているのだ。
 今、ユウはフライングアイであるイコマに話しかけている。
 その点で、ンドペキはイコマの思考を他人ごとのように思うことができた。

「フフ、そう。ね、考えてみて。ンドペキをクローンとして作った私が、どうやってノブのその時点での記憶をそのクローンに入れることができたと思う?」
「さあ。そのとき、僕は、アギだったんだよな」
「そう。アギだった。あなたの記憶は、すでにデータ化されていた。私にはそのデータを取得することができなかった。それどころか、アクセスすることさえできなかった。もしアクセスできるなら、私は、宇宙に行く前にあなたにそのことを伝えたかった」
「端的に言ってくれ。僕は驚かないぞ」
「うん。金沢に来てくれたときのこと、覚えてるよね」
「もちろん」


「あなたは、あそこで死んだのよ」


「えええっ!」
「ほら、驚いているやん」
「いや、そりゃ!」
「でも、大阪に戻った」
「そう。あれは不思議中の不思議だった!」

「私はね、あなたのクローンを作ったのよ。二体」
「なっ!」
「ひとりは大阪に届け、ひとりはマトになる申し込み所に連れて行った。私が付き添って」
「ええっ! どういうことなんだ!」
「怒ってる?」
「怒るわけがない! 死んだのか! 僕は! あの砂漠で!」

「本当に無謀だったね。ノブ、死ぬ気だったんでしょ」
「死ぬ気もクソも! おまえに会いたい、それだけだった! そうか! 僕はあそこで死んだのか!」
「かなりのご高齢だったしね!」

「そうだ……。僕は死んでもいいと思っていた。おまえにひと目会えるなら」
「うれしい。あの時、それがよくわかった」
「おまえに会えて、あの時、僕は死んだのか……。おまえに抱かれて」
「そう。ノブは私の腕の中で息を引き取ったの」
「それをおまえは助けてくれたんだ! 怒るわけがない!」


 ンドペキはイコマとして、あのときのことを思い出していた。
 いや、もうイコマではない。生駒として。生駒延治として。

 白い光の中で、ユウが近づいてきた。
 ノブ、馬鹿だなあ、と言いながら。

 私を信じてって、書いておいたのに。
 こんなところまで来て、と光の女神となったユウは言った。

 手が触れた。
 また、会える日があるんだから、こんなところまで来なくてもよかったのに、とユウはささやいた。

 女神の腕に抱かれて、声を聞いた。
 二度とここへ来ちゃだめよ。送っていくね、と。

 そして、自分は死んだのだ。
 真っ白な光の中で。
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