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ニューキーツ 作者:奈備 光

8章 タブレットを飲んで

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116 微笑むアンドロ

 部屋の入り口でふたりは無事を喜び合っている。
 面会が終れば、さっさと帰ってくれ。
 あの調子なら、もう、アヤと会うこともあるまい。
 忙しいんだ。俺は。

「レイチェル長官。お話が」
 ハワードが改まった口調になった。
「そう?」
「ご判断を頂きたいことがありまして」
「そうねえ」

 レイチェルと目が合った。
 ん? 人払いをせよということか?
 俺に立ち去れと?
 それなら、ハワードを自分の部屋に入れればいいではないか。

 レイチェルがなにか言いたそうな目をしている。
 ん? 自分の部屋に入れるのは抵抗があるというのか。
 知らないぞ。
 予備の部屋など、あるはずがない。
 どうぞ、ご自由に。
 話があるなら、廊下でも大広間でも、ご自由にどうぞ。


 ンドペキが、知らん振りをして突っ立っていると、レイチェルが提案した。
「ねえ、ンドペキ。あなたの作戦会議室、貸してくれない? ちょっと彼と話があるの」
「作戦会議室を?」
「ね、お願い」
「あの部屋は、我が隊の中枢です。恐れながら、レイチェル閣下といえども、お貸しするわけには参りません」
「そこを、なんとか。ね、ンドペキ」

 芝居じみている。
 レイチェルも分かっているのだ。
 俺があの部屋だけは勝手には使わせないことを。

「だめかあ。じゃ、ロクモンは?」
「呼びましょう」
 ロクモンなら自分の部屋を貸そうと言うかもしれない。
「ねえ、ハワード。ンドペキってさ、こういう人」
 レイチェルはそういって、笑ってみせた。
 言われた方のハワードは、反応のしようがないのか、厳しい顔でチラリと見ただけだ。
「こういう人だから」
 レイチェルは再びそう言って、今度はこちらに向かって笑ってみせた。

 ふん。
 どうでもいいが、ハワードよ、早く帰ってくれ。
 おまえは知らないだろうが、おまえの顔は見飽きたんだよ。


 ロクモンは喜んで自分の部屋をレイチェルに提供した。
 そこでレイチェルがハワードと話したのは、きっかり二分。
 まずレイチェルが部屋から出てきて、ロクモンに礼を言った。
 続いて出てきたハワードは、表情は変えないものの、かなり緊張した面持ちだった。

「ねえ、ンドペキ」
「はい」
 ハワードの前では、友達言葉ではなく、上官としての言葉遣いにしようと努めている。
 ハワードがどんな目的で来たのか分からない以上、念のためレイチェルに敬意を表しているつもりだ。
 誰も、部下の前で、攻撃隊の一隊長に馴れ馴れしく話しかけられているのを見せられるのはうれしくはないだろう。

「ハワードを、しばらくここに置いてくれない?」
「は?」
 さすがにンドペキはレイチェルの提案に面食らった。

 アンドロだ。
 敵かもしれないのだ。
 もちろん、アンドロにも二派あることは聞いている。
 このような対応をレイチェルがしているのだから、味方だと思ってよいのかもしれないが。
 しかし……。


 黙っていると、ハワードが言った。
「歓迎されていないみたいですね」
「うーむ」

 アヤと一つ屋根の下で眠ることになる。
 しかもチョットマもいる。
 なんといっても、レイチェルもいるのだ。
 愛や恋に飢えた、いや、その作法や礼儀さえも知らない、積極行動派のアンドロを受け入れることは問題を生じさせないだろうか。

 そして、隊員達も奇異の目で見るだろう。はっきりと抵抗感を示すものもいるだろう。
 明確に味方であると示すことができれば、こちらは問題ないだろうが。

「ねえ、ンドペキ」
「はい」
 レイチェルは猫撫で声だ。
 ンドペキは妙なことを想像してしまった。
 まさか、レイチェルはアンドロであるハワードに……。
 ありえない。
 レイチェルはなんとしてでも、子を設ける必要がある。
 たとえ、メルキトやマトとの間の子であっても。


 と、レイチェルの口調が変わった。
 長官としての口調に。
「ハワードは、私の信頼する直属の部下です」
 そう言われて、ハワードがますます姿勢を正した。
 ンドペキは驚いた。
 部下?
 ハワードは一職員ではないのか。
「私が囚われたことによって、任務継続かどうかを確認に来ました。しばらく私も考えたいと思います。その間です。明確な指示を出すまで、彼に身近に居て欲しいと思います」

 そう言われては、むげに追い返すわけにはいかない。
 ちらりとロクモンを見ると、我関せずという風で、あらぬ方を見ている。
「では、部屋を用意しましょう。相部屋になりますが」


 部屋を決めた。
 相部屋になる隊員に、ハワードの行動を監視し、些細なことでも報告するように命じておいて、ますは大広間にに案内した。

「このような場所ですから、細かいルールがあります」
「もちろんです」
 大広間にいた隊員達が興味深げに見ている。
 すでに、全隊員に対してハワードがしばらく滞在することになったことを説明してある。
 明らかに憎悪の目を向ける者もあったが、総じて受け入れようというムードだった。

 ルールを説明する間に、部屋の準備が整ったと連絡があった。
「同室の隊員が迎えに来ます。その後は自由に過ごしていただいて結構です」
「ご配慮、感謝します」
 ンドペキが立ち上がろうとすると、ハワードが手を上げてまだ話があるというポーズを見せた。
 そして、小声で言った。


「ンドペキ隊長」
「ん?」
「レイチェルから与えられた任務のことなのですが」
 ンドペキは、それは聞かないでいた。
 レイチェルからこの男に対する直接の指示なのだ。
 自分が聞いておかなければいけないことではない。
 聞いても話すはずがないし、必要があればレイチェルから伝えられるだろう。
「内容を申し上げることはできません。ですが、これは承知しておいていただきたいのです」
 ンドペキは座りなおした。
「あなた個人に関わりのあることなのです」
 と、ハワードが言ったからだった。

「私が情報部の職員だからといって、あなたの身辺を調査しているという類のことではありません」
「……」
 意味がわからない。
「むろん、あなたを窮地に陥れるという類のことでもありません」
「よくわかりませんが、信頼せよ、ということですか?」
「そうです。すべてはレイチェルの意向です。ご存知だと思いますが、レイチェルは純粋です。ただ、彼女の責務は重いのです」
「それは承知しているつもりです」
「よかった。それから、私の知っている情報をお話します。アンドロの動きについて。お時間のあるときにでも、お声をお掛けください。必ずお役に立てると思います」
「それはありがたい」
「それでは、しばらくお世話になります。よろしくお願いします」

 ハワードの任務について、内容は理解できなかったが、やけに胸騒ぎがする。
 しかし、その気持ちを抑えこんで、ンドペキはアヤの部屋に向かった。
 ハワードが滞在することになったと伝えておかなければいけない。
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