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ニューキーツ 作者:奈備 光

8章 タブレットを飲んで

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115 ふたりの訪問者

 そのころ、洞窟に訪問者があった。
 KC36632がンドペキを訪ねて来たのである。
 相変わらず、サリの姿だ。
「JP01の代理で参りました」
 一枚の書簡を携えていた。
 親愛なるニューキーツのホメム、アギ、マト、メルキトの皆様へ、という言葉で、その書簡は始まっていた。


 過日に行われましたシリー川での会談以降、予測不能の出来事が連続的に発生したことにより、当初の会談のテーマであった我々の地球上での居住権についての協議は進んでおりません。
 一刻も早く、融和と互いの尊敬に満ちた皆様方との関係を築きたく存じておりますが、その端緒にさえつけていないのが実情でございます。
 その最大の原因が、ニューキーツ政府の実権をアンドロが握るに至ったことでございます。

 ただ、ニューキーツの現状がそうでありましても、この街における正式な代表者はレイチェル長官であると認識いたしており、友好に、かつ実効を伴う形で会談を推し進めてまいりたく、速やかにニューキーツの秩序を回復される日をお待ち申し上げておりました。
 しかしながら、その兆候が見えないまま、すでにかなりの日数が経過しております。

 また、現状、マトの皆様、メルキトの皆様の消去のシステムが稼働中であることによって、皆様の行動が大幅に制限されているであろうと推察いたしております。
 当方には、消去のシステムを破壊する用意がございます。
 つきましては、そのシステム破壊の許可をパリサイドにお与えいただきますよう、お願い申し上げる次第でございます。

 ご許可をいただきましたら、直ちにシステムの破壊を実行に移させていただきます。
 この行為は、プログラムだけではなく、関連する機器すべての破壊を含むとお考えください。アンドロによって安易に復旧できぬよう、完全なる破壊という意味でございます。

 なお、消去のシステムは再生のシステムと連動していることから、破壊後は再生もできなくなりますが、必要となれば、他の街からシステムを移管するなどしていただければ、いずれ復旧することは可能かと存じます。
 また、個人の思考情報蓄積を破壊するものではございませんので、その点はご安心くださいませ。

 地球人類の皆様が長年にわたって開発され、馴染んでこられましたシステムを破壊することは心苦しく存じますが、なにとぞご考慮いただきますよう。

追伸
この書簡は、現時点でアンドロによって支配がなされている各街の長官様全員に、同様の文面をお届けしているものでございます。


 というものだった。
 ンドペキは、レイチェルとふたりでこの文書を読んだ。
 心は決まっていた。
 もちろん、許可する。
 しかし、決めるのはレイチェルである。

「ンドペキ、どう思う?」
「自分で決めろよ」
「だって、もう再生されないかもしれないのよ。私はそのうちに死ぬからいいけど、ンドペキ達はこれまでずっと再生されて生きてきたんでしょ。もともと、そういう取り決めだし」
 確かに、マトになるときの契約はそうだ。
 しかし、それはもう数百年の前のこと。今となっては……。
 いや、人によっては、再生されないことに傷つく人もいるかもしれないが。

「緊急事態なんだ。そんなこと、言ってられないんじゃないか」
「ということは、ンドペキはパリサイドの申し出は許可ってことね」
「そういうことになる。ただし、あくまで個人的な意見だぞ」
「じゃ、マトの代表者はオーケーと。後はアギとメルキトね」
「何を言ってるんだ?」
「書簡の冒頭に、親愛なるニューキーツのホメム、アギ、マト、メルキトの皆様って書いてあったもの」
「そんなこと、どうでもいい。おまえが決めればいいんだ」
「でもさあ」


 KC36632は大広間で待たせてある。
 レイチェルの部屋には、ンドペキただひとり。
「アギの意見はイコマさんに聞くとして。あなたの隊に、メルキトはいない?」
「いるけど、そいつの意見より重要なのは、おまえの意見だろ。早く決めてくれ」
「その人の意見も聞きたいな。私の命令だから連れて来い、って言ってもだめ?」
「頼むよ。悩んでいるわけじゃないんだろ。しばらくの間、再生されなくなるからといって、誰も恨みはしないよ」
「そうかなあ」

 レイチェルが真剣な顔つきになった。
「機器が破壊されたら、復旧にはかなりの時間がかかるわ。それに、最悪の場合、復旧できないかもしれない。死んだらもう二度と、この世で会えなくなるかもしれない」
 言われるまでもなく、その可能性は十分に理解している。
 アンドロとの戦いに速やかに勝利し、政府の各機関を手中に収め、元のようにエネルギーや各種の資材を自由に使えるようになってこそ、復旧が開始できるのだ。

「だからこそ、おまえが決めなくちゃいけないんだよ。ニューキーツの最高責任者なんだから」
 レイチェルは、「ハーッ」と息を吐き出し、「仕方ないわね!」と、ペンをとった。
「許可する。ただし、破壊の進捗については遅滞なく報告すること」
 書簡のJP01のサインの下にそう書いて、自分のサインとハート型を書き込んだ。

 ンドペキはそれを見て、KC36632を呼びにいった。
 KC36632が、レイチェルの部屋に入る前に、小声で話しかけてきた。
「JP01がお会いしたいそうです。明日の朝六時に、森で。イコマさんとスゥさんもお連れくださいと。外で私がお待ちしておりますので、案内をさせていただきます。なお、申すまでもありませんが、内密に、とのことでございます」


 KC36632と入れ替わりのように、洞窟にもうひとりの訪問者があった。
「ハワードと名乗っています!」
 アンドロは、一人用の飛空挺で乗り付けていた。
 本当にやってきたのだ。

 アヤは会うという。
 案内するしかない。

 通路を行く間に、チョットマとすれ違った。
「あっ」
 チョットマが小さく声をあげた。
「やあ」と、ハワードが笑顔を見せる。
「ん?」と、ンドペキは思ったが、すぐに思い出した。

 チョットマが話してくれたことがある。
 付回してくる男がいると。
 そしてその男は、サリの部屋も訪ねているようだと。
 その男とは、ハワードのことだったのだ!


 しかし、ンドペキは何食わぬ顔で、アヤの部屋に案内した。
「おおっ、バード! 心配したよ! 無事でよかった!」
 ハワードの第一声だ。
 それからふたりは、互いをねぎらう会話を続けた。
 当たり障りのない話だった。
 その間、五分ほど。
「じゃ、レイチェルのところにも寄って行くよ」
 そういって、ハワードが部屋を出た。

 恋人同士というような甘い再会ではなかった。
 やはり、アヤを愛しているというのは嘘だったのだ。
 アンドロの恋とは、そういうものなのかもしれないが。

「レイチェルの部屋は隣だ」
 ンドペキはレイチェルの部屋を示した。
「はい」
 と、ハワードは姿勢を正した。
「レイチェルが誰か、知っているのか?」
「むろんです」
 ノックする。


「ハイ! ハワード!」
 応対に出たレイチェルは上機嫌だった。
「無事だった?」
「はい。このとおりです」

 ハワードはアヤのときより、よほどリラックスだ。
 言葉遣いは上官に対するものだが。
「長官もご無事でなりよりです!」
「心配掛けたわね! 来てくれてうれしい!」

 レイチェルに拒否さるれぞ、というのは杞憂だったようだ。
 ハワードの言うことが正しかったというわけだ。
 ンドペキは面白くなかったが、これでハワードがアヤに近付いた理由がはっきりした。
 アヤがいうとおり、単に「愛」や「恋」の練習台だったわけだ。
 それが分かっただけで、十分だ。 

 チョットマやサリに近付いていたのも、その口だろう。
 行動力には驚くが、この男の「愛」や「恋」の中身は薄いものだ。
 レイチェルとの関係は不明だが、所詮は底の浅いものだろう。

 しかし、レイチェルの反応は気になる。
 まるで、旧知の間柄のような歓待ぶりだ。
 まさか、レイチェルがこのヒョロリ男に興味があるとは思えないが……。
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