挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューキーツ 作者:奈備 光

8章 タブレットを飲んで

108/126

107 困惑の色

 事態を打開しなくては。
 この洞窟で、これだけの人数が篭城し続けるのは難しい。
 ンドペキはパリサイドのコロニーに出向くことを決めた。

 ンドペキは、イコマを連れて洞窟を出た。
 レイチェルは、自分が出向くのが筋だと拘った。
 しかし、レイチェルを送迎するとなると、何人もの隊員を連れ出すことになる。シリー川はかなり遠い。その間、全員が危険と隣り合わせになる。レイチェルには断念してもらうしかなかった。


 しかし、いくらも行かないうちに、サリの姿をしたKC36632が待っていた。
「JP01が、お話ししたいと申しております」
「こちらもそのつもりだ」
「では、ここでお待ちください」
 待つこと、十分少々。
 JP01が現れた。

「お久しぶりです。今、お願いがあって伺おうとしていたところです」
 ンドペキはJP01の反応を待って話し出すつもりだったが、JP01は黙ったままだ。
 うっそうとした森の木々の下で、立ったまま対峙する。
 以前、シリー川で会ったときと同じようにクリクリした目をしているが、どことなくよそよそしい。
 それでもンドペキは話しかけた。
「ニューキーツの街を救っていただけないでしょうか」
 遠交近攻作戦である。


 窮状を伝えた。
 それを改善する、なにか、いい方法はないでしょうかと。
 レイチェルもあなた方との友好な共生を望んでいますと。

 しかし、JP01の応えは、がっかりするものだった。
「手を貸すことはできません」
 それだけだった。
 JP01から話したいということだったので、期待していたのだが、完全に裏切られた。

「そうですか。残念です。それがあなた方のお考えなら、しかたがありません」
 ンドペキは改めてJP01を見つめた。
 黒い瞳には、どんな感情も宿っていないように、ただ見つめ返してくる。


 しかたがない。
 このままでは洞窟の隊員達もいずれ滅び去る。
 パリサイドの助力が得られないとなれば、自分達で手を打たなければ。

「レイチェルはあなたと話したがっています。もしよろしければ、会談の場をセットしたいのですが、いかがでしょうか」
 これは事実である。

 しかし、JP01は、これにも関心を示さなかった。
 ただ、ノーということでもない。
「では、私があなた方の洞窟に出向きます。ただ、どんな条件を示されようとも、あなた方だけに肩入れをするつもりはありません。それだけは了解しておいてください」
 入り口を初めからバタンと閉められたようなものだった。

 しかしンドペキは、気を取り直して言葉を繋いだ。
「わかりました。では、いつごろがよろしいでしょうか。当方は、いつでも結構です」
「では、今から六時間後ということで」
「かしこまりました」


 それから、JP01はぐっと砕けた調子になった。
 仏頂面に微笑が戻ってきた。
「ねえ、ンドペキ、仕事の話はそれでおしまい?」
「あ、はい」
 変わり身は極端だった。
 話しぶりも声音も、先ほどとはうって変わって、親しみモード全開だ。

「あなたとチョットマのパパさんに話があるんだけど」
「何でしょうか」
「今じゃないわ。レイチェルとの会談が済んだ後。どこかに場所を用意してくれない?」
「はい」
 ンドペキに異存はない。
「スゥも呼んで欲しい」
「かしこまりました。いいですか? イコマさん」
「もちろん」
「アヤちゃんはまだ無理よね」
「無理です」
「そう。本当は立ち会って欲しいけど、しかたないわね」

 スゥとアヤ。
 作戦の話ではない。
「他には?」
「私とスゥ、イコマとあなた。それで十分よ」
 了解だとは言ったものの、ンドペキはなぜか胸騒ぎがした。
「だれにも邪魔されないところで。それに、私達が会うということも秘密にできる?」

 慎重に考えた。
 現実的に、そんな場所があるだろうか。
 現在、洞窟内に余っている部屋はない。
 自分の部屋?
 声が漏れ出さないとも限らないし、そこで集うことは隊員達に知られてしまう。
 洞窟内では無理だ。

「洞窟内で、秘密の会談ができる場所はないと思います」
「そうねえ」
「締め切ることができるのは、スゥの部屋だけです」

 スゥがシリー川の会談でJP01に向かって発砲したことを思い出した。
 はるか昔の出来事のようだった。
 JP01は、スゥを交えて話したいという。
 旧知の仲のように、普通にスゥと呼んでいる。
 奇妙な申し入れだとは思った。
 あの発砲事件の後、何があったのだろうか。
 そういえば、そのことについても、スゥにまともに聞いていなかった。


「スゥの部屋か」
 JP01が難色を示した。
 洞窟の外は、ンドペキ自身が誰にも見咎められずに出て行くことができない。
 洞窟から出ずに行ける、秘密の会談にふさわしい場所は……。

 ホトキンの間しかない。
 今日の物資輸送は、その頃までには終るだろう。
 その時間が過ぎれば、あそこまで隊員達が足を延ばすことはない。
 なんなら、プリヴの部屋でもいい。
 しかし、あそこまでJP01は、ひとりで来れるのだろうか。

 そこまで考えて、ンドペキは重要なことを思い出した。
「JP01、ホトキンという男が私に謎を仕掛けていたとき、あなたは助言をくれましたか? あれはあなたでしたのでしょうか?」
 JP01の顔が歪んで、笑った。
「そうよ。あなたは失敗したみたいで、女性隊員が助けてくれたのよね」
「やはりそうでしたか……」
「それがどうかした?」
「いえ。ちょっと思い出したものですから。あなたは水系を伝って移動できるんですね。それならいかがでしょう。あの空間では?」
「そうね。わかったわ。レイチェルとの話が終ったら、私は水系から帰るわ。実際はホトキンのあの場所に向かう。そこで落ち合いましょう。あんまり遅くならないでね」
 そういうと、JP01は、スパン!と空に向かって飛び出していき、あっという間に見えなくなった。


「イコマさん。どう思います?」
「あなたもご承知のように、パリサイドは天秤に架けているんですよ。アンドロかレイチェルか。どちらと話し合うか。ほとんどの街はまだ態度をはっきりさせていません。しかもニューキーツはアンドロの支配下です。このような状態でレイチェルを支援するというのは、他のパリサイドの手前、JP01もやりにくいんだと思います」
 ンドペキもそれは理解していた。
「しかし、JP01はチョットマとスミソを助けてくれた。あのときのようなことを期待しているんですが、やはり難しいのでしょうか」
「逆にこうも言えます。こんな状況になっていても、パリサイドはレイチェルを、そしてあなたを、ひいては地球人類を見捨てていないということです」

 なるほど、そういう見方もある。
 いわば、我々は虫の息だ。自力で街を奪還する手立てもない。
 いずれは洞窟を取り囲まれてあぶりだされてしまうだろう。
 そんな我々にJP01はまだ望みを託している、とも言えた。

 ただ、やはり自分達が決着をつけない限り、事態の打開はないのだった。

「JP01の話とはなんでしょうか」
「さあ、それはわからないですね」
 ンドペキとイコマとスゥ、そしてJP01。
 このメンバーで何を話し合いたいというのだろか。
 ンドペキは不安を抱えながら、洞窟に戻った。
cont_access.php?citi_cont_id=526017838&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ