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ニューキーツ 作者:奈備 光

7章 ピンクのハートマーク

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104 ござるの色

 翌日。
 スゥは一日中、姿を見せていない。
 隊員ではないので、行動を把握しているわけではなかったし、隊としての仕事が割り当てられているわけでもない。

 ンドペキは聞き耳頭巾を試してみるどころではなくなった。
「政府軍、接近!」
 洞窟内は一気に臨戦ムードになったのである。

「約十キロ地点に迫っている!」
「約七十名!」
「依然として、ハートマークの旗指物!」
 次々入る連絡を耳に、隊員たちが走り回っている。
「落ち着いて行動しろ! 決められた位置に付け!」
 ンドペキは怒鳴った。
「絶対に攻撃はするな!」

 隊員がレイチェルとアヤを瞑想の間に退避させているのを確認すると、ンドペキは洞窟の入り口に向かった。
 すでに、隊員達が所定の位置につき、政府軍が洞窟に近付くのを防ぐ隊形をとっていた。
「相手が少なくなったからといって、油断はするな!」
 ンドペキは洞窟の入り口に陣取った。
「いよいよ、来やがったな」
 パキトポークもスジーウォンも、どことなく弾んだ声を出している。
「待たせやがって。もうちょっとで、モヤシになるところだったぜ」


「見張り隊! 引き上げろ!」
「了解!」
 引き上げつつも、見張り隊から断続的に連絡が入ってくる。
「五キロ地点で停止した!」
「集団隊形を取っている!」
「敵の隊長、先頭にいる模様!」

 そのときだ。
 ンドペキの耳に聞きなれない声が届いた。
「ニューキーツ防衛軍将軍、ロクモンと申すものなり! レイチェル閣下とお目通り願いたく、参上仕った! お取次ぎ願いたい!」
「なんだと! 今頃のこのこ来やがって! 舐めとるんか!」
 パキトポークが怒鳴った。
 声の調子に喜びが滲んでいる。
「不届き者め!」
「目にもの見せれくれようぞ!」
 スジーウォンも同じ調子だ。
 もちろん、相手の口上を真似たジョークだ。

 ンドペキも、口上を投げ返す。
「よかろう! では、貴殿のみ、こちらへ参られ給え!」
 そして、
「レイチェルに伝えろ! 大広間へ。ロクモンをそこへ通す!」と、指示を出した。
「参られ給え、ってどこで習った? 古臭い言い方ね」
 スジーウォンが笑った。

 ンドペキは、隊員達にもう一度注意を与えた。
「気を緩めるな!」
 そして洞窟の入り口で待ち構えた。
「来ました!」
 一筋の砂埃の先頭に、ひとりの男の姿があった。
 旗指物がはためいている。
 本隊ははるかかなたに停止したままだ。

 男は五十メートルの距離にまで近づくと地面に降り立ち、歩み寄ってくる。
「かたじけない!」
 間近に来るまで、ンドペキは何も言わなかった。
 心の中ではこの男を張り倒してやりたかった。


「案内しよう。ただし、武器は預からせてもらう」
「むろんだ」
 男が見張り隊に武器を預けた。
「こちらへ」
 すでに、レイチェルには連絡済みだ。
 レイチェルは、まず、ンドペキと自分の部屋で話をしておきたいと返してきていた。

 ンドペキは背中を向け、洞窟に入った。
「中は暗く深い。床も斜めになっている。注意して飛び降りられよ」
「了解仕った」
 ロクモンの回りは、隊員達が幾重にも固めている。
 武器を水平に構えている者もいるが、ンドペキは自由にさせていた。
 発砲することはない。
 それくらいの応対で、この男には十分だろう。


「しばらく待たれよ」
 大広間にロクモンを残して、ンドペキはレイチェルの部屋に向かった。
 パキトポーク以下の手誰がロクモンを取り囲んでいるので心配はない。
 ロクモンは、勧められた椅子には座らず、ヘッダーもマスクも外そうとしていた。

 フライングアイが飛んできた。
「どうされますか? 参加されますか?」
「お邪魔でなければ」
「では」

 レイチェルは、それほど嬉しそうではなかった。
「今更、何をしに来たのかしら」
 などという。
「そんなことを言うもんじゃないと思います」
 上官に対する言葉遣いと、友達言葉が混じってしまう。
 ンドペキも興奮しているのだ。

 言い直した。
「失礼しました。我々も同席させていただきます。よろしいですね」
 この点は絶対に譲れないことだ。
 もし、だめだというなら、会談を破談させてしまうつもりだ。


「もちろん。頼りにしています」
 レイチェルはあっさりそう言ったが、なにか言い足りなさそうだ。
「私は口を挟みませんが、我々に不利になるような内容でしたら、そう申し上げます」
「ええ」
 レイチェルはまだ、動こうとはしない。
「パリサイドとの会談の時には、あなたは力強いサポート役だった」
 何を言い出すのかと思ったら、そんな過去のことを言う。
「では、参りましょうか」
 ンドペキは促したが、レイチェルが不安げな顔を見せた。

「ロクモン将軍は、間違いなくあなたの部下ですね?」
 レイチェルの不安の元を突き止めておかなくてはいけない気がしてきた。
 相手の要求が何なのか、分からない段階で、レイチェルが弱気だと困る。
「なにか、不安があるのですか? 身分証でも示させましょうか? すでにヘッダーもマスクもとっていますが」
「本人かどうか、顔を見れば分かります」
「そうですか。では?」

「ンドペキ」
「はい」
「あなたには言いにくいことですが」
「どうぞおっしゃってください」
「あなたと隊員達は、私にすべてを預けますか?」
 ンドペキは、あっ、と思った。

 忠誠を誓えと言っているのだ。
 今までそんなことを意識したことはなかったが、兵である限り、そういうことなのだろう。
 ハクシュウもこうしてレイチェルに忠誠を誓っていたのかもしれない。

「当然のことながら、攻撃隊はあなたの部下です。私は、隊長として半人前ですが」
「自分を貶めることはありません。あなたは東部方面攻撃隊の隊長として立派です。ごめんなさいね。聞いておかなければ会談はできないので。では、行きましょう」
 レイチェルの顔が、見る間に引き締まった。


「む?」
 大広間は奇妙な雰囲気に包まれていた。
 笑い声が聞こえていた。
「……賑やかだな」
 ンドペキが入っていくと、
「この人、面白いんだ」
と、チョットマが指を差した。
 その先にはもちろんロクモンがいる。
「背中の旗のことを聞いてたんだけど、この人、ゴザルって言うんだよ。言葉、通じないよ!」

 しかし、レイチェルが入っていくと、さすがに大広間は静けさを取り戻した。
 ロクモンは、レイチェルを最敬礼で迎え、そのことが大広間の空気を引き締めた。
 レイチェルはロクモンをチラリと見ると、椅子に腰掛けた。
 そして口を開いた。


「ロクモン! どういうつもりか!」
 びっくりするほど厳しい口調だった。
「はっ! 我々は、タールツー軍を追いましたが、エーエージーエスに逃げ込まれ」
「黙れ!」
「はっ!」
「私の書簡を無視し続けた!」
「はっ、申しわけございません!」
「きさま! それでも防衛軍の将軍か!」
「はっ、まことに申しわけございません!」
「後手に回ったばかりか、街をやすやすと敵の手に渡した! どう責任をとるつもりだ!」
「はっ、まことに申しわけございません!」
「手をこまねいているばかり! 兵はアンドロによって次々と消去され、軍はまさに死に体!」
「はっ、まことに申しわけございません!」
「おまえには、ここで、いの一番にすることがあろうが!」
「はっ!」

 ロクモンがンドペキに向き直った。
 あっという間もなく、ロクモンはどかりと胡坐をかき、両手をついた。
「ンドペキ殿! そして東部方面隊の方々! これまでの無礼、まことに申し訳ござらぬ! ロクモン、衷心よりお詫びいたす!」
 そして、額を床に擦りつけた。
「この責はすべて拙者にあり申す! どのような咎もお受け申す! ただ、兵達に罪はござらぬ。どうか、兵達をお許しくださいますよう、切に切に、お願い申し上げる!」


 ンドペキは、レイチェルを見た。
 レイチェルはロクモンの後頭部を睨みつけたまま、微動だにしない。
「俺は、あんたの気持ちを受け取ったよ。ただ、あんたの処分はレイチェルが決めること」
 そう言って、隊員隊を見た。
 表情は見えないが、不服のあるものはいない。ンドペキはそう思った。

 じりっ、とするような十秒ほどが過ぎ、
「ロクモン!」と、厳しいレイチェルの声が飛んだ!
「はっ!」
 ロクモンはまだ額を床に擦り付けたままだ。
「説明しろ!」

「はっ、この洞窟の軍に加えていただき、起死回生を図りたいと存じます!」
 ンドペキは予想外の展開に驚いた。
 声にはしないまでも、隊員達にも動揺が広がっている。
「このロクモン、恥を忍んでお願い申し上げ仕る! 我が兵をお加えくださいますよう!」

 レイチェルは、一拍の間をおいて、厳かに言い渡した。
「許す」
「恐悦至極に存じます!」
「ただし! この軍は東部方面攻撃隊隊長ンドペキが率いている。その指示に従え!」
「はっ」
「勝手な行動は許さない。ンドペキが指揮官であり、パキトポーク、スジーウォン、コリネルスが副官である。ここにいる者達こそが、私をあの忌まわしき場所から救い出した、街の真の英雄である!」
「はっ」
「タールツーに立ち向かわんとする真の防衛隊である。そう、心得よ!」
「はっ、かしこまりました!」
「貴様と兵の処遇は、すべてンドペキに委ねる!」
「ははっ!」


 大広間から、カチャカチャという音がした。
 見ると、チョットマが拍手を送っている。
 そして、それは大広間全体に広がっていった。

 レイチェルは厳しい表情を変えることなく、スクッと席を立ち、自らの部屋に戻っていく。
 カチャカチャという音は、レイチェルが消えてもなお続いていた。


 ンドペキは、改めて自分は半人前だな、と実感した。
 ロクモンがこのような考えを持ってここに来たことも予想できなかったし、今のレイチェルのような振る舞いも予想を超えるものだった。
 そして、チョットマ初めとする隊員達の行動も。

 心にじんとくるものがあったが、次のアクションは自分がとらなければならない。
 ンドペキは平伏しているロクモンに歩み寄った。
 拍手が止んだ。
「よろしく頼む」
 と、手を差し出した。
 ロクモンは、厳しい表情ながらも差し出した手を握り返し、
「お世話になり申す」と、応えた。
 再び、カチャカチャの音が大広間に響いた。


 やがて、ロクモン率いる防衛軍兵士が洞窟に入ってきた。
 武器は没収してある。
 スジーウォンが部屋割を決めた。
 洞窟は一気に倍以上の人数になったので、東部方面攻撃隊兵士と防衛軍兵士が相部屋となった。
 そして全員での夕食となった。

 ンドペキは、
「レイチェルって、本気の長官だったんだね」
「すごい迫力だった」
「オーラが出ていたぞ」
 というような、隊員達のささやきを聞いた。

 一堂に会する夕食だからといって、ンドペキは特段の挨拶はしなかった。
 そうするまでもなく、隊員達も防衛軍兵士も、お互いのことを知ろうと生き生きとした表情をしていたからだった。
 レイチェルはンドペキの横に座り、黙って口を動かしていた。
 スゥもいつのまにか姿を見せ、隅っこで食事をとっていた。
 遠くの席で、チョットマがはしゃいだ声をあげていた。


「食事が終ったら、ロクモン達にこの洞窟でのルールを教えてやれ。連中のリスト化や特性のヒヤリングも始めてくれ」
 ンドペキは、コリネルスに指示した。
 レイチェルには、
「よかったね。頼もしい仲間が増えて」と小声でささやいた。
 すると、レイチェルは、
「本当によかった。まだ当分ここで、あなたと一緒にいられるねっ」
と、茶目っ気たっぷりに目の周りで笑った。
「だからさあ、そういう、ややこしい言い方はやめてくれないかな」
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