1 -《 プロローグ 》 退屈は死んだ。諦めも死んだ。邪魔者はいない……クソだらけの世界は、ただ俺の正義に従え
テロだの殺人だのといった日々のニュースを、
さも〝当たり前〟に起きることかのように眺めていませんか?
そんなあなたの〝当たり前〟をぶっ壊したくて書きました。
白く高く重厚感のある壁の下を、シンは力強い足取りで歩を進めていた。壁は遥か先まで続き、ぼやけている。
道を挟んで壁の反対側には新緑が栄えており、木々は道にもたれかかるように傾斜して伸びている。
威圧感のある白塗りの高級車が通ったきり、周囲にはシン以外に人はいない。
少し進んだところでシンは止まり、壁と並列に続くちょうど腰かけられる位の高さの生垣に座った。
シンは顔を空に向け、ゆっくりと流れていく雲を目で追う。
シンの視界には、デリーター、十二時〇〇分にセットされたタイマー、周辺地図の三画面が浮いており、デリーター画面のシリアルナンバー列の右上、リスト行数には〈3〉と表示されている。
「五十メートル以内に、壁の方向に三人……囚人リストにも該当はない――看守で間違いないな」
シンはデリーターに示された方向、距離、シリアルナンバー、そして地図に記載された建屋の位置を見比べながらそうつぶやいた。
* * *
しばらくして、近くで学校のチャイムが鳴った。
チャイムと同時、デリーターには瞬く間に壁側に矢印が向くリストが次々と追加されていき、瞬く間に百件を超える。
シンは、チャイムが鳴る前から表示されていた三つのリストを器用に避けながら、撫でるようにして残り全てのリストの色を瞬く間に反転させていく。
シンはすぐに最下行まで選択し終えると、画面を素早く二度タップし、続いて表示された年月日の画面で〈ALL 〉を選択、《DĒŁĒTĒ》ボタンの点滅を迷いなく人差指で止めた。
【All done】
視界中央を覆うメッセージを、シンは先程までとは対照的にゆっくりとした動作で閉じた。
立ち上がるシンの顔つきは精悍で、数ヵ月前とは明らかに異なっている。
時折、白い壁に目配せしながら、シンは来た道をゆっくりと戻っていく。
途中、いくつもサイレンが近づいては離れていった。