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人装神器ゴーアルター  作者: 靖乃椎子
≪第十二話 断罪分離!SINゴーアルター≫
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第71章 Re:夢と理想 ◆

 通信機のスピーカーから聞こえてくる金切かなきりり声に集中力が途切れそうになる。向こう側で何か揉めているらしいのだが、歩駆は聞かない事にして無視し続けた。



「こんな戦いを止めさせてください! これじゃ、少尉が……少尉が」

 IDEAL司令室。女性オペレーターが立ち上がりヒステリックに泣き叫ぶのを副司令、時任久音が宥める。


「貴女とクラク・ヘイタがそういう関係にあったのは知ってます。けど、彼はもう人間じゃないわ」

 気の毒そうに言うが表情は冷たい時任。オペレーターは泣き崩れた。


「それでも良いんです私! 誰か彼を……助けて……っ」

「無理よ。あんな姿になっては、もう」

 モニターに映るのは《ゴーアルター》によく似た怪物だ。機械と生物が混ざった四本の腕。時間が経つにつれて肥大化するボディからは血の様な半透明の液体が吹き出し、表情は醜悪さに満ちていた。時任はコンソールに触れ、キーワードを打ち込み《ゴーアルター》にある一部の武装の安全装置を解除した。



 戦い始めて数十分。立ち向かう歩駆と瑠璃のSVだったが、《クラクだったモノ》は巨体に似合わず早さは俊敏で、相手のペースに飲まれていた。

 一見しては荒々しく叫びまくりで暴走しているかに見える《クラクだったモノ》だが、繊細かつ正確な動きで翻弄し、強力な接近攻撃を休む暇なく仕掛け反撃の隙を全く見せない。

 防戦一方の歩駆たちが《クラクだったモノ》から感じ取ってるのは、こんな姿になって「早く止めて欲しい、助けてくれ」と悲観するものではなく、むしろ逆で「この私を倒せるものなら倒してみろ」と言う上から目線で楽しむ敵意だ。


「ゴリラだかサルだか、何なのよコイツ気持ち悪い!」

 焦る気持ちが瑠璃の精彩を欠かせる。武器の数が減り、攻撃力の低下する《戦崇》では異常な程に回復する敵をコアは貫けない。


「あれは、偽ゴーアルターだった……偽、でも俺は」

 一方で歩駆には、あの《クラクだったモノ》に勝つビジョンが見えないでいた。やれるはずだ、と鼓舞するればするほど自信喪失に陥って〈ダイナムドライブ〉の出力も落ちてきている。

 そんな時だった。戦闘空域外からやって来た無数のレーザーが《クラクだったモノ》の頭上に降り注いだ。


「礼奈?」

 そう歩駆が呟く。やって来たのは深紅の翼、《ジェットフリューゲル》は既に次射の為にレーザーのエネルギーを溜め終えて再び放った。今度は極大の光条が一直線に飛び、動きを止めて再生を始める《クラクだったモノ》へと直撃した。


「ねぇ歩駆君、ずっと気になってたんだけどアレって無人機よね?」

「瑠璃さんこそ、そのトンガリに憑いてるのってアレですよね?」

 黙る二人。《ジェットフリューゲル》は機体を傾かせ《ゴーアルター》の背中に合体する。これまでと違い違和感があったのは、背に礼奈が直に見ている様な感じがあった。


「……期待するなよ、やってるさ。やってるんだよコレでも……お節介焼きめ」

「どうしたの? 何を言ってるの歩駆君?」

 瑠璃の言葉を無視して《ゴーアルター》は駆け、空へ飛び出した。折角、幼馴染みが居るのだ。少しはカッコいい所を見せねば、と気合いを入れる。


「イミテイトなんてコアを壊せばいい、基本だ。力を貸せよ礼奈……!」

 拳に力を集中させる。歩駆は軽く深呼吸して脳内でイメージトレーニングは始めた。

 突く、掴む、潰す。とてもシンプルである。


「行け、マニューバ・フィスト!」

 右腕を下方の敵に向かって思いきり振り投げる。フォトンの光を纏った〈マニューバ・フィスト〉はバーニアの火を吹き上げ加速して《クラクだったモノ》に突貫する。しかし、直前で蹴り上げられてしまい右腕は空の彼方へと旅立った。


「チッ……来る」

 飛んでいった腕を引き戻す最中にも《クラクだったモノ》が猛進。後ずさる《ゴーアルター》の前に《戦崇》が入り、ライフル射撃によって《クラクだったモノ》を退かせる。


「無闇に前に出ないで、死にたいの?!」

「前に出ないと倒せないでしょう!?」

「策はっ?」

「………………」

「……一旦ここは下がるか、でもアレが町に出たらどうし」

 ほんの数秒だけ目線を外し、気の緩ませたのが瑠璃に隙を作らせた。《クラクだったモノ》の掬い上げる様なフルスイングのビンタが《戦崇》の横から叩く。機体は駅前の広場、巨大なモニュメントを巻き込んで建物に激突する。中では強い衝撃によりコクピットの瑠璃をシートから投げ出され、全周囲スクリーンの壁にぶつかった。


「瑠璃さん……ッ!!」

 キッと睨む歩駆に呼応して《ゴーアルター》の眼部からのフォトン光線が迸った。対峙する《クラクだったモノ》の顔面に直撃を食らわせ目潰しをして視界を奪う。両手で顔を覆っている所をすかざす左腕からのフォトン粒子を纏ったストレートパンチを打ち込む。が、後ろに付いた“もう一組”の両手によって掴まれてしまう。そのまま上に持ち上げられ、何度も何回も振り回されると、勢いをつけて高層ビルへと放り投げられた。


 脳が揺さぶられ歩駆の記憶も飛んでしまい、瓦礫と化すビルの中で《ゴーアルター》は沈黙する。数秒後、パイロットスーツの生命維持装置が働き、

歩駆の体に電気ショックを起こして蘇生させる。ビクンッ、と全身を跳ねさせながら歩駆は目覚めた。


『まだ生きてるわね真道君』

 通信で聞こえる時任の声。同時にデータが送られスクリーンに表示させる。


『グラヴィティミサイルの使用を許可します。一撃でアレを仕留めるにはそれしかないわ』

「……俺に、撃てって言うんですか? 瑠璃さんが……瑠璃さんがまだ下にいるでしょ!?」

『GA01(ゴーアルター)を失うわけにはいかないわ。それとも貴方、死にたいの? アレを倒せるの?』

「俺は……やれる、やれるはずなんだよ」

 焦る歩駆。口だけならば何とでも言えるのだ。

 まるで駄々を捏ねる子供の様に《クラクだったモノ》に向かっていく《ゴーアルター》であるが返り討ち。それでも必死に食らいついて見せるが結果は同じだった。やられては向かい、やられては向かい、の繰返し。精神と肉体、共にボロボロな《ゴーアルター》の歩駆。それでも挑戦し続けているのは意地であるのだが、意地があればどうにかなるものではない事を歩駆は知らない。諦めないのは時として悪い事なのだ。追い詰められれば追い詰められるほど《ゴーアルター》のパワーは弱まりディフェンスだけが強くなる。これではいつまで経っても終わらない。いつの間にかコンソールパネルの〈グラヴィティミサイル〉の発射準備を終えてスイッチに手が触れかけている。押せばこれで終わる、と誘惑に負けそうにる歩駆。もうそろそろいい加減にして


「ウルセェェェェェーッ!!」

 ……。


「さっきから誰なんだよぉ……横からゴチャゴチャ、ペラペラと!」

 独り言、幻聴も聞こえ始めている。何度も頭をぶつけていたせいで、打ち所が悪かったのか脳がヤバくなっている様だった。


「お前だよ、頭に直接聞こえてきている感じ。何処の誰だ? イミテイターか? 偽ゴーアルターからなのか?」

 ……。


『真道君どうしたの? さっきから誰と話しているの?』

 パチン、と指を鳴ると通信機の回線を遮断された。


挿絵(By みてみん)


 目の前に自分がいる。


 歩駆は一瞬、そこに鏡でも現れたのかと思ったが、その姿は真っ黒な学ランで今着ているピッチリした白いパイロットスーツではない。


「貸してみろ」

 ニタニタと笑う自分。まるでゲームの順番を交代するかの様に、歩駆は操縦席から無理矢理に退かさせられた。


「ヒーローはノリが良い方が勝つんだよ!」

 自分が左右のレバーを握りしめるとコクピットが七色に光りだした。瓦礫を吹き飛ばし《ゴーアルター》は立ち上がる。心なしか《ゴーアルター》の表情は笑みを浮かべていた。


「二つの拳が正義を貫く、ダブルマニューバァ……フィストォォォーッ!!」

 背部ジェットフリューゲルのスラスターを吹かして爆走する《ゴーアルター》は、迫り来る《クラクだったモノ》へと勢いを付けて両腕を放つ。


「無駄だよ、また弾かれるぞ……」

「さて、どうかな?」

 一直線に突撃する〈マニューバ・フィスト〉は握った拳を広げると、《クラクだったモノ》は前の両手で〈マニューバ・フィスト〉と組み合って止める。


「ほら、やっぱりだ!」

 デジャブだ、と歩駆は目を伏せる。それでも腕の無い《ゴーアルター》は加速を続けて《クラクだったモノ》に向かっていった。すると、腕の接続部がエネルギーが流れ出る。それは目映い閃光を放ちながら剣状に成形されていく。勢いに乗る《ゴーアルター》は歩道橋を踏み台にして《クラクだったモノ》の図上に飛びかかった。


「光の刃が、白羽取れるわきゃねぇだろ!?」

 真っ直ぐ振り下ろされる〈アームフォトンソード〉を《クラクだったモノ》は後腕で受け止めた。バチバチと火花が激しく散りながらも掴んでいる《クラクだったモノ》だったが、後腕が次第に蕩け出していた。


「フォトンスラッシュブレェェェェェドッ!!」

 雄叫びと共に刃の輝きが増すと《クラクだったモノ》を両断する。《ゴーアルター》は真っ二つに開きになった《クラクだったモノ》の左側に埋まるコアを掴み、即座に握り潰した。コアを機体はグズグズに溶けだし、腐る様に地面に広がってく。

 あれだけ苦労した敵を、ものの数分で倒してしまい歩駆は開いた口が塞がらなかった。


「やってみたかったヤツ、やれてよかったわぁ。でも再生怪人なんてこんなもんだよな?」

 こんなのは楽勝だ、と言う感じで自分は背伸びをしながら欠伸あくびをしてみせる。


「何なんだよ!」

「はぁ、何がさ?」

 自分の肩を引っ張り怒鳴る歩駆。自分はキョトンとした表情をしていた。


「お前は……誰だ?」

「俺はSINの道を歩む者、シンドウ・アルク」

「ふざけるなよ!」

「真面目さ、もしくは」

 一呼吸置いてアルクは言った。


「人を装う神の器……変わり行く者、ゴーアルター」


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