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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

新たな仲間と覚悟と愛と

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間もなく決戦! 緊張感に欠けるけど!

 長い夢は終わった。


 目を覚ますと、私はベッドに居た。
 天蓋付きの豪奢なベッドに、贅沢なお部屋。私が目覚めた途端、パッと周囲が明るくなる。光球の魔法だ。室内もポカポカあったかい。冬とは思えない。
 あれ? と、思い、ベッドから起き上がった。カルヴェル様のお城の中の一室っぽい。
 私が剣と同化している間、肉体はカルヴェル様が操って鍛錬をしてくださってるはずなのに。
 首をひねっていたら、移動魔法でカルヴェル様が現れた。
 鍛錬は? と、尋ねると、今日は休養日だと答えが返った。
 明日が七日後だから……
 私は夢で見た事をカルヴェル様に語った。
 大魔術師様は、うむうむと頷きながら私の話を聞いてくださった。


 私は……
『勇者の剣』の記憶を遡り、剣がどんな存在なのかを知った。
 何を思い、何故、魔族と戦ってきたのかを知った。
 知って、ますます……剣を失いたくないと思った。
 剣を犠牲にした上で成り立つ平和など、意味がないと思ったのだ。


 壁にたてかけられている『勇者の剣』を私は見つめた。
 人の身長ほどもある、でかい両手剣。回復魔法以外のほぼ全ての魔法が使え、無限の守護の力で勇者を守る、この地上、最強の剣……
 勇者ラグヴェイを愛し、ラグヴェイの遺したものを守ろうと戦ってきた、一途でおバカな存在だ。
「あんたは、報われるべきだわ」
 私は剣に笑いかけた。
「満足できるまで戦うべきよ。一緒に、僧侶ナラカをぶっ倒しましょう」


 白銀の鎧をまとい、『勇者の剣』を背負って、廊下に出た途端、
「おはようございます、ラーニャ様!」
 背後から抱きついて来る気配があったので、とりあえず回し蹴りを入れておいた。
 勢いよくジライがふっとんでゆく。より軽やかにより力強く動けるようになった体に、ちょっぴりびっくりした。前よりずっと早く動ける。
「いい感じに、お強くなられたようですな……」
 ジライがお腹を押さえながら、よろけながら近寄って来る。
「……普段の一・五倍くらい蹴りに勢いがございました」
 一・五倍か〜
 超パワー・アップてほどじゃないけど、睡眠中に、私自身、何の苦労もせずパワーアップしてもらったんだもの。上々よね。
 私の背後の大魔術師様が、ホホホと笑っている。
 すぐ近くに跪いた忍者に、私は尋ねた。
「みんなは?」
「ガジュルシン様はアーメットと共にお部屋に。ほんの少し前、ジャポネの三大魔法使いが姿を見せました。が、後の者はまだ戻っておりません」
 あら。
 シャオロン達はまだペリシャかしら? アジンエンデはお父さんに会いに行った? ガジャクティンの馬鹿は……まさか……
「ガジャクティンは?」
 と、口にしから、慌てて言い直した。
「……みんなも、修行中?」
「第三王子はんは、インディラや」
 妙にのったりとした声が、聞こえた。
 私の背後に、白粉男……
 移動魔法? 気配なんか無かったのに……
 神官服に厚化粧の男は、扇子で顔を半ば隠して立っていた。
「神様を使役する練習をしてるよ」
「そう……」
 無謀なこと……してないでしょうね……あの馬鹿……
「アジンエンデは?」
「知らん」と、タカアキ。
「知りませぬ」と、ジライ。
 大魔術師様はホホホと笑われた。
「アジンエンデは国に戻っておる。精神と肉体を充足させておる最中。午後にはわしが迎えに行って来るわ」
 そうか……修行中か……
 そこで、突然、白粉男が声をかけてくる。
「姫勇者はん、お暇?」
 暇ってわけじゃないけど……
「立会人が欲しいんやけど、そもじ、剣に頼れば見えんものも見えるようになれたよな?」
 見えんものが見える?
 タカアキは言い直した。
「霊力ないけど、剣があれば神秘のものが見えたよな?」
 どうだろう?
 次元通路が見えたりする事もあるけど、望んで何か見た事なかったなあ。
「試してみて」
 タカアキが、扇を持ってない方の手を、私へと差し出してくる。
「見える?」
 掌には、見たとこ、何もなし。
『勇者の剣』に頼んだら、何かぼんやりと見えた。白いものが、ぐるぐると手首から指先に向け、絡みついている。
「……蛇?」
 タカアキの目元が、ニッと笑う。
「見えるやないの。ほなら、一緒に来て、第一王子はんに渡すモノがあるんよ。王子はん、目ぇ悪いさかい、代わりに麿がやる事、見て欲しいんやわ」


 私だけじゃなく、カルヴェル様やジライも、ガジュルシン用の部屋へ行く。わしもアイテムがあればそこそこ見えるぞと、カルヴェル様。ジライは単に私について来ただけ。
 忍者装束だけど、兜と口布はしていないアーメットが、私らを中へ導く。
 まだ寝こんでるかも? って、心配だったけど、ガジュルシンはソファーに座って何かぶ厚い本を読んでいた。私達が来室すると、立ち上がって王家の子らしい所作で挨拶をした。
《タカアキ様、無事のお戻り嬉しく思います。おかえり、ラーニャ》
 ガジュルシンが、にっこりと微笑む。そこそこ元気そう? 顔色があんまよくないけど、こいつは、まあ、いつもこんなものだし。
「シンを渡しに来た」
 シン?
 何、それ? って顔の私に、タカアキが右手を振ってみせる。手首から手に小蛇がまとわりついている。
「第一王子はんとミズハの子供」
 へ――
 ガジュルシンと姫巫女の子供。
 あの小蛇が二人の子供なのかぁ。


 子供……?


 子供ぉぉぉ〜〜〜〜?


* * * * * *


 切れるんじゃないかと思ってたんだよ、姉貴のこったから。
『不倫するにしても、相手を選びなさいよ!』だの『私、伯母さんなんて、まっぴらだわ!』だの『義姉(ねえ)さんは、交際は認めません』だの『うちの弟を捨てる気?』だの……聞いてる方が恥ずかしくなるよ。
 俺に羽交い絞めにされた姉貴が、ジタバタ暴れる。
 ソファーのガジュルシンは、困った顔で姉貴を見上げていた。 
「ま、ま、ま。姫勇者はん、気ぃ静めて」
 三大魔法使いが扇子で顔を半ば隠しながら、姉貴に近寄る。
「心配せんでも、大丈夫や。王子はんとミズハは、体が一つになっても、心はバラバラやし。一夜の夢を見たようなもんや」
 一つになったの、あんたの肉体だろうが。入ってた中身は、違うけど。
「まあ、一回だけの遊びでもできる時は、できる。できてまったものはしゃあないやろ? お母はんが居らんのやもん。お父はんに世話してもらいたいんよ」
 ニコニコ笑いやがって……わざと、誤解を招く言い方してるだろ……姫巫女だの姉貴だの性格が悪い女が好きなだけあって、こいつも性格が悪い。
 姉貴はガジュルシンを睨み、ちゃんと最後まで面倒をみるのよ! って叫んでいた。子供に対してというより、ペットに対しての注意のような。
「でな、相談や」
 タカアキがガジュルシンと向かいのソファーの席につく。大魔術師様と親父は立ったまんま。姉貴は俺の手を強引に払い、ムスッとした顔でソファーの二人を見つめた。
「そもじはシンの主人(あるじ)となった。見えんでも、使役はできる。けんど、見えて話せるに越した事はない。意思疎通できた方が、細やかな命令できるさかい」
 タカアキは、ふぅと息を漏らした。
「この世の神秘が見えん者が、すぅぐ見えるようになる、楽ちんな方法があるんやけど……」
 え?
「鱗を飲めばええんや」
 鱗?
「白蛇神の鱗を飲むとな、力の一部がもらえるんよ。霊力がもらえ、運動能力があがり、再生能力を得て、瘴気祓いもできるようになる。麿の配下にサムライがいたやろ? マサタカ。アレがまさにそれで、な。カケラも霊力ないのに、ミズハの鱗のおかげで麿の側近になれたんや」
 タカアキや姫巫女には、たいてい、サムライと神官がセットでくっついていた。お気に入りの部下だろうとは思っていた。
「そやけど、それは、眷族やから、神様のおこぼれが貰えるっちゅうだけなんや。つまり……鱗を飲んだ者は、白蛇神に支配される。白蛇神の命令は絶対やし、主人が望めば憑依体とならねばならなくなる」
 タカアキは、さきほどより大きなため息をついた。
「マサタカから、鱗は吐かせた。飲ませたまんまやと、ミズハに操られかねんからなあ。今までよう働いてくれたけど、アレはもう麿の片腕にはなれへんわ」
《鱗を飲めば、霊力などを得る代わりに、白蛇神の眷族となり支配される。けれども、鱗を吐き出せば契約は解除できる……そういう事ですね?》
「そうや。更に言えば、鱗を貰う時に、人間側が不利にならんよう契約する事は可能でな。言葉にしておくとええんやわ。『白蛇神が望む時には、体を渡す。が、宿主が望まぬ時はその限りではなく、体を貸しても意識はあり、宿主が望めばすぐに肉体を取り戻せる』みたいに、な」
《なるほど……契約時に、どのような条件をつければよいかは、タカアキ様はご存じなのですね?》
「ああ、白蛇神とは長い付き合いやからな。行動の制限の仕方は心得とる」
《では、迷う必要はないですね》
 ガジュルシンが微笑む。
『シン』の鱗を飲む気なんだ。


 俺の心が、ざわっとした。


 どちらも主人であり、眷族。


 それは、姫巫女との契約でも、そうだった。
 そして、それは……
 ガジュルシンにとって、つらい契約だったはずだ。


「待った」


 叫ぶと、部屋中の注目が俺に集まった。
 構わず俺は、ソファーの二人に向かって歩み寄り、忍者モードでタカアキに向け恭しく頭を下げた。
「鱗を飲むのは、俺ではいけませんか?」


《アーメット……?》
 ガジュルシンが、アーモンドのような目を見開き、俺を見ている。


「『シン』と意思疎通をはかれるよう、鱗を飲めと、お薦めになってるのでしょう? けれど、それだけでしたら、俺でもいいはずです。俺の体に憑依してもらって、俺の口を使って会話してもらえば済む問題ではありませんか?」
 威圧感を感じた。
 タカアキが、俺を見ているのだ。探るような瞳で。
 何か……
 背筋がぞくっとした。
 こいつ……こんな恐ろしい気配の奴だったっけ? 脳天気でナンパな軽い兄ちゃんだと思っていたんだが……
「そもじが鱗を飲んで、何の(メリット)があるのん?」
「俺が憑代になれるようになる……それが、得です」
 扇子からのぞかせる眼差しは冷たい……
「直に話せた方が、互いに楽やし……王子はんに憑けば、シンはそれはもうえげつない魔法が使えるようになる。王子はん本人が放つよりも、強い魔法が使えるんや。王子はんを押しのけて、そもじが憑代になって何か得があるん?」
「あります」
 俺は臆さぬよう、胸をはった。
 目の端で見ると、ガジュルシンが頭を振っていた。駄目だと、その目が訴えている。
 けど、俺は一歩も引く気はなかった。
 何もかも、ガジュルシンに背負わせるなんて嫌だ。
 俺にできる事であれば、俺が代わる。声を失っても、尚、戦おうとしているガジュルシンを、助けたいんだ。
「ガジュルシンの子供だもの、『シン』はむちゃくちゃ頭が良くって魔力も強いけど、体力ないでしょ? 俺に憑けば、『シン』は脆弱な精気を補える。これが得の第一」


 しばしの沈黙の後……
 三大魔法使いはあの嫌ぁな笑い方で笑い、カルヴェル様までもホホホと笑った。
 親父と姉貴は、俺をジッと見ている。気迫負けするんじゃないぞと目で応援している。
「その通りや。第一王子はんの子やから、精気がものすごく薄いんよ。まだ実体化できんのやけど、きっと、細いわ、小さいわ、すぐバテるわの、情けない体になると思うわ」
 笑いを殺しきれずに、三大魔法使いが低く笑い続けながら問う。
「第二の得は?」
「警護する俺にとっての得です……主人の安全の問題です。シルクドでガジュルシンはミズハ様に殺されかけました。相互主従関係にあったからです。『シン』を支配するのならいい。しかし、『支配される』のは危険を伴います」
 ふぅんという風に、タカアキが俺を見つめる。
「で、第三。戦力の分散という面から、ガジュルシンとシンを一体化しない方がいいと思います。ナラカ戦では、ガジュルシンはガジャクティンに触れてもらって、魔力の源となります。ほぼ動けないでしょう。けれど、俺なら自由に動けます。ガジュルシンやガジャクティンの盾となる事も、周囲の敵を倒す事もできます。俺を憑依体にした方が、絶対、いいと思います」
「……なるほどなあ。それでおしまい?」
「ちゃんとした理由は、今の三つです」
「ちゃんとしてないのって、なに?」
 クスクス笑っているタカアキ。俺は奴が望む通り、本音をぶちまけてやった。
「ガジュルシンは俺のモノだから、他の奴のものにされるのは、気に喰わない! ……です」


 三大魔法使いがソファーにつっぷし、大魔術師様が宙をグルグル回って、笑っている。
 そんなにおかしいかよ……あんたら、笑いすぎ……
 ガジュルシンは頬を赤く染めて口を閉ざし、ぶるぶると震えている。さっきから、俺だけに向けての心話がきてるんだよな……頭の中で、ずっと、ガジュルシンが《馬鹿、馬鹿、馬鹿》と怒鳴っている。
 親父と姉貴は、うんうんと頷いている。俺がタカアキに言い負かされなかったから、良しと思ってるようだ。ある意味……理解のある父と姉だぜ。
「そもじ、おもろい子だったんやなぁ。大人しい子かと思うてたのにな。気に入ったわ」
 大人しいわけじゃない。『影』として、主人の話には加わらないようにしていただけだ。
「ええよ。『シン』と契約させたげる」
《タカアキ様!》
 ガジュルシンが頭を横に振る。反対だ! と、その顔は言っていたが。
「聞かんよ? 忍者はんをシンの眷属にした方が合理的やもん。そもじの為だけやない、姫勇者一行全体のこと考えての判断や」
《ですが……》
「忍者はんを、麿のご先祖様が使ってきた『封印箱』みたいなものにする。そもじは、忍者はんに魔力を与えてシンを養い、忍者はんを通じてシンの力を引き出すんや。契約が切れる日まで、シンは忍者はんの中から勝手に出られん。宿主を殺すような阿呆な真似はせん。そもじがしっかりシンを支配しとけば、シンは忍者はんに悪さできん。何の危険もないんや」
 ガジュルシンが泣きそうな顔になる。ごめん。けど、わがままを通させてもらう。おまえが無事なら、俺がヤバくなってもきっと助けてくれる……そう信じてるから……俺が憑依体になる。
 タカアキがパチンと扇を閉じる。
「忍者はん、これから麿の言う言葉を、復唱して」
 あ。
「返事は?」
「はい、復唱します」
 ちょっと、びっくりした。
 ぶ厚い化粧とブカブカの神官服で誤魔化した上で、扇で顔を隠してたけど……
 痩せたなあ……
 ろくに食事してなさそうだし、あんま寝てなさそう。
 で、神官長や一族の(おさ)の役目を片付け、ミズハ様の子供の教育をしてたわけか……
 ぶっ倒れるんじゃないか、こいつ……


* * * * * *


 タカアキ→姫巫女は見た事ないけど、姫巫女がアジンエンデに憑依するところは見た。アジンエンデの肌が青白いほど白くなって、彼女ならば絶対に浮かべない、妖しいお色気たっぷりな顔となったのだ。
 今も、そんな感じ。
 目に見えない鱗を弟が飲み込んで、ほんの数秒で、入れ代わった。
 肌が気持ち悪いぐらい白くなったなあと思ったら、馬鹿弟が、やたら気障ったらしい、ナルシストっぽい仕草で、右手でうなじから頬を撫で、あっは~んって感じに首を傾げたのだ。
 きしょい……
 明らかに中身が違う。
 それから、ガジュルシンを見つめたのだ。この上ない幸福! ってな顔で。青の瞳を、うるませて。その口から、やけに、しっとりとした声が漏れた……
「美しい……」


 は?


 んでもって、踊るような? 空気の中を泳ぐような? タカアキのようなもったいつけた仕草で? ガジュルシンの前に跪き、その右手をとって接吻したのだ……
「あなた様のシンにございます、父上……」
 されているガジュルシンの方は、けげんそうな顔。
「清楚で可憐なお姿に、内に猛るは刃のごとき魔力……あなた様と初めて出会った日から、私は恋の虜となりました。父上……私はあなた様のしもべ。あなた様のモノとなれて、私は世界一幸せな白蛇にございます……」


 うわ! うわ! うわぁぁぁ!


 駄目! やっぱ、駄目!
 タカアキも姫巫女もこいつも……生理的に駄目! 白粉一族とは、私、絶対、相容れない!
 外見が馬鹿弟なだけに、ぶん殴りたい。蹴っとばしたい。ベッド投げつけて潰してやりたい。
 このままだと、殺人しちゃいそう……


 ガジュルシンはあっけにとられてて、されるがままだ。外見アーメットの青白い奴が、ガジュルシンの右手にスリスリと頬擦りしている……


「挨拶はそんぐらいで、ええやろ。シン。時間ないんや、王子はんと忍者はんに、うまく使ってもらうよう練習せな、」
「うるさい、タカアキ」
 キショいアーメットが、肩越しに振り返って三大魔法使いを睨む。
「今いい所なのだ、邪魔をするな。ああああ、父上……何となめらかな肌なのだ……」
 んでもって、又、右手への頬擦りを再開する。
 ガジュルシンは表情を強張らせて、固まっている。
 このまんま押し倒すんじゃないかってぐらい、熱っぽい顔で馬鹿がガジュルシンを見つめている。
 うぅぅむ。
 こいつ、うちの弟じゃなくって、ガジュルシン本人を憑代にしてたらどうしたんだろ?
 鏡を見て、『父上、お美しい』って、うっとりとなって己が身を抱き締める……とか? それはそれでキショ。
 と、突然、馬鹿弟が床にぶっ倒れた。小刻みにぶるぶる震えながら。
「今、何て言うた、シン?」
 ポーズだけ見ると、上から重しで潰された感じ? そんな感じでべちゃ〜と床に潰れた弟を、タカアキが右足で踏んずける。
「麿のことは『お(もう)様』とお呼びと躾けたやろ。頭の悪いお子様は、嫌いや」
『勇者の剣』の力を借りたら、アーメットの体をすっごく太い白いものがぐるぐる巻きにしているのが見えた。ジャポネのシメナワってヤツに似てる。タカアキの霊力で作った拘束帯のようだ。
「く……申し訳ございません……お父様……」
「あんま()にのるんやない、小蛇が。そもじの命は、麿が握っとるんや。おいたがすぎると、お仕置きするよ?」
 タカアキ……Mかと思ってたら、ドSかよ……てか、ジライそっくりね、気に喰わないわけだわ。
 神様よりも強いとか、どんだけ人間離れしてるんだろ。あのキショイのが弱っちいのかしら?
「うちの弟はどうなっちゃったの?」と、私。
「起きとるよ。さっきから『やめろ、キショい、黙れ』って叫んどるんやけど、シンが表に出さんよう押さえとるん。そういう事したらあかんって教えといたのに」
 アーメットが低い悲鳴をあげる。シメナワがぎゅっと締まったのだ。
「そもじが表に出とる時も、忍者はんがしゃべりたい時は口をお貸し。優先順位はあっちの方が上や。ええな?……シン、返事は?」
「は、い……お、父、様……」
「三大魔法使い様」
 アーメットをグリグリと踏んでいる白粉男に、ジライが尋ねる。
「愚息への傀儡(くぐつ)の術、解いた方がよろしゅうございますか?」
 ああ、そういや、そうか。エーネ戦の後、ジライがアーメットにそんな魔法をかけてたんだっけ。いつでも操れるように。
「そのまんまで、ええよ」
 タカアキがニッと笑う。
「シンが悪さしたら、体を奪って。先にかけてあった術やさかい、強制力が大きいし」
「承知」
 ああああ、そんな〜と泣き言を漏らす青白いアーメットを、タカアキが踏みまくる。
 何か……ちょっとだけ……
 すっきりしない……
 うちの馬鹿を踏んでいいのは、私とジライとお母様だけなのになあ。


 修行をするというガジュルシンとアーメトとタカアキを残し、私達は廊下に出た。面白いものを見たとカルヴェル様は上機嫌。ジライは無言。アーメットが白蛇の器になったこと、どう思ってるんだろ?
「ラーニャ様」
 シャオロンとばったり会った。いつも通りの、爽やか笑顔だ。けど……一人?
「大僧正候補達は?」
「サントーシュ様達は、インディラです。今日中には合流なさると思いますよ」
 ふ〜ん。別行動だったのかしら?
 と、そこへ。
「ラーニャ!」
 デカいのが、廊下の遠くからやって来る。ターバンも巻いてない。髪はボサボサ、服はドロドロ。傷だらけの顔も、泥にまみれている。見るからに汚らしい。
 そいつが、糸目をゆるませ、私へと駆けて来る。
 何やって来たのよ、あんた……って言いたくなる格好だ。
「良かった、ラーニャ!」
 う。
「来るな!」
 抱きつこうとしてきたので、右ストレートをお見舞いしてやった。
「ンな汚い格好で乙女に近寄るな、馬鹿!」
 床の上の義弟が、不満そうに私を見上げる。
……何か、臭い……
 ツーンとするような、すえたような、ムッとするような……生理的に駄目な匂い。
 あ、そうか、こいつ嗅覚がないから、自分がどんな匂いかわかんないわけか。
 もう……
「お風呂に入って来い! 話は後で聞いてあげるわ!」
 鼻をつまみながら私がそう言うと、ガジャクティンはきょとんとした顔をして、頬をボリボリ掻いた。
 五日やそこらで、よくも、まあ、そこまで汚れたもんだ。
 バッチい義弟を、シャオロンが立たせてあげる。シャオロン、優しいわ。私、近寄りたくない。
「うん、わかった、お風呂に入って来る」
「そうしなさい。その格好のまま、ガジュルシンの部屋行ったら、卒倒されちゃうわよ」
 そんなにひどい? って顔で私を見てから、ガジャクティンは微笑んだ。落ち着いた顔で、にっこりと、優しく、まるで………のように……
「ラーニャもたいへんな修行したんでしょ? すごいね、明るい魂がより輝いた感じ。ラーニャの綺麗な顔を見たら、元気がでたよ」


 言いたいことだけ言って、義弟がシャオロンと一緒に廊下の向こうへと消えて行く。
 私は……
 その場にたたずんでいた。
 何か……頬が熱い……


 何が『元気がでた』よ……
 馬鹿……
 次章はタイトル未定。ナラカとの決戦を前に、何とかシンと息を合わせたいアーメット。シンと同調する事によって見える世界は今までと異なって……

 明日から、ムーンライトノベルズで『ジライ十八番勝負』をアップし、その後『二人の十八番』、それからラーニャちゃんに戻って来る予定です。
+注意+
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