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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

新たな仲間と覚悟と愛と

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あふれる魔力! 新たな誕生!

 アーメットに案内され、僕とタカアキ様は兄様のベッドの側の椅子に腰かけた(タカアキ様は化粧無しの素顔に、下着姿の小袖だったけど、本人まったく気にしてなかった……)。
 兄様は上半身だけを起こして、僕等を迎えた。
 声をなくした兄様が、心話で僕等に挨拶をする。顔色はあまりよくないけど、いつも通り笑みは穏やかだ。
 胸が痛んだ。
 僧侶ナラカへの怒りが、又、新たになる。
 兄様が、そんな僕をジッと見つめている。
《ガジャクティン、神様との再契約について教えてもらいたい》
 う。きた。
 僕は深呼吸をし、考えに考えた末に決めた説明を口にしようとした。が、それよりも早く兄様の思念がすべりこんでくる。
《おまえの記憶を読ませてもらう》
 え?
 兄様がにっこりと微笑む。
《口で説明してもらうより、理解しやすいし、短い時間ですむもの。それに、何より……》
 兄様の笑みはとても穏やかだけど……目が笑ってない。睨むような鋭さがある。
《ごまかしができないからね……全部、見させてもらうよ、ガジャクティン……》
 あぁぁぁぁ……
 僕は隣に座るタカアキ様に助けを求めた。が、タカアキ様はあさっての方向を見つめて、扇子を閉じたり開いたりして遊んでいた……関わる気、ゼロだ。あんた、何の為について来たんだよ……
 寝台の横に立っているアーメットは、兄様の味方だ。助けを求めるだけ馬鹿げている。
 僕はひきつった笑顔を浮かべ、兄様にうなずきを返すしかなかった。


 最悪……
 兄様は声を失ったんで、心話で会話(コミュニケーション)するわけだけど……
 声帯を使って一声しゃべる間に、心話では百でも千でも万でも相手に伝えられてしまう。どれぐらいの情報量をいっぺんに流せるのかは、心話の術師に左右され……兄様は大魔術師級の魔力があるわけだから……


 怒りと罵倒と説教が、怒涛のように僕の頭に押し寄せた。
 僕は頭を抱えた。
 頭が割れそうだ。
 兄様は、僕限定で心話を送ってきてるんだろう。
 ガンガンと流れて来る兄様の感情は、怒りと嘆きと僕への愛情がゴチャゴチャになっていて、とりとめがない。何が言いたいんだかはっきりとは読み取れなかった。が、僕が嗅覚と味覚を捧げた事に、理性を失うほどに怒り狂っている事はよく伝わった。
「ごめんなさい! 兄様!」
 謝っても、むろん、兄様の感情の爆発は止まらない。次から次に流れ込んでくる兄様の心話が、僕の中をひっかき回してゆく。
「ガジュルシン……」
 アーメットの声。
 ちょっとだけ、僕の頭が楽になった。兄様の激しい感情の奔流が、少しだけ弱まった感じ。
 見れば、アーメットが兄様の肩を揺さぶっていた。
 兄様限定の精神安定剤アーメットが穏やかな精神状態で触れたんで、兄様の感情の昂ぶりが少し弱まったんだ。僕が頭を抱えて苦しそうなんで、アーメットがみかねたのだろう。
 兄様は僕とアーメットを順に見て、深い溜息をついた。
 ふっと、僕の中から兄様の感情が消える。
《本当に、おまえは馬鹿だ……》
 の、一言を残して。
 兄様は額に手をあて、うつむいた。
 顔色が白くなっている……
 僕のせいだ……
《おまえの選択は、僕には納得がいかない》
 兄様が横目で僕を見る。責めるように。
《だが、おまえはもう、家庭教師から逃げていた小さなガジャクティンではない……ラーニャや僕らを守る為、おまえが最善だと思って選んだ道がそれならば、仕方がない》
 兄様……?
《好きに生きればいい。僕がとやかく言う事ではない。おまえの生き方は、僕には認められないけれどもね》
 それって……
 見捨てるってこと……?
 うんざりしたから、兄弟の縁を切りたいって思った?
《……しかし、一つだけ約束して欲しい》
「なに?」
 僕は身を乗り出した。
 兄様は僕の方に向き直った。
《これ以上、何一つ、シャンカラ様にお渡ししない、と》
 え?
《たぶん、間違いない……シャンカラ様は、おまえの全てが欲しいんだよ。肉体も、魂も、霊力も、魔力も……全て……自分のものにしたいんだ。これからも奇跡の代償に、おまえの一部を望まれるだろう。申し出がどれほど魅惑的でも、その誘惑に決して応えるな。全てを持っていかれたら、おまえは『人』ではなくなってしまう》
 兄様がチラッとタカアキ様を見る。
 ジャポネの神官長は、何もない宙を見つめて、あいかわらず扇で遊んでいる。兄様の推測に対し、何も言う気は無いって態度。長くミズハ様を身に宿していたタカアキ様の目は、神の目に近い。シャンカラ様のお心も僕以上におわかりだろう。だが、他の神様のなさる事にあれこれ口をはさむのは、はしたないからと、沈黙を守っているのだ。
 おそらく、真実は、兄様の推測通りなのだろう。
《約束できるかい、ガジャクティン?》
 僕は頷きを返した。
「わかった。誘惑には応えない。もう何もシャンカラ様にお渡ししないよ」
《どんな場合においても、だよ》
 兄様が念を押す。
《僕が目の前で死んだとしても……仲間の誰が倒れたのだとしても……奇跡を願ってはいけない。おまえが旅立ってから、僕もシャーマン関係の本を読んで学んだ。世の理を壊すものほど、代償は大きくなる。死者の再生なんて歪んだ奇跡、特に駄目だ。一人の人間の再生に、一人の人間の全てを代償に求められかねない。ガジャクティン……おまえの犠牲の上に甦っても、誰も喜ばないよ。おまえが生き続けてくれる事こそが、逝った者にとっての喜びなんだ。絶対、忘れないで》
 兄様……
 そうか、そういう事もありうるんだ。
「約束する……だけど、」
 又、怒られるかもしれない。そう思ったけれど、僕は自分の考えを伝えた。
「僧侶ナラカを倒す前に、ラーニャもアーメットも死んじゃった場合だけ例外にして。『勇者の剣』の振るい手がいなくなったら、ナラカを倒す(すべ)が無くなるもの」
 兄様がきゅっと唇を噛む。僕は言葉を続けた。
「ナラカが暴走したら、今世は滅びかねない。ラーニャの見た未来の中じゃ、光や闇に包まれて消滅っての、けっこうあったみたいだし。勇者がいなくなって世界が滅びるのなら、どうせ、僕も死ぬもの。それなら、ラーニャかアーメットを生き返らせた方がマシ。三人全滅じゃなくって、一人は生き残れるんだから」
 兄様がキッ! と、僕を睨む。
《馬鹿》
 馬鹿は承知。でも、この件は譲る気はない。
 僕等はしばらく睨み合っていたけれど……
 やがて、兄様が唇をわななかせ、うつむいた。
《好きにしろ……そうするのが正しいと思うのなら、すればいい》
 兄様の顔が、ますます白くなる。
 僕はいたたまれない気分になってきた。


 それから、僕はインディラに向かう事を話した。シャンカラ様との親交を深めに行く。早く、使役できるようになる為だ。
《タカアキ様が弟に同行してくださるのですか?》
 僕と一緒にこの部屋に来たんだから、まあ、そう思うよね。けど、
「今の所その気はないなあ。分身やったらつけたげてもええけど、あんま役にたたんやろ。第三王子はんの神様がお暴れになったら、麿の分身、木っ端みたいに消えてしまうもの」
 タカアキ様は分身魔法は、あまり得意ではない。微弱な能力の分身しか作れないのだ。
「カルヴェルはんか、第一王子はんの分身が付き添う方がええよ。麿の霊視能力が欲しいゆうんなら、分身をつけたげてもええけど、おまけや思って」
《では……今日はどういったご用件でのご訪問なのですか?》
 首を傾げながら、兄様が問う。
 僕も何でか知らない。ジャポネに帰る前に、兄様に会っておきたいって言ってたけど……
「そもじに願いごとがあるんや」
 タカアキ様がパチンと扇を閉じ、扇の先端を兄様にぴたっと向ける。
「単刀直入に言う。欲しいんは、そもじの魔力や。身体の中でもてあましとる、あふれんばかりの魔力、麿にちょっと分けてくれへんやろか?」


* * * * * *


 僕の魔力……?
「これの為に使いたいんや」
 と、タカアキが右の掌を僕に向ける。けれども、そこには何もない。
 ガジャクティンが糸目を見開き、タカアキの掌の上をまじまじと見つめる。
 アーメットがいぶかしそうに、二人と僕を見渡している。アーメットにも見えないのか。霊視能力が無ければ見えない類いのもののようだ。
 今朝、分身のカルヴェル様から教えていただいた魔法を早速、使ってみる。所作のみで発動する、探知の魔法だ。
 呪言葉でくくらない分、発動にも制御にも余分な魔力がかかる感じだ。
 探知の魔法で感じられるものは、イメージだ。
 ガジャクティンの周囲に、水の塊があるのを感じる。
 タカアキの全身には、もやもやした霊体が山のようにくっついている。
 そんな漠然とした存在が、魔法で大まかに感知できる。
 けれども、タカアキには、余分なものがくっつきすぎていて、本体と不随している霊の集合体の別がつきづらい。探知の魔法では、その存在がよく『見えない』んだ。
 右の掌に何があるんだ?
「すごいなあ、これならどれが誰のかすぐわかる」
「そやろ? 一個、一個、色も形も中につまっとるもんも違う。間違いようがない」
 霊力のある二人が、二人にしか通じない会話をしている。
 僕の視線に気づいたタカアキが左手の扇子を広げ、顔を半ば隠す。


「麿の掌にな、そもじの卵があるんよ」


 僕の卵……?


「そもじとミズハの間のかぁいらしい卵や。中身はそもじの気そのもの。猛々しい魔力の塊。相当強い子が生まれると思うんよ。これ、孵したいんやけど、力、貸してくれへん、お父はん」


 僕の卵……
 思い出したくもないミズハ様との逢瀬の果ての卵……
 それがタカアキの掌にあるのか……


「卵を孵すには、魔力か霊力か精気がいる。いい卵ほど、大量に必要でな、父親の気が一番の好物なんや。好物をたくさんたくさん与えれば孵せると思うわ。魔法で成長を促進させて孵せば、自我らしいものを持った形で誕生させられるしな」
《孵してどうするんです?》
「契約を結ぶ」
 タカアキが、ああ、そうやったと続ける。
「育てるんにも、魔力ちょうだい。そもじには微々たる量やと思うから、失ってもあんま困らんはずや」
《その卵の子供を、タカアキ様の新たな神様にするんですか?》
「ああ。後よさげなの、幼蛇に三、卵に二、おるんで、ぜんぶと契約を結ぶ」
 六体の神と契約を結ぶ……?
 タカアキの霊力も魔力も凄まじいけれども、それはさすがに無理なんじゃないか? 体への負担が大きすぎる。それに、タカアキの霊力も魔力も、ミズハ様の憑代である事によって得ている『おこぼれ』だと、前に言っていた。ミズハ様を宿していない以上、どんどん減衰してゆくはずだ。
 僕の心中を察したのであろう、タカアキが微笑む。
「ミズハ、殺す為に働いてもらうんや。それまでもてばええ」
 相討ちで構わないと思っているのか……
 いや……ミズハ様さえ浄化できれば、もう後はどうでもいいのだろう。自分の命すらも。
 卵を孵すのを手伝うという事は、タカアキが神に食い殺されて消耗死するのを手伝うようなものだ。
 けれども……
 僕が断ったところで、タカアキの気持ちは変わらない。ミズハ様の子供達と契約を結び、ナラカ戦に向かうだろう。
 ならば……
 タカアキが思う存分、戦えるよう、僕の卵も孵すべきだ。
《僕は……何をすれば良いのでしょう?》
 タカアキはにっこりと微笑み、扇を閉じた。
「ありがとう。麿の右手の上に、右手かざしてくれればええ。後はこっちで勝手に吸う」
《どれぐらいの高さに?》
「そもじが、ええと思った高さで」
 あまり低すぎると卵を潰してしまわないか? と、一瞬、思った。が、卵は霊体だ、実体がないのだ。くだらない事を気にしてしまったと苦笑する。
 僕はタカアキの手に触れるか触れないかの高さに、右手をかざした。
 タカアキが呪文を詠唱する。
 弟が興味津々って顔で、僕等を見ている。
 ガジャクティンを卵誕生の立会人にしたくて、共に部屋に来たのだろう。霊力の無い僕には、タカアキの願いの真偽がわからない。『卵を孵す』という理由でもらった魔力を、他の事に使用されてもわからないのだ。弟を立ち会わせる事で嘘はついていない、証をたてたかったのだろう。
 右手がひっぱられた気がした。
 しかし、実際には、まったく動いていない。
 右の掌がむずむずする。
 魔力が()まれているのだろうか。
「うわぁ」
 ガジャクティンが顔を輝かせる。弟の目には素晴らしい光景が見えているようだ。
 アーメットは眉をしかめて、タカアキの掌を見ている。僕同様、彼の目には何も映っていないのだ。


 一瞬……
 光り輝く何かを感じた。
 目に見えたのか、探知で察したのか、定かではないけれども。


 ガジャクティンが、興奮した声をあげる。
「うわ! うわ! うわぁ〜! かわいい!」
 タカアキの右の掌を見つめる弟は、とろけんばかりの笑顔だ。
 卵が孵ったのだろうか?
 タカアキが、ふーっと息を吐き、集中を解く。
 その顔に会心の笑みがある事から察するに、満足のいく形で卵を孵せたのだろう。
「男の子ですね」
 弟の声がはずんでいる。そうか……生まれたのは牡なのか。
「さて……名前やな」
 タカアキは閉じた扇で、自分の頬をぴたぴたと叩く。
「いつもは卵の父親の名をそのまんま付けるんやけど……王子はんと一緒の時、この子に同じ名で呼びかけたら紛らわしいさかい……」
 思案をしていたのだろう、しばらく頬を叩いてから、タカアキは扇の先端を右の掌に向けた。
「ガジュ()


 は?


「……タカアキ様、嫌がってますよ、この子」
 弟が困ったような呆れたような顔で、三大魔法使いに話しかけている。
「わがままやなあ、ほなら、ガジュ丸」
 え?
「嫌みたいです……」
「もぉ。ガジュ助」
 えっと……
「もう少し格好のいい名前を付けてあげたら、いかがです?」
「めんどくさ。男の名前なんか、どうでもええのに」
 あ、本音がでた。
 タカアキは女性好きだ。純潔を失わない限りで、相当、遊んでいるという噂。
 対して、男性はあまり好きではない……というか、基本的に無関心なようだ。
「ガジュ太郎や。ガジュ太郎でええやろ? それにしとき」
 僕の子供だとわかるよう、僕の名前の一部を入れたいのだろう。でも、ガジュ男に、ガジュ丸に、ガジュ助に、ガジュ太郎では……
 ネーミング・センスなさすぎ……
《シンではいかがです? 僕の名前の一部です》


「あ」


「あ」


 弟とタカアキが、大きく目を見開く。
 タカアキの掌から、僕へと、視線を移す。
 二人とも、茫然とした顔だ。


 どうしたんだ……?


「兄様……名付けちゃったね……」
 ガジャクティンがいたわるように、僕を見ている。
 タカアキは、右手を額にあて、やれやれというように頭を振った。
「一番強そうな子やったのに……取られてしもたか……」


 取った……?
 もしかして、僕が……?


「覚えてるよね? タカアキ様が主さんに『ミズハ』って名前を与えて契約を結んだんだって。名を与えるのが、白蛇神との契約なんだ」
《しかし、ただ提案しただけで……契約をしようとしたわけでは……》
「もう遅い。そもじの心に浮かんだ名を、その子が受け入れてまったんやもん。その子は、そもじのものになったんや」


 えぇ〜!


《すみません!》
 僕はタカアキに謝った。そんなつもりはなかったのだが、人のものを奪ってしまったなんて……
 僕の目には何も見えないけれど、生まれたばかりの白蛇は僕にまとわりついているのだろう。二人とも、複雑な表情で僕を見ている。
《契約を白紙に戻す事はできませんか?》
「できるよ。しゃあけど、両者の合意が無いとあかんのやわ。その子……そもじのモノになる気まんまんなんやもん。最長七日は解除できんなあ」
 七日?
「契約の期間を、麿が死ぬか七日後までとして孵したんよ。まあ、七日やし……出しっぱなしにしても、飢えて主人を襲うことはないやろ。そもじが魔力をちゃぁんと与えれば、な」
 神が今世に存在する為には、人からの捧げものが必要だ。信仰心、魔力、霊力、精気、感情。
 偉大な神ほど多くの捧げものを欲し、偉大なる御力の行使を願う場合にも人から渡すものがなくてはいけない。
 タカアキは、ミズハ様を養う為に、自分の肉体を食べさせていた。後に、再生及び治癒魔法で元通りの体にしてもらえるわけだが……神との共生の中でも過酷な域に入る方法だろう。
「そもじに取られたんやから……よしにするわ」
 タカアキが、大きく溜息をつく。自我のない赤ん坊のまま孵せば良かったと、残念そうに呟きながら。
「立派に育てて、ナラカ戦に使ってちょうだい」
《と、おっしゃられましても……》
 僕には霊力がない。『シン』と名づけてしまったその子が見えないし、使役の仕方なんてさっぱりわからない。
「教育は麿がするわ」
《すみません……》
「心の中で思って。『僕とタカアキ様の合意の上で変更しない限り、シンの教育及び支配は全てタカアキ様にお任せする。タカアキ様の命令は、僕の命令に等しい』って」
 その通りにした。
「七日の間、その子はそもじの言う事、何でもきく。ええ手足になるよ。使い方は、もうちょっとその子が大きゅうなったら教えてあげる」
 タカアキが右手で、手招きをする。
「ほな……おいで、シン。半分にしたる」
 半分?
「半分はそもじの体の中に寝かせ、半分は連れてく。そもじから魔力もらって成長を促進させつつ、麿の手で立派な白蛇神となれるよう教育するわけや」
《分裂させるのですか?》
「二つの個体になるわけやない。半分にしても繋がっとるさかい、どっちも同じシンや」
 そういうものなのか……
「体の中に蛇がおると思うのは気色悪いかもしれんが、ただ魔力を喰らうだけや。そもじさんなら、たいして痛くない量を、な」
 タカアキは、再び自分の掌を見ている。そこに子蛇は戻ったのだろうか。
「シンがそもじのものになったのはシャクやけど、そもじにとっては良かったかもなあ」
《そうなのですか?》
「ああ。これからは、あふれかえる余計な魔力を、シンが喰らってくれるんやもん。それでシンは強うなり、そもじは体の負担が減る。吐いて倒れる事も減るやろ。ナラカ戦で生き延びられたら、契約を続行するのもええかもな。シンだけやのうて、五、六匹、身の内に飼ってしまえ。ちぃとは寿命が延びるやろ」
 え?
 どういう事かと問う前に、タカアキが話題を変える。
「王子はん、お願いが二つあるんやけど……」
《何でしょう?》
 白蛇を横取りしてしまったのだ、心の中はすまない気持ちでいっぱいだった。
「一つ目……蛇は好きやないと思うけど、あんま嫌わんといてくれる? そもじには見えんやろけど、その子、そもじの心に触れられるんよ。愛されてないっちゅうのは、子供にとってしんどい。できるだけ、かわいがってやって欲しい」
……そこにいるのは、父親の顔をした男だった。
《はい。わかりました》 
 正直、僕の子種から生まれた子供と聞いても、実感がわかない。
 だが、ミズハ様のお子様をお預かりするのだと思えば、抵抗はない。僕はミズハ様に借りをつくったまま、お返ししていないのだ。シンの成長を助けることでご恩を少しでも返せたら、と思う。
「で、二つ目」
 タカアキが笑う。不敵な笑みとでも言おうか。
「シンがのうなった分、他の子をきっちり育てて補うわ。魔力、余分にもらうで、王子はん。孵したい卵は後二つ。魂与えたい幼蛇は三や。孵すのにも成長促進にも、そもじの魔力を貰う事にするわ」
 僕に否はなかった。


「そもじの中で、その子、寝てるだけやさかい、何も悪させん。安心して一緒にいたげて」
 そう言って、タカアキはジャポネに戻った。神官長としての責務があるとのことだ。


 ガジャクティンも支度をすると言って、部屋に戻って行った。
 帰る前に、ガジャクティンは僕を抱きしめていった。優しい弟は、声を失った僕にいたく同情しているのだ。


 部屋に、僕とアーメットの二人だけが残った。
《……少し眠る》
 卵達に与えても、尚、魔力は尽きていない。だが、体は疲労している。魔力を他に移すだけで疲れてしまうなんて、よほど体調が悪いようだ。詠唱無しの魔法の練習も、し過ぎたかも。
「ゆっくり休めよ」
 布団を肩までかけてくれて、アーメットが寝台のそばの椅子に腰かける。
 ふと、アーメットはどう思っているのか気になった。
 僕の内に白蛇がいるなんて、気持ち悪くないだろうか?
 ミズハ様の事をアーメットは嫌っていたけれども、やはり不愉快なのだろうか?
 起きたら尋ねてみよう……そう思いながら、僕は瞼を閉じた。
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