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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

新たな仲間と覚悟と愛と

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愛ゆえに! この手で!

 夜が明け、ナラカ戦まであと六日となった。
 僕等姫勇者一行は、カルヴェル様の城に滞在している。
 といっても、皆、別行動だ。
 僕は昨日の夕方から今朝まで、睡眠時間を除き、ず〜と新たな守護神シャンカラ様と対話をしていた。
 ラーニャは大魔術師様と、修行中。何処で何をしているのかは知らないけど、カルヴェル様本人と一緒に行動してるんだ、過激な修行をしてると思う。ラーニャは負けず嫌いで、仲間思いだから、必死に強くなろうとしてるだろう。怪我しないといいけど。
 シャオロン様はインディラ僧侶二人ととも、今はペリシャだ。
 ジライとアジンエンデも居ない。今朝、大魔術師様(分身)から教えてもらったんだけど、昨晩のうちに、二人とも、それぞれ旅立ったのだそうだ。何処へ出かけたかは内緒じゃと、老魔術師様(分身)はニコニコ笑っていた。修行に行ったのだろうか? アジンエンデは赤毛の戦士アジャンに会いに行ったのかもしれないが。
 兄様は……昨日から自分用の部屋から出てこない。休んでいるんだ。声を失ったショックからは立ち直れたのだろうか? アーメットと一緒だから、落ち込んではいないと……思いたい。
 今日、僕は兄様の部屋を訪れる約束をしている。僕が神様とどんな契約を結んできたのか、説明するのだ。


 嗅覚と味覚を捧げて、シャンカラ様に守護神になっていただいたって言わなくっちゃいけないわけで……


 兄様に怒られる覚悟はできている。
 前に、異次元に籠って魔力修行をした僕を、兄様はむちゃくちゃに怒った。二年半ぐらい時の流れが違う所で過ごし、僕が老けてしまったからだ。
 僕としては……
 魔法が使えるようになれるんなら、多少の犠牲は構わないと思ってた。年をくっちゃったって、たった二年半だし、少年期から青年期に入るのならむしろ大歓迎な気持ちだった。肉体が鍛えられた方が、従者として働けるもの。
 でも、兄様は烈火のごとく怒ったんだ。


『人は人と触れ合い、年を重ね、共に老いてゆくものだ。他者と違う時間軸に生きる事がどれほど罪深く残酷なことか、おまえにはわかっていない!』


『成人の二年と少年期の二年では、人生における意味が違いすぎます。ガジャクティンは十四歳の子供だったんですよ! 子供時分にしか味わえぬ経験も、精神的成長もあったでしょうに……』


『どんな事があろうとも……今後、こんな勝手なことはするな。おまえは父上と母上の大切な息子で、僕の大事な弟だ。おまえが生命を大事にしないのなら、僕はおまえを許さない。おまえを弟と思うものか!』


 兄様は信仰心に篤い。不自然を厭う、インディラ教の教えに忠実なんだ。
 僕が身体を犠牲に奇跡を得たなんて知ったら……又、怒るだろう。
 兄弟の縁を切られてしまうかも。
 だとしても……
 僕は後悔しない。
 僕は勇者の従者として最善を尽くしたんだ。
 僕は強くなったんだ。まだシャンカラ様を制御できないけど……後六日のうちに、制御できるようになってみせるし!
 僕の選択は間違っていない!
 胸をはって言える!


 言えるんだけど……


「ちゃっちゃと第一王子はんの部屋へお行き。何で麿のもとに来るのん?」
 タカアキ様は筆を硯に置き、迷惑だ! って顔で僕を見つめる。
 ここ、タカアキ様用の部屋だよな……? と、一瞬、目を疑った。


 ノックしたら、扉が開いた。扉の前には誰もいない。魔法で開けたのかと思いつつ、部屋に入った。
 部屋の中には紙が散乱していた。ジャポネ独特の紙、和紙ってやつだ。短冊状のものが多い。呪言葉が記された大小の紙。そこにこめられている『念』も目に映った。
 そして……床の上に、部屋の住人は居た。正座してる。ジャポネ風の筆を使って、さらさらと呪符を書いているんだ。
 黒髪をうなじで束ねた、東国人、小袖一枚の姿。冬だけど、魔法のおかげでカルヴェル様のお城はポカポカあったかい。だからこその薄着だ。
 凄い霊圧を感じた。東国人の周りには無数の霊が蠢いており、肉体の五〜六倍の膨らみがある。ただ存在しているだけの霊が、百以上、群がっているんだ。姫巫女が産みつけた卵と、そこから孵った幼蛇。だけど、子供達は幼すぎて自我がなく、実体もない。霊体のまま、タカアキ様に絡まってその霊力を喰らうだけだ。
 霊力が戻ってからタカアキ様を初めて見た時、悲鳴をあげてしまった。絡まっている小蛇が二十以上、んでもって、体中に中身が見える卵がくっついてるんだもん。本人+卵+幼蛇の霊気がゴチャゴチャになっていて、しかも、眠っている大蛇(姫巫女)まで背中にのっけてるもんだから、もう……
 アジンエンデが、姫巫女をバケモノと呼んでいた理由がよくわかった。大蛇の姫巫女本人の霊気も怖いけど、それにおまけしてゴチャゴチャいっぱいくっついて膨らんでるんだもん。不気味。
 今、タカアキ様の内には姫巫女は居ない。けど、凄まじい霊の集合体である事に変わりはない。
 呪符を書いているのはタカアキ様に、違いない。こんなおっかない気配の人間が、他にいるわけないもの。
 けど……
 正直……
 誰……? って気分だった。
 化粧を落とした(ノーメイク)顔、初めて見た。いつも、キョウの貴族の男性らしく、白粉ぬりたくりで紅も差して顔をつくっていたのに。
 素顔は、何というか……
 若い。
 十代で成長が止まったって話、本当だって、実感した。ジャポネ人って若く見えるから、もうちょっと上なのかもしれないけど、僕の目には、十四、五歳に見える。
 本人が自分を『美しい』と言っていたのが、納得できる顔。いや、まあ、今までも、顔立ちいいなあと思ってたよ。でも、キョウ風の男性化粧って僕的には生理的嫌悪感があったもんで……
 ただ眉がないのがちょっと……。剃っちゃってるんだもん。
「お願いごとがありまして……」
 合わせから取り出した扇子を、タカアキ様はバッと広げ、顔を半ば隠された。
 うわ! 扇もすごい! 濃い霊気の塊だ。
 顔を扇子で隠すのは単なる癖かと思ったけど、霊的障壁の役目もあったんだ。扇子で顔を半ば隠しながら、タカアキ様が嫌そうに僕を見る。僕というより、僕と共にいらっしゃるお方を、だけど。
「……仲良うできんようやな」
「そのことでご助言いただきたく……」
 僕は深々とタカアキ様に、頭を下げた。
 今、僕と一緒に居るのは、水と風の化身。シャンカラ様の分身だ。僕の掌サイズの水たまりというか、うねうね動きまわる水の(まり)のような、そんな形に感じられる。
 ご本体は激しくうちつける雨と風そのもので、近づく全てを切り裂く怒れる存在だった。それに比べ、この化身は弱い存在だ。ご本体の万分の一の能力もない。
 なのに……
 制御できないんだ。
「昨日からずっと話しかけてるんですが、まったく応答がありません。無視なさってるんだか、僕の言葉が理解できないのかはわかりませんが……タカアキ様からご指導いただいた、霊の御し方をいろいろ試してみたんですが、どれも駄目で……」
 僕は溜息をついた。
 小さい頃は、シャンカラ様と話せたんだけどなあ。
 子供は直感的だからだろうか? 
 タカアキ様に言わせると、子供は余計な知識を頭につめてないから、霊的なものと自然に交われるのだそうだ。一方、人間の世界の常識で頭を硬くした大人は儀式とかの一定の手順を踏まないと、神様に触れあえない。
 僕は大人になってしまったという事か?
 シャンカラ様の分身は、僕につかず離れず、ふらふらと宙を舞っている。時々、気まぐれに風を起こして遊んでおられるけれど、僕からの求めはガン無視。水も風も光も雷も刃も、何一つ、形としてくれない。そのくせ、たまに、僕にくっついて、霊力をつまんでゆく。
 このままじゃ、主人じゃなくって、ただの餌じゃん。
 せっかく手に入れた力を全く利用できない今の状態では……恥ずかしくって、さすがに、兄様の前に顔を出せない。せめて今後、制御できるようになる見通しをたててからでないと。
 タカアキ様が僕から視線をそらす。
『他の神様の印、じろじろ見るのは失礼なんやで』って前におっしゃってたし、シャンカラ様とはあまり目を合わせたくない感じだ。
「最初に仲ようなれ、と教えたと思うけど?」
「え?」
「麿かてミズハと心通わせるまで、時間かかったんや。一朝一夕に神様と仲良うなれるわけないやろ」
「でも、昔はシャンカラ様と一緒に遊んで、」
「昔は昔。今は今や。契約前とはあらゆるもんが、異なってる。新たな絆をつくっていかなあかんよ」
 僕等の関係は、ゼロに戻っているということか……
「あのなあ、王子はん」
 タカアキ様が、ふぅと息を吐く。
「少しは頭を働かせて欲しいわ。わかりやすく例えてあげる。そもじは雇用主で、そもじの神様は雇われたサムライやとする。そもじは払うもの払ってるさかい、命令する権利はある。それは正しい。そやけどなあ」
 タカアキ様が横目で、チロッと僕を見る。
「屋敷の奥の奥に居るそもじの声が、庭の端に居るサムライに聞こえるわけないやろ?」
「え、でも、シャンカラ様の分身はすぐそこに」
「そやから、例え話や言うてるやないの。頭の悪いお子様やな。途中で口はさまんと、最後まで聞いてから何ぞ言いたい事があったらお言い」
 う。
「……すみません」
「近くに居ても、そもじの声が小さければ相手には伝わらんし。相手の知らん言葉を使うたら、話は通じんし。相手が子供やったら噛んで含めるように言わなあかんよな? 相手を見て、まずは話し方を工夫するんや」
 はあ、確かに。
「命令する方がきちんと命令しないのも、悪い」
 タカアキ様が扇を持ってない方の右手で、筆を手にとる。
「そもじが神様に『線を引け』と命令したとする」
 うん。
「そもじは右手に筆を持ち、紙の前に座ってる。筆で紙に線を書いてもらうつもりで命令したわけや」
 うん。
「そやけど、神様に暗黙の了解を期待したらあかん。『線を引け』と命じられたら、屋敷中の襖に箒で線を引くかもしれんし、何軒も先の家にある書物に線を書くやもしれんし、南の外れの外れの海を真っ二つにして線を引いたと主張するかもしれん。きちんと命令せんと、使役神は勝手に解釈して動いてしまうもんなんや」
 げっ。
「そうさせないよう、具体的に何をさせるか、主人がきっちり命じるんや。口にして言葉の呪で縛るのが確実やけど、頭の中でイメージするんでも構わん」
 具体的に……?
 タカアキ様がふふんと笑う。
「神様に『風を起こしてください』とか頼んだんやろ? そうやなくって『今から何秒後、どの方角から、どこへ向けて、頬に微かに感じる程度の弱い微風を何秒の間、送れ』と命じるもんなんや」
「なるほど……」
「神様と仲良うおなり。どんな事が好きで、どんな事をしたがる神様なんか身をもって知るんや。神様の癖がわからんと、命令のしようもない。使役できんよ?」
「……はい」
 タカアキ様はパチンと扇を閉じられた。
「そもじ、インディラにお行き」
「え?」
「あっちが、そもじの神様の支配領域やもん。()の神様と触れ合うのが一番や。そもじがカルヴェルはんの城におったら、神様も、いろんな制約つけられるさかい」
「化身じゃなくって、本体と触れ合って来いということですか?」
「どっちでもええ。この城では神様が借りてきた猫になってしまうから、個性を知りづらいっちゅうだけや。時間ある時ならここでじっくりとでもええけど、後六日やろ? 悠長に構えておられんと思うわ」
「……わかりました」
「油断するんやないよ。素に戻った神様は、ほんまに怖いで~ 本拠地では、神様の力はえらく強うなるし。そもじの神様、かなり乱暴なお方やさかい、甘えるつもりで、そもじの体、切り裂くやもしれんなぁ」
 うぅぅ。
「そうならないよう、僕とどう接するか、具体的にこっちから命令しておくわけですね?」
「そうや。しゃぁけど、口のきき方には、気をつけるんやで。そもじは主人やけど、あっちの方が計り知れないほどお強いんや。敬意をもって接っさなあかんよ。神様、怒らせたら、『死』の一歩手前までの躾をされるかもしれんよ」
 うぅぅ。
「カルヴェルはんに助力頼んで、守護結界とか張ってもらった方がええやろな。大怪我せん為には」
 水の塊にしか見えない、シャンカラ様の化身が、僕の体を包むように飛び回っている。僕等の会話、わかってるのかなあ? インディラに行くって知って喜んでるのかな?
 タカアキ様が、又、扇子を広げる。
「そもじ、これから第一王子はんの所、行く?」
「はい。そのつもりです」
「ふぅん」
 筆を置き、タカアキ様が優美な所作で立ち上がる。
「一緒してええ?」
「はい」
 味方してくれるのかな? だったら、ありがたいけど。
 て……
 ちょっと待って!
「タカアキ様、服を着て下さい!」
 小袖一枚じゃん! それ、ジャポネ貴族の肌着でしょ?
「それに、お顔! そのままで良いんですか?」
「ええやん……外に出るわけやないし、おなごはんが居るわけでもなし」
 廊下に向かいかけていたタカアキ様が、振り返る。うるさそうに僕を見る。
「それに着替えも化粧道具もないんよ。化粧落としは、カルヴェルはんの借りたけどな」
「物質転送で持ってくればいいじゃないですか」
「麿の屋敷の中の物は、運べんのや」
 え?
「屋敷にも別邸にもいろいろ危ないモノを置いてあるさかい、結界はって、物質転送魔法を無効化しとるんや。盗まれたら困るモノ多いし、破かれたら困る封印、多いからな」
 そうか。
 だから、僧侶ナラカとの戦いの時、『破魔の強弓』を手許に呼び寄せなかったのか。
「一回、国に帰られたらいかがです?」
「第一王子はんに()うたら、帰るわ」
 タカアキ様が、重く溜息をつく。
「あんま帰りたくないんやけどな」
 え?
「キョウの守護神が消えたんや。あっちも大混乱やろ。お(たあ)様の実家のご本体の方もどうなっとるかわからんし……分身じゃすませられん仕事が多そうや」
 そうか……ミカドの神官長だもんな。身軽な立場じゃないんだ。
「まあ、ミズハを殺すに勝る仕事はないしな。なるべくはよう戻る。雑務は、適当に一族の者にふってくるわ」
 え?
 ミズハ様を……殺す?
 取り戻すのではなくて?
 何で……?
「何、まぬけな顔しとるの?」
 扇子で顔を半ば隠したタカアキ様が目を細める。微笑んでいるかのように。
「ミズハは殺すよ? 次、()うたらな……麿が浄化してあげるわ」


 浄化……
 そうか……
 大魔王に飲み込まれたんだものな。黒の気に満ちた大魔王の支配下に置かれてるんだ、その影響を多大に受けてしまうだろう。
 神ではなく、魔に堕とされてしまうんだ。
 でも……
「でも、殺さなくても、魔の穢れだけを祓えば……」
「無理やろ」
 あっさりと、タカアキ様が答える。
「取り込まれてすぐやったら、どうにかできたかもしれんが……時間が経ちすぎた。もう大魔王の気に染まりきってるはずや。あの阿呆、高位魔族の気、大好物やしな。ご馳走が目の前にぶら下がってたら、我慢できず、食べてしまう。浅はかな女やし」
 タカアキ様は、静かに微笑まれている。
「ずぅっと決めてたんや……昔からな……ミズハがミズハやのうなったら、麿がこの手で、今世から消してやろうてな……」


 殺すのか……
 四つの時から、体内に棲ませていた神様を……
 ミズハ様の境遇に同情し、解放してやろうとしていた方なのに……
 自分の体を好きに使わせ、あらゆるわがままを聞き入れていたのに……


「あの、そうして欲しいわけじゃ、むろん、ありませんが……」
 僕はためらいながら、尋ねる。
「ミズハ様が魔に堕ちたのなら……共に堕ちようとか……思いません?」
「思わん」
 迷いなく、タカアキ様が答える。
「ミズハはな……美しいものが大好きな白蛇さんなんや。みっともない姿を晒してるのは嫌やろし、麿が穢れるのはもっと嫌がるはずや。ほんまの、ミズハならな……。魔に堕ちた頭では、違う事を言うかもしれんが……麿にとってのミズハは、阿呆な神様や。魔族やない」
「だけど」
 僕は一歩進み出た。
「会ってみなければ、わからないと思います」
 僕は拳を握り締めた。
「もしかしたら、奇跡的に穢されてないかもしれないし……ミズハ様の魂はそのままかもしれない。今からあきらめるのは早いと思います。『殺さなきゃいけない』と決め付けるのは反対です。何もかも、もう駄目だってはっきりわかってから、それからどうするか決めるべきじゃないでしょうか?」
 タカアキ様は目を細めて僕を見て……
 それから、ホホホと、あの嫌ぁ~な声で笑われた。
「ほんま、ええ子やな。姫勇者はんも、そもじも。ミズハ、大嫌いやろに」
 う。
 まあ、確かに好きではないというか……苦手だけど。
「そもじの気持ちだけ受け取っておくわ」
 タカアキ様が、僕へと微笑みかけてくる。
 言外に、考えを改める気はないと、言っている。
 何か……やりきれない気分。
「そうや。第一王子はんに会う前に、そもじに頼みたいことあるんやけど」
 え?
「はい、何でしょう?」
 何でも言って欲しい。僕にできる事なら力になりたい。
 そう思ったんだけど……
手水(ちょうず)の使い方、教えてくれん?」


 は?


 手水って寺院とか神社にある手を清める所……の事じゃなくて……もしかして……
 扇子で顔を半ば隠しながら、タカアキ様が言葉を続ける。
「昔は使っとったんやけど、ミズハと暮らすようになってから、まったく行かんようになってしもてな、勝手がわからんのや」
 やっぱ、そっち………?
「あそこ、えらい臭くってかなわんよな。あ、そもじ、嗅覚ないんから平気か。そうか、一時的に嗅覚、封印すればええんやな。で、便器なんやけど」
 タカアキ様が、僕の顔を覗きこんでこられる。
「着物を着たまんま使うと汚しそうやし、全部脱ぐにも脱衣所も(カゴ)もないし、どうやるのん? そもじ、一回、実地でやってみてくれん?」


 実地って……
 トイレの使い方がわからないとか、どんだけ浮世離れしてんだよ!
 そいういやキヨズミさんが言ってたな、タカアキ様は『風呂に入らんし、厠も行かん』って。体の穢れは、全部、主さんが食べちゃうからって。
 二十二年間、食事もしてないって言ってたし……これから食べようとしても胃が受け付けるのか疑問だ……昨晩から何も食べてないんじゃないか?
 暑さ、寒さにも弱いって言ってたよな……


 むぅ……
 三大魔法使いで神霊関係にはお詳しいけど、タカアキ様は日常生活無能力者だ……
 誰かが面倒をみてあげなきゃ、生きていけなさそう……
 早く、部下達のいるジャポネに戻った方がいいと思う……
+注意+
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