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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

僧侶ナラカの望み

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大魔王を倒す! それぞれの戦い!

「姫勇者はん……かんにんな」
 ナラカを睨みながら、タカアキが言う。
「そもじの義弟を窒息死させようとしたんは、ミズハや。そこのクサレ僧侶に命令されてな」
「……あんたが謝るこっちゃないわ」
 私もナラカを睨みながら、タカアキに言う。
「あの白粉ブス、男を襲うのが趣味みたいだけど、わけなく獲物をぶっ殺すほどには悪じゃないもん。やりたくないって、抵抗してくれたでしょう。だから、全然、気にしてないし、これからも気にしない。使役されるものが悪いんじゃない。悪いのは動かす奴よ」
「ありがとう……そもじ、ええ女やわ、ほんま」
 タカアキが、胸元から扇子を取り出す。
「本気で惚れてしまいそうやわ」
「ふざけんじゃないわよ、白粉ナンパ男! これから、奥さんを取り戻すんでしょ?」
「ああ」
 タカアキが、バッと扇を広げる。
「女房取り戻すまで、従者にしてくれはりますか、姫勇者はん?」
「いいわよ」
「ありがとう」
「取り戻したら、即キョウに連れ帰って。んでもって、二人とも白粉まみれの顔を、私の前に二度と出さない事。私、あんたらが虫唾が走るほどに嫌いだから」
 タカアキが、微かに口元を緩める。ずっと怒りまくっていた顔が、ほんの少し穏やかなものとなる。
「つれないなあ……麿ほどの男に口説かれとるのに」
 私とタカアキ。
 それに、シャオロンとジライ、アジンエンデとイムラン様が、ナラカへとじりじりと迫る。
「第一王子はんとミズハとの契約は、さっき断たせてもろぅた」
 タカアキが静かに言う。
「ミズハと王子はんは、相互主従関係やったろ? さっきな、血の縁で従者である王子はんを殺そうとしたんよ。そやけど、もうできん。王子はんが結界内にある限り、ミズハには手だしできん」
「そう。なら、いいけど……あんたは?」
「ん?」
「あんた、白粉女の憑依体だったんだもん。操られたりしない?」
「それはない。ミズハはお(たあ)様の一族の者に手だしできん。そういう契約になっとる」
 苦々しい顔でタカアキが言う。タカアキは、神を騙して使役している一族に怒っていたのだ。で、契約を無効にして白蛇神を山に帰そうとしたんだけど、姫巫女本人が嫌がったのだ。タカアキの寿命がつきるまでそばに居たいと言って。
「食われたりもしない?」
「愛情行為としては、ありえんな。今のミズハの夫は、あんクサレ僧侶やからな」
 なるほど。今、姫巫女を支配してるのはナラカだから、ナラカが夫にあたるのか。まあ、大魔王は素直に食べられたりしないだろうし、食べたりしたら魔の穢れがついてまずい事になるんだろうな。
 まったく、もう……熱々バカップルをひき裂くとか……実に悪役らしいじゃないの、大魔王。
 ナラカは私達を見渡し、楽しそうに笑っている。
「やはり、惜しい……」
 ナラカのつぶやき。
 私は首を傾げた。
「なにが?」
 ナラカは肩をすくめ、又、左の掌のものに唇をつける。あ〜あ、もう……バカ夫を刺激しまくり。
「第一王子は失神しちゃたし、タカアキ様には『破魔の強弓』がありません。第三王子もオタオタしちゃって私に魔法かけるの忘れてるし、仕切り直した方が良さそうです」
 ガジュルシンが倒れたのは、あんたのせいでしょうが!
 て、第三王子?
 ガジャクティン?
 あ? 
 あれ?
 振り向けば、たしかに、背後の一団の中に巨体が。サントーシュ様に治療されているガジュルシンを抱いているのは、義弟だわ。
 何時の間に合流したの? 
 むぅ。
 そういえば、窒息死しそうなガジュルシンを抱いていたのは、ガジャクティンだったか。
 私がナラカに斬りかかってた間に、召喚の指輪で来たのかしら?
「麿は、弓が無くて構わんわ」
 タカアキの声。
 視線を戻したら、姫巫女の化粧のまま、タカアキがすっごい顔でナラカを睨んでた。
「今すぐ、そもじと命のやりとりしたい」
「せっかちな方ですねえ」
 ナラカは、快活な声で笑った。
「でも、嫌です。せっかく珍しい玩具を手に入れたんです、上手に使えるようになってから、あなたとは戦いたい」
「玩具やと?」
「ええ、玩具です」
 朗らかな顔で笑いながら、僧侶ナラカは左手を口へと押し当てる。そして、
「これがあれば、新しい遊びができます。絶対手放しませんよ」
 掌の中のモノを口の中へと、入れたのだ。


 え?


 ナラカの喉が動く。


 飲み込んじゃった……?
 姫巫女を封印した木箱を……


 嘘!


* * * * * *


 ナラカめ。
 昔から、わし同様、人をからかうのが好きな奴じゃったが……


 大魔王となって、磨きがかかったようじゃな。


 シルクドの砂漠に、ありえない光景が広がっている。
 天は全て太陽を覆う暗雲に包まれ、砂へと豪雨が降り注いでおる。
 邪を祓う聖水じゃ。
 それが激しい雨となって、大量に降っておる。
 そして、途切れることのない雷。ナラカ本体を狙っておる。


 信奉神をナラカに呑まれた、タカアキの怒りじゃ。
 感情のままに、水神から頂戴した力を振るっておる。
 実に人間離れした力。
 三大魔法使いというよりは、神そのもののような。


 雨は、浄化目的だけのものではない。
 大魔王封じじゃ。
 魔族となったナラカは、本来の能力+魔の力で、底知れぬほどに気が大きい不気味な存在となっている。
 そこに存在するだけで、人間を圧する凄まじい気を常に放っているのじゃ。
 そのナラカの気を、雨が弱めている。
 聖なる雨によって、ナラカの禍々しさが緩和されているわけじゃ。
 雨に打たれる者は、本能的な恐怖によって身をすくませる事なく、ナラカに戦いを挑める。
 ラーニャに、タカアキ、シャオロンに、ジライに、アジンエンデに、インディラの武闘僧。
 人数分だけ、ナラカは分身を生み出しておる。
 本体とは異なり、分身は雨にあたれぬようじゃ。濡れれば浄化されてしまうのじゃろう。雨をはじく薄い膜のような結界を全身にはりながら、分身のナラカはそれぞれの戦士達の相手をしている。
 余裕の笑みで。
 使っているのは、魔力と体術だけじゃ。闇の力は雨に封じられておるのだろうが、無くとも困らぬようだ。
 ナラカと従者達では、戦闘力に差がありすぎる。
 皆、人間の戦士としては最高位の実力のある者達ばかりなのだが……
 反応速度がまるで違うのだ。人間が一つ動く間に。大魔王となったナラカは五も動く……それほどの開きがある。
 ラーニャすら、今はナラカの敵ではない。
 先ほどの、『勇者の剣』との熱狂(フィーバー)状態は去っている。
 死にかけていたガジュルシンを見て、ラーニャが動揺してしまったせいじゃ。
『勇者の剣』が拗ねているわけではない。
 ラーニャの方がいろいろ考えすぎ、闘気を散らせてしまったのだ。
 正義と怒りのままに、剣と一体化せねばならぬというのに。


 はたから、しばらく戦闘を見て確信した。
 今のラーニャとて、アブーサレムなみの大魔王なら倒せる。
 だが、ナラカは無理じゃ。
 斬れん。
 ナラカ討伐後の、呪の心配など不要じゃ。
 ラーニャでは、ナラカに勝てぬ。


 今は戦うべきではない。


 わしは魔力を高め、呪文を詠唱した。
 地を称える祝いの言葉に近い。
 神には、神を。
 人間の分際で、神の御力を制そうなどとはわしは思わぬ。


 わしの求めに、この地を統べるものが応える。


 わしの魔力を吸収し、意志の力を今世にもたらす。


 頭上の雲が散り、雨がやみ、砂の大地が揺れ始める。


 大いなるものの怒りだ。


 邪悪なる大魔王と、東国の女神の寵愛を受けた神に近い男。
 自分の領域における両者の勝手な戦いを、この地の神がお怒りなのだ。
 砂漠の守護者……古えの神のお一人だ。後代の宗教の台頭によって、街にはこの神の信仰は残っていない。だが、砂漠を渡る者は、常にこの神と共にあり、神に加護を祈る。無事に目的地へ行けるように、と。砂漠を渡る者が消えぬ限り、この神への信仰が今世から消滅する事はない。
 わしは、神の力がこの場に具現化しやすいよう、場をつくっている。ほんの少し御力をお貸しし、怒りが形となるのをお助けしているのだ。


《七日後》


 砂漠にある者全てに神意が伝わり、地の揺れがピタリと止まる。


『七日後』。
 それだけのお告げ。
 じゃが、神が何をお望みなのかは、その場にいた者、全員に伝わったはずじゃ。


 戦いたくば、七日後にせよ。七日後ならば、この地での戦いを大目に見る。


 或いは、七日よりも前に、この地で戦うのならば、神の力をもって罪深き者に制裁を加える。


 さもなくば、七日よりも前に、この地にあるな。去れ、だ。


 ナラカの視線を感じた。
 わしらの間には、かなりな距離が開いている。ナラカ本体など、わしの目には小指の先の大きさにしか映らん。
 じゃが、わしを見ているのを感じた。
 悪戯っぽい眼差し。
 共犯者への気安さと言おうか。
 この地の神を仲裁役に担ぎ出したのはわしじゃ、と気づいておるのだ。
 わしが勇者一行を戦わせたくないのと同様、ナラカも今は戦いたくない。
 このまま戦えば自分が必ず勝利してしまう、それではつまらぬと思うておるのだ。
 長いつきあいゆえ、ナラカの考えは手に取るようにわかる。
 ナラカは本気で『勇者の剣』を滅する気ではある。
 だが、それでも、目的を成し遂げる為にこっそりと……などとはやらぬ。
 誇り(プライド)が高く遊び好きのナラカは、伝説を望んでおるのだ。
 かつてないほどの激しい、大魔王と勇者達との戦い。
 目立ちたがりの、あの男らしい願望。
 そして……
 宗教家らしい運命論。
 自分の主張が正しければ、世界が自分を生かすだろう。
 姫勇者ラーニャが勝つのなら、自分の正義を世界が必要としていない証。消滅しよう。
 どちらでも良い……
 そう思うておるのだろう。


「この地の神に敬意を表し、七日の猶予をあげましょう。その間、あなた方にも、『勇者の剣』にも手だしはしません。七日後の決戦に備え、力をつけておく事ですね」


 尚もナラカに攻撃しようとしていた東国の男を、わしが呪で封じた。動きを拘束し、魔力を封印する。ナラカしか見とらんから、隙だらけじゃった。普段のこの男ならば、易々とは拘束されまい。
 ミカドの神官長は、ろくに動けぬ体で強引に動こうとして、砂の上に倒れた。そのまま、わしを睨む。眼でわしを殺そうとするかのようなきつい眼差しで。
 白蛇神を奪われ、三大魔法使い殿は、完全に逆上しておる。ナラカと戦い続ければ、この地の神の制裁をくらうとわかっているのか、いないのか。
 愛ゆえに、狂う。
 昔、ランツは最愛の妻を失って狂い、ナラカも愛ゆえに魔へ堕ちた。
 愛ほど、恐ろしく、愚かしく、気味が悪いものはない……
 狂える者が羨ましくはあるが。


「あんたこそ首を洗って待ってなさい。七日の間に私、はかりしれないほど強くなってやるから」


 姫勇者ラーニャが、言いきる。
 強くなる為の手立てなど、絶対、用意しておるまいに。
 そう言い切ってしまうのが、彼女の強さだ。
 理屈ではない。
 意地と根性と素直さで、困難を乗り切ってゆく強さ。
 それが、彼女の美しさなのだ。


 ナラカが次元扉で何処ぞへ渡ってゆくと共に、幾体かいたあやつの分身も消える。


 ガジュルシンは意識を失ったままではあるが、もはや命に別状は無い。勇者側の怪我人一名、死者ゼロ、奪われた味方一名。


 姫勇者と大魔王ナラカとの初戦は、引き分けという形となった。が、負けも同然の結果に終わった。
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