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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

砂の国にて

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その奥に待つ者! 満ちる瘴気!

 明け方、男どもと合流する前に、あっちの天幕の中を剣に頼んで覗いた。
 色ボケしてる二人は、何してるかわかんないから。ガジュルシンはさほどでもないんだけど、うちのバカが(さか)ってるっぽいだもん。機会があれば、ベタベタベタベタ恋人にくっついて、許してもらえるところまで手を出してるようなのだ。ったく、姉として、恥ずかしい。
 まあ……敵地ど真ん中で……魔族の襲撃がいつあるかわかんない状態で……しかも、シャオロンと同じ天幕の中なんだ。
 何かやってるはずはないと、思ったわ。
 けど、一応、調べておこうと思ったのよ……
 調べといて良かった!


「この馬鹿」
 移動魔法で現れるなり、私は拳骨を弟に振り下ろした。
 弟が、ぐっと低くうめく。
「あね……き?」
 寝台のアーメットが顔をしかめて、私を見上げる。
「……そこで何してるわけ、あんた?」
「添い寝だよ」
 頭をおさえながら、弟が体を起こす。
「くっついてると、気をやれるみたいだし……ガジュルシンが安心するからさ」
 気ぃ? 
 嘘ばっか。
 あんたがくっつきたかったんでしょーが!
 寝てるガジュルシンにチュッチュッとかサワサワとか、もう……
 ハズい奴!
 何処の世界に、王子様に添い寝をする召使がいる!
 寝台から降りろと手で合図を送ると、弟は、しぶしぶ従った。召使の服は着てるか、よかった。
 横で私らが騒いだのに、ガジュルシンは、まだ寝てる。精神的にも肉体的にも、疲れてるから、眠りが深いみたい。
 シャオロンは、もうしっかり起きあがって、移動魔法で現れた私やアジンエンデに会釈してくれた。
 うぅぅ……
 ごめんなさい、うちの弟がバカで……熱々な二人と一緒じゃ、きっと居づらかっただろうな……ちゃんと眠れたのかしら?
「こっちにジライ、来てない?」
 私の問いに、アーメットが答える。
「親父は情報収集中。明け方には戻るって言ってたから、そろそろ姿をみせるよ」
「情報収集?」
 砂漠のど真ん中で?
「今、防音効果のある結界、張ってる?」
 アーメットに聞かれたから、張ってると答えた。剣がやってくれてる。
「『草』……つまり、潜入潜伏活動用の忍者と接触してるんだよ。ペリシャ人として暮らしている、手下が居るんだ」
 へ〜
「で、そっちは何の用?」
 ジライがいる時のがいいけど、いつ何があるかわかんないんだ。話しとこう。
 ナラカに会ってきたと言ったら、ちょっと待ってと断ってからアーメットがガジュルシンの体を強弱をつけて揺らし始めた。
 じきにガジュルシンが、薄目を開く。
「アーメット……?」
「姉貴が話があるんだって。起こすぞ」
 その上体をそっと抱え起こして寝台に座らせ、寒くないようにササッと上着を羽織らせた上で、寝崩れないよう胸と背を支えてやる私の弟……ニコニコしてやがる。
 主人をよく知った召使というか、過保護というか、イチャイチャというか……
 何か、もう……面倒くさくなった。何か言うのもバカバカしい……あんたら、もう好きにやって……


 寝起きがあんまりよくないガジュルシンはボーッとしていたけれど、ナラカがらみなんで、話は真面目に聞いてたようだ。
「大伯父が何か誘ってきたら、それが何であれのるということ……?」
「そうなると思う」
「ふぅん……」
 ガジュルシンは額に手をあて、目を閉じ、動かなくなった。思案してるのか、眠ったのか、微妙な感じ……
「ペリシャ人達の見てる前で応じる事が重要なのでしょうね」
 と、シャオロン。
「勇者の使命は、穢れたものを祓うこと。その過程で、巻き込まれ、自分達の意志に関わりなく別所に飛ばされてしまったのだとしても、非はありませんから」
 やっぱ、イスファンまで飛ばしてくれるってことなのかなあ、あいつの話。
 具体的に何をどうするとは言わなかったけど。
「……利用できるものは、何でも利用する」
 あ、ガジュルシン、起きてた。
「四天王がイスファンに居ると言うのなら、退治すればいい……で、ラーニャ、カルヴェル様とは連絡をとったの?」
「まだ」
「心話で僕から話すよ」
 あくびをしながらガジュルシンが言う。
「フォーレンを倒したら、君に、『今世の浄化』として何をするつもりか説明するって言ったんだろ? そのまま、僕等と戦う気かもしれない。カルヴェル様の御力を借りられるものならお借りしたいし、ガジャクティンとも連絡をとってもらいたい」
「うん」
 ガジャクティン、もうタカアキの所での修行は終わったのかしら?
 神様と再契約中? それとも、まだジャポネ?
 順調だといいけど。
「ミズハ様にも召喚の心づもりを頼んでおく。ナラカ戦となったら、遠慮なく、御力を借りるつもりだから」
「そうね」
 いけすかない女だけど、神様なんだし、居ないよりは居た方がいいわよね。
「借りられる力は全て借りるのだろう?」
 アジンエンデが首を傾げる。
「なら、舅殿にも連絡をとれ。分身ぐらいは寄越してくれると思う」
 あら。
「南の戦いに巻き込んでもいいの?」
「ケルティの上皇だとバレねばいいし、バレたところで分身なら言い逃れできるさ」
 そうかなあ……
「カルヴェル様と行動を共にしてもらうという手もあるな。大魔術師様のご威光をもってすれば、多くの国は黙るだろう」
 それは、そうかも。
 何か凄い事になりそうだ……と、思いながら、私は仲間達を見渡した。


* * * * * *


 親父の反応は予想通りだった。
 戻って来た親父に、姉貴から聞いた話を伝えても『ふぅん』てなもんだった。
 自分やお母様やナーダ父さんの夜の事情のせいで、隣国との関係がこじれてしまったんだって知っても特に感想がないのだ。
 お母様や姉貴が侮辱され、その権威が脅かされるようもんなら、怒って行動を起こすだろうが。


 まあ……
 偽装結婚なんて、本来、王家であっちゃならない事ではあるが……
 ちゃんと、俺を死亡扱いにしたわけだし……親父もお母様も、ラジャラ王朝には敬意を払っている。
 だから、異常だろうが、何だろうが、ほっといてもらいたい。
 当人達は幸せで、国も安泰なんだから。


 その潔癖症な聖人の王様の体を、四天王フォーレンがのっとってるのだろうか?
 それとも、他の奴に憑いてるのか?


 フォーレンって奴を倒したら、そのままナラカ戦となるかもしれない。
 書物で読んだ限りじゃ、大魔王ってのはむちゃくちゃ強い。
 んでもって、憑代が優秀であればあるほど強くなる。
 ナラカの能力を封印できるガジュルシンやガジャクティンの働きが、勝負を左右するわけだ。


 親父はやる事があると、さっさと、又いなくなった。
 シャオロン様は荷物の点検をしていて、ガジュルシンは自分に回復魔法をかけていた。
『つらい』とか『苦しい』とか弱音は吐かなかったけど、やっぱ、体調、良くなかったんだ……ペリシャに来てから、緊張し通しだもんな。
 ガジュルシンを見つめてたら、背後から肩を叩かれた。シャオロン様だった。
「外で運動してきます。しばらくは戻りませんから」
 そう言って、天幕から出て行った……
 これって……
 そういう事だよな。
 シャオロン様……
 本当に、いい方だ……
 簡易寝台に腰かけているガジュルシンの前に、俺は立った。
 ガジュルシンが、俺を見上げる。
 この見上げる顔は、特に、好きだ。
 あどけなく見えて、かわいい。
 姉貴は俺のことを(さか)ってるって馬鹿にするけど、健全な若者なんだ。両想いの恋人と常に一緒にいたら、ムラムラするよ。当然じゃないか。
 だけど、俺はしたい事の十分の一もしていない。ガジュルシンを恋人としてから、俺は、けっこう我慢している。
 俺が欲望のままに動いたら、ガジュルシンはぶっ倒れちまう。
 丈夫じゃない体に、無茶はさせられない。
 あれこれ思い悩んでいる奴を、これ以上、煩わせたくない。
 側に居て、心配を少しでも取り除いてやって、喜ぶ事だけをしてやる。
 こいつがいつでも笑っていられるように。
 そう決めたんだ。
 顔を近づけると、嬉しそうに微笑んで、ガジュルシンは目を閉じた。
『練気』の受け渡し。
 恋人としての接吻。
 決戦前の触れ合いだ。


 必ず、守る……
 死なせるもんか……


 俺は、ガジュルシンの細い体を抱き締めた。


* * * * * *


 次元扉が開いたのを感じたから、ペリシャ側に断って、移動魔法を使った。
 昼間だから、全員、飛ばすって断って。


 目撃者は多い方がいいからだけど。


 跳んでった先の砂漠には、次元扉が三つあった。
 そこから、わらわらと魔族が出て来る。
 んでもって、その側にたたずむ僧侶ナラカ(分身)。
 見た目が女顔の魔法使いだから、あんま強そうじゃない。けど、その実力は桁違いなんだって、ペリシャ側に見せなきゃね。


 私が『勇者の剣』を振るったんで、魔族や次元扉があっという間に消滅する。
 だけど、ナラカは無傷。
 移動魔法やら、体術で、うまいこと逃げやがる。
 ペリシャ軍や仲間の周囲には、ガジュルシンが結界を張ってくれている。
 だから、遠慮はいらない。
 私は剣に、好きに魔法を使わせた。
 ド派手な攻撃魔法に、神聖魔法、それから弱体魔法。
 その全てが、ナラカに届かない。魔法は、結界や空間歪曲で無効化している。
 ナラカもわざとらしく大技を使う。砂漠に暗雲を呼び、雷を落としまくる。派手で音もデカい雷魔法は効果的よね。ペリシャ兵達が身をすくませている。ガジュルシンの結界の中だろうが、すぐそばに連続して雷が落ちるんだ。度肝をぬかれてることだろう。
『勇者の剣』が生み出す防御結界に包まれながら、私はナラカへと斬りかかってゆく。
 しばらくやりあった後、ナラカがにっこりと笑った。
 彼の背後にやたらデカい次元扉が開き、ナラカの体が吸い込まれてゆく。
「逃がすかっ!」
 私は剣をふりかざし……
 ナラカを追う形で、次元扉の中につっこんだ。


* * * * * *


 次元扉の先は、緑豊かな庭園だった。
 南国風の木や植物が茂る中、大きな噴水や人工の小川がある。


 砂漠の国で、緑あふれる庭園を作れる身分の者など限られている。


 僧侶ナラカを追いかけたラーニャ様。
 従者であるオレ達はその後を追い、ペリシャ軍の者達も離れまいとついて来た。
 その結果、全員、ここに来てしまったのだ。
 ペリシャ人達がざわめく。何処についたのかわかっていないのだ。
 ここは……ペリシャの首都イスファンの王宮か貴族邸だ。
 ここに、四天王フォーレンがいるのだろう。
 ラーニャ様が走ってゆくので、オレ達もそれに続く。
 ナラカの姿は見当たらない。
 だが、ラーニャ様は迷いなく走る。
 どこに敵がいるのかおわかりなのだ。


 いくら走っても距離が埋まらない。
 目が届くぎりぎりのところを、ラーニャ様は先に進まれている。


 清浄な空気に満ちた庭園を、ひた走る。
 足元に土の感触。
 いい香りだ。
 植物も水も澄んでいる。 
 瘴気に侵されていない。
 イスファンに流れる河は汚染されているという情報だったけれども。
 地下水でも汲み上げているのだろうか?


 周囲や足元から、何か大きなものを感じた。
 人……ではないような。
 思念?
 純粋なる意思に近い。


 唐突に、納得がいった。
 この庭園が美しいのは、誰からがそう望んだからなのだ。
『地よ、清くあれ』と。


 だが、この先にあるものは……
 この庭園とは、まったく異なる場所だ。


 庭園の先に、壮麗華美なペリシャ風レンガ建築の建物がある。
 それを目にするだけで、ぞくりとする。
 肌があわだつ。
 あそこは、穢れている。
 あの中に……強い黒の気を感じる。
 高位魔族がいるのだ。
「あの先に、大物がいる。気をつけろ」
 アジンエンデさんも、オレと同じものを感じ取ったようだ。
 北の言葉しかしゃべれない彼女の代わりに、ペリシャ人にもわかるよう共通語で同じ事を言った。
「あの建物の中に、大物魔族がいます。四天王だと思います。気をつけてください」
 兵達の顔が青ざめる。
 彼等は、ただの軍人だ。
 多少は魔法道具や呪符は持っているかもしれない。が、そんなものが、高位魔族に通じるはずもない。
 役目上、姫勇者一行から離れられない彼等は、オレ達が守るべきだろう。
 ラーニャ様には心の赴くままに、戦っていただかねば。
『龍の爪』と妻からもらった指輪は、既に装備している。
 いつでも戦えるが……
 建物に近づくにつれ、腐敗臭のようなものを感じた。
 植物は枯れ、或いは、腐っている。
 足元の土も、やがて汚泥と化した。
 庭園を美しく保ちたいと願った者の意思よりも、この先にいるモノの影響の方が強いのだ。
 ラーニャ様が『勇者の剣』を振るい、建物の扉を斬る。
 中から奔流のように黒の気が、噴出してくる。
 結界に守られているオレ達の周囲をそれは、濁流のように通り過ぎていく。
 濃厚な気だ。
 まともに浴びてたら、命にかかわりかねないほどの……


 周囲から悲鳴があがった。
 ペリシャ兵達が恐慌に陥っている。
 結界外に飛び出しゆく者、その場に座り込む者、意識を失う者。


 恐怖だ。


 ズタズタに体が引き裂かれるような感覚。
 心臓をわしづかみにされているような痛み。
 叫びだしそうになるほどの絶望。


 こんなものに関わったら、普通の人間は理性を失う。
 魔との接触に慣れているオレですら、背筋が寒くなっているのだから。


 もしかすると、この建物の周囲には、もう……
『人間』は残っていないかもしれない。


 足を止めたオレ達を残し……
 ラーニャ様が一人で走ってゆく……


「お待ちを! ラーニャ様!」
 ジライさんの制止の声にも、その足は止まらない。
 ラーニャ様はお一人で、瘴気に満ちた建物の中へと走って行った。


 ドクンと心臓が鳴った。


 オレはこの感覚を知っている。
 この圧倒的なまでの不浄の気を知っている。


 見れば、アジンエンデさんは、唇をかみしめながら、青ざめていた。


 そんな馬鹿な……と、思いながら、オレは声をあげていた。
「ガジュルシン様! ペリシャ兵達を移動魔法で別所へ!」
「え?」
 いぶかしそうに眉をしかめるガジュルシン様。
 周囲のペリシャ兵は、勇者一行の監視役だ。オレ達の行動に非がない事の証人として連れてきたのだ。
 けれども……
「早く! 伴っていては彼等を殺してしまいます! 召使として同道していた者達もです!」
「わかった」
 ガジュルシン様が、呪文を詠唱し、結界内の勇者一行以外の者だけを何処かへと次々に送ってゆく。ジライさんの部下の忍達もだ。 
 ジライさんが懐から緊急連絡用の指輪を取り出していた。カルヴェル様と連絡をとるつもりなのだ。
「兵達を避難させたら、ミズハ様と二人のインディラ僧にご連絡を。至急、合流を乞うと」
 ガジュルシン様が目を見開き、オレを見る。 
 ガジュルシン様も、周囲の気が異常であることは察知されているはず。
 だが、高位魔族がいるのだとご存じでも、今、どれほど危険なのかまではわかってらっしゃらないようだ。
 事態は一刻を争う……
 早くラーニャ様に合流しなければ……
 だが、この濃い瘴気の中を結界無しに追いかけるのは、自殺行為……
 皆でまとまって動かなければ……
「親父!」
 アーメットの叫び。
 ジライさんが駆けて行く。
『ムラクモ』を抜刀している。
 カルヴェル様と連絡がついたのだろうか? そう思う間もなく、ガジュルシン様の結界をつきぬけ、ジライさんは瘴気の濁流の中に飛び込んで行った。
「え?」
 馬鹿な!
 こんな濃い瘴気をまともに浴びたら、すぐに死んでしまう!
 後を追おうとするアーメットを爪のない左手で抱きとめて、止めた。アーメットは忍者だ。オレ同様、結界を張る力はない。腰の『虹の小剣』にもそんな力はない。
 アジンエンデさんも一緒になって、アーメットを止めてくれた。
 ジライさんは……
 ラーニャ様の後を追い、建物の中へ消えていった。
 無茶だ……
「落ち着け、アーメット。おまえの姉も父も、私が守ってやる。死なせはしない」
 アーメットの腹部に軽く拳を沈めてから、アジンエンデさんまで駆け出す。
 又も、止め損ねてしまう。
 腹をおさえてうずくまるアーメットと一緒に、アジンエンデさんが二人を追いかける背を見送った。
 その走りによどみは無い。
 そうだ、彼女は……ハリハールブダン様から贈られた、特殊な鎧を衣服の下に装着しているのだった。物理・魔法結界が自動発生する鎧だ。あれには邪を祓う力もあったはず。
 後を追えぬ身を歯がゆく思いながら、オレは仲間達が消えていった建物をただ睨むしかなかった。


* * * * * *


「まさか、ここまで来るとはな。女でも勇者は勇者か」
 がらんとした広間。
 他には誰もいないそこの奥に、男が居る。金色の椅子に座っていた。玉座っぽい。
 服は派手、髭は長い、ターバンの羽飾りまで豪華。
 相当、偉そうだ。
 て、ことは……
「あんたが、サラディアス国王?」
『勇者の剣』を構えつつ、私は問う。
 男が不快そうに眉をしかめた。
「隣国の王の顔も知らぬのか? 愚かなる女め」
 むぅ。
 知らないわよ。
 興味なかったし。
「俺は第三王子アブーサレムだ」
 あら。
 王様じゃないのか。
 よく見れば、こいつ、若そう。髭のせいで老けてみえるけど、二十代ぐらい? 十九年前からインディラを敵視してた王様なら、もっとオッサンかお爺さんか。
「て、事は、第三王子様が四天王フォーレンってわけね」
 王子から物凄い勢いで瘴気が広がっている。
 隠す気がなくなると、魔族は能力に応じて黒の気を撒き散らしだす。
 こいつの気は強烈な瘴気つき。
 相当、高位の魔族だ。
 私は剣に守護されているからいいけど、普通の人間はこいつに近づくことすらできまい。
 凄まじい瘴気に毒されるか、得体の知れぬ恐怖に発狂するか、闇がもたらす腐敗に飲まれるか……なんにせよ、あっという間に、あの世行きにされそう。
 こいつがこんな気を撒き散らしてたんだ、この建物の周囲に、まっとうな人間はもういないだろうな。
「馬鹿め」
 アブーサレムはさっきよりも派手に、あからさまな不快を顔に表した。
「王と将の見分けもつかぬか……その程度の屑が、よう『勇者の剣』を持てたものだ」
 王と将?
「殺す前に名乗ってやろう、勇者よ」
 男から、更なる瘴気が広がる。もくもくとたちのぼる感じ。


「魔界より出でし王だ。今世こそ、きさまと『勇者の剣』を葬ってくれよう」


 へ?


 魔界の王?


 あんたが?


 うそぉ! ナラカがケルベゾールドじゃ……


 えぇぇぇ?
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