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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

砂の国にて

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ペリシャか……行きたくないけど、仕方ない!

 エーネとゼーヴェとバデンサを姉貴がぶっとばしてから五日後、インディラ寺院からガジュルシンに連絡が入った。


 至急、ペリシャに向かうべし、と。


 ガジュルシンから聞いた話を要約すると……
 今、ペリシャの首都イスファンは未曽有のピンチらしい。
 周囲の砂漠から、毎日のようにわんさと魔族が押し寄せて来るからだ。
 首都だから、ペリシャ教の神官も聖戦士もいっぱいいるし、魔除けも多い。
 今のところ首都までは侵攻されていない。魔族は砂漠で撃退し、発見次第、次元通路は封印している。
 が……
 何度次元通路を封じても、翌日には、新たな通路があっちこっちで開き、魔族が大量発生してしまうのだそうだ。
 その上、魔族のまきちらす瘴気で砂漠は汚染され、北部山岳地帯から流れてきている貴重な河の水までも穢されてしまっているとか。
 イスファンはその河ゆえに巨大都市にまで成長したってのに、砂漠の黄金とも言われる飲料水を断たれたのだ。
 首都へと通じる道に魔族がうろうろしてりゃ、隊商も旅人も通行できないし、軍隊も思うように動けない。移動魔法が唯一の移動手段となってしまう。
 しかし、移動魔法は、魔力消耗が激しい。ガジュルシンがホイホイ使うからうっかりしちまうけど、普通は連続使用できない魔法なんだ。
 跳ぶ距離と運ぶ人数にもよるけど、普通、いっぺん跳んだら魔法使いの魔力は枯渇し、数日から数週間、魔力切れの状態になる。
 移動魔法を使える王宮魔法使いなど多分十人程度だろうし、首都の魔術師協会所属の魔法使いの数もせいぜい二十人だろう。
 その程度の数じゃ、首都の全住民を避難させるのは無理だし、住人全てにいきわたる水や食料を確保するのも無理。砂漠の魔族をどうにかしなきゃ、それほど遠くない未来に、イスファンは食糧難に陥るだろう。恵みの河も汚染されてるし。


 魔族の大量発生は、おそらく、ナラカの仕業だ。
 姫勇者一行がペリシャに入国できる、正当な理由をつくると言ってたから。


 ここ数日、ガジュルシンはあっちこっちと心話で話していた。
 最終決戦が近そうだって、関係者(インディラ寺院&ナーダ父さん&エウロペ国王&カルヴェル様&タカアキ)に連絡した上で、ペリシャに勇者一行が入る方法を相談したんだ。
 それで、エウロペ国王にお願いして、ペリシャに大魔王四天王が潜伏している可能性が高い、警戒されたし、と情報を流してもらい、更に姫勇者一行の入国を求めてもらう事になった。有事には、四天王退治の為、姫勇者一行に入国許可を出すよう求める形で。


 インディラ寺院やナーダ父さんに連絡役やってもらわない理由は、相手がペリシャだから、だ。
 インディラ国とペリシャ国は、俺が生まれた頃にはもう険悪になっていた。ナーダ父さんが即位した十九年前から徐々に、仲が悪くなっていったんだそうだ。
 隣国のペリシャが、一方的にインディラを嫌っているというのが正しいが。


 敵対理由その一は、国境の線引き。
 両国の間には、砂漠と山がある。代々の両国の王は、国境を曖昧にして友好関係を保っていた。山岳に住む山の民、砂漠に住む砂漠の民は、自分達の生活の場がどちらの国の領土か意識してない。彼等の自由な移動を妨げないよう、帰属国は部族ごとに自由に選ばせてきたし、国家間の移動はどっちかの国の都市に入って初めて審査するってシステムがとられてきたのだ。
 なのに……ペリシャが勝手に国境を定め、あっちこっちに関所をもうけ、軍隊を配備しやがったのだ。
 その国境ってのは、か・な・り向こうに都合がいいもので、何百年もの間ず〜とインディラの土地であった所までペリシャ領土とされたのだ。
 ナーダ父さんはむろん抗議した。山岳・砂漠の民の生活を奪う国境の撤廃を求めたが、向こうに聞く耳などありはしない。どころか徐々に国境を移動し、インディラの土地を更に自国のものとしようとしているのだ。
 もう十年以上、国境での争いが続いている。
 親父が王宮にほとんど居ない理由は、ペリシャ国境が落ち着かないからだ。


 敵対理由その二は、信仰。
 サラディアス国王は、熱心なペリシャ教徒だそうだ。と、いうか、かなり神がかったイっちゃった人らしい。神の声が聞こえ、神の声の通りに政をしているのだとか。
 インディラ教のもと大僧正候補が国王となったインディラを、サラディアス国王は敵視している。
『穢れし王を冠する穢れし国』
 と、言ったとか言わないとか……
 ナーダ父さんが退位しない限り、インディラとは親交を結ぶ気がないそうだ。
 ペリシャ教って、本来、他宗教に寛容なはずなんだけど。国王様が、ナーダ父さんのことをすげぇ嫌っているんだ。


 国境の線引きは強欲な大臣達によるところが大きいが、両国が険悪になったのは、カリスマ性の高いサラディアス国王によるところが大きい。ペリシャ国民は、国王の声を神の声と等しく聞いてるのだそうだ。


 姫勇者一行のペリシャ行きが決まって、親父はチッと舌打ちをしていた。
 現在、ペリシャにはインディラ人は、ほぼ居ない。北方を除くどこの国にでもいるインディラ教の僧侶達すらも、七年前にはナーダ父さんの要請を受け、出国を完了しているのだ。
 ペリシャは国をあげて、インディラ人にもインディラ僧侶にも敵意を抱いている。
 今、入国は非常に困難だし、入国したところでろくな目に合わない。
『ナーダの阿呆め。サラディアスは暗殺しようとあれほど言うたのに……』
 と、親父は小声でぶつぶつ言っていた。
 邪魔な人間を次々に暗殺している親父にしてみれば、隣国の王だって、インディラに害なす以上、殺すべき対象だ。
 だが、この件に関しては、ナーダ父さんが強硬に反対している。はっきりと口に出して禁止しているのだ。
 サラディアス国王の神がかりぶりは、半端ない。本当にあれこれ『見え』て、いろいろ『聞こえる』らしいんだ。
 つまり、本物の聖人らしい。
 見えないものが見える方なんで、イスファンに暗殺者が入都しただけで『自分に悪意ある者が近づいた』と、わかっちゃうそうなんだ。行動を起こす前に逮捕された暗殺者は、二桁に達しているとか。
 そんな相手でも、親父は殺れる自信があった。無心で近寄って殺せばいいって。『ムラクモ』の振るい手である親父は、殺気どころか闘気もなく、何の感情も浮かべず暗殺ができる。
 俺も親父なら、殺れると思う。病死とか事故死としか思えない形で暗殺できるだろう。
 でも、ナーダ父さんが、どうあっても許さないのだ。
『あなたが王宮にいない時期にサラディアス様が謎の死を遂げたら、あなたの犯行とみなします。他国の王であり聖人である方を暗殺するなど、許されざる罪です。配下の罪は、主人の罪。サラディアス様が亡くなったら、誰が何と言おうと再出家しますからね』と、ナーダ父さんが脅して親父を止めているんだ。
 他宗教であっても敬意を忘れないナーダ父さんにしてみれば、聖人を暗殺するなど恐れ多い罪。現世のインディラにとっては、『悪』でしかないサラディアス国王も、神の祝福を受けて生まれ即位した以上、在位している事に『人には推し量れぬ』意味があるはずだと強く信じているんだ。
 隣国の王の暗殺を禁じた上でナーダ父さんは、山岳・砂漠の民達を保護し、サラディアス国王に手紙を書き続け、国境の騒動を鎮静化しようとしている。
 その消極策に親父は苛立ち、『サラディアス国王暗殺』に関して、二人は何度も真っ向から対立している。
 他国の親玉を敬って、国境間のいざこざで自国の兵を亡くし、山岳・砂漠の民の自由を奪うなど愚かだ、と親父は怒っている。
 けれど、ナーダ父さんは王道には踏み外してはいけない道があるとの主張を譲らない。戦争をひたすら回避し、自国の民を守ろうとあれこれ手をつくしている。


 俺には政治はわからない。
 けど、まあ……正直に言えば、親父の主張のが馴染む。
 ナーダ父さんは信仰心に篤いから、神の教えに背かない生き方にこだわりすぎてるんじゃないか……
 そう思ってきた。


 今までは、国境の兵や山岳・砂漠の民がかわいそうだなあで済んでた。
 けど、こっからは、俺らの直接の問題だ。


 できれば、ペリシャなんか行きたくない。
 姫勇者一行のメンバーは、勇者からしてインディラ王家の姫だし、王国の跡取りの第一王子がいるし、王宮付き忍者頭の親父までいる。第三王子は離脱してるけど、ナラカ戦になるんなら入国してもらわなきゃならんだろうし……
 俺らは、絶対、歓迎されない。
 向こうは国民レベルまで、インディラ人を敵視してるんだ。
 その上、全員、ペリシャ教徒だ。
 ペリシャ教では女性は男性の所属物扱い、一人前の人間として表に出ることは、まずないのだ。
 先代勇者のお母様は、各国で王宮にお邪魔してるけど、ペリシャけだは例外だった。異教徒でしかも女なので、王宮への立ち入りを禁じられたのだ。
 そんな国に、あの姉貴が姫勇者として行くわけだ……
 あ〜あ……
 すぐにブチ切れそうで怖い……
 ガジャクティンも居ないし、俺が姉貴を押さえるんだろうな……
 気が重い……


 それに、暗殺の心配もある。
 姉貴も、王国の跡取りのガジュルシンも、いつ命を狙われてもおかしくない、あの国に入ったら。


 危険で、めんどうで、憂鬱な国だけど……四天王がいる以上、俺らが行かないわけにはいかない。
 人道的にも、魔族で困ってるイスファンの人達を助けなきゃな……勇者一行としては……
 姉貴は親父が守るだろう。アジンエンデも、日ごろから姉貴と行動を共にしてくれている。いいや、あっちの護衛は任せよう。
 俺は今まで以上に神経をはりつめて、俺のガジュルシンを守ってゆくだけだ。


* * * * * *


 バンキグでの出国手続きは、実にあっさりしていた。
 ナラカの話はバンキグ人も聞いてたので、私達がじきにペリシャに向かう事を承知してくれていたからだ。
 ルゴラベルンハルト国王の御前での出国手続きは、ほんの数分で終了。
 宮廷魔法使いの移動魔法でシルクド国境まで移動し、そこで入国手続きをしてからペリシャ国境まで移動魔法で送ってもらう。それでようやくペリシャ入りなわけだ。
 国王陛下も、ルゴラゾグス先王も、旅の無事を祈ってくれた。
 周囲の戦士達も、笑顔で見送ってくれた。
『おまえらなら必ず大魔王を倒せる』と、カラドミラヌは手を振った。
 他国の王族に対しての態度じゃない。戦士仲間への態度だ。
 バンキグの戦士達は、私の武術鍛練につきあってくれ(ヤジとばしたり、周囲からあれこれ勝手に教師役がしゃしゃり出てきたりと、いつも混乱ばっかだったけど)、南と国交してないってのに親身に姫勇者一行の面倒をみてくれた。


 つくづく……良い国でお世話になったと思う。


 移動魔法の光に包まれながら、私も大きく手を振った。バンキグの戦士達に感謝をこめて。


* * * * * *


 シルクドに入国後、シルクド国の魔法使いによって、僕等は、すぐにペリシャ国境まで移動魔法で送ってもらったのだけれども……
 そこで、僕は、意外な人物と再会した。
 検問所の前に、シルクド兵に囲まれて、長身で逞しい男と、小柄で痩せた男がいる。二人が身にまとっているのは、魔術師のローブだけれども……
「サントーシュ様、イムラン様」
 二人は姫勇者一行に気づき、まず僕に、それから『勇者の剣』を背負うラーニャに対し拝礼した。
「インディラ僧?」
「うん」
 ラーニャの問いに、僕は頷いた。
 着ているのは魔術師のローブだけど、今はフードを外し、二人は丸めた頭を晒している。僧衣を脱いでいるという事は、もしかして……
「お初にお目にかかります、ラーニャ様。大僧正候補サントーシュにございます」
 と、まずは小柄なサントーシュ様が挨拶をした。
『大僧正候補』と聞いて、ラーニャは相手に興味を抱いたようだ。
 サントーシュ様は、三十を少し過ぎたばかりのお若い方。柔和な笑みの似合う、とても信仰心の高い方だ。寺院一、魔力も高い。
 父上の還俗後、大僧正候補は父上の拳法の師匠ジャガナート様が継ぎ、ジャガナート様が亡くなった後、サントーシュ様が継いだのだ。
「サントーシュ様の護衛を務めます、イムランにございます」
 大柄な僧侶の方が挨拶した。ラーニャの目は、イムラン様の腕をジッと見つめる。手首から肘にかけて装着している黒の装甲に興味津津って顔だ。
「もしかして、両脚にも装甲がある?」
 目を輝かせるラーニャに対し、イムラン様はニッと笑って見せ『失礼いたします』と断ってから魔術師のローブの裾を少しめくってみせた。
 ラーニャの期待通り、そこには、腕と同じ材質の、骨とも金属ともつかぬ黒くつややかな装甲があった。インディラ(いち)の武闘僧のみが装着を許される、クールマの甲羅から作られた装甲だ。
「次期大僧正候補と、インディラ一の武闘僧が、どうしてここに?」
 ラーニャにとって、『大僧正候補』も『インディラ一の武闘僧』も、すごく親しみやすい存在なのだ。父上がそうだったから。二人に対して、まるでうちとけた友に接するかのように笑顔を見せている。
「ペリシャまでご同道させていただきたく……」
 やはり、そうか……
 僧衣を脱いだのは、あちらとのいらぬ騒動を避ける為か。
「こちらに大僧正様からの書がございます」
 サントーシュ様が、ラーニャに手紙を手渡す。
 ラーニャはそれに目を通すと、僕に手渡してきた。
 人道的支援の為、移動魔法が得意なサントーシュをペリシャ国に送りたい。イムランは護衛役である。両人はイスファの民の避難支援を希望している。が、必要とあらば、必要な期間だけ、勇者一行の一員として使って欲しい。
 そんなお手紙だった。
「勇者一行に我々が合流する事は、既にペリシャには了承を得ております」
 サントーシュ様が次に手渡したのは、通行許可書だ。
 姫勇者一行八人と家来五人の、ペリシャへの入国を認めるってある。
 姫勇者一行の名前は、ラーニャ、僕、ガジャクティン、ジライ、アジンエンデ、シャオロン様、それにサントーシュ様とイムラン様が入っている。アーメットは、又、召使枠のようだ。
 ガジャクティンに関してはシャーマン修行終了後、遅れて入国するという事情が記されていている。
 何とも……手回しがいい。
 サントーシュ様は、優しげな笑みを崩さない。
「私達を姫勇者様の従者として、伴いください。お心のままに使っていただければ嬉しゅうございます、ラーニャ様」
「『大僧正候補』と『インディラ一の武闘僧』にお力添えいただけるなんて、こちらこそ嬉しい限りです。どうぞよろしくお願いいたします」
 姫君(営業用)スタイルの挨拶だ。二人がどんな人間かわからないから、一応、無難に挨拶したのだろう。


 特に親しいわけではないけれど、サントーシュ様は大僧正候補なので、奥の院でしょっちゅう顔を合わせていた。
 温和で、とても礼儀正しい方だ。
 魔力勝負で僕がインディラ寺院代表となった時も、いつも通りの柔和な笑みを浮かべて、『ガジュルシン様と私では、器が違います。寺院代表はガジュルシン様こそがふさわしい』と、すんなりと代表を譲ってくださった。
 その後、馬による旅をリタイアし、僕が奥の院に戻り大僧正様の房で寝泊まりするようになっても、何の文句も言わなかった。
『大僧正候補をさしおいて寺院代表となっておきながら、分身を帯同させて、ご自分は余暇か。王子様は気楽でいらっしゃる』みたいな陰口が奥の院で囁かれている間も、飄々となさっていた。
 器が大きい方なんだと思う。
 でも、正直……どんな方なんだかわからない。


 イムラン様にいたっては、顔ぐらいしか知らない。
 後、知ってるのは、ジャガナート様の直弟子だった事か。父上からすると、弟弟子にあたる。ウッダルプル寺院支部所属なので、顔を合わせる機会はあまりなかった。
 師によく似た竹を割ったような性格だ、と噂には聞いているけれど。


 しかし、お二人とも、インディラ寺院を代表する優秀な僧侶だ。
 お二人が姫勇者一行を支えてくださるのは、たいへんありがたい。
 これから、ペリシャに行くのだし……
 四天王戦の後、ナラカと戦う事になるかもしれないのだ。戦力は多い方がいい。


 お二人の参戦にはとまどいもあるが、納得もいく。
 インディラ寺院は、ナラカとの決着を勇者任せにしたくないのだろう。
 もと大僧正候補が大魔王になっているのだ、インディラ寺院としてもけじめをつけたいだろうし、対外的にも動いている姿勢を見せたいのではないだろうか。
 王子の僕が『寺院代表』では、寺院は面目を保てないのだ。


 僕はお二人に、シャオロン様を、アジンエンデを、ジライを紹介した。
 シルクド兵が周囲にいたので、アーメットは紹介しなかったけれど。
 伴える家来は五名という事なので、アーメットの分を除く残り四名の人選はジライに任せた。
 それから荷の整理をしてから、シルクドに残す忍達と別れを告げ、ペリシャ国境を越えたのだった。
+注意+
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