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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

砂の国にて

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人間やめてる奴と迷う奴! 選択は無限!

 僕のシャーマン修行は順調……
 と、言うのには、かなり微妙な展開となっている。


 シャーマン修行をしたいと願った僕を、タカアキ様はあっさりと受け入れてくださった。
『そもじが強ぅなれるよう助けたる。あのくされ僧侶、必ず仕留めてや』
 僕をキョウ郊外にご所有の森へと案内してくれ、三大魔法使いのタカアキ様本人かその分身による、教育を約束してくださったのだ。
 修行中は、カルヴェル様は別行動ということになった。神聖な修行場に敬意を表してのことのようだ。修行を終えたら、魔法道具の指輪で連絡をいれるということになった。
 僕が居るのは、タカアキ様の母方の一族の修験の為の屋敷らしい。けれど、着いた時には無人だった。この屋敷が使われるのは、主に、春から秋なんだそうだ。
 変な祭壇とか、道場とか、岩室の部屋とかある屋敷は、あっちこっちがしめ縄やらお札で封じられていた。立ち入り禁止の場所に入ると命の保証はないと脅されたので、妖しい場所には近づかないようにしている。
 屋敷の裏手は滝だ。毎日、滝に打たれている。水垢離ってヤツだ……冬だけど……。つくづく丈夫な体で良かったと思う。
 ここに来たのが僕ではなく、兄様だとしたら……来た当日に倒れているのは確実。悪くすれば死んでたろう。


 真夜中に、僕は、行燈の明かりを頼りに、眠気覚ましに本を読んでいた。
 呪殺についてまとめた本。霊を行使してできる事は何であれ勉強している。知識として持っとけと、タカアキ様(分身)に渡された本なのだ。
 おどろおどろしい内容かと思えば、呪文やその効果、対抗策がしごくあっさり羅列されているだけ。呪符や魔法道具がぽんぽん出てくるわりに、そっちの説明はなし。別の本で調べるしかない。
 布団にくるまって何冊かの本を手に取って読んでいた僕は、魔法の波動を感じ、顔をあげた。
 移動魔法だ。
 僕は笑みを浮かべた。
 良かった、一人じゃない! タカアキ様は移動魔法で別の人間も運んできてくれた!
「キヨズミさん、マサタカさん」
 嬉しい……僕にシッポがあれば、振りきれんばかりに振っていたろう。タカアキ様の従者のこの二人がいなければ、僕といえども、今日までに死んでいた!
「第一声は『タカアキ様、お久しぶりです』やないのん? 無礼なお子様やわ」
 三大魔法使い様本人は、不機嫌そうな顔を扇子で半分隠した。
 いや、だって、四日ぶりなんだもの……
 その間、僕、タカアキ様の分身とこの屋敷で二人っきりだったんですよ?
「インディラの王子はん、どうぞ」
 キヨズミさんが手に持っていた物を手渡してくれた。
 重箱!
 四日ぶりの、まともな食事!
 うわぁ。ジャポネのキョウ式のお弁当! お菓子みたいに綺麗なおかずがいっぱいだ♪
 そして、マサタカさんは抱えていた荷をとき、僕の為の着替えやら、日持ちのする干し芋とかの携帯食を部屋に置いてくれる。
 ありがたい……
 僕は胸を熱くしながら、重箱の料理をパクついた。


 姫巫女が、非常識なのはよぉくわかっていた。
 自分の憑依体を食べちゃうとか、男性である憑依体を使って子種を集めちゃうとか、憑依体に卵を産みつけるとか……
 ありえない。
 でも、もとは大白蛇だし、人間の常識が通じないのも当たり前。
 仕方無いと、思っていた。


 だけど……
 非常識な存在は、姫巫女限定ではなかったのだ……


 キヨズミさんがわかしてくれたお湯で、僕とマサタカさんとキヨズミさんでお茶をいただく。
 ああああ……あったかい……
 涙が出そうだ……


 タカアキ様は、僕らの輪から離れていた。
 上座に座り、扇子を広げては閉じで、遊んでいる。
 身にまとっているのは、あいもかわらず神主服のみ。十二月の真夜中だってのに、防寒着の一枚も羽織っていない。
 薄着なのも、お茶を飲まないのも、暖をとらないのも、修行の為……とかじゃない。
 寒くないのだ。


 おかしいとは気づいていたんだ。
 ここでの修行初日から。
 僕と一緒にこの屋敷に来たタカアキ様(本人)はすごい薄着で……
 滝に打たれろと命じられたからやったけど、体を拭く布の準備はなく……
 着替えもなく……
 当然、お風呂なんか用意してくれてなくって……
 屋敷にあった布団を被って寒さを堪えてる僕に、シャーマンの心得の授業を始め……
 休憩なしで何時間も延々と語り続け……
 日が暮れても、灯りをつけてくれなくって……
 空腹と喉の渇きを訴えると『食事? 今朝、食べたやろ?』とか言いだし……
 断食修行かと思ったら、真っ暗な外へとスタスタと出て行って……
 野ウサギを片手に帰って来て、『ひもじかったら、お食べ』と言い出す始末……


 生肉を食べろと?


 つくづく……カルヴェル様とシャオロン様に感謝……
 異空間にこもっての生活の間に、僕は、お風呂をわかす事も調理も、魔法でできるようになっていた。
 そして、シャオロン様のサバイバル授業で、ウサギのさばき方も教わっていた。


 ウサギを魔法で焼く僕を見て、タカアキ様は『丸呑みできんの?』とか聞いてくるし……どんだけ姫巫女基準なんだよ、あんた……


 で、そっからは、分身のみを屋敷に置いて、タカアキ様本人は帰られたわけだけど……
 分身は、タカアキ様そっくりだった。
 こっちから言わなければ、食事を忘れる。水も忘れる。
 着替えが必要だと理解してくれない。
 暖房の必要は感じていない。
 暗くなっても灯りをつけない。
 雨戸を降ろさず、夜になろうが、雨だろうが、襖は開けっぱなし。
 屋敷のどこに生活必需品があるのか、知らない。
 休憩時間一切なしで、僕に授業をしようとする。トイレ休憩すらくれない。


 次にタカアキ様本人が姿を見せた時、おつきの二人を伴ってくれて本当に良かった!
 神官のキヨズミさんは、僕の現状を見て、深いため息をついてから主人に意見をしてくれたのだ。
『インディラの王子はん、このまんまでは修行どころやらあらしまへん。ご病気で死んでまうかもしれませんえ』。


 二人がいろいろ差し入れを持って来てくれるようになって、僕の生活はだいぶ改善された。


『ご当主様に悪気があるわけではない』
 タカアキ様がいない時、東のオオエの言葉をしゃべるマサタカさんが、苦笑まじりにこう言った。
『人間のあり方をご存じないだけだ。あの方は幼い頃から、白蛇神様の器となっておられる。もう半ば以上、人ではないのだ』
 人ではない……?
『半分仙人みたいなもんや』と、キヨズミさん。
『ご病気にならんし、十代で成長も止まってはる。その上、飲食もめったにせんよ。(ささ)やら果物はお召しにならはるけど、舌で味わっておられるだけや』
 食事をしない……?
『白蛇神様の摂取なさる餌で、あのお身体は保たれておるのだ。ご当主様本人に食事の習慣はない』と、マサタカさん。
 えぇ〜?
『四つから十まで、蔵の中に閉じ込められてはったやろ、あのお方。ほとんどの時間、だぁれも居ない蔵の中で、主さんとお二人だったんや。主さんに育てられたようなもんや』 
 それはそうだろうけど……
『主さん、箱入りの神様やし、人のことよう知らんかったんよ。タカアキ様のことかわいがって、常に体をあったかくして、飢えも感じんようにしてやったわけや』
 なるほど……
『食べんでも腹が()かんのやもん。タカアキ様、五才には膳に手ぇつけんようになったそうや』
 て、事は……二十二年間、食事してないのか……
『そやけど、そのせいで魔力使いすぎてな、すぐに主さんがお腹をすかせてしもてな』
 タカアキ様みたいにホホホとキヨズミさんが笑う。キョウの男の人は、みんなこれか……
『主さん、やたらタカアキ様、食べてたらしいんよ。かわいがってるんか、いじめてるんかわからんよな』
 いや、そこ笑うとこじゃないでしょ……
 四才から白蛇神に頻繁に肉体を食べられてたって……
 体はすごい丈夫だけど、痛みは感じるって言ってた……
 憑依されていると、狂う事ができないとも聞いた……
 後で再生で、生き返らせてもらえるんだとしても……
 ひどい……
 ゾッとする……
『ああ、それからな、タカアキ様、風呂に入らんし、厠も行かんよ』
 へ?
『主さんがぜぇんぶ食べてまうんよ。ご本人そのものも、そのお身体から出るはずのものも、ご馳走やおっしゃってな。垢も汗も、その他のものも、な』
 てことは、×××や×××までも……?
『白蛇神様が内にいらっしゃる為、暗闇でも目が見え、人の耳には聞こえぬ遠くの音も聞こえるようでござる』
 ちょ……
『主さんが体を保ってくれはるから、タカアキ様、暑さ寒さも感じん。まあ、それも主さんがいてこそやけど。主さんが抜けてよそに遊びにいかはると、タカアキ様、途端に、暑い寒い騒がれるんよ。普段なんのことないから、人一倍、熱さ寒さにお弱いんよ」
『お小さい頃から、ずっとそのような暮らしをなさってこられたのだ。多少、世の人間と違ってしまっても仕方なかろう?』


 多少じゃないと思う……


 タカアキ様を見てると、神と共生する恐ろしさが嫌というほどわかる。
 神が降臨した際には眠りにつき、体を譲るだけならいい。それなら、シャーマンは、人としての自我を保てる。
 しかし、タカアキ様は神を降ろしっぱなしのままだ。体は交替で使っているけれど、半霊体の白蛇神と交信してるし、神の御力であの体が保たれているわけだし……
 半ば以上人ではないというのは、大げさな表現ではない。
 普通の人間とは違う世界で生きているのだ。


 僕は人でありたいと思う。
 人のまま、みんなの所へ帰りたい。


 可能ならばだけど……


 タカアキ様が、パチンと扇を閉じられる。
 食事を終え僕がお茶での一服も終えたと、見てとったのだ。
「ほな、行こうか、インディラの王子はん」
 僕は頷きを返した。


 今夜は満月。
 タカアキ様が、大掛かりな招霊を見せてくださるのだ。滝の前でやるのは、身に宿っているのが水神だからだろうか。水を操るのがお得意そうだ。
 霊力を失っている僕に、キヨズミさんが目を貸してくれる。キヨズミさんの見える世界を、魔法で共有するのだ。
 マサタカさんも一緒に行く。ミズハ様のお気に入りで直々に鱗を与えられてるから、この世の神秘も見えるそうだ。事情は聞いてないけど、このサムライ、タカアキ様の母方の実家の人間じゃないっぽい。


 神との関わり方はさまざまだ。


 神との契約の仕方も。


 そこに善悪などない。
 憑依体すら喰らい自分の糧としてしまうミズハ様は、邪神とも言える。
 けれども、ただ子供が欲しいだけの単純明快な存在でもあり、タカアキ様は共に生きる事をお望みなんだ。
 異常な結びつきでも、そこに愛があるわけだし。
 二人をひきはがすのが正義とは、言えない。
 というか、ミズハ様に依存しきって二十二年以上も人外だったタカアキ様が、今更、人間の暮らしができるとも思えない……


 神とどう関わっていくかには、まだ迷いがある。
 強い力が欲しい……
 だが、その為に、どこまで犠牲にするか……
 どこまでなら許されるだろう?
 僕にとっても、僕を大切に思ってくれてる人達からも。


 僕は森の木々の間から見える月を、見上げた。
 綺麗な丸い月。
 今宵、ラーニャ達は、真実の鏡を使うのだろう。


 僕は天に懸かる月の美しさから、愛しい義姉の面影を思い浮かべていた。
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