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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

姫勇者の目覚め

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深い意味なんてない! 義姉としてよ!

章名を、予告の『闇の聖書をめぐって』から『姫勇者のめざめ』に変更しました。
 明日の朝には、無駄にデカい義弟がバンキグから旅立つ。
 失った能力を取り戻して、使いこなせるようになる為に。最初はインディラで過去を調べ、それからタカアキの所でシャーマン修行を積んで、その後インディラに戻って神様と再契約という流れになるらしい。
 カルヴェル様が付き添ってくださるんだ。きっと平気。
 命を粗末にしないって約束したし。
 あいつ、思ったより冷静だし。
 自分に有利なるよう契約を結ぶって言ってたし。
 何も心配する事ないんだ……
 私はベッドの中で溜息をついた。
 もう二時間以上、ゴロゴロしている。
 眼が冴えちゃって、全然、眠くない。
 何か変なのだ。
 もやもやして落ち着かない。
 むちゃくちゃに叫びだしたいような、暴れ出したいような、わけもわからない感情が荒れ狂っている。
 私は起き上がると、枕を抱えた。苛立ちをこめて、拳を枕にドカドカ沈める。けど、全然、すっきりしない!
「ラーニャ様」
 暗闇の中から声がする。
「お眠りになれませんか?」
 現れたわね、ストーカー。
 接近禁止を解除したげたから、早速、私を覗いていやがったな、こいつ。
「見ればわかるでしょ」
 寝台の側に灯りがつく。サイドテーブルの燭台に、ストーカーが火を点けたのだ。自分の為じゃない。夜目がきかない私の為だ。
 燭台に火を点けると、ジライは片膝を床についてかしこまった。
 いつもの黒装束姿だ。覆面を外し、白髪と白い顔を見せている。
「ガジャクティン様の事がご心配にございますか?」
 顔がカッとした。
「別に! そんなんじゃないわよ! 考える事がいっぱいあるのよ、私には!」
「姫勇者としてのお役目による重圧、お察しいたします」
 ジライが恭しく頭を下げる。
「おすこやかな眠りが訪れるまで、何ぞお相手をつとめましょうか? 昔語りでも、子守唄でも、机上遊戯でも、体を動かすあらゆる運動でも」
「結構よ」
 私はジロッと、変態忍者を睨んだ。
 ジライはいつも通りだ。理不尽な接近禁止をくらってた事に対しても、自分は庇われていたんだという事に対しても、何も言わない。文句も礼も。何事もなかったかのように、普段通り、私に接している。
 私がいろんな問題を抱えてるの知ってるから、煩わせまいとして遠慮してるんだと思う。
 聞きたくないから、いいけど。
 でも……
「あんた、何か文句があるのなら言っていいわよ。今なら聞いたげる。どーせ眠れないし」
 うやむやにしとくのは嫌だ。すっきりしない。
「ならばお言葉に甘えて……」
 ジライが頭をあげて、私の顔を見る。
「距離が開いていては、いざという時、護衛が遅れます。接近禁止命令はしばらくはご勘弁願えますか? 少なくとも大魔王を倒すまでは」
「……わかったわ」
 フンと息を吐いた。
「わかったから、あんた、絶対、無茶しないでよ。私のせいであんたが死ぬなんて、気分悪いもの」
「それは無理です」
 ジライがきっぱりと言う。
「我が使命はラーニャ様の貴きお身体とお心、そのお命をお守りする事。己が命を惜しめば動きが鈍ります。私は我が身の限界までを捧げ、ラーニャ様をお守りしたいのです」
「迷惑だわ」
 ムッとした。
「私は嫌だって言ってるのよ、私の為に誰かが死ぬことが」
「ラーニャ様、忍者は主人を守る盾にございます。盾は盾として生きるからこそ意味があるもの。主人より遠ざけられては盾は本来の生き方ができませぬ。我らにとって主人を守りきれぬ事こそが、最大の屈辱。どうか私に不名誉をお与えくださいますな」
 むぅ。
「己が命よりも主人の命の方が重いのです。守り通そうと決めたお方を守り通す事こそが、インディラ忍者の忍道。たとえ死すとも、悔いのない最期を迎えられる……」
 そこでジライはニッと笑った、ズルそうに。
「だ、そうでございます。聞き分けてくだされ」
 あんた、東国育ちのもと東国忍者じゃない。どんな汚い仕事でも請け負う、裏社会の忍者出身のくせに。
「偉そうに。生粋のインディラ忍者じゃないくせに」
「受け売りにございます、ご老体の」
 ナラカの部下の忍者ガルバの?
「ですが、そのような覚悟でラーニャ様をお守りしているのも事実。まあ、ラーニャ様が泣いて嫌がりましょうとも、私は生き方を変えません。我ら忍は騎士とは違います。主人の御為とあらば、嘘もつきますし、命令にも違反いたします。ラーニャ様がいらぬとおっしゃってもお側にはべり、いよいよの危機となればこの身を犠牲にして貴いラーニャ様をお守りいたします」
「やめてよ! 絶対に、嫌! あんたが良くても、私が嫌! 絶対、身代わりなんかしないでよ!」
「ならば、そうならぬよう、どうぞ、お強い勇者とおなりください」
 え?
「私が庇うのは、ラーニャ様がお命の危険に晒された時のみ。私を死なせたくなくば、私の助けなど必要もないほどの強大な勇者となればよい……それだけの事ではございませぬか?」
「………」
 私は白子の忍者を睨んだ。
「私、今だってけっこう強いわよ」
「さようにございますな」
「これ以上、強くなれっての?」
「ラーニャ様ならできましょう」
 ジライが微笑む。何っていうか……大人が子供を見守るような……あったかい笑み。こんな表情もするのか、こいつ。
「わかったわよ。なってみせるわ、私、姫勇者だもの、それぐらい簡単だわ」
「おおお、さすがはラーニャ様」
 白子の忍者がうっとりとした顔で私を見つめる。
「ラーニャ様はセレス様と共に、この世で最も貴くお強きお方。いずれ遠くない未来にラーニャ様は最強の勇者となられ、今世の全てのものがラーニャ様の偉大さにひれ伏すでありましょう」
「………」
 真顔で言うんだもんな、こいつ。酔っぱらっって気が大きくなってるとかじゃなくって。こいつ本気でそう信じてるっぽい。アーメットはジライの私への賛辞を『腐った親馬鹿の目』って切り捨ててるけど。
「たわごとはやめて。耳が浮いちゃうわ、恥ずかしい」
 ジライが心外だと言わんばかりの顔をする。
「真実を申し上げたまでの事。ラーニャ様もセレス様も、揺るぎなき正義にございますゆえ」
「正義ねえ……」
「どうぞ信じた道をつき進みくださいませ。ラーニャ様の信じた道こそが正義。必ずや願い通りの未来が手に入るでしょう」
 何なのよ、もう、その盲信っぷりは。ジライはたまに私に逆らったり異を唱えたりするけど、そういう時はたいてい私がお母様の命令に違反した時。より上位の高貴な女性の言葉に従っているだけ。基本的に私のやる事はオールOK。何でそこまで信頼できるのか、不思議。
 ニコニコとジライが笑う。
「せっかくなので……この場をもちまして、お願いしたき事が」
「何?」
「災厄除けのお守りをいただけませぬか?」
「お守り?」
 珍しい。こいつ私物は持たない主義じゃなかったっけ? 物に情をかけすぎると、平常心を失うって。
「ラーニャ様の毛をいただきとうございます」
 毛?
 髪の毛か。
「毛がお守りなの?」
「はい。古来、ジャポネでは女性の毛があらゆる災厄から男を守ると言われております」
 へぇ〜。
「姉妹、或いは恋人、身近な者のものほど効果があり、その中でも処女のものが最上級品。処女の清らかさが、邪をはねのけると信じられております」
 へー、へー、へー。
「死なせたくないと思う者に持たせるモノにございます」
 ジライが胸元から小さなジャポネ風の紙を取り出す。ジャポネ風上着の中から、クナイは出るわ火薬玉は出るわデッカい手裏剣『大風車』は出るわ、どうなってるのよ中は。
「この紙の間に、挟んでいただけませぬか? 抜け毛ではいけませぬぞ。相手を守りたいという思いと共に、切るのです。少しで結構ですので」
 少しでいいって……この紙の束、十枚はあるんだけど?
 髪の毛で、ふと思い出したのはジャポネの叔母さんの遺髪のこと。綺麗に束ねられた黒の直毛の遺髪。あの形見をジライは数日、胸元に入れてから焼いたんだったわよね。魔族に利用されたくないと言って。
「あんたが私のを持ってて平気なの? 魔族に利用されない?」
「ラーニャ様の貴き気の前には魔は恐れをなして退きますゆえ、心配ご無用」
 又かよ。根拠ないのに、真顔で言うんだもん。狂信者なみね。
「いただけまするか?」
「いいわよ、髪の毛ぐらい」
 クナイを貸してと言うと、ジライは平伏し、
「ここではちょっと……お一人の時に切り、和紙に挟んでからお渡しくださいますか?」
 そういう儀式なのかしら?
「戦場に赴く者に効果絶大の乙女の毛。遠い地に旅立つ恋人・親兄弟を守護しようと願う乙女の清らかさが、どのような災厄からも男を守るのです。お守りを渡せば、お守りと共に常に一緒にいるも同然……戦場の男をおなごが守ってやれるのです」
 死なせたくないと思う者に持たせるモノ……
 遠い地に旅立つ恋人・親兄弟を守護する……
 お守りを渡せば一緒にいるも同然……
 戦場の男をおなごが守る……
 本当に、効き目あるのかしら……?
 あるといいけど……
 でも、こういうのって精神に左右されるモノだから、あると信じてやる方がいいのよね。
 ジャポネ紙をジッと見つめる私の横で、忍者が顔をあげる。
「毛でございますが」
 ん?
「髪の毛でも効果抜群でございますが、更なる強烈な効果を得られる手がございまして……処女の証に最も近い毛をお守りとするのが最善(ベスト)なのです」
 忍者はしまりのない顔で、もじもじしている。
「できますれば、髪の毛ではなくラーニャ様の下の毛をですな、お守りとして、」


 右の拳をお見舞いしてやったので、変態忍者の説明はそこで終わった。


* * * * * *


 ルゴラベルンハルト国王とルゴラゾグス先王に御挨拶を終え、僕は旅立つ事となった。
 バンキグの方々の立ち会いの下、カルヴェル様の移動魔法でインディラの王宮に帰るのだ。そこでカルヴェル様に魔法で僕の過去を調べていただき、昔の僕が契約した神をつきとめるのだ。何日かけてもわからなかった場合は、満月の日に姫勇者一行に合流して、真実の鏡を使わせてもらう事になっている。約半月後のことだ。それよりも前に、真実をつきとめ、次の行動に移っておきたい。
 ラーニャ達にはちゃんと断った。ヤバそうな神が昔の契約相手ならすぐに勇者一行のもとに戻るけれども、そうでなければある程度メドが立つまで帰らないし、連絡もとらない。神様はたいてい気難しい。神と人との契約をたいてい秘め事だ。他人に漏らすような人間は信用してもらえない。第三者の介入はできるだけ避けよとのカルヴェル様の助言に従うのだ。
 けど、何時、ナラカ戦になるかわかんない現状だから緊急集合用のアイテムは持つ事になった。仲間を召喚できるアイテムだ。姫勇者一行全員が、カルヴェル様から一つづついただいた。青銅ではなく、白銀の指輪。ラーニャ達が最終決戦となったら僕を呼びよせてもらえるし、逆に僕の前に大魔王が現れたら駆けつけてもらえる。僕とだけ限定じゃなくって、たとえば兄様が緊急時にアーメットを呼ぶとかもできる。呼び寄せたい仲間だけを手元に呼べるアイテムを勇者一行全員がいただいた。皆、これを肌身離さず装備する約束をした。
 召喚がかかれば装備者の脳に直接連絡がいくから、眠っていても仲間がピンチだとわかり覚醒する。又、取り消さない限り召喚の効果は半日もつので、召喚された時、どうしても抜けられない修行中とか入浴中とかならばそれを済ませ、少し遅れてから応じるのも可能なわけだ。
「ガジャクティン様、どうぞご無事で! 武者修行での更なる成長を祈っております!」
 目からダダーッと涙を流してカラドミラヌ。ズレてるしマヌケな事ばかり言うけど、いい人だ。父様にあなたによくしてもらった事を伝えておくよと言ったら、両手をがしっと握られてしまった。『心の友』によろしくと。
 兄様が『王子の顔』で、僕に抱擁する。あくまで冷静沈着な王子の顔で、勇者の従者として旅立つ僕を励まし見送ろうとしている。兄様と離れ離れになるのって、兄様がインディラ寺院に修行に行った時ぐらいだ。僕が何処かへ行くなんて初めて、ほぼずっと一緒だったんだ。兄様は感受性が豊かだから、寂しくって心配で、後で泣くのかもしれないな。アーメットがいるから大丈夫だろうけど。
 アーメットは召使役なので、この場にはいない。でも、別れは済んでいる。兄様の事を頼むと、任せておけと笑っていた。
 アジンエンデが鞘に収めた剣で、僕の頭や手足や体に触れる。魔を遠ざける、戦士の祓いなのだそうだ。
 シャオロン様はいつも通り微笑み、霊的なものに触れた時のアドバイスをくださった。受け入れるのなら、何事も逆らってはいけない、でも、支配されてもいけないのだそうだ。
 ジライは側に来ないし、何も言ってこない。僕なんか関心ないのだ。でも、ここまで旅をしたおかげで、ちょっとだけど親しくなれた。ジャポネでジライの思考に触れたのは忘れ難い。『大切なのは、過程ではなく結果だ。力量不足は工夫で補えればよい。きさまは、戦士として及第だ』。僕をおまけではなく、戦士として見てくれたのが嬉しかった。
 で、最後にラーニャが僕に近づいて来た。
 腰までの少しウェーブがかかった黒髪に、真っすぐに見つめてくる茶の瞳、意志の強そうな眉、すらっとした鼻、ふっくらした頬、赤い唇、白銀の鎧に『勇者の剣』。今日も姫勇者ラーニャは、綺麗だ。
「これ」
 と、言ってラーニャが渡したのは、掌にすっぽり収まる小さな布の小袋だった。
「お守り」
「ありがとう」
 僕はラーニャの手からお守りを受け取った。
 良かった。昨日、告白しちゃったから、変な雰囲気になったら嫌だなって思ってたんだ。
 大魔王を倒すまでは返事保留だけど……わかってる、僕は振られる。ラーニャの目には父様しかないから。昨晩は強がって、OKを待つみたいな事言ったものの、本当は泣きたい気分だったんだ。
「大切にするよ」
 それを右手で持ち、胸に当てる。カサカサ音がする。紙が入っているみたいだ。とても軽い。
「これ、何のお守り?」
「……邪悪を退け、どんなものからも命を守るお守り」
「へええ。すごいや、ありがとう」
 ラーニャの頬が少し赤く染まる。
「……言っとくけど、ソレ長いんだから違うからね!」
「ん?」
「私、癖っ毛なの! それだけよ! 誤解したらぶっ殺す!」
「え?」
 話が見えない。
 ラーニャが頬を染めながら僕を睨む。
「とっとと無事に帰って来て! あんた、生まれた時から私と一緒だったんだから! 大事な家族よ! だから、生意気で泣き虫で勇者おたくで、しかもデッカくなって視界を塞ぐ邪魔な壁になったあんたの相手をしてきたのよ! 危ない事したら、絶対、許さないから!」
 大事な家族……か。
 そうだよな……
 僕は義弟だ。
 僕はわざと生意気そうな表情をつくった。
「無事に帰って来るよ、当然じゃないか。それまで、広い視界を楽しんでおいて。すぐに、又、狭くなるから」
「絶対よ!」
 ラーニャの顔が更に赤くなる。
 義弟にしろ……愛されているのは違いない。無事にラーニャのもとへ戻ろう。


 カルヴェル様の魔法の輝きに包まれ、消えゆく僕を皆が見送ってくれる。
 僕は手を振り、皆に笑みを送った。
+注意+
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