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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

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運命を変える! 最後の最後まで!

 何なんだよ、おまえら……


 俺は、姉貴とガジャクティンとガジュルシンを見渡した。


 大事な話があるって、姉貴が俺らをアジンエンデの部屋に集めたんだ。姉貴はアジンエンデに隣に座ってもらって、テーブルを挟んだソファーの俺やガジュルシンやガジャクティンとシャオロン様と対面した。壁の前にたたずむ親父にも、チラリと視線を向けていた。
 ガジャクティンの大告白の後だ。何の話をするんだと思ったら……
 色恋とは無縁の話。
 正直、びっくりした。
 姉貴は、知恵を司る巨人から未来を見せられたというのだ。
 姫勇者一行は大魔王を倒せるか? の問いの答えとして。
 決戦の地は何処かの砂漠、そして、俺らが対戦する相手は僧侶ナラカだったそうだ。
 やはり、僧侶ナラカが大魔王ケルベゾールドだったのだ。
 姉貴はナラカを追い込みはするものの、倒せぬまま、千々に体を砕かれて死亡。
 俺が『勇者の剣』を拾い、ナラカを斬って仇を討つ。
 ナラカは消滅。この地上に平和が戻るという未来だったそうだ。
 姉貴は茫然となって、巨人に尋ねた。
 その未来は絶対なのか? と。 未来は変えられないのか? と。
 その問いの答えは、《代償を伴う》だった。
 ガジュルシンの能力封印が効果的な状態となるまで時間を稼いでから戦えば、姉貴はかなりの確率で死なずにすむらしい。
 その代わり、ほぼ確実に親父が姉貴を庇って死ぬ。ガジュルシンかガジャクティンのどちらかか或いは両方が死ぬ。俺やシャオロン様がガジュルシン達を助けようとして死ぬ未来もけっこうあったそうだ。
「死ぬのは嫌だった。でも、みんなを犠牲にして生き延びるのはもっと嫌。だから、その時がきたら、一切逃げずにナラカから真っ向勝負してやれって思ってた」
 そんな……
「『勇者の剣』が最近、私に背負われてるのも、そのせいよ。私の覚悟が潔いって、気にいってくれたみたい。でも、」
 姉貴は肩をすくめ、舌をみせた。
「アジンエンデに諭されたの。巨人が見せた未来以外の未来を作ればいいんだって」
 未来以外の未来?
「状況を変えるのよ。私達以外の戦闘力の高い人間、たとえばカルヴェル様、ケルティの上皇様、姫巫女を戦いに巻き込むとか、私達が戦法を変えるとか能力を高めるとか連携するとかね」
「ラーニャの見た未来には私はいなかったそうだ」
 アジンエンデが微笑む。大人びた落ち着いた笑みだ。
「私が参戦すれば状況は変わる。更に大きく波を変えたい。ラーニャも誰も死なぬ道を、皆で、考えたい」
「私、あんた達を巻き込みたくなかった。私のせいであんた達に死なれるの嫌だもん。でも、アジンエンデに意見されちゃった。逆の立場を考えろって。私に内緒であんたたちが、みんなを守る為って、命を犠牲にしたらムカつく。みんなが無事なら自分は死んでもいいなんて思ってたら許せない。腹、立つ。ダメもとで何で相談しなかったのよ馬鹿と、一生怒る。一生許さない。大事な事を教えないってのは、仲間への裏切りも一緒だから」
 姉貴はにっこりと微笑んだ。
「運命に抗い続けても、ダメかもしれない。私かあんた達の誰かが死んじゃうかも。でも、力を合わせてやれるだけの事やった後なら、後悔しない。私、死んでも構わない。あんた達が死ぬのはすっごく嫌だけど、精一杯やってそれなら仕方なかったって納得できる。何かできる時に何もやらないでいるのは、逃げだと思う。私もアジンエンデも未来を変えたいの。協力してくれない? 知恵を貸して」


 なんか、こう……
 すげぇ、姉貴……
 本物の勇者みたいだ。立派だ……


 と、俺が感心してる横で、『ごめんなさい』、『すまない』と謝った奴が出た。
 で、その二人も、仲間に隠し事があるって告白したわけだが……
 ガジャクティンはともかく……ガジュルシン!
 おまえ、俺に全部話したって言ったじゃないか! 内緒事はもう無いって言ったよな?
 俺が睨みつけると、俺の横に座っていたガジュルシンが顔をそむけ視線をそらした。
 おまえ……
 嘘ついたな!
 後で覚えてろ!


* * * * * *


 兄様の話を聞いて、妙に納得してしまった。
 やっぱり、そういう事だったか、と。
 兄様は僧侶ナラカの能力封印を命がけでやる気だったのだ。
 魔族は優秀な器に宿れば宿るほど、今世で大きな力をふるえるようになる。優秀な僧侶であった大伯父。そんな器に宿った大魔王が相手では、ラーニャが苦戦するのは明らかだ。
 素の僧侶ナラカには、並の魔術師五百人分から千人分の魔力があったのだそうだ。大魔王の魔力が付加された今は、むろん、もっと強いだろう。だが、兄様が魔法で封じるのはあくまでも器の能力だけ。大伯父が本来持っている魔力だけを考えればいいのだ。
 カルヴェル様から聞いたところ、兄様の魔力は魔術師二千人分。
 魔力量では凌駕してはいる。しかし、大伯父の強大な魔力を長時間封印し続ければ、精神・肉体への負担は大きくなってゆく。又、呪の完璧さを求めれば求めるほど、必要とされる魔力も大きくなりそれを放つ肉体への負荷も激しくなるわけだ。
 病弱で体力のない兄様が、大技を長時間維持し続ければ、当然……
 先に、体力がつきる。
 肉体的苦痛を堪え術を続ければ、更なる苦痛が肉体を襲う。
 無茶を続ければ最悪の場合、死に至るのだ。
「必ず死ぬわけではない。だから、死の危険を伴う術だとは皆に伝えなかった。止められたくなかったし、血族だからこそ使える術だからガジャクティンが気に病むと思ったんだ。同じ血を引く自分でも何かできるはずだと考えて、絶対、無茶するだろう。だから、言わなかった」
 隣に座るアーメットから露骨に顔をそむけながら、兄様が言う。
「でも、ラーニャの話を聞いて、考えを改めた。僕の自己犠牲で事態が好転するとは限らない。ラーニャがナラカを討つ前に僕が術に耐えきれずに死ねば、勇者一行は全滅しかねない。起こりうる危険は仲間に話しておくべきだ。僕は浅慮だった。危険な術だと秘めていたのは、仲間に対し身勝手だったと反省している。黙っていて、すまなかった、みんな」
 何となく危ない術なんじゃないかと思ってた。
 術の種類、教えてくれなかったし。魔力も信仰心も乏しい僕じゃ使えないからって突っぱねて。
「僕、多分、兄様の助けとなれるよ」
 そう断ってから、先に兄様にクギを刺しておいた。絶対、カルヴェル様の事、怒らないでね、僕が無理矢理頼んだんだからと。
 カルヴェル様からいただいた魔法道具――両の腕輪と足首用の足輪。僕の微弱な魔力を少し注ぐだけで、アイテムからカルヴェル様がこめておいた魔力を引き出せる仕組みだ。これがあれば、数十倍の魔力を魔法道具から得られるから、魔力増幅及び安定維持が可能になる。そういう風に兄様には説明していたアイテムだ。
「これを使えば、僧侶ナラカの能力封印魔法を僕でも使えるんだ」
 兄様が目を大きく開く。
「無理だよ。あの魔法を僧侶ナラカにかけるには、膨大な魔力か信仰心が必要なんだ。おまえのアイテムからは、それほどの魔力は引き出せない。呪の制御もできない。制御しようとした途端、アイテムは粉々に砕けるだろう」
「まともにやれば、そうだけど……」
 僕は首をかしげた。
「方法があるはずなんだ」
 兄様が目を更に大きく見開く。
「どうやるつもりなんだ?」
 少し怒ったような声。
 僕はとりあえず明るく笑っておいた。
「覚えてない」
「ガジャクティン!」
 兄様が怒って席を立つ。
 僕は慌てて両手を振った。
「ふざけてるわけじゃないんだ、本当に覚えてないんだよ。兄様が使うはずの魔法の呪文も、多分、僕は知ってる。でも、今は知らない。必要な時がこなきゃ、思い出せないんだよ」
 ナラカ戦の為に腕輪・足輪を貰った。覚えているのは、それだけだ。これをどう使うべきかは記憶にない。
「……カルヴェル様の仕業か?」
「兄様に心話で心を覗かれても大丈夫なようにしといてもらったんだよ。僕が頼んだんだ。カルヴェル様を責めるのは間違ってる」
「どうしてあの方は……」
 吐き捨てるように兄様が言う。
「おまえを魔力で弄ぶんだ。おまえの貴重な時を奪っておきながら、その後も、何度も、何度も……」
「僕は弄ばれてない。僕から頼んだんだってば」
「しかし、あの方の態度は大魔術師のものとも、大人のものとも思えない。たった十四歳のおまえを」
 僕は目の前のテーブルを両手で叩いた。
 大きく響く音に、兄様が驚いて体を硬くする。
「たったじゃない! もう十四歳なんだ!」
 僕はソファーから立ち上がり、兄様を見下ろす。兄様だって長身だけど、背は僕のが大きいんだ。痩せた兄様とは比べようもないほど横幅があり、僕は筋骨逞しいんだ。
「ねえ、兄様、僕、小さい? 家庭教師に泣かされてた頃と同じ? 大人から怯えて逃げていた泣き虫の子供のまま?」
「ガジャクティン……」
「大きくなったんだよ、僕。兄様から見れば、まだまだ弱々しいだろうけれど……いろんな事ができるようになった。魔力はたいしてないし、武術もまだまだ修行中だけど、そんな僕でもやれる事はあるんだ」
 僕は兄様を抱き締めた。本当、細い。こんな華奢な体で僕を今まで守ってきてくれたんだ……
「ありがとう、兄様、今まで守ってくれて……だけど、守られるばっかりじゃ嫌だ。僕にもやらせて。僕にも兄様を守らせて」
「……ガジャクティン」
「僕がナラカの能力封印を手伝えば、兄様の負担も軽くなる。きっと、二人とも死なずにすむ。僕等が死ななきゃ、ラーニャの生存率も高まる。いい事づくめじゃない?」


「その通りだな」と、アジンエンデが言った。
「ガジャクティンの勝ち」と、ラーニャ。
「お二人で力を合わせるべきですね」と、シャオロン様。
「あんま意地はるなよ、馬鹿」と、兄様に小声でアーメット。
 兄様はうつむいた。
「すまない、取り乱して。ガジャクティン……話をちゃんと聞くよ」
 少し身を引いて僕から離れた兄様。その肩は少し震えていた。


* * * * * *


 僕の怒りが静まるのを待っていたかのように、カルヴェル様が移動魔法で現れる。
 僕等の会話を盗み聞いていたんだ。千里眼防止の結界魔法を僕がかけているのに……僕よりもカルヴェル様のが魔力が強いからか? それとも、千里眼以外の手段で覗いたのか? たとえば傀儡の術とかがそうだ。このメンバーの誰かがカルヴェル様の傀儡なら、千里眼無効の結界に阻まれず主人に情報を送れるが……
 カルヴェル様はこの時間、バンキグ国王と晩餐中のはずだから、現れたのは、多分、分身だ。
 この方は……
 ラーニャが死を覚悟でナラカに挑もうとしていた事も、ガジャクティンがナラカの能力封印をしようとしていた事も、ご存じなのに……誰にも言わなかったわけだ。
 どういうおつもりなのか、さっぱりわからない。本人達から口止めされていたのだとしても、馬鹿な行動を取ろうとしている人間を止めもせず、何故、傍観するだけなんだ?
 僕等の向かい、ラーニャの隣に座る大魔術師様を僕は睨んで迎えるしかなかった。


 カルヴェル様が記憶の封印を解いたので、弟はナラカ戦で自分が何をするつもりだったのかを思い出した。
 説明を聞いて意外に思った。
 それは二身一体魔法と言おうか……
 シャイナ皇宮で結界魔法を張った時の応用とでも言うべきか……あの時、ガジャクティンは僕の魔力の籠った水晶を右手に持ち、水晶から大量の魔力を引き出して強力な結界を張った。魔族浄化効果すらある聖なる結界。信仰心も魔力も乏しいガジャクティンでは本来は張れない結界を、だ。
 ガジャクティンは、僕をあの時の水晶代わりにしようと考えたのだ。
 術の制御をする為に、僕の体から膨大ともいえる魔力を引き出して本人の魔力不足を補い、魔力の行使による肉体疲労をガジャクティンは自分の身に受けようと考えたのだ。
 僕を魔法の籠ったアイテムとして使うという事だ。
「だって、兄様、体力が無いから」
 と、ガジャクティンが言う。
「エーネ戦の後、倒れちゃったのも、体が疲れきっちゃったからでしょ? 魔力は枯れてなかったのに、体力の方が尽きて三日も意識が戻らなかったじゃない?」
 う。
「その点、僕ならば体力は有り余っている。血族だからこそできる神聖魔法を、魔力を兄様から貰って、僕が行使する。兄様から引き出した魔力を魔法に利用する術も、カルヴェル様から教わってある。この方法ならば魔法道具への負担も少ないから、能力封じの魔法を僕でもやれるんだ」
「一時間以内であれば、その方法で問題ない」
 と、カルヴェル様がおっしゃる。
「一時間だ。それ以上、させねばガジャクティンの命に別条はない」
 一時間を越えれば、生命に危険があるという事か。
 ガジャクティンの目が僕を見つめている。反対しないでよねと、訴えている。
 ラーニャ達の視線も僕に集まっている。
 仲間の戦力を分析した上で、最も有効な方法を選択すべきだ。だから、反対はしない……
「僧侶ナラカの能力封印は序盤、ガジャクティンに任せる」
 僕は溜息をついた。
「ただし、四十五分を限界とし、その前でもガジャクティンの肉体に負荷がかかりすぎているようなら強制的にその術の行使者を僕に変更する。それで、いいね?」
「ありがとう!」
 ニコニコ笑いながら、弟が僕に抱きついてくる。認めてもらえて嬉しいと、全身も声も弾んでいる。
 抱き締められると、完全に腕の中だ。大きくなったよな、本当に。
 一人前の事も言うようになって……表情や話し方や仕草は、まだまだ子供っぽいのに。
「それから、僕、もう一つ、みんなにお願いがあるんだ」 
 僕から離れ、弟はラーニャと向き直った。
 弟は非常に穏やかな顔となった。まるで父上みたいな落ち着いた顔だと、思った時、ガジャクティンは信じられない事を口にした。
「しばらくの間、勇者一行を離れたい。僕の内にある神の封印について調べたいんだよ。僕が神に捧げたものは、多分、霊力だ。それもかなり強い。どこの神とどんな形で契約を結んだのかを過去見で調べて相手を見極めたいし、霊能者が心霊等をどんな形で使役しているのか学んで来たいんだ。その上で、可能ならば封印を解いてしまうよ」


* * * * * *


 ラーニャ様も第一王子もアーメットまでもが、第三王子に詰め寄る。
 失った能力など取り戻さなくても良いではないか、そんな不確かなもの必要ない、あえて命の危険を冒すなど愚かだ、皆、そんな事を言っていた。
 だが、第三王子は兄達の剣幕を意にかけず、冷静に話を進める。
「だから、ちゃんと調べるんだよ、契約した相手が誰か。話が通じなさそうな荒ぶる神なら、残念だけど、諦める。だけど、理性ある相手なら交渉次第だと思う。神との契約は、互いに納得し合わなければ成立しない。封印を解いてもらう代わりに、神に僕のものを与える。でも、与え過ぎる必要はないんだ。対等以上に神と渡りあえるように、先に霊能者の所に勉強に行く」
 第三王子がラーニャ様を見つめる。真っすぐに。 
「取り戻せれば、僕はラーニャをより死から遠ざけられると思うんだ。僕はきっと、ラーニャの助けとなれるよ」
 ラーニャ様は睨むように、第三王子を見つめる。大きな瞳を震わせ、唇を噛みしめて。
「絶対、死なない?」
「死なない。まず契約を結んだ相手を調べる。こっちの命を奪いそうな相手なら、逃げて来るよ」
「でも、昔の契約を解除するって事は、あんた、何か代償を渡さないといけないんでしょ? 何を渡す気なのよ?」
「まだ決めてない。相手が誰かわかったら対策を立てる為に、霊能者というか、タカアキ様の所に弟子入りしようと思うんだ。代償はそれから決めるよ」
「タカアキって……」
 ラーニャ様の顔が真っ赤になる。
「姫巫女の所? 馬鹿言ってるんじゃないわよ!」
「何でタカアキ様の所なんだ?」と、第一王子。
「タカアキ様が優秀な霊能者であり、白蛇神と二十三年も連れ添っているからだよ。あの方は神と人とのうまい付き合い方を実地で学んでいらっしゃる。あの方から教われば、得るものが多いと思うんだ」
「でも、姫巫女はタカアキを食べてるのよ!」と、ラーニャ様が怒鳴られる。
「あんたも神様にその体を食べさせる気なの?」
「それは相手にもよるよ」
 興奮するラーニャ様に比べ、第三王子は涼しい顔を崩さない。
「同じやり方には、多分、ならない。神と付き合う上での心構えとか、自分のペースに持って行く方法とか、そういう事を学びたいんだ」
「ですが、キョウにはナラカ除けの封印がありますよ?」と、シャオロン。
 ナラカ除けの封印に弾かれ、第三王子は死にかけたと聞く。ケルティの上皇と姫巫女が居らねば、あの世にいっていたそうだ。その場に居合わせたシャオロンが心配するのも、もっともだ。
「はい、僕、キョウには入れません。でも、タカアキ様は僕の指導を引き受けてくださると思います。あの方は、僧侶ナラカに怨みを抱いています。ナラカと対戦する僕の戦力向上(アップ)の為ならご助力くださると思うんです」
「本当に……行くの?」
 ラーニャ様がますます激しい顔となって、第三王子を睨まれる。
「うん。ごめん、ラーニャ、僕ね、全部、内緒でやるつもりだった。カルヴェル様から手伝ってもいいって承諾がもらえたら、こっそり勇者一行を離れて、封印された力を取り戻しに行こうと思ってた」
「そんな事したら、どこまでも探しに行って、見つけたら、ぶん殴って、蹴っ飛ばしてやったわ」
「だよね。ラーニャの言う通りだ、大事な事を教えないのは仲間への裏切りと一緒だ。仲間を信頼してないって言ってるも同じだもの。無礼な事しようとしていたよ、本当にごめん」
 そこで、第三王子はカルヴェル様にも謝った。お願いするのが後になってすみません、しばらく僕に付き合っていただけませんか? と、第三王子が願うと、カルヴェル様はいつも通りの鷹揚な笑みで引き受けようとおっしゃった。おぬしを老けさせた償いはまだ終わっておらぬと思う故な、と。
「僕を信頼して。無茶はしないよ。姫勇者一行の戦力をアップする為に行くんだ、僕が死んだら戦力ダウンだもの。無謀な事はしない、誓うよ」
 第三王子は外見ばかりか雰囲気まで父親そっくりになっている。梃でも動かぬ強情さををもって、表面上は穏やかに相手と交渉している。
「運命に抗い続けたい。ラーニャを死なせたくないし、他の誰にも死んでもらいたくない。だから、僕は強くなりに行くよ。許して欲しいんだ、ラーニャ」


 弟を猫かわいがりしている第一王子は、不安のあまり胸がつぶれそうな顔をしていた。
 しかし、ラーニャ様は睨むばかりだった。今にも第三王子に殴りかかっていきそうな顔をずっとなさっていた。


* * * * * *


 包み隠さず何でも話すと約束したのに、ガジュルシンは生死に関わる大事を俺に教えなかった。他の奴等に秘密な事でも俺だけには教えてくれると言ったばっかりだったのに。
 嘘つきで、身勝手すぎる。姫勇者一行を救う為なら死んでもいいと思ってやがったんだ。そんな真似されたら残された奴等がどう思うか、よく考えたんだろうか、こいつは。
 俺は怒っていいと思う。
 従者仲間としても、影としても、恋人としても。


 けど、怒鳴れない。
 自室に戻ったガジュルシンはソファーに座ってぼんやりしている。
 俺はその隣に座った。が、無反応。
 ガジュルシンは泣きだしそうな顔で、寂しそうに何もない宙を見たままだ。完全に萎れている。
 俺まで泣きたい気分になってくる。
「ガジャクティン、格好良かったよな、一人前の従者だった」
「……うん」
「好きな子、守りたい一心かな? 旅に出てから急成長したよな」
「……うん」
「姉貴が好きだってのは、びっくりだけど……おまえ、知ってた?」
「……うん」
「本当に?」
「……知ってたよ」
 ガジュルシンがうつむく。
「……女の子なんか興味ないって言ってたのに、あいつ、ラーニャの前ではニコニコしてた。どんなに意地悪な事言われても、殴られても、まとわりつくのをやめなかったしね」
「俺には喧嘩売ってるようにしか見えなかったがなあ」
「……アーメットは恋には鈍いから」
 ガジュルシンが微かに笑う。笑ってるってようやくわかるぐらいの弱々しい表情で。
 俺は恋人の肩を抱いた。本当はぶん殴ってやりたいんだけど、文句をぶつけるのは明日以降だ。
「あいつ、俺よりしっかりしてるから、平気だよ。カルヴェル様も一緒だし、ちゃんとやるべき事やってくるよ」
「……うん」
「おまえの所に無事帰って来るから、待ってようぜ」
「……うん」
「俺は側にいるから」
 ここはちゃんと言うべきところだな。
「俺はおまえの『影』だ。何処にも行かない。ずっと側にいる。おまえを一人にはしない……だから、寂しかったら言えよ、俺を頼っていいんだぞ」


 だいぶ時間が経ってから、ガジュルシンが小さな声で言った。
『ありがとう』と。


* * * * * *


 話があるからちょっと残ってと、義弟を引き止めた。
 さっきの返事をしてやらなきゃかわいそうだもん。
 多分、こいつ勇気をふりしぼって告白したんだろうし。


 従者の一人が姫勇者一行を離れる理由を、バンキグ側にはカルヴェル様が説明してくださる事になった。武者修行と言うそうだ。まあ、嘘じゃないかな。シャーマン修行のが正しそうだけど。
 武を極める為の精進は、この国では好意的に評価される。ましてや、大魔王退治の為の修行なのだ。バンキグもガジャクティンの出国許可をすぐに出してくれるだろうとの事。
 出国許可が下り次第、国王や先王に御挨拶して、書類上の手続きをして、荷を整え……いろいろと支度してから出国する。
 さすがに今夜は無理だろう。
 でも、準備が整い次第、カルヴェル様が迎えに来る。移動魔法でまずはインディラ後宮へ……お父様達の元へ戻るのだそうだ。そこで過去見でガジャクティンの子供時代を調べ、契約した神の事を調べるのだそうだ。
 早ければ明日にでも……この馬鹿デカい義弟は私の前から居なくなるのだ。


 ガジャクティンに負けないよう、残ったメンバーは、連携を考えたり新しい技を身につけたりしようって事にはなった。
 そうはなったけれども……身の危険を冒してまで強さを求めに行くのは、こいつだけだ……


 アジンエンデは寝室に移動した。居間には無駄に大きい義弟と私しか居ない。
「正直、大魔王戦で頭がいっぱいなの。あんたからの告白の返事は、全てのケリがついてからでいい?」
 私からの返事を聞くと、ガジャクティン、笑いやがった。ニヤッ? ニッ? フフン? いや、まあ、生意気そうな顔で。
「僕、封印を外す時も、大魔王戦でも、絶対、死なないよ」
 義弟の顔がどんどんにこやかになってゆく。返事先送りだけど、本当のとこは遠まわしに断られたのだと、わかるだろうに。
「ラーニャも死なせない」
 ムカつくほどの笑顔。私はいらいらする。
「僕は父様似だからね、時間が経てば経つほど、ラーニャ好みのいい男になる。返事保留? 大歓迎さ。僕の愛の告白の返事、大魔王戦の後にくれるんでしょ? なら、死ぬわけにはいかないよね」
 口の端をニヤリと歪め、義弟が言う。
「ラーニャからのOKの返事を聞きたいもの」


 何でOKって決めつけるのよ。
 何よ、その品のない笑い方。お父様ならそんな、下々の男みたいな笑い方をしないわよ。さっきはお父様にそっくりと思ったけど、気のせいだったわ。あんたなんか、全然、好みじゃない。ガキよガキ。
 あんたみたいな、根性無しの、うるさいガキお断りよ。私は高貴で美しいM奴隷が欲しいのよ。


 ガキなら、ガキらしく守られてなさい……
 勝手に一人でどっか行っちゃったりしないでよ……


 悔しい……
 あんま格好いい事しないでよ、四つも年下なんだから……
 最後、ガジャクティン、虚勢をはってます。でも、ラーニャにはバレてませんw

 次章は『闇の聖書をめぐって』。ようやく四天王が動きます。

 明日からムーンライトノベルズに『女勇者セレス―――ジライ十八番勝負』をアップします。明日は対戦表のみ、明後日からの十五番勝負はおまたせいたしました、セレス女王様の登場です。千人斬りのジライ編から姫勇者に繋がる話にあたります。十八番の他の話から続いていますので、ジライの痛い子供時代の話も含まれています。が、セレスの清らかさが全てを圧倒します。十八歳以上の方はご覧いただけると嬉しいです。

十八番の後、ラーニャちゃんに戻って来る予定です。
+注意+
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