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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

全ての終わりが来る前に

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え? 嘘? 本当に? 待って、それは想定外!

 姫勇者一行に復帰するアジンエンデを迎えに行く前に、シャオロン様の部屋にお礼に行ったし、親父の所にも顔を見せた。


 シャオロン様は「公私の別はつけてくださいね」と、笑っていた。
 始終浮かれてないで、仕事する時はするようにって事だ。俺はもちろんだと頷きを返した。
 ガジュルシンとああいう事になって、お互いの事情を打ち明け合ってようやく、平常心を保つ事の意味がわかった。
『僕は君が思うような、心の綺麗な王子じゃないよ』
 苦しそうに顔をしかめて、ガジュルシンが言った。
『だから、大嫌いな人間がそばにいると、我慢できなくなるんだ、強欲な人間や、虚栄心の強い者、声が大きいだけの無能者、周囲に醜い感情を撒き散らす人間が側に来ると……僕はこの世から消し去りたくなる。やろうと思えばできるんだ……一瞬でね。魔力が強いから。そんな恐ろしい事をしたくないから……自分の感情を殺そうとしてるんだけど、たいてい駄目なんだ。押さえつけると行き場の無い感情が荒れ狂い自家中毒を起こしてしまう……自分の体を攻撃してしまうんだよ』
 軽蔑した? と、聞かれたからかぶりを振った。
 他人を傷つけないように自分が傷ついてるなんて馬鹿だけどいい奴じゃんって言ったら、ガジュルシンはちょっとだけ頬を染めた。『いい奴なのは、君だよ』って。
『君が側にいるとね……君の優しい魂を感じるんだ。醜い人間ばかりじゃない、明るく優しく強い人間もいるんだ……そう思えて大嫌いな人間も許せてしまう。僕の尖った魂を、君は包み込んでくれる。君は鞘だよ、他を切り裂く事しかできない僕をおさめてくれる大切な相棒だ』
 さすがに照れたけど嬉しかった、俺は必要とされてるんだって思えて。
『練気も……貰えて嬉しかった。君の精気が僕の内にあるんだもの、離れていてもずっと一緒にいるみたいだったし、君の強い生命力が流れてくるし……それに、接吻みたいで、貰う時、本当、ドキドキしたんだ』
 ガジュルシンは頬を真っ赤に染めて、視線をそらした。
 すぐ顔が赤くなるんだよな。そこまで照れ屋だとは思わなかった。世継ぎの王子として澄ました涼しい顔をしているか、具合が悪くてぐったりしてるか、そんなイメージが強かったのに。
 俺の前だけだよな、あんな顔するの。目をうるませながら、頬を染めるのが……すっごくかわいくって…… 
「アーメット、顔がゆるみきってますよ」
 シャオロン様に指摘されるまで気づかなかった、俺、又、マヌケな顔をしてたのかな?
「しっかりしてくださいよ」
 シャオロン様が俺の左肩を叩く。
 すみませんって謝ってから、ちょっと気になってた事を聞いてみた。シャオロン様は何時から俺がガジュルシンに恋してるって知っていたのか。
 最初に相談された時からって、シャオロン様は苦笑を浮かべた。
「あの時は、こじれないように現状維持の助言(アドバイス)をしたんです。お二人の関係がこじれちゃっても、オレ、フォローできないと思ったから。勇者一行に加わる前だったので」
 そうか。俺の相談より後だったけか、勇者一行の復帰が決まったの。 


 親父には、ガジュルシンとやってる時、覗いたらぶっ殺すと凄んでおいた。殺せるわけないけど。まあ、それぐらいの覚悟だって教えるつもりで。
 傀儡の術をかけられてる事は覚えてた。でも、ガジュルシンが可愛くてつっぱしっちまって……その後は側を離れるのが嫌で、もういいや、見せつけてやれって思ってやってた。
 だけど、ガジュルシンが『触れるのは二人っきりの時だけにして』って恥しそうに言ってきたから、見せびらかすのはやめようと思ったんだ。
「そんな趣味はない」 
 と、フンと馬鹿にするように笑ってから、覆面に忍者装束の親父は言った。
「目が生き返ったな」
 心配かけてごめんって言った方が良い。わかってたけど、言う気になれなかった。
「サボっていた分、今日から性根をいれかえて働けよ」って言われたから、わかったって答えた。
「ああ、そうじゃ。きさまらの爛れた関係じゃが、アジンエンデには言うなよ」
 そう言ってから、親父はニヤリと笑った。
「アジ族では同性愛は禁忌。教えに背いた者は名を奪われ、目を潰され或いは足の腱を切られ、小舟に乗せられ追放じゃそうな」
 げ。
「厳しい自然の中で生きておるのじゃ、子種を無駄にする阿呆が増えては一族が滅びる。北方では同性愛者は立場が弱い。にやけきった阿呆面をさらして主人を窮地に追いやるなよ」
 ったく……いつも、余計な事ばっか言うんだから、バカ親父……


 アジンエンデの部屋から帰る時、ガジャクティンをつかまえて礼を言った。『おかげで仲直りできた、ありがとう』って。
「ふぅん?」
 ガジャクティンが、ガジュルシンと俺を交互に見つめる。
「仲直りできたんだ?」
「ああ、いろいろ誤解や勘違いもあったけど、全部、話せたから、すっきりしたよ」
「影やめないんだね?」
「うん。一生、影だ。決して側を離れない。俺は俺のガジュルシンを命を賭けて守るよ」
「そう……」
 ガジャクティンは俺をジーッと見てから、ガジュルシンににっこりと笑いかけた。
「良かったね、兄様」
 ガジュルシンの顔が火をふいたように赤くなる。
「ありがとう……おまえにもいろいろ心配をかけたよな……すまなかった」
 って、消え入りそうな声で言って、ガジュルシンがうつむく。
 あれ?
 何、その微妙な雰囲気。
「………」
 ガジャクティンも知ってたのか? ガジュルシンが俺を好きだったって。姉貴も知ってたし、親父も知ってたぽかったし……
 もしかして……
 俺だけか? 
 気づいてなかったの、俺だけ?
「ごめん、先に部屋に戻ってる」
 ガジュルシンがそそくさと廊下に出て行く。
 追いかけなきゃと思って、俺は手短にガジャクティンに言った。
「あのさ、思い出したよ、×××って。おまえの昔の友達だろ?」
「え?」
 ガジャクティンがきょとんとした顔をした。
「ごっこ遊びの時の、友達だよ。おまえにはたくさんいたじゃん、×××とか●●●とか。友達がいるつもりで、よく一人遊びしてたよな?」
「あ……」
「俺らと遊ぶ時にも、たまに、そいつら入れたじゃん。姉貴は『ごっこ遊びと現実の区別をつけろ』って怒ってたけどな」
「そうか……」
 ガジャクティンが床に目を落とす。
「そういえばいっぱい居たよね……僕にしか見えない友達が」
「う〜んとちっちゃいガキの頃には、な。ガジュルヤーマが生まれる前ぐらいまで」
 寂しかったんだろう、きっと。同い年の義兄のいた俺と違って、ずっと、オマケ扱いされてたから。
「ありがとう、アーメット……助かったよ。誰だったか思い出せなくって、気になってたんだ」
 うん、わかる。どうでもいい事が頭から離れない事ってあるよな。
「役に立てたんなら良かった。じゃ、俺、行くわ」
 俺は廊下に出て、急いでガジュルシンを追いかけた。


* * * * * *


 僕用の部屋に戻ってから、まずカルヴェル様の手紙を開いた。
 だいたい予想通りの答え。
『大魔術師といえども何でもわかるわけではない、買い被ってくれるな』という断り書き、それから神と信者の契約の(パターン)
 真実を知りたいのなら、過去見の魔法か、ラーニャの手からアジンエンデに渡る真実の鏡に頼るのが良いとも書いてあった。タカアキから姫勇者一行に渡されたモノはこの前、ご説明したからカルヴェル様もご存じなのだ。
 満月の夜にのみ、知りたい真実を映しだすという鏡。
 その鏡には何が映るのだろう?
 人の目には映らぬ友達に囲まれた、幼い頃の僕だろうか?
 思い出してきた。
 昔は、僕にしか見えないものがいっぱいあったんだ。
 その話をしても、舌ったらずな幼児の言う事だ、誰にもわかってもらえなかった。ごっこ遊びと思われたり、見間違えだと言われたり、想像力が優れていると褒められたり、他のものの事を言ってるんだろうと勘違いされたり……
 友達がどんな形をしていたのか、どんな事を話したのか……思い出せない。記憶にモヤがかかっている。神秘に関わる記憶は消されているんだ、きっと。
 僕の相手は……幽霊? 精霊? 古えの神?
 ただ、一人や二人じゃなかった。いっぱいいた。それだけは確かだ。それと、皆、あまり仲が良くなかったような。
 僕はインディラ神ではなく、友達のうちの誰かと……
 常人の目には見えない古えの神か精霊と、契約を結んだのだろうか?
 代償として神秘に通じる力を渡して?
『そもじさんが頂いたモノもその他のモノも全て捨てる覚悟で心から願えば、神意に通じ、無くしたモノを取り戻せるやろ。強い力や……けど、それを取り戻したら、そもじ、死ぬかもしれんえ』
 僕が失ったものは……霊力か?
 苦もなく周囲の霊達と語りあって、子供の遊びにつきあわせていたんなら……心霊か精霊か神霊かわかんないけど使役できてたってわけだし、確かに、相当、強い能力だろう。
 想像通りなら……
 僕は……
 大馬鹿だ……
 大人になんてほっといたってなれる。なのに、そんな強力な能力を代償にして成長を促進してもらったわけ? 『父様のような大人』の外見に? 
 馬鹿じゃないの、幼児の僕!
 救いようもない。
……カルヴェル様に頼みたい事は決まった。
 つづいて、僕は父様からの手紙を開封した。
 まず、アジンエンデのこと。共通語を忘れてしまった代わりに、霊力が高まったそうだ。気づかってあげて欲しいとある。全員の手紙に同じ事を書いてあるんだろうな。
 アジンエンデがとても落ち着いていたのは、霊力が高まった事でシャーマン戦士として自信を持てたからか? 気持ちの整理もついたのかな?
 それから、『雷神の槍』の使い方の助言(アドバイス)。兄の助けとなりラーニャを守る為に、頑張るようにという励まし。母様やガジュルヤーマの近況、インディラ国の様子が書かれていた。
 僕は笑みを漏らし、手紙を抱き締めた。
 締めにはこうあった。
『何時、いかなる時も、勇者の従者としてこの世を救う戦いに身を投じている我が息子ガジャクティンを誇りに思い、十四歳の小さな戦士に敬意を表す』と。


 僕は、勇者の従者なんだ……  


* * * * * *


 アジンエンデの部屋に向かう途中、廊下でガジャクティンに会った。
 正直、ゲッと思った。
 最近、こいつ、しつこいのだ、知恵の巨人から何を教えてもらったんだって。
 話せるのは、ルゴラゾグス先王達の前で話した事ぐらいだって言ってんのに、納得しない。ガジュルシンもアーメットも納得したってのに。ジライは遠ざけてるし、シャオロンは、まあ、表立っては特に何も言わない。
 こいつだけなのだ、何か聞き出そうと粘ってくるのは。
 だから、なるべく部屋に籠ってたし。外でつきまとわられたら、こっちも黙らせる為に、神様の封印の話を持ち出し説教をしてやった。『あんたが向こう見ずな馬鹿なのは知ってるけど、無くしたモノを取り戻す為に無茶したらぶん殴ってやる』みたいな感じで。
 それで、もう、互いにやかましいって事になって、お開きにもちこめたんだけど……
 今日の義弟は何か余裕で、『うん、もちろん、そんな事しないよ』ってニッコリ笑みでかわしてきやがる。
 くそ。何かふっきれたわけ? 
「最近、『勇者の剣』様と仲が良いよね」
 私の背の大剣を見て、でっかい義弟が糸目を更に細める。
「背負えなくて寂しい? 何なら、たまに貸してあげようか?」
 私がそう言うと、ガジャクティンがかぶりを振った。
「いいよ。ラーニャが『勇者の剣』様と仲良くなるにこしたことないもの」
 あらま。
「僕が気になってるのは……『勇者の剣』様がラーニャの事を気づかってるんじゃないかってこと」
 ん?
「突然、仲良くなるなんて変だもの」
 む。
「もしかして、ラーニャがすっごく大変な状況になってるから、剣様、同情して御力を貸してくれてるんじゃない?」
 むぅ。
「ねえ、ラーニャ、何か、ラーニャにとって悲しい未来があるんでしょ? 話してくれない? 力になりたいんだ」
 やだもう、こいつ、うっと〜しい。
「僕、従者だもの。勇者の力になりたいんだ」
 あんたの助けなんかいらない……私は苛々した。
「ああ、そうよ。ちょっとばっかし、大変な事になりそうなのよ。だから、その件が落着するまで、『勇者の剣』が私の言う事を聞いてくれる事になったの」
「やっぱり」
 んもう、何よ、その得意そうな顔。想像が当って嬉しいってわけ? ガキ!
「でも、もう大丈夫よ、カルヴェル様にご相談したから。カルヴェル様のご助言がいただけたから、もう何の問題もなし。その通りにすればいいだけだもん。ほっといてちょうだい」
「どんな事をご相談したの? これから何が起きるの?」
「あんたには関係ない。私の個人的な事だもん」
「だけど、一人で抱え込む事ないじゃない。何かあった時、勇者を助けるのが従者でしょ?」
 その助けがいらないのよ。側に来ないで欲しい。
「ねえ、教えて、ラーニャ、僕はラーニャを助けて支えたいんだ」
 うるさい! うるさい! うるさい!
「あんたに何ができるってわけ?」
 私は廊下の壁を裏拳でぶん殴った。
「十四才のガキのくせに! 魔力もたいしてない武術だってまだまだのお子様が、いっちょまえの顔するんじゃないわよ!」
 ガジャクティンがムッとして私を睨む。
「言ったでしょ? 大魔術師様のお知恵を借りたって! 『勇者の剣』も助けてくれる事になったって! あんたみたいなヘナチョコのガキ、いてもいなくても同じ! ううん、寄って来られると守らなきゃいけなくなるから、それだけ手間だわ! まとわりつかないでよ!」
「何だよ……それ」
 お父様と同じくらいデカい義弟が、お父様そっくりの声で怒鳴ってくる。
「ラーニャなんかすぐにパニックになるくせに! この前だって、兄様達がさらわれた時、無策でつっこもうとしたじゃないか!」
「でも、その後でちゃんと落着させたわ!」
「馬鹿じゃないの? 仲間がいないと困るのはラーニャだろ? バンキグ語だって話せないし、馬鹿だから国王様達ともきちんと話し合えないし」
 ムカッ!
「そんな話、どーでもいいでしょ!」
「よくないよ! 僕はね、ラーニャが恥をかかないように従者になってあげたんだ。父様から頼まれたんだから」
「あんたの助けなんか、もういらない!」
 私は背の『勇者の剣』の鞘を左手を後ろ手にして叩いた。
「もう背負えるもの! あんたの役なんて、最初から『勇者の剣』の運び手ぐらいしかなかったんだから! 私よりも四つも年下のガキが、偉そうに従者面するんじゃないわよ!」
「ラーニャ!」
 ガジャクティンが噛みつくように怒鳴る。
「年下なのは仕方ないだろ? 僕は生まれた時からずっとラーニャより四つ下なんだ! どうあったって、その溝は埋まらないんだから!」
 ああああ、もう〜〜〜〜
 うるさい!
「あんたは、アジンエンデの所へ行ってりゃいいのよ! 大好きなアジンエンデが帰って来たんだから、彼女と一緒にイチャイチャしてなさい! 私はほっといてよ!」
 いきなり、ドンと背から壁にぶつかる。
 目の前には凄い形相のガジャクティン。
 え?
 嘘?
 肩を押さえられてるだけで、動けない。
 何で?
 すごい握力。
 お父様似のガジャクティンは筋力まで似てるの?
 くそぉ。蹴ってやろうか。
「いい加減にしてよ、もぉ……ラーニャが馬鹿すぎて嫌になっちゃう……」
 廊下に轟くような大声で、義弟が叫んだ。
「アジンエンデは友達だって言ってるだろ! 僕はラーニャが好きなんだ!」


 え?


「子供の頃からずっとだよ……ずっと好きだったんだ……なのに……」


 嘘?


「ラーニャったら、お父様、お父様ばっかりだし、ガキは嫌いだって言うし……」


 本当……に?


「僕はラーニャの助けになりたいんだ! ちょっとぐらい頼ってくれたっていいじゃないか!」


 ええええ〜〜〜〜〜!
 待って、それは想定外!


 それっぽい態度、今まで無かったじゃない!
 いっつも、私をからかってばっかだったし!


 その上……
 何か廊下に人だかりができてるんだけど……?
 戦士やら召使やらバンキグの人達がわらわらと……
 大騒ぎしちゃったからなあ……


 北方の王宮で、義姉に告白する王子って……
 マズくない、これ?
 私達、母親違いの本当の姉弟って事になってるのよ。
 どうしよう?
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