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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

黒くうつろなるもの

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愛と誓約! 魂が求める相手!

 忍者ムジャはキリキリと痛む胃をおさえ、魔術師協会の移動魔法サービスを使用してジャポネからウッダルプルの街中まで移動し、王宮へと向かった。


 留守を任せていた副官ヴァーツイから報告を受け、ムジャの気鬱は激しくなった。主人(ナーダ)は表での政務を影武者ヤルーに任せ、後宮に居る。ムジャの到着を待っているのだ……
 胸の内はジライへの不満でいっぱいだった。一人でバンキグ(安全地帯)に逃げるなんてズルい。いらん時には呼びつけるくせに、伴って欲しい時には置いて行くんだから。俺一人にナーダ様を押しつけて~と、叫びたい気分だった。
 信心深い国王ナーダの私室には大きな祭壇があり、主人は、そこでほぼ毎日、死者を供養している。王子時代、大僧正候補時代、そして国王に即位してから後、自分の為に亡くなった人間に祈りを捧げているのだ。驚異的な記憶力の持主である主人は、己の為に死した忍の名も命日も全て記憶していた。政変の中で死亡した名も知らぬ兵士達の為にすら祈る主人だ、ガルバやジライの部下として命をかけてくれた忍者達にはひときわ情をかけてくれていた。
 その中でも、ガルバに対する祈りには心がこめられていた。命日でも月命日でも時間を多くさき、意外と美食家(グルメ)であったガルバならば喜んで食したであろうものを供物に捧げ、最近の出来事などを語って聞かせていたのだ。穏やかに微笑みながら。
 そんな主人の姿を目にしてきたのだ、ムジャはずっと良心の呵責と共にあった。
 主人は、老忍者の堕落を不快に思うであろう。だが、口では非難こそすれ喜んでくれるはずだ、老忍者が真の主人の下に帰れた事は。主人は老忍者を父とも祖父とも慕っていたのだから。
 騙しているのはつらかった。真実をお伝えしよう! と、数え切れぬほど思ってきたのだ。
 だが、しかし……
 上司が許してくれなかったのだ。
 最初は女嫌いの主人に妃を持たせる為、その後は子作りさせる為、第一王子が産まれてからは王子が一人では心もとないとの理由から子作りをさせ続ける為、『老忍者の死の真相』は伏せられた。
 この十九年、ジライは『ご老体はこう望んでいた』とか、『ご老体ならばおまえを思い、こうしたであろう』とか、『老忍者ガルバ』を主人説得の切り札に使い続けてきた。目的の為ならば、何でもやる頭領がうまいカードを捨てるはずも無く、真実は隠され続け…… 
 そのツケが全部自分に押しつけられたのだ……ムジャは痛む胃をおさえつけた。
 物陰に潜み後宮に向かうと、侍女の姿のくノ一に足止めされた。
 姫勇者の従者の女奴隷戦士と二人っきりになりたいと、ナーダは人払いをして結界に籠ってしまったのだと、くノ一は言う。
「セレス様さえ下がらせたのですよ、これはもしかして……もしかしてじゃないんですか、副頭領?」
 ムジャが何がもしかしてなのかと問うと、若いくノ一はきゃぴきゃぴと答えた。
「第三夫人誕生です」
 くノ一は興奮して、嬉々として語った。
「あの赤毛の女戦士、すっごい美人なんですよ。今は病でやつれてるけれど、胸もお尻もはちきれそうなほどあるし、すらりとしてるし、若いし。申し分のない寵妃になりますよ♪」
「おまえ、後宮務めを始めて日が浅いのだろう?」
「え? はい、まだ三週間です」
 それでかとムジャは溜息をつき、周囲の者から後宮の事情と主人の性嗜好の情報をもらっておくようにとだけ、くノ一に伝え、別れた。
 主人(ナーダ)は女嫌いなのだ。女性がそばに寄ってくるだけで鳥肌を立て、接触していればひどい時には嘔吐するほどの。世継ぎが持てたのは、頭領の優れた房中術の賜物、まさに奇跡だった。
 主人が同衾の為に女性と二人っきりになるなど、ありえない事だった。


* * * * * *


 ソレを城と言っていいのか疑問だったけれど、とりあえず城にしとく。
 私達姫勇者一行――私、ガジュルシン、ガジャクティン、シャオロン、ジライ、忍者装束のアーメット(セーネはお留守番)――とバンキグ側のカラドミラヌと二人の宮廷魔法使いと二人の司祭は、ガジュルシンの魔法で広野に移動し、それから宮廷魔法使いの移動魔法で結界内に入った。
 瘴気だらけの中を、ガジュルシンの聖なる結界に守られ、私達は魔族の城へと向かった。
 ソレの上部に穴を開き、中から魔族が飛び出す。鳥とか虫に宿った下位魔族だ。
 穴が開いた瞬間、中に飛び込めないものかしら? と、尋ねたら、できなかったとバンキグの宮廷魔法使いが答える。開いた穴から魔族は出入りできるのだけれども、人間も道具もダメ。通れないのだそうだ。
 シャオロンが右手の『龍の爪』で竜巻を生み出し、迫り来る魔族を浄化する。中~遠距離の浄化攻撃が出来るんだから、『龍の爪』は便利。進行ルーート上に存在する邪魔な魔族も同様に消してくれる。雑魚相手に魔力を消耗するのはもったいないから任せてくれと言って。
 そんなシャオロンを見てカラドミラヌが尋ねる。
「片爪はどうした? 無くしたのか?」
「左手用の『龍の爪』はお借りしていたものでしたので、大魔王討伐後にジャポネの龍神湖の真龍にお返ししました」
「ほう、龍に。龍ってデカいのか?」
「とても大きく雄々しくお美しいです。オレは直接、そのお姿を見たわけではありませんが……龍神湖で半睡するお姿を心の目で拝見した事があります」
 真龍……
 そうか、と思う。古代からジャポネに住む神獣の水神……今、使っている右手用もその水神のものだ。神の爪を借りているシャオロンは龍神湖の龍のお手つき扱いとなるのだろう。シャイナ教徒だけど、信仰する神とは別の神の恩恵を受けているんだ。
 ガジャクティンに封印の印をつけた神様も、インディラ神とは限らないのだ。信仰しているインディラ神の可能性が一番高いけど。
 徐々に魔族の城が近づいてくる。
 見れば見るほど異常だ。
 黒く染まった空気の中に、ソレは存在していた。
 大きさは十階建ての建物ぐらいだろう。
 ソレの表面は流動している。屋根のてっぺんから大量に黒いモノが湧き出て、もぞもぞと動いて下へ下へと流れてゆく。噴水にちょっと似てるかも。で、流れ落ちてきた半固形の黒いモノはソレの下層部が飲み込んでゆく。地面に触れてる辺りが吸引しているんだ。
 液状とも固形ともつかない黒いモノがドロドロと上から下に流れているわけだ、絶えず。
 で、その形なんだけど……
 私は嫌な気分でソレを見つめた。
 例えるなら……
 巨大な腐った生首なのだ。
 目や鼻や口や耳はない。けど、それがあるべき場所には窪みがあって、ちょっとだけネチョネチョがそこに沈む動きをする。
 人の頭の形をしたモノの頭頂部にあたる部分から黒の気に染まった泥とも膿とも血肉とも思えるモノが湧き出て、人の顔の形をしたモノをなぞってドロドロと流れ落ちてゆき、首にあたる部分に飲み込まれてゆく……
 永遠に腐り続ける晒し首って言った方がいいのかしら?
 気色悪い。
 攻撃を仕掛けるのは、反射が無くても嫌だな……表面、臭そう。なまあたたかくネチョネチョしてそう。
 あんなモノに触れて中に入れるか試したのか……偉いなあ、バンキグの人。
 こんなモノ造った奴の気が知れない。確かに悪趣味。視覚だけで人間の嫌悪を誘えるってのが良いのかしら、魔族にとって?
「ガジャクティン、結界維持を手伝ってくれる?」
 ガジュルシンの願いに、『勇者の剣』を背負い『雷神の槍』を持った義弟が尋ねる。
「結界に魔力を同調させればいいの?」
「うん。これから探知の魔法であの城を調べる。精神的な衝撃を受けて動揺してしまうかもしれない。いざという時は、代わりに結界を維持して」
「わかった」
 挨拶以外で口をきいたの、今日はこれが初めてだと思う、この二人。ガジャクティンがトゲトゲしてるのよね、ガジュルシンと私に対してだけ。まったく、かわいくないガキ。
「バンキグの魔法使いの方には、緊急時の移動魔法をお願いします。何時でも術が発動するよう、準備をお願いします」
 二人の宮廷魔法使いが頷く。そのうちの一人が移動魔法を担当するようだ。この人達の移動魔法って、術の詠唱だけで数分かかるのよね。
 術の発動って保留しておけるモノなの? 素朴な疑問だったので宮廷魔法使いに尋ねると、精神集中をしていればわずかな呪文を残した状態で発動を保留にできるらしい。精神疲労があるので保留は三十分が限界なのだそうだ。
 探知の魔法は、バンキグの魔法使い達も何度かアレに試してる。けど、大魔法使い級のガジャクティンならば何か新たな真実を発見できるかもと期待されてるみたいだ。
「司祭様達には神聖魔法をお願いします。あの城に向かって、人体には無害な神聖魔法を放ってください。城の反応を調べたいのです」
 シベルア司祭二人が承知の意を伝えた。
 ガジュルシンがあの生首城を調べている間、生首城を攻撃しないようにシャオロンは竜巻を放つ。私やジライやアーメットはとりあえずは何もする事はない。あ、カラドミラヌも暇仲間か!


* * * * * *


 私のとりとめのない言葉に、大男が耳を傾けてくれる。
 ラーニャの母はいない。苦しみは打ち明けた方がいいと優しく慰めてくれた方を、私は追い出してしまった。あなたには胸の内を聞かせられないと言って。
 だが、言えるわけがない、あなたの夫に恋していますなんて……
 私は全ての感情を吐露した。
 もう話せる事はない。後は何を口にしても、同じ話の繰り返しになるだけだ。
 私が口を閉ざすのを待ち、それからガジャクティンそっくりな父親は私に尋ねてきた。
「あなたは神との誓いを果たさねばいけないと考えてらっしゃるんですね?」
 私は頷きを返した。
『私の操は、私以上の実力の戦士に捧げる。私の目にかなう者が現れぬ限り、穢れを知らぬ身で神の戦士として戦う。しかし、アジの族長となった今、魂が求める相手とであれば神聖な子作りをなす』
 私はそう誓いをたててしまった。誓いは絶対だ。
「ジライがあなた以上に強く、しかも、魂の求める相手だから?」
 私は再び頷いた。
「それは何においても優先しなくてはいけない事なのですか?」
「優先?」
「あなたには、『極光の剣』の振るい手としての使命があります。父親を探し、父親の姿を見極め、剣を正しく使う為に、ラーニャの旅に加わったと聞いています。その使命よりも誓いの方が優先されるのですか?」
「そんな事はない……」
 私はうつむいた。
「だが……こんな気持ちでは戦えない……私は壊れた……いつもあの男で心がいっぱいなのだ」
 頬を熱いものが伝わる。
 大男が手渡してくれた布で、顔を拭いた。が、後から後から涙が流れてくる。
「あんな男……どこがいいのかわからない……姿は美しいが、ラーニャに殴られて喜んでるんだぞ、変態ではないか」
 そうですねと、大男が頷く。
「ラーニャと妻以外の人間には冷淡で冷酷で……道徳心の欠片もなく……神族を敬う心もなく……私のことをそこらの石を見るかのように見る……そのくせ、からかうのだ、『してほしいのならそう言え。願いをかなえてやらんこともないぞ』だなんて……」
「ああ……それはジライが悪いですね」
「そうだろ? あの男が悪いだろ?」
「ええ、ジライが悪いですね」
 大男の心の内の怒りの炎はもはや見えぬほど小さい。
 代わりに、穏やかな海のような深いモノを感じた。静かな波が私を包み込んでくれる。
「私に情などないくせに……誘惑するなど、ひどい……関心がないのなら無視してくれればいいのに……接吻までして……」
「口づけは愛する方としかしたくない?」
「当然ではないか」
 私は拳を握り締めた。
「妻であれ妾であれ、夫には誠実に仕える。夫も一度(ひとたび)囲った者は誠実に最後まで面倒をみる。それが男女の繋がりではないのか?」
「誠実……」
 大男は何かを考え込むように、少しうつむいた。
「あなたは男女の関係に互いに必要なものを、誠実とお考えなのですね?」
「そうだ。女は夫に仕え、夫は家族を守る。妻も子も妾も妾腹の子も……皆、抱え、守る。それが男だ……抱えたものを愛し、捨てぬのが男だ。ケルティの男だ」
「……そんな誠実な方を夫としたいと思っていたのですね?」
「ああ。ずっと……思っていた……」
「小さい時から?」
「小さい時から……」
「母親と二人で暮らしていた時から?」
「……そうだ」
「そうですか……」
 大男の優しい波が私を守るように包み込む。
「アジンエンデ……あなたの魂が求める相手はジライではない」
「え?」
「あなたやその家族を決して捨てない男性……あなたを孤独にした身勝手な父でも、あなたに無関心なジライでもない。あなたに誠実な男性です」
「私に誠実な男性……?」
「そんな方が身近にいませんでしたか?」
「………」
「ジライの個性は強烈ですから、あなたはジライに惹かれたのです。その感情は恋と言って良いでしょう。でも、ジライはあなたの『魂の求める相手』ではない。神の誓いに縛られる必要はありません。あなたはあなたのしたいようにすればいい」
「したいようにする……」
「あなたより強いジライに身を任せるのでもいい、あなたに誠実な男性と共に生きるのでもいい、『極光の剣』の使い手の使命に生きるのでもいい。心のままに生きていいのです。あなたは敬虔深く優しく強い方だ、あなたが心のままに生きても、決して神の御心から離れないでしょう」
 眩しい。
 大男が輝いて見える。
 日の光そのものだ。
 ラーニャの母は絶えず輝いていた。が、大男は、烈火の炎にもなるし、海にもなるし、神のごとく輝いたりもする。とらえどころがない、しかし、大きく、寛容だ。
……ラーニャがこの男が好きな理由がわかったような気がする。
 忍者ジライを心に浮かべてみた。
 吹雪の化身のように美しい男。あの男が欲しい……あの男の目を私に向けさせたい……そんなあさましい感情が消えたわけではない。
 だが、狂おしいほどの苦しさはなくなった。
 私は親父殿とは違う男と結ばれたかった。私が小さかった頃、片親どころか両親がいない子供が多かった。魔に国が荒らされた後なのだ、働き手も少なかった。
 だからといって、八人の違う女に子供を産ませておきながら、国も家族も捨てた男を許せるわけもない。死んだのなら仕方ない。だが、生きているのなら家族を養うのが父なのではないか?
 忍者ジライなど……抱いてもらえたとてその時だけだ。あの男はすぐに私を捨てる。私が子をなしたとて捨てる。妻とラーニャ以外の人間は、あの男には、どうでもいいのだ。
 理想の男性と、あの男が違いすぎて苦しかったのだ。あの男を夫として考える事が無茶だったのだ。
 しかし、あの男が『魂の求める相手』でないのなら……応えてもらえずともショックはない。
 アレはそういう男なのだ。
 私は私として生きていいのだ。
「私は……『極光の剣』に恥じぬ持ち手でありたい」
 大男が優しく微笑みながら頷きを返してくれる。応援されているようだ。少し嬉しくなった。
「私はラーニャのもとへ帰りたい……帰れるだろうか?」
「そうですね……あまり無茶な治癒はしたくないので……三日、いえ、二日は待ってください。移動方法は、多分、それまでには何とかなるかと……」
「移動方法?」
「ラーニャ達、今、バンキグに居るのです」
 ケルティの隣国バンキグに? 北方ではないか。北方と南は国交が断絶している。めったなことでは、国境は越えられない。
 大男が微笑む。私を安心させようとしているのだ。
「大丈夫です。カルヴェル様に連絡をとりましたから。あの方なら、あなたを連れて移動魔法で国境を越えられる。南の人間ですが、北方諸国を自由に行き来できる権利をお持ちですので」
 北方人の私が南に来られたのも、カルヴェル様の女奴隷になったという細工をしたからだ。確かに、あの方に頼れば何とかなるだろう。
 突然、大男の言葉が変わる。又、わからない言語だ。何語だろう? 私が眉をしかめ首をかしげると、大男は、又、ケルティ語に切り替えてくれた。
「まあ、北方に行くんだし……シベルア語は覚えておられるようですし、何とかなりますよね」
 どういう事だ?
「アジンエンデ、私、さっき、共通語を話したんですよ」
「え?」
 大男はいたわるような目で私を見る。
「白蛇神の器となった為でしょうか、魂が揺さぶられた衝撃に、あなた、共通語を忘れてしまったようです」
 共通語がわからなくなった……?
 南に行ってから、時間を見つけては勉強し、皇宮に行く頃にはだいぶ会話がわかるようになっていたのに……
 言われてみれば、単語の一つも思い出せない。思い出そうにも、ポッカリ記憶に穴が開いたようだ。
「体の治癒も大事ですが、魂も心配です。他にも記憶が欠落しているところがあるかもしれない。アジンエンデ、目覚めてから何か違和感がありませんか? 前と異なっている事は?」
「目が……おかしくなった」
「目? 見え方がおかしくなったのですか?」
 私はかぶりを振った。
「あなたはそこにいる。だが、憩いの森を感じる。あなたは私を癒したいと思っている。先程まで、あなたは日の光のように輝いていた。神の御力を借りる時、或いは神の御心を思う時、あなたは神々しく光る。だが、最初に会った時は燃え盛る炎だった。あなたは……」


* * * * * *


「つまり……白蛇神の器になった為に、アジンエンデの霊力が高まったってわけ?」
 私の問いにナーダが頷きを返す。
「相手の魂が見えるようです。あなたは絶えず白銀に輝いていて美しかったと言ってました」
「あら、嬉しい」
 話し疲れたのか、心の重荷が解けて安堵したからか、アジンエンデは、今、ぐっすりと眠っているそうだ。
「共通語を代償にして、霊力の向上を得たのかしら?」
「……かもしれませんね」
 ナーダは、少し悲しそうに微笑んでいる。
 まだふっきれてないのね。霊力の高い人間や、真実を見る目を持つ者、才を天から授けられた天才をナーダは羨んでいる。
 従者の頃は自分の優秀さを鼻にかけてる偉そうな嫌な奴と思ったんだけど、偽装夫婦になってからわかった。それは劣等感の裏返しだったのだ。ナーダは自分は凡人だと思いこんでいる。努力して天才との間を埋めているが、どうあがいても天才の域まで到達しない。神から愛されずに生まれた自分を恥じているのだ。
 馬鹿じゃないの! って何回も言ってるのに、聞く耳持たない。ものすごい記憶力があって、信仰心も高くて、格闘は国一番で、どんな武器でも扱えて、魔法が使えて、芸術面にも才があって、もと大僧正候補で今は国王なんでしょうが! あなたが凡人なら他の人間はどうなるのよ! って言ってるのに〜〜〜
 だいぶマシになったけど、ジライも劣等感が強い。白子なのを卑下しているのだ。まったく、うちの男どもは馬鹿ばっかりよ!
「ムジャと話してきます、アジンエンデのこと、頼みましたよ」
 私は大きな夫を見上げた。
「アジンエンデ様さま、ね」
「え?」
「気づいている? あなた、今朝まですっごくギスギスしてたのよ。触れるだけで棘が刺さるんじゃないかと思うぐらい」
「……すみません」
 私はにっこりと微笑んだ。
「ムジャはガルバさんとジライに口止めされてたんだと思うわ。あの人、誠実だから、あなたを騙したくて騙してたんじゃないと思うの」
「……わかってますよ」
「あんま怯えさせちゃ駄目よ」
「わかっています……ムジャを責める為に召還したのではありません。私は真実が知りたいのです。僧侶ナラカとのいきさつをね……可能な限り思い出してもらいます。伯父上が何故、今、暗躍しているのか……その時の会話に、何か手掛かりがあればいいのですが……」
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