挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

北からの誘い

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

52/115

波乱の予感! バンキグへの道!

 シルクド国王との話は、あっという間に終わった。
 既にシャイナとの国境には、宮廷魔法使いが待機済みなのだそうだ。勇者一行の準備が整い次第、バンキグとの国境付近まで移動魔法で運んでくれるのだとか。昨日、国境の利用をエウロペ国王から求められたばかりだというのに対応が素早い。さすが交易で栄えてる国だ。何事にも迅速サービスが売りなのね。
 シルクド国境の使用許可が下りたので、北国行きは具体性をもった。早速、ガジュルシンはバンキグと連絡をとるのだそうだ。昼食も食べずに。
 私は皇帝との昼食。
 ガジャクティンも一緒だ。同じ昼食の席に着いた。妙にハイなおチビに比べ、非常に表情がかたい。昨日からずっと塞いだ顔をしている。死ぬかもしれないって言われれば誰だって深刻になるわよね。でも、暗い顔してたら気分まで暗くなる。元気づけたげようとしたら、あからさまに嫌そうな顔をして舌打ちをした……舌打ちって……義弟のくせに生意気な! んでもって、お父様そっくりな顔で、お父様そっくりな声で『今日という貴重な一日は是非、皇帝陛下の為に。従者など気にかけないでください』と、そっぽを向いた。んもう、可愛くない! 馬鹿! 心配してるのに! あんたなんか皇帝のツメの垢でも煎じて飲んどけ!
 ジライはいない。どっかに隠れてるのかもしれないけど、少なくとも見当たらなくなった。
 シャオロンは自室に戻って急いで旅の支度。
 私達が昼食を終えてからじきに、ガジュルシンがアーメットと一緒に部屋に現れ、私と皇帝に報告した。
 明日の朝十時より正午までバンキグ国境が開かれるのだそうだ。
 私達は今日中にバンキグ行きの準備を整え、明日の朝早くにシルクドへと移動し、十時前にはシルクドとバンキグ国境まで移動しておくのだそうだ。
 今日中にバンキグ入りしちゃえばいいのにと私が言うと、ガジュルシンは苦笑を浮かべた。
「僕等がこのままの格好でバンキグに向かったら、凍死するよ、ラーニャ」
 むぅ。
 向こうじゃ、もう、雪が降ってるらしい。まだ十一月なのに、早い。 
 インディラは南の国だけど、常夏じゃない。ウッダルプルも冬は冷える。だから、雪を見た事はある。でも、家が埋もれるほどの雪とか、吹雪とかは知識でしか知らない。私には暑さ寒さに無縁の優秀な神聖防具があるから、凍死はないとは思うけど。
 姫勇者一行の旅の支度は、シャイナ皇宮に手伝ってもらう事になった。
 半日で大急ぎで旅の準備を整えるのだ。勇者一行全員と、それから召使の分……
 バンキグにはそれぞれ召使を二名伴えるんだそうだ。へええ。


* * * * * *


 外朝の隠し小部屋で、北方での今後の活動について、部下達と相談し、あれこれと指示を出した。
 この部屋は本来、シャイナ国の諜報機関が使用していたものだ。が、諜報組織は大魔王教団にのっとられ、無能化していた。現在、組織は立て直し中で、皇帝の承認を得てインディラ忍者が協力・指導をしている。
 シャイナ人の若手諜報員を教育し、組織立て直しの指導をしているのはクルグだ。ご老体の子飼いの部下の一人だ。温和な人柄ゆえ、シャイナ人達に反発される事なく受けいられているようだ。
 アジンエンデ役はセーネに頼む事とした。外見はあまり似ておらぬが、他の人間を教育する時間はないし、セーネならばアジンエンデ本人を知っている利点もある。両手剣、赤毛のカツラ、腕甲は問題なく調達できる。ブーツは多少の工夫をした方がよかろうが。アジンエンデに比べセーネは背が低い、上げ底のブーツなどいいかもしれん。
 が、しかし……あの胸と腰の鎧の再現は厳しい。下着そっくりな鎧なぞ、あの鎧の他にあるわけがない。手先の器用な部下に木製の鎧もどきを作らせ、赤く染めて誤魔化す事とした。
 どうせ普段は衣服の下だ、人目に触れぬ。似ていなくても構わぬ。あの鉄でも骨でも皮でも布でもない不可思議な材質の鎧は、ケルティの上皇にしか作れん。
 ヤルーに急ぎ作らせたリストをチェックし、北方に連れて行く部下を選定する。
 バンキグ国は、姫勇者、インディラ第一王子、第三王子、我、シャオロン、アジンエンデの入国許可書の発行を約束し、それぞれが二名の家来を伴う権利も保証した。
 第一王子の家来枠の内の一人はアーメット。残り十一人。さて、誰を伴うか。セレス様と共に北方に赴いたあの地に明るい者か、優秀な若手かのいずれかが良いが……北方経験者は我を含めジジイばかりだ、一番、若いのがセーネだが。
「頭領、よろしいでしょうか?」
 だいたい人選が終わったと判断し、クルグが声をかけてくる。我は部下を見上げた。ヤルーほどではないが、こやつも大柄だ。昔、アジャンの影武者をやっとたしな。
「頭領がお気になさっていた、れいの件に関してご報告が……」
「申せ」
 クルグが頷きを返す。
「シャイナ諜報組織の若手及び協力者及び下部組織の者全員にあたりました結果、七件、目撃情報がございました。シャイナ大魔王教団の幹部とされる神官の一人、皇宮では侍従の役に就いていた者が、黒い本を持っていたそうです」
「黒い本……」
「表装が動物の皮の、毛の生えた本だったとか。その本を手にする度に、その神官、奇声をあげ凶暴化したようです。女官を縊り殺した、内廷の一室の壁を拳で叩き割ったとの噂もありました。直接の目撃証言は得られませんでしたが」
「ふん」
 それが本物であれば、普段は異次元空間に封印していたのだろう。本からは常に瘴気があふれ出る。本を手にする限り、持ち手は生命力を奪われ続け、黒の気に染まってゆく。理性を失い、暴力に走ってもおかしくない。
「本の最終目撃は本年五月六日となっています」
 む。
 我らにしか通用せぬ暗号化した文書を、ヤルーより手渡される。我は書類をめくった。
 シャイナ皇宮に闇の聖書が存在した可能性は高そうだ。現皇帝の体に大魔王を降臨させたがっていたシャイナ教団の阿呆どもは、初代ケルベゾールドが生み出した暗黒魔法のアンチョコ本を使用して召喚魔法を使ったのだろう。
 しかし……五月六日までしか目撃情報が無いとなると……
 ラーニャ様が初めてこの皇宮にいらした時には既に、ここには闇の聖書は無かったやもしれぬ。
 闇の聖書は三冊しか現存しておらず、内一冊は五十五年以上前に僧侶ナラカの手に渡ったと思われる。残り二冊を、大魔王教徒どもは血で血を洗い奪い合っているはず。
 各宗教の託宣によれば、今世での大魔王復活は七月十八日。
 シャイナ皇宮より盗んだモノで、その儀式自体が行われた可能性とてあるのだ。ならば、シャイナの大魔王教団幹部を皆殺しにしたとて、ナラカは聖書を得られなかったろう。


 僧侶ナラカの手に、二冊目、三冊目の闇の聖書が渡ったかどうかは、あいかわらずわからぬ。
 あやつが何の為に聖書を集めているのかも、見当がつかぬ。


 アレが、ジャポネで暴れた理由を考えてみた。
 ジャポネの、しかも、タカアキの本拠地キョウにナラカは出没した。タカアキは浄化魔法に関しては世界一だそうな。三大魔法使いは積極的に、魔族や大魔王教団を討伐していた。
 そんな危険な男の本拠地に、あえて出現した理由……姫勇者を誘いこむだけのデモストレーションであれば、もっと気楽に動ける場所を選ぶはず。
 ナラカの狙いは我らではなかったのだ。
 我らを餌にし、他の者を釣りたかったのだろう。
 おそらくは、今世の聖書の持主……
 四天王バテンサ、アレは聖書を持っていたのか?
 キョウには、霊力・魔力の守護結界が何重にも張り巡らされているそうな。その存在は我にはわからぬが、あるのだとインディラ僧侶どもは教えてくれた。殊に御所や神域の守護結界は強力で、魔は近づく事すらかなわぬ。四天王級の高位魔族といえども結界に弾かれる。高位魔族が本気となれば結界の破壊は可能ではあったが、その代償として今世での能力の大半を失うのだとか。たかが結界。そこまでむきになって魔族は挑むまい。
 で、あるならば……
 キョウでは四天王といえども、自由には動けぬ。存在できる場所も限られる。
 それゆえに、四天王バデンサを望みの場所に誘いこみやすかったのではないか……?
 バデンサとナラカが敵対関係にあったかは不明。ナラカが大魔王であれば部下ゆえ、敵対も何もなかろうが。
 ナラカの目的の相手がバテンサだったかどうかも不明ではあるが、あの後、あの男、キョウにはぱったり現れなくなった。ガジュルシンの血を用いた結界が築かれるまで二日あった。ちょっかいを出せぬ事もなかったはずだ。目的を果たしたゆえ、もはや暴れる必要がなくなったという推測も成り立つ。
 ナラカの目的は、四天王バテンサを消滅させる事にあったのか?
 もしも……あの時、バテンサが闇の聖書を所持していたのだとしたら……タカアキの浄化の気を浴び、もろともに闇の聖書は消滅したはずだ。


 思考はあいかわらず堂々めぐりだ。
 ナラカは闇の聖書をどうするつもりなのか……それがわからねば何一つわからぬも同じだ。


* * * * * *


 別れは、あっという間にやって来た。
 北方行きの準備の合間に、食事やら散歩やらでおチビとはできるだけ逢瀬(デート)の時間を作ってあげたけど、一日じゃあんまり語りあえない。
 バンキグを目指しシルクドへと渡る私達を、早朝にも関わらず、おチビと執政や家臣達が見送ってくれた。
 場所は前と同じ、外朝の正殿の前の広場だ。朝早いからまだ薄暗く、吐く息が白い。朝日を浴びながら、姫勇者一行と皇帝達は少し離れて向かい合っていた。
「勇者一行の無事と武勇を祈る」
 うるうると目を潤ませ、シャイナ皇帝として私達を見送るおチビ。
 私の背後には弟達とジライの忍者などがいる。私を含め十八人もいるのだ、今、勇者一行は。アーメットを含め十二人は家来って設定だけどね。
 弟達やジライの忍者達が礼儀正しく皇帝に挨拶をし、シャオロンが深々と主君に頭を下げる。
 私との別れもつらいだろうけど、今回はそれだけじゃない。皇帝は頼りにしてきた大好きなシャオロンともお別れなのだ。
 皇帝の背後の家臣達が、主君を心配そうに見守っている。何っていうか、みんな、お父さんみたいな目だ。
 ……頑張る小さい子を励まし支えているんだ。
 おチビは、今、皆から愛されている……大丈夫、きっとうまくやっていける。いい男になって、いい皇帝になるわ、絶対。


 私が手を振ると、皇帝も振り返した。
「又ね」
 と、私は言った。
 宮廷魔法使いの移動魔法の光にに包まれてしまったので、その声があの子に届いたかどうかはわからないけど。


* * * * * *


 シャイナの宮廷魔法使いの力で渡った先は、シャイナとシルクドの国境のシャイナ側だった。
 そこで宮廷魔法使いと別れ、僕達は国境を越えシルクドに入国した。
 草原と砂漠の国シルクド。シャイナとの国境付近は緑が多く、小さな宿場町のようになっていた。行商人の行き来の多いこの国では、商人の為の施設が多い。各国の組合所とサロン、宿泊施設、倉庫、検疫所等々。魔術師協会を利用しての移動が高価な現在、荷を積んでの行商も盛んなのだ。
 早朝という事もあるだろうが国境付近には、ものものしい数の兵士達と役人しかいなかった。姫勇者一行の入国の為、戒厳令が敷かれたのかもしれない。
 入国管理施設での手続きは簡単なものだった。もともと勇者一行の入国審査は一般の旅人に比べて略式なものであるが、書類手続きと入国審査官との面接だけなのは有難かった。
 その施設の中でシルクド国の宮廷魔法使いに、バンキグとの国境まで送ってもらう。姫勇者一行が十八人もいる為、宮廷魔法使いが二名で僕等全員を運ぶ。移動魔法は移動距離や運ぶ人数によって魔力消耗の度合いが激しくなる。魔力が枯渇すれば魔法使いは数日から数週間、無能状態となる。僕等の運搬に、宮廷魔法使い二人の貴重な魔力を使用させるのだ。シルクドのご厚情への感謝として、充分な謝礼をと父上には頼んではあるけれど。


 跳んで行った先は建物の中だった。シルクド側からの説明によると、北方への警戒の為の施設……要塞の中らしい。
 案内人の指示に従い、定時まで指定された部屋で控えていて欲しいとの要求に了承した。軍事施設内なのだ。許可なく歩きまわれるはずもない。
 僕等勇者一行と、伴われる家来達は別室となった。インディラの王族である僕等に敬意を表したのだろう、シルクド風の豪奢な絨毯で覆われた、華美な部屋に僕等は通された。窓に鎧戸が下りているのが、いかにも軍事施設内らしい。
 窓から外は見えない。が、シルクドとバンキグの間には山脈が連ねている。鎧戸を開けば雪を被る峰々が横たわる景色が見えるのではないかと思う。
 僕、ガジャクティン、ラーニャ、ジライ、シャオロン様、アジンエンデの変装をしたセーネは思い思いに部屋で時を潰していた。国境が開くのは十時。まだ二時間かかる。出入口の扉そばの壁の前には、案内人だった軍人が佇んでいる。一行の監視役なのだ。
 アーメットはいない。バンキグでは僕の家来身分となる為、他の忍者達と一緒に別室にいる。彼の魂の波動は少し遠い。数間離れた部屋にいるようだ。側にいるのに距離をとるなんて、妙な気分だった。旅に出てからは、始終一緒だった。僕がインディラの総本山に戻っている時も、分身がアーメットの側に居たから彼の言動は伝わっていた。
 昨日は、つい、アーメットの前で取り乱してしまった。彼がとても優しいから……甘えてしまった。
 僕は肉欲に弱くあさましい自分に、ほとほと嫌気がさしていた。愛情を伴わない行為に溺れ、理性を失った自分が許せなかった。
 だが、そんな感情に、今、浸っているわけにはいかない。アーメットの支えを有難く受け取り、姫勇者の従者として働かねば。
 ミズハ様との事をアーメットに語る勇気はないけれど……そのくせ、僕がどんな人間でも受け入れてくれるという彼の言葉に甘え、彼の側に居たいと思っている。本当に、僕は卑怯だ。
 僕は嘆息し、室内を見渡した。
 白銀の鎧姿のラーニャはセーネに背もたれて、絨毯の上でうとうととしている。セーネが身に着けていたマントをラーニャにかけてやっている。
 部屋の中はポカポカと暖かい。建物の構造自体が保温性に優れている上に、魔力で部屋の温度を維持しているように見受けられる。シルクドは地味に、姫勇者一行を大歓迎している。表だって歓迎してはペリシャの心証を害し、冷遇してはインディラやエウロペの心証を害する。全ての国に良い顔を見せたい、交易国シルクドもたいへんだ。
 ジライは壁の前で両腕を組んで、佇んでいた。有事にはすぐに動けるよう、室内を見渡せる位置にいるのだ。
 ガジャクティンとシャオロン様は武器を外し、向かい合って絨毯に座っていた。知識として知っている先代勇者一行のバンキグでの活躍を英雄本人の口から語り直してもらっているようで、ガジャクティンの顔には笑みがあった。
 神の封印の事は、当分、話題にするのはやめておくべきだろう。昨日も、ガジャクティンを怒らせてしまったのだ。
『わけわからないモノを取り返す為に命まで懸けない。そんな軽はずみな事はしない。僕だって死にたくないもの』
 僕もラーニャもしつこい、過保護すぎる、ほっといてくれと、怒鳴られた。
 本人がまだ事実を受け止め切れていないのだ。周囲が騒いでも迷惑なだけだ。
 だが……心配なのだ。
『神意にかない聞き届けられた願いは、そん時と同じかそれを上回る熱心さで神さんに祈れば無しにできる。けんど、貰ったものは返さな、あかん。返せんのなら、他のもん捧げるしかない。まあ……命とかな』
 ミズハ様の言葉が頭に甦る。弟が神に何を願い、何を捧げ何を貰ったかは教えてはもらえなかった。わかるけれども、それを第三者に教えるのは非礼なのだそうだ。
 ただ、神との契約は幼い時になされたものだとは教えてくださった。
『子供っちゅうのはな、人の世の(ことわり)をよう知らんから、霊的なものを素直に受け止められるんよ。三つから七つぐらいまでで、たいていの子はただの人間になってまうんやけど』
 ガジャクティンが生まれてから七つまでの間の出来事を思い出してみた。が、劇的な変化はなく、大きな事件も思い当たらない。
『ま、そうそう貰ったもん、返せんとは思うわ。余計な知識を頭にいっぱいつめた人間は、神意にかないづらい。神官修行もしとらんのやろ? なら、心配ない。十四にもなった人間では、幼児よりも熱心に神さんにお願いはできへんもん。普通は、な』
 理性を失うほどの極限状態に陥らない限りは安全……らしい。
 僕は生ある限り、ガジャクティンを守る。ラーニャもアーメットも仲間として弟を守ってくれるだろう。
 けれども、魔との戦いで常に仲間と一緒に行動するとは限らず、命の危険は常につきまとう。
 それに、僕はナラカの能力封呪の為に、限界まで魔力を使い切るつもりだ。最悪の場合、死亡する。覚悟はできている。しかし、そんな場面に立ち合えば、弟は、きっと……奇跡を願ってしまう。自分の命を代償にしてでも僕を助けようとするだろう、優しい性格だから……
 何か策を考えておかねば……
 僕は弟の犠牲の上に長らえたくなどない。


 そんな事を考えていると、さほど遠くない所から雷鳴のような音が響いた。建物がビリビリと揺れる。
 何事か? と、思う間もなくラーニャが動いていた。突然、起き上がると、『勇者の剣』を呼び寄せ、剣にすがり移動魔法で姿を消す。
 剣と一体化しラーニャが動いたという事は、魔族が居るのだ。魔族の襲撃? この施設が魔族に襲われているのか?
 魔族の討伐は勇者一行の使命だ。
 僕等の監視役の兵士を半ば強引に説得し、セーネのみを部屋に残し仲間と共に移動魔法でラーニャの元へと渡った。ラーニャの魂の波動は覚えている。正確な位置はわからなくても、どんなに離れていても、僕は彼女の元へはすぐに跳べるのだ。


* * * * * *


 不愉快な感じがすると思ったら、まさに大当たり。
 剣に運ばれた先は、武器庫なのだろう、けっこう広い倉庫みたいな部屋。棚がひっくりかえり積んであった木箱が壊れて中身が散乱、壊れた武器やその残骸で床はしっちゃかめっちゃかだ。部屋の中に嵐でも吹きぬけたみたいだ。
 その部屋のつきあたりの壁には大穴が開いていて、そこから侵入したと思われる魔法使い風の男がたたずんでいた。ローブ姿で魔法使いの杖を持っており、むちゃくちゃ長い髪を後ろで一つの三つ編みにまとめているが、魔法使いではない。
 僧侶ナラカ。
 魔に堕した男だ。
 澄ました顔の男が、まるで知己にでも会ったかのように親しげな顔で微笑みかけてくる。
 ナラカが口を開く前に私は動いていた。
 剣の求めのままに。
 忌むべき魔を斬る為に。
 それが本体だろうが分身だろうが、構わない。
 まずは動く。
 まずは斬る。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ