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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

愛と狂気と分身と

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闇を斬る! 僧侶ナラカの狙い?

 ここは何処だろう……?
 私は何でこんな所に居るんだろう……?


 殺風景な所だった。
 戦場跡のような……焼けた大地、炭となって燃え残った木、焦げて転がる死体の山。焦げ臭い大地が何処までも続いている。
 私は周囲を見渡し、黒一色の世界の中で異質なモノを見つけ出した。
 大岩の上に男が、座っている。逞しい体の男だ。戦士のようだが、身分は低そうだ。鎧は肩当てと胸当てしかつけてない。休憩中なのか、鞘に入った片手剣を大地につけ柄頭に右手と顎をのせ、眼を閉じている。
 知らない人だが、何処かで見たことがあるような気がした……
 とても見事な赤い髪をしていている。けれども、お手入れなど気にしていないのか、髪は獣のたてがみのように好き勝手な方向を向き、額に無造作にバンダナを巻いていた。
『勇者の剣』を握ったまま、私が近づくと、男は眼を開け、ぎょろりと私を睨んだ。鷹のように鋭い緑の瞳……
 誰かに似ている。だけど、誰だか思い出せない。頭がボーッとしている。
「珍しく客人が来たと思えば……馬鹿女の娘か」
 え……?
「ケッ! 親子そろって悪趣味なこった!」
 私をジロジロ見て、男が野卑な顔で毒づく。
 馬鹿女の娘……?
 お母様を『馬鹿女』と呼ぶ(ヒト)は、この世に一人しか居ない。『女勇者セレス』を読んだ限りでは。
 まさか、この男……
 赤毛の戦士アジャン……?
 に、しては……
 私は男の左半身へと視線を向けた。左腕がある。義手じゃない。普通に自分の腿の上に手をついている。
 それに……この男がアジンエンデのお父さんだなんて……
 ありえない……
 どう見ても三十歳前よ、この男……
「俺に何か用か?」
 そう聞かれても……
「あんたに用なんかない。気がついたら、ここに居ただけ」
 この男の人から嫌な感じはしない。魔に堕ちたわけではないようだ。でも……何で若返ってるの?
「どうせクソ坊主の計らいだろう。まあ……せっかく来たんだ。特別に稽古をつけてやろう」
 クソ坊主……? て、あれ? この人が『クソ坊主』って言うのナーダお父様の事じゃなかったっけ……? ああ、でも、お父様、もう僧侶じゃないし。僧侶相手の悪口なら、みんな『クソ坊主』か。
「私、稽古料なんか払わないわよ」
 お金なんか持ってないもの。
「初回サービスで、タダにしてやる」
 男がニヤリと笑う。
「おまえ、敵との間合いの取り方が悪いぞ。少し、そこで素振りをしてみろ」


* * * * * *


「食べたらあかんえ」
 半霊体のミズハが僧侶ナラカを口にくわえたまま、麿をいまいましそうに睨む。
 あかんなあ、完全に目ぇ、座っとる。
 ミズハに憑依されとる赤毛の女も、同調して、おっかない顔で睨みつけてくる。
「もうちょいと我慢すれば御馳走や。南国の王子はんと交わるんやろ? 精気と血とついでに子種ももらってしまえ。卵、産みたいやろ?」
 離さんなあ……
 ああ、もう、ほんまに困った神様や。
 上物の魔族ほど食べたがるんやさかい。
 そないなもん喰うたら、魔に堕ちるっちゅうに。
 枷のない体に勝手に憑依しおって、阿呆が。麿の体に憑依しとる間は、我がままさせんのに。
 あの体、本体との共鳴もよさそうやしな。このままくっつけとくと、千年前から眠らせとるご神体の本体に戻ってしまいそうや。契約残ったまんま暴れたら、死ぬよりひどい目にあうでミズハ……
 さっきからちょっかい出してくるナラカの攻撃はぜんぶ結界で防ぎ、分身に相手させとる。正直、今はナラカよりもミズハが怖い。
 ナラカは後四体やとナツメが言うとる。インディラの第一王子はんが一、忍者が一、トシユキと応援のマサタカとキヨズミが合わせて一を相手しとって、麿の分身に相手させとるのが一。これで全部や。
 それ全部を食べられたらと思うと……ぞっとするわ。
「三日つづけて、この体貸してあげる。好きに遊んでええよ。ミズハの好きなタカアキの体やで。後で治してくれるんなら何してもええよ。ひもじかったら、食べてもええよ」
 お、さすがに反応した。くぅぅ、喰われるのは痛いからややねんけど、まあ、しゃあないな。
 ようやっと口のもん捨ててくれたと思うたら、麿のそばにいた(ナラカ)がミズハの方へと走り……
 ちょっと待てい!
 ミズハの阿呆! 飛び込んで来たからって、そないなもん(ナラカ)、丸飲みすな!
「お仕置きや、ミズハ。ナラカを食べたらあかんと、教えてきたやろ!」
『破魔の強弓』を引きしぼり、ミズハめがけて聖なる矢を放つ。
 それを、ミズハは大顎で噛み砕いた。


* * * * * *


 光の接近を感じた。
 清らかな力が膨らんでくるのを感じるとともに、周囲の瘴気が祓われてゆく。
 光をまとった矢が宙を飛んでいる。
 タカアキの矢だ。
 橋の上を光となって巡回しているそれが、瘴気を弱めるてくれたのだ。この為に最初に矢を射たのか?
 僕はアーメットに合図を送った。『影』である彼と二人で決めた二人しか知らない暗号。それで『攻撃』を指示したのだ。
 タカアキの矢の光に照らされ、アーメットが走る。しなやかな動きで僧侶ナラカへと迫る。
 彼を狙う攻撃の全てを僕の魔力が弾く。大伯父の分身は次々とさまざまな魔法を用いてくるが、それぞれに応じた対抗の魔法を僕が放ち相殺する。
『虹の小剣』が僧侶ナラカの結界に刺さった時、僕は高めていた魔力を小剣の刃へと送った。
 通常の何百倍に威力を高めた『祝福』だ。刀身に魔を斬る威力を宿らせる魔法、それを増幅して、聖なる武器に送ったのだ。
 武器本来が持っている浄化の力は、更に高められ……
 僧侶ナラカの結界を破り、『虹の小剣』はナラカの分身を貫き通した。
 やった。
 分身とはいえ、大伯父を倒せた……
 光の矢の下で見えた大伯父の分身は……笑っていたようだ。
 非常に満足そうに微笑んでいるようだった。
『よくやった』と、褒め称えるように……


 優しそうな笑みを浮かべたまま、浄化の光に包まれ大伯父の分身は今世から消滅した……


「ガジュルシン?」
 アーメットが心配そうに、うつむいていた僕に声をかけてくれる。
 僕は、彼に対し静かに頭を横に振った。


 大伯父は魔族なのだ。
 惑わされるなんて……愚かだ。
 大伯父が大魔王であろうとそうでなかろうと……今世から消し去るのが僕の使命だ。


* * * * * *


小夜時雨(さよしぐれ)』の浄化の力、刀身より生まれる聖なる水。我の持つ浄化の力はそれだけだ。
 又、体術と勘では、魔法攻撃を避けるにも限界がある。
 超一流の僧侶兼魔法使いである相手に、魔法支援がないのは正直辛い。防戦一方となる。
 魔法に囲まれかけた時に逃げ込める第三王子の結界が近くにあるだけ、マシと言えばマシだが。
 僧侶ナラカの分身の居場所はわかるのだが、近づけん。
《ジライ》
 頭の中に声が響いた。第三王子の思念だ。
《今、『ムラクモ』を抜いてる?》
 抜いて戦っていると心の中で思うと、そのまま抜いていてくれとの思念が伝わって来た。
 ふむ。何ぞ手を思いついたのか、ナーダの息子。
《『ムラクモ』の放つ聖なる気の波動を察知し、『ムラクモ』を中心に結界を張った。魔法攻撃は無効になるから、ナラカに近づけるよ》
 ほほう。
 魔力が無いので変化がわからぬが、結界を張ってもらえたのならありがたい。
 可能な限り、体術で攻撃を避ける。第三王子を信用せぬわけではないが、攻撃を回避するのは習慣のようなものだ。
《刃が届く距離になったら教えて》
 ナラカの前だ。
 ナラカの気が目の前にある。
 だが、届かない。刃ははじかれる。結界が張られている。
 物理+魔法+聖なる力を祓うとかいう新種の障壁か?
「チッ」
 舌うちが漏れた。結界があってはこちらは手出しが出来ぬ。
 結界を破るには、術師を倒すか術師の魔力切れを待つかしかないが……
 術師が結界の中に居っては殺す事かなわず、僧侶ナラカ本体は幾日も結界を張り続けられるほど結界魔法が得意だ。
 敵が結界外に出てくれねば、何もできぬ。
《『ムラクモ』を振る挙動をイメージしながら振って。で、振り下ろしたら急いで後退して》 
 む?
 小僧、又、何ぞ、策を思いついたのか?
 いつもはいちいち意識して『小夜時雨』を振るうわけではない。が、求めに応じ、意識しながら、振りあげ、結界へと振り下ろし、後方に飛び退った。
「雷よ、来たれ!」
 第三王子の声。
 第三王子の持つ聖なる武器が、持ち手の求めに応え雷をもたらす。
 雷は『小夜時雨』が振りおろした先、つまりは、僧侶ナラカの結界に直撃し……
 結界が、ふっと消えた。
 いや、結界ばかりではない。
 僧侶ナラカの分身の気配をも消えている。
 どういう事だ?
《ここが異界化してるのを利用させてもらったんだ》
 第三王子の声、いや、王子の思念は興奮しているようだ。
《さっき、タカアキ様が言ってたじゃない? この空間の異界化が広がらないように、部下のナツメって人に術で押さえさせてるって》
 ふむ。橋に突入前にそんな事を言うておったな、三大魔法使い。
《だから、探知の魔法でそのナツメって人を探して心話で相談してみたんだ。異次元通路を押さえてるって事は、次元を開く能力もあるんじゃないかなあと思って。そしたら、ここは異界だから簡単に開けるって答えだったんで》
 第三王子の思念は得意そうだった。
《次元通路を一瞬だけ開いてもらったんだ。周囲は瘴気だらけでナラカの位置はつかめないって言うから、結界に雷を落としたんだよ。あの瞬間に、雷撃魔法に包まれた空間の真下に、扉を開いてもらったんだ。ナラカとナラカの作りだした結界だけが異次元に落ちたってわけさ》
 ほほう。
 予想以上にうまくいって嬉しい! と、思念が第三王子の感情を伝えて来る。
 魔術師としても戦士としても自分の力量が不足しているのを自覚した上で、周囲を利用したわけだ。我を使ってナラカの位置をつかみ、ナツメとやらに異界を開けさせ、ナラカを葬ったわけか。
 やはり、こやつ馬鹿ではない。
 そう思うと、第三王子の思念が恥ずかしそうに恐縮した。
《ごめん。同調(シンクロ)したまんまだった。心を勝手に読んでごめんなさい》
 異界に居る間は通じ合った方が動きやすいゆえ、このままで良いと心で思うと、
《わかった。あの……ありがとう、ジライ……褒めてもらって嬉しい》
 褒めてはおらぬ。超一流の実力があったとて、もてあまし、結果を残せねば意味がない。敵は葬れればよい。大切なのは、過程ではなく結果だ。力量不足は工夫で補えればよい。きさまは、戦士として及第だと思うと、第三王子の思念がますます戸惑う。
《ありがとう……》
 第三王子の思念が動揺している。照れているようだ。タコみたいに真っ赤になっておるのだろうと思うと、タコじゃない! と、怒られる。
 さて……ラーニャ様を探すか。
『勇者の剣』と完全に同化していた故、お体に危険はないはずじゃが。


* * * * * *


 鬼!
『女勇者セレス』にもあったけど、赤毛の戦士アジャンは鬼教師だ! お父様よりも暴力的な鬼教師だって書かれてた! その通りだ! リオネルよりひどい!
 頭やら、背中やら、腰やら、足やらを、さっきから剣の鞘でバンバン叩かれている。
 白銀の鎧つけてなきゃ、間違いなく、青痣ができてる強さだ。
 足さばきがなってない、姿勢が悪い、バランスが崩れている、と、赤毛の戦士が怒鳴る。
 無神経! 十八歳の可憐な美少女への扱いか、それ! 少しは遠慮しろ!
「ちょっとはマシになってきたな」
 赤毛の男がニヤニヤ笑いながら、言う。
「素振りを続けろ。『勇者の剣』が敵に届く距離、届かぬ距離を意識して振るんだ。その剣自体が持つ浄化の光に、おまえ頼りすぎだ。剣から浄化の光が伸びねば、斬れていない敵も結構いたぞ」
「何で、あんたがそんな事を知ってるのよ?」
「姫勇者一行の戦いぶりを見せてくれる親切な野郎がいるんでね……後は、『極光の剣』のおかげだな」
「え?」
「時々、あの娘が見ているものが見える……血と剣の絆のせいかもしれん」
 それって。
「アジンエンデと通じ合ってるって事?」
「そうだ。だから、あの女の目を通してみた、おまえのへっぽこぶりも知っている」
 むぅ。
「何で斬るかを考えて、剣を振るえ。刃か光か」
「どっちだっていいじゃない。殺せてりゃ何でも」
「殺す場合はな」
 ん?
「勇者ならば、生かす剣も使え」
 へ?
「良いから、素振りしろ」
 姿勢矯正を受けながら、赤毛の戦士に質問をした。
「何で若返ったの?」
「ん? 俺か?」
 赤毛の戦士は眉をしかめた。
「おまえの目には、幾つぐらいに見えてるんだ?」
「二十五ぐらい?」
「ほほう」
 男が面白そうにニヤニヤ笑う。
「なるほどな」
「で、何で若返ったの?」
「若返ってはいない」
 え?
「この空間は、心の願いを映す鏡なんだ」
「はぁ?」
 赤毛の戦士は肩をすくめた。
「おまえの目に映る姿が、俺の理想形だ」
「理想形……?」
「技も充実し肉体も完成した二十五歳頃が、俺にとって『理想の体』なのだろう。むろん、老いた今、当時の動きは無理だ。老人には老人なりの戦い方がある。だが、少しでも昔の動きを取り戻したい……心の中で、そう願っているから、おまえの目には若い俺が映るんだろう」
「老人って年でもないでしょ、まだ五十前よね?」
「まあな」
「体が資本の傭兵じゃ老いは死活問題だろうけど、そういう自己憐憫ってみっともない。本当の老人に失礼だとも思う。『老人』なんて言うのはやめなさいよ」
 私がそう言うと、赤毛の戦士はゲラゲラと笑った。
「口のきき方がなってないところも、馬鹿女にそっくりだな。似てるのは顔と胸だけじゃなかったのか」
 胸……?
 えぇ〜〜〜〜〜〜?
 お母様の胸と私の胸が似てるですって!
「ねえ、あなたの目に、私、どう映ってるの?」
「おい、手を止めるな」
「今、大事な事を聞いてるの!」
 私は赤毛の戦士に詰め寄った。
「私、どんな風に見えてる?」
 赤毛の戦士は鼻じろんだようだった。
「黒のボディースーツにピンヒール姿」
 女王様スタイル?????
「私の胸、どれぐらい大きい?」
 赤毛の戦士が首を傾げる。
「馬鹿女と同じぐらいじゃねえか?」
 て、ことは……
 巨乳?
 私は私をチラリと見た。白銀の鎧姿だ。これを装着してると体型なんかわからない。だけれども、この鎧の下の胸は残念なことに……
 ああああああ……
 何で私の目には自分は現実の通りにしか見えないの?
 せっかくの巨乳が見えないなんて……
 落ち込みのあまり、しゃがみこんでしまった。
「ここ……何処なの?」
「修行場だ」
 赤毛の男がそっけなく答える。
「俺の為に、ナラカが準備した異次元空間だ」
 ナラカ……
 そうよ! 僧侶ナラカ! それに馬鹿姫巫女! 私、悠長に修行してる場合じゃなかったんだ!
「帰らなきゃ……」
「帰る時に時間を同期すりゃいいだろ。もうちょっと修行してけ」
「帰る! アジンエンデが心配だもん!」
 そう言うと、赤毛の戦士はやれやれとばかりに溜息をついた。
「なら帰れ。だが、いいか忘れるな、クソ馬鹿女二号、『勇者の剣』の刃の攻撃力は凄まじい。岩をも礫に砕く。しかし、剣の刀身を包みこむ浄化の力は現実を斬れん。浄化の光が斬れるのは、魔だけだ」
「そんな事、言われなくても知ってる」
「そうか?」
 男がニヤリと笑う。
「なら、魔だけを斬れ。俺の娘を斬るなよ」
 え?
 男の姿がどんどん遠のいてゆく。
 帰りたいと思ったから、帰ることになってしまったのだろうか。
『勇者の剣』の力だろうか?
 アジンエンデのお父さんの姿が、もう小指の先のように小さい。
「そっちの様子は見えている。おまえが下手すぎたら、又、稽古をつけてやる」
 赤毛の戦士アジャンは僧侶ナラカと一緒にいるの……?
 囚われているわけでもなさそうだけど……?
 どういう事なのだろう……?
 異次元空間は消え……
 周囲は闇に包まれた。


* * * * * *


 ミズハの後ろから飛来した矢が、そのまんまミズハの霊体を貫いた。
 まっぷたつや。頭から先のナラカを飲んだ部分は消滅し、しっぽから腹の方までが橋に落ちる。
 憑きモノを無理やりはがされた憑依体がもんどりをうって苦しみ、半分以下になった霊体のミズハも痛みのあまり橋を転げまわる。
「すまんなあ。さっき麿が射た矢は、ひっかけや」
 ミズハがおかしゅうなった時用に、橋に着く前に一本放っておいたんや。保険ちゅうやっちゃ。そいつを呼び寄せ、ミズハと憑依体の絆を断たせてもろた。
 呪を唱え、急ぎ、体を三つに分ける。
 一体は、残っているナラカの元へ走らせた。後三のはずやけど、一になったとナツメが言う。
 もう一体の分身はミズハ用や。分身をミズハの元へ走らせると、傷ついたミズハが、ぬるりと分身の中に入ってゆく。
 ひぃひぃと苦しそうな声をあげ、麿そっくりだった分身が、へたりと橋に座りこむ。ミズハに憑依された証に、体を白く変えながら。
「タカアキのイケズぅ……」
 ぞっとするような色香を漂わせて、ミズハを宿した分身が麿を見る。
「悪いもん食べたらお仕置きする言うたやろ?」
 涙目となったミズハが、上目づかいに怨めしそうに麿を見上げる。
「ミズハを魔族にしたくないんや。麿の命がつきるまで一緒に居たいんやろ?」
「居たい」
「なら、変なモン食べたらあかん。言いつけはお守り」
「でもぉ」
「でも?」
「ご馳走が目の前にぶら下がっとるのんに、食べたらあかんなんて殺生や」
 くっすんと、ミズハが泣く。しなをつくって媚びまくる……
 あ〜ぁ、もう……
 あかん……
 自分の顔やのに……
 ミズハが入ると、ほんま……
 かわええわぁ……
「後で麿あげるから、機嫌直しぃ」
「ほんま?」
 顔をパーッと華やかに輝かせ、瞳をとろんと潤ませる。
「今回の件が落着したらな」
「食べてもええのん?」
 一年、お預けさせたしなあ……霊体の大部分を失って、今、力、減っとるし……しゃあないか。
「ええよ。そやけど、全部はあかんえ」
「ちゃぁんと残す。残して蘇生して治す」
 ミズハの入った分身が抱きついて来る。
「タカアキ、大好き」
 すりすりと甘えて身を寄せてきたので、よしよしと背をさすってやった。
「体も三日、使わせてくれるんやろ?」
 理性失っとったくせに、そないな事ばかし、覚えておって……
「そっちも、全部が終わってからや」
「うん、わかった。待っとる」
 ミズハが、かぁいらしい顔でにっこり笑う。くぅぅぅ〜〜〜三日のご乱交コース決定やな……
 ミズハとイチャイチャしながらも、一応の仕事はしていた。
 失神した赤毛の女に、癒しの魔法をかけている。
 ミズハが、僧侶ナラカを喰ったせいで彼女の中に穢れが残ってしもうた。すぐにミズハを切り離したから、量自体はたいした事ない。しかし、穢れは穢れ。きちんと祓わにゃ、あかん。無理させたせいか、赤毛の女戦士は意識を失っとる。
「タカアキ、どいて!」
 姫勇者はんの声。
 ナラカの結界外に出したはずやのに、何で?
『勇者の剣』の力で舞い戻ってまったんか?
『勇者の剣』を構えた姫勇者はんが走って来たので、慌てて赤毛の女から離れて少し下がった。
 姫勇者はんは、倒れている赤毛の女の体を袈裟掛けに斬るかのように、『勇者の剣』で宙を斬る。
 だが、剣先はぎりぎりの所で仲間に当たらんよう振るっている。
 剣から放たれた浄化の光が、赤毛の女の体の中の穢れだけを祓った。
 ほほう。
 器用なもんやな。
 空間がズン! と、揺れる。
 最後のナラカが沈んだと、ナツメからの心話が届く。インディラの王子様方もちゃぁんと働いてくれて、助かったわ。こっちはミズハ押えでろくにナラカの相手できひんかったし。
 次元と次元の間が揺れ、今世と異空間が分離していく。
 その混乱の中、嫌らしい気配を感じた。
 全てを終えホッと息をついた姫勇者はんの背後から、次元通路を抜け飛び出して来た(もん)がおった。
 魔族や。
 姫勇者はんを狙っておる。
 このどさくさに紛れ、姫勇者はんを殺る気か。
 弓では間に合わん。
 胸元の扇子を取り出し、それへと投げつけた。
 麿の気を帯びた扇子が刃となり、魔を貫く。
 扇子に浄化の念もこめておるよって、それはあっさりと無に帰した。
《お見事》
 人を食ったようなしゃべり方……
 このいけ好かん思念は……
 こんところずっと相手をしていた男や。
「僧侶ナラカか……」
 おそらく、本体。
 何処にも気配はない。
 別の次元からこの場所を覗いておるんやな。
 周囲から瘴気が晴れゆく。インディラの王子様方、忍者達、キヨズミ達もはっきりと見えるようになる。皆、橋の上に居る。
《さすが浄化に関しては世界一ですね、タカアキ様。異次元通路から魔が実体化した瞬間に、倒しちゃうんだから恐ろしい。あなたが今あっさりと倒したのは、大魔王四天王の一人バデンサです。敵に名乗りもさせず何も仕事させないでやっつけちゃうなんて駄目じゃないですか、『姫勇者ラーニャ』が盛り上がりませんよ》
 混乱に乗じ姫勇者はんを討とうとした今のが四天王? 矜持のないボケカスやないか。高位魔族ならもちっと美しい戦いをせんか。
《まあ、でも、大魔王四天王バデンサをタカアキ様が倒されたので、四天王の残りは後一人。神速の勇者ラーニャ様に、また一つ伝説ができましたね》
 明るく思念が笑っている。仲間倒されたっちゅうのに、何が楽しいんや、この男。
 ナラカの思念は遠のき……
 麿達は皆、今世の東の大橋に戻っていた。
 人や荷車が通ってゆく。
 分身一つは消し、ミズハには扇子で顔を隠してもらった。同じ顔が二つはマズいけんども、今、同化したら麿の意識なくなってまうもんな。
 さすがに往来ん中でひっくり返ってては、邪魔や。赤毛の女戦士はんどけたらなあかんと思うたら、姫勇者はんが前までずんずん歩いて来た。『勇者の剣』は橋の上に置いてきとる。ええのか聖なる武器、放っておいて?
「大魔王四天王を倒した……?」
 ナラカの思念は他の者にも伝わっておったんか。
「あんどさくさに紛れ、そもじさんの背中を狙いおった魔を祓った。ナラカは四天王バデンサや、ちゅうとったな」
「そう……」
 姫勇者はんの体が、ぶるぶる震えとる。
 何や? 怖くなんたんか?
 そう思った時には、右の拳でぶん殴られ、宙を舞っていた。


「馬鹿ぁぁぁ! 何で四天王、倒しちゃうのよ!」


 て、そもじさん、背中、狙われてたんやで〜


「タカアキに何するのん! この山猿が!」
 扇子を放り投げ、ミズハが牙を向いて、姫勇者はんを威嚇する。
「あんたには関係ないわよ! そばに寄るな、バケ蛇!」
「粗忽者! ほんま、そもじなんて『勇者』なんて名ばかしの乱暴女や! ただ暴れるだけの無能やないの! 虫けらにも劣るわ!」
「うっさいわよ! 白粉ブス!」
 ああああ、もう、しょうもない。
 橋の上に転がりながら、懐から扇子を出し、広げて顔を隠した。


 往来で口喧嘩を始めたおなごはん二人を、マサタカらと、インディラの王子はん方が必死に押さえようとする。
 が、全然、止められん。


 まあ、ええか。今のミズハは弱っとる。雷はそうそう呼べんさかい、好きにさせとこ。
 起き上がらん麿を心配してそばに寄って来たナツメには、大丈夫やと答えておいた。
 赤毛の女戦士は、トシユキが端へと運んだようや。


 ミズハと姫勇者はんの声を聞きながら、橋に転がっとる。


 面白くって笑いが止まらん。
 世の中、広いなあ……
 ミズハなみに身勝手で阿呆なおなごが居るとはなあ……
 もしかしたら、姫勇者はん相手なら心ときめくかもしれん……
 そないな事、思いながら道を塞いで転がっていた。   
 大魔王四天王を倒したのは、一人目はアジンエンデ、二人目はシャオロン、そして三人目はタカアキ。四人目こそラーニャが倒せるのか? それとも……

 次回「異種婚は命がけ! ある愛の形!」でジャポネ編、終わります。 
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