挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

愛と狂気と分身と

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

37/115

初恋の味? 触れ合う心!

「私は行かない!」
 泣きそうな声で、アジンエンデが叫ぶ。
「ラーニャ達だけで行け! 私は留守番をする!」
 さあ御所まで向かいましょうとなったら、これだ。
 五、六才の駄々っ子じゃあるまいし、廊下の大きな柱にしがみついて外出拒否って……本気?
 妙に余裕ぶっこいた、いかにも姉御! って感じで私を護衛していたアジンエンデが……
 ガジャクティンにひっぱられても、やだやだやだやだとばかりに激しく頭を振って、必死に柱を抱き締めてる。
 この場所、通行の邪魔だと思うけど……今は遠巻きに見てる旅館の人にじきに文句言われるだろうなあ。
 アジンエンデ……
 壊れちゃった……?
 熱でもあるの……?
「そういうわけにはいかないんだよ、アジンエンデ」
 困ったようにガジュルシンが、手紙を彼女に見せる。
「ミカドからの手紙だ」
 ジャポネ語を読めない彼女(私も読めないけど)に、ガジュルシンが内容を要約して伝える。『決められた期日に、姫巫女の許しを得た者は一人たりとも欠けることなく参内せよ』、そんな内容らしい。
「私はあの部屋に入りたくないと言った!」
 あの部屋というのは、姫巫女が居た上段・下段の続き部屋のことだ。
 昨日、託宣しに来たタカビー女はけっきょく何もせず、『明日か明後日』つまりは今日か明日に部屋にいる者全員、御所に来いと言ったのだ。その際、本人が来いとも言っていた。身代わりなんぞ絶対立てるな、と。
 だから、私は姫勇者スタイルで行く。アーメットとジライはこのまえと同じ、インディラ忍者装束姿だ(ジライはジャポネに来てないって事になってるので、東国忍者姿じゃないし『ムラクモ』も装備してない)。
 で、『勇者の剣』はガジャクティンが背負っている。
「君の了承を得ないで部屋に連れて行った事はすまないと思う。でも、今は勇者の従者として」
「おまえ達、おかしい!」
 柱にしがみついたまま、アジンエンデがキッ! と、私達を睨む。
「何で平気なんだ? あんなバケモノがいる場所になど、死んでも行くものか!」
 バケモノ……そうね! その通りだわ! バケモノだったわ、あのクソ馬鹿女! ジライと同じくらい肌が真っ白っというか青白くて、厚化粧。髪は黒かったけど、あいつも白子じゃないかしら。顔も姿も態度も声も、みんなムカつく。魔族並に嫌い。
「バケモノだってのは同意するわ!」
 私は拳を握り締めた。
「でもね、アジンエンデ、だからこそ、御所に行かなきゃいけないのよ! あの白粉オバケに『麿(まろ)に恐れをなして逃げたんやな』とか嘲笑われたくないもん!」
「嘲笑われてもいい! 私は行かない!」
 むぅ。
「あんな恐ろしい気のもとへ行くものか!」
 気絶させて連れてくしかないか……
 目でジライに合図を送ると、変態忍者は頷きを返した。
 が……
 あれ?
 兜と口布を外して、アーメットに預けちゃった? ジャポネ人と同じ色の肌に染め、黒の直毛のカツラ被って、薄化粧をしている。女性っぽく見える。そっか、くノ一のセーネの役だからか。本人には全く似てないけど。
 何をする気だろ?
 私もガジュルシンもガジャクティンも、アーメットですら、ジライの意図はわからない。
 だから、ただ見守ってしまった。
 アジンエンデのそばに膝をついたジライが、彼女の顎をとって顔の角度を変えさせて……いきなりムチュ〜と、アジンエンデの唇を奪うのを。


 へ?


 頭が真っ白……


 突然、目の前で始まった濃厚なキスシーンに、私達は硬直する。
 黒髪の忍装束おねーさんが、赤毛の勝ち気そうな娘さんを押さえつけてキスをしている……
 アジンエンデは瞳を大きく見開き、喉の奥で声を漏らし、暴れている。
 しかし、彼女の抵抗などものともせず、抱き寄せ、顔の角度を変え、ジライがちゅーちゅーとアジンエンデに接吻する。
 くちゅくちゅねちゃねちゃ、なんかイヤらしい音がする。
 アジンエンデの顔は、真っ赤だ。
 その緑の瞳は、やがてとろんと濁り……
 暴れていたアジンエンデの体から、くたっと力が抜ける。
 こっ……これが、もしかして……落ちたってヤツ?
 私、箱入り姫だから、濡れ場って見たことないのよ! 想像力は逞しいんだけどね!
 お母様のプレイルームを覗いた事はあるものの、すぐに見つかってお仕置きになっちゃったから……
 こういう本格的なキスを見るのは初めて!
 いやん、ドキドキしちゃう。
 アジンエンデが無抵抗になっても、ジライは尚もアジンエンデと口づけをしている。
 何か……
 胸が苦しくて、息まであがってきちゃう……
 綺麗……
 女同士の愛の世界っぽくって……
 倒錯的で素敵……


「何してるのさ、ジライ!」


 お父様の声……?


「アジンエンデに何をしてるんだよ!」

 
 顔を赤く染め、泣きそうな顔でジライに怒鳴っているのは……
 お父様じゃない。
 ガジャクティンだ。


 ジライは横目でチラリと私の義弟を見てから顔を離し、ガジャクティンに対してではなく、ほんわ〜とした真っ赤な顔のアジンエンデに言った。
「きさまの内は、我が気に満ちた」
 そう言ってから、不敵に笑う。
「我が気に染まったおまえは、誰からも狙われぬ」
 なんというか悪魔的な笑みってヤツ? 魂を抜かれたようにアジンエンデはただボーッとジライを見ている。
「充分に送ってやったが……欲しいのなら、もっと与えてやる。他の口からでも、な」
「ダメ〜〜〜〜〜〜!」
 ジライを突き飛ばすようにして、ガジャクティンがジライとアジンエンデの間に割って入る。ジライから守ろうと、彼女を必死にその腕に抱く。
「アジンエンデはそういう女性じゃないんだ! 二度と、軽々しく触れるな! ジライでも許さないから!」


 ズキン……と、胸が痛んだ。


 何でかわかんないけど……


 息をするのすら苦しくなった。


 ので!


 とりあえず、思いっきりジライを右拳でぶん殴っておいた!


「このド変態! 私の友達に何ってことすんのよ!」


* * * * * *


「アジンエンデめが姫巫女の『気』にのまれて怖気づいておりましたゆえ、対抗できるよう我が気を送ったのです。そうせよと、ラーニャ様のお目が」
「命じてない!」
「しかし、あの場であのようなお目をされては」
「あんたなんか、忍者失格よ! 主人の意図も汲めないゴミ忍者なんかいらない! このボケ! カス! マヌケ! 色ボケ! 二度とそのアホ(ヅラ)を私の前にさらすな!」
「あああああ……」


 いや、姉貴、ゲシゲシと踏んづけながらの罵倒じゃ、罰になってない。親父にはご褒美だから……。


 俺の兄弟達も、いつの間にか廊下にできた人だかりも、みんな、女同士(親父が女装してるんで)のラブシーンを見せつけられたみたいに思ってる。
 けど、あの接吻に関しちゃ、親父は別に変な事はしていない。
 忍者は気を練って、忍法を使う。魔力ではなく『気』をもって忍法を行使するのだ。親父は有事に備えて最低五つは大技が使えるように、気を練っている。俺もそれには及ばぬものの、三つは大技を使える状態を保っている。
 さっき、親父は自分の気の一部をアジンエンデに分けた……本当にそれだけなんだ。
 忍者間では練った気、つまり、練気(れんき)を他人に譲る事がたまにある。でもって、練気の受け渡しに、口吸いやら性交関係の接触を用いるのは普通なんだ。
 俺も親父の口から練気もらった事がある……みんなの反応が怖いから、今はあえて伏せておくが。
 練気は房中術(性技)から発達した法だけに、理論も用い方も、結構Hだ。その成り立ちの妖しさから、練気(れんき)や忍法を邪法と混同する学者もいるぐらいに。


 と、まあ、今となっては、何で親父があんな行動をとったのかわかるんだが……
 さっきは駄目だった。
 いきなり目の前で、実の親が身近な女の子と濃厚なキス・シーンを始めたんだ……度肝ぬかれて固まったってしょうがない……
 練気をもらった事はあるけど、親父が他の奴にやってるのを見るのは初めてだったんだ。


 俺以上に、後宮育ちの王子様・お姫様はショックだったはず。
 練気の受け渡しなんて、忍者じゃなきゃ、知らないだろうし……童貞&処女だもんな。
 ガジュルシンはまだ茫然としてるし、親父を踏む姉貴の顔も紅潮している。
 それにガジャクティンも、顔が赤い……『しっかりして』と、アジンエンデの頬をぴたぴたと叩いている顔は、すげぇ必死だ。
 けど、そうか……
 そうだったのか……
 ガジャクティン、アジンエンデが好きだったのか……
 このところ、そいういや、よく一緒に居たもんなあ、武術鍛練とかで。
 昔っから、勇者オタクで……女の子なんてつまらないと、見向きもしなかった、あの小さかったガジャクティンが……
 初恋か……
 変わったのは、デカくなった体だけじゃなかったんだな……
 義兄として、なんかちょっと複雑……


 あ。
 待てよ……
 俺がこんだけ心乱れてるんだから、当然……
 俺は慌てて、ガジュルシンを見つめた。
 目を見開き、ぶるぶると震えている。頬は赤いけど、でも、こいつがこれほど不自然に体を揺らすのは、マズい時だ。インディラで政務見学をしてる時とかによくなった。
 ストレスをためて自家中毒を起こす寸前なんだ。
 自分を追いつめている時に、こうなるんだった。
 限界が近い。
 やばい! 平常心を忘れてた!
 シャオロン様に言われてたのに、魔力の強い人間は周囲の影響を受けやすいんだって。
 周囲が変だとダメージをモロに精神に被り、それが体調の悪化に繋がってゆくのだそうだ。
 インディラでガジュルシンが政務見学の度に体を強張らせ倒れまくってたのも、周囲の攻撃的な悪意のせいだったんだって。
 だから、側にいる俺が常に平常心を保って穏やかな精神に満ちた場を提供してやるべきだって言われてたのに……
 周囲がこんな異常なピンク状態じゃ、真面目で潔癖なこいつは……
「ガジュルシン」
 俺は、慌ててガジュルシンの袖を引いた。
 その刺激に、ビクン! と、ガジュルシンが体を硬直させる。
 アーモンドのような瞳。その眼球がゆっくりと、俺の方へと向く。
 俺と目と目が合った途端だった。
 ガジュルシンは顔をボッと更に上気させ、力なくその場に崩れていってしまった。
 うわぁぁぁ! やっちまった!
 ごめん、ガジュルシン! 俺、影失格だ!


 そんなわけで……
 二名急病につき、御所参内は明日以降という事になった……
 全員で来いって言われてたし、アジンエンデはともかく交渉役が沈没しちゃ御挨拶も何もないしな……


 俺は、ガジュルシンの部屋で彼に付き添っていた。
 熱が出てしまったんだ。低くうなされてもいる。
 兜も口布も外して、ガジュルシンの枕もとに座って、時々、額の濡れた布を替えてやっていた。


 隣室から派手な音がした。
 男子禁制! って、姉貴が叫んでる。それに対しボソボソしゃべってるのはガジャクティンだ。ぶっ倒れた二人に気を使ってガジャクティンは小声になってるってのに、まったく姉貴は……
 しばらくすると襖を開けて、左頬を押さえたガジャクティンが部屋に入って来る。又、姉貴に殴られたのか。
 好きな女の子が具合が悪きゃ気になって当たり前だろうに、姉貴もひでぇなあ。
「兄様は?」
 と、聞かれたので眠ってると答えた。
 アジンエンデは? と、問うと、
「セーネが介抱してる」
 との答えが返った。
 そばに来るな〜! と、怒鳴られて親父は姉貴の部屋に入るのも覗くのも禁じられた。親父はもちろん、男は誰一人、アジンエンデに近づけない気なんだろうけど、それにしてもなあ……
「……元気だせよ」
 って言ったら、ガジャクティンは変な顔をして、細い目で俺を見つめた。
「僕は元気だよ?」
 言い方がマズかったか。
「大丈夫だよ、アジンエンデは」
 って言ったら、
「何を根拠に、そう言い切れるわけ?」
 って、糸目でジロリと睨まれた。う〜ん、扱いが難しいなあ。
「見てりゃわかるよ、アジンエンデはびっくりしただけだよ。大嫌いな親父に、急に変なことされてさ。気持ちが落ち着きゃ、元に戻るから大丈夫だって」
 ジロジロと俺を見て、ガジャクティンは超不機嫌そうに言った。
「……アーメットってさ」
「ん?」
「馬鹿だよね」
「………」
 うわ。ひさびさにきた。お子様独特の、傲岸な決めつけ発言!
「人間観察眼ができてないよ。向いてないんじゃないの、忍者?」
 うわ、うわ、うわ。容赦ないなあ。
「そんなんだから兄様まで倒れちゃうんだ……」
 え?
 何で、そういう話になるんだ?
「あのさ……この後、兄様、部屋を出てけって言うと思うけど、命令通りに行動しないでよ」
「何で?」
「兄様、本当は側を離れて欲しくないって思ってるから」
「……何で、わかるんだ、ガジャクティン?」
 義弟は大きなため息をついた。
「そんなの兄様を見てればすぐにわかる事じゃないか。本当、アーメットもラーニャも馬鹿すぎて嫌になっちゃう」
 プンと頬をふくらませて、ガジャクティンが襖を閉めて部屋を出て行く。
 えっと……
 俺が馬鹿すぎて、ガジュルシンからのサインを何か見逃してるのか……?
「……ガジャクティン?」
 消え入りそうな小さな声がした。
「……そこにいるの?」 
 ガジュルシンはうっすらと目を開けていた。が、まだモノを目で捉えられていないようだ。帰り際のガジャクティンの声が耳にでも入ったんだろうな。
「……ガジャクティン?」
「俺だよ」
 布団のそばに座り、ガジュルシンの視界に入る位置に顔をつきだした。
「ガジャクティンは出てった。部屋に居るのは俺だよ」
 そのままボーッと天井を見上げていたガジュルシンは、しばらくして目の焦点が合うと、熱で赤くなった顔を更に赤くしてぶるぶると震え出した。
「出てって」
 ガジュルシンは横を向いて額の布を落とし、頭から布団を被った。
「出て行って、アーメット……」
 すげぇ、当たった。
 ガジャクティンの言った通りじゃん。
 て、事は出て行っちゃいけないわけか。
「早く! 出て行って!」
 布団の中でガジュルシンが震えている。
 このまんまじゃ、又、ストレスを溜めに溜めて意識失っちゃうよな。
 仕方ない。
 俺は掛け布団をひっぺがし、狼狽するガジュルシンを抱き寄せ、腕に抱いた。くそぉ、座っててもこいういう体勢になると、こいつの方が背が高いのが嫌ってほどわかる。
「や」
 ガジュルシンはびっくりして暴れたが、俺はぎゅっとその背中を抱いた。
 こうすりゃ落ち着く。
 悪い夢を見たって泣いた時も、寝つきが悪くってグズってた時も、俺が抱っこしてやりゃガジュルシンは落ち着いたんだ。
「やめて!」
 もう子供じゃないんだってこのまえ怒ってたけど、俺にとっちゃ、昔も今も同じだ。
 俺のガジュルシン。大切な俺の義兄。


「あぁ……」


 あれ……?
 俺と視線が合って、ガジュルシンは赤かった顔を更に更に赤くする。泣きそうな顔で視線をそらす。
「ごめん……気持ち悪いよね……」
 うん、まあ……
 気持ち良いもんじゃないな。
 ガジュルシンの下腹部が、とても元気になっている。向かい合って抱っこしてやってるんで、俺の体にぶつかってくる。
 そっか……
 さっき、周囲につられて欲情しちゃったのか。
 ンで、恥ずかしがって俺に出ていかせたがってたわけね、納得。
 女性経験はないって言ってたしなあ。迫られた事はあったけど、うまくいかなかったって。
 周囲の影響を受けやすい体質の童貞には、あのエロっぽい空気はたまんなかったろう。
「アーメットには迷惑をかけない……だから、ごめん……忘れて……」
 小さく体を震わせながら、ガジュルシンが瞼を閉じる。まつげ長いなあ……
 悲しそうなその顔が……
 何とも……
 かわいかった……


* * * * * *


 え?


 世界がぐるぐる回る。


 そんな馬鹿な。
 ありえない。
 夢だ。
 夢に違いない……


 あぁ……


 アーメットと唇が重なっている……


 舌まで……


 彼からこんな事をしてくれるなんて……


 ありえない……


 どれぐらい触れ合っていたのかはわからないけれど……
 僕にとっては永遠とも一瞬とも思える時だった……


「ごめん……」
 ばつが悪そうな顔で、アーメットが僕を見る。
「何か、おまえさ……女の子みたいにかわいかったから、つい……」
 かわいい……?
 かわいい?
 僕が?
 今の言葉、もう一回、是非!
「俺も、さっきの馬鹿親父につられてたみたいだ……もうこんな事はしないよ、ごめんな」
 え〜〜〜〜〜〜〜〜!
 そんな!
 絶対ありえないってことを、一回でもしてもらっただけで嬉しい。
 嬉しいけど、でも、これきりだなんて嫌だ!
「待って」
 離れようとするアーメットの背に、手を回した。
 離れられたくない!
「謝らないで……」
 捕まえはしたけど……
 えっと……
 この後、どうしよう?
「怒ってないのか?」
 僕は、すぐさま頷いた。
「……嫌じゃなかったのか?」
 首を傾げ、意外そうに、アーメットが尋ねてくる。
 僕は頷きを返した。
「何で?」
『君が好きだから!』って、正直に告白できたらいいんだけど……わかってる。そんな事したら、破滅だ。アーメットは男同士は嫌いなんだ。 
『気持ち良かったから。もっとして』なんて言ったら、色情狂と思われる。やはり、嫌われてしまう。
 何って言えば……
「アーメットの……その……」
『気持ちが嬉しかった』でも変か……
 でも、何か言わなきゃ……
 僕は口元を押さえて、うつむいた。
「もらえて……嬉しかったから……」
 意味不明!
 支離滅裂!
 アーメットは不思議そうに僕を見る。
 うん、わからないよね。わかるよ、僕も自分が理解できない……
 けれども、アーメットは、何かが合点いったらしく、ああ! と声をあげた。
「気か!」
「え?」
「俺の気か!」
 え?
 アーメットがにっこりと笑って、再び僕に唇を重ねてきた。


 ちょっと待って、そんないきなり!
 心の準備というものが!


 さっきよりも深く口づけをされる……


 アーメットうまいなあ……
 房中術修行の成果か……


 意識が朦朧とする……


 顔を離したアーメットが、僕の額に手を当てる。
「あれぇ? もしかして、熱、よけいあがっちまった?」
 そんなの当たり前じゃないか……あんなに口を吸われたら……
「フラフラしてる?」
「力が抜けちゃったよ……」
「う〜〜ん? 逆効果?」
 残念そうにアーメットが言う。
「口から俺の練気を送ってやれば、体力向上&精神安定になるかと思ったんだが」
 練気?
 そういえば、ジライも、アジンエンデに気を贈る為に接吻したんだって言ってた……
 気か!
「見こみ違いかぁ、ごめん、ガジュルシン」
「吐き気がおさまった!」
 僕は拳を握りしめて、アーメットに力説した。
「直後はちょっと虚脱状態になったけど、急に体中に力が漲ってきた! アーメットの気を全身に感じる!」
「本当?」
 半信半疑そうな彼に、畳みかけるように言った。
「アーメットの気と一緒なら、何でもできそうな気がする! 周囲がどうでも僕が僕でいられると思う!」
「そうか。少しでも役に立ちそうなら、良かった」
 アーメットが笑う。
 とても健康的に。
 太陽のように。
 あああああああ、何ってかわいいんだ!
 僕はアーメットの背にまわした手に、力をいれた。
「もう一度、試したい……もう一回、気を送ってくれる……?」


 言葉通りに信じて、アーメットは望みをかなえてくれた……  


 欲深い僕のことだ。
 キスだけでは、そのうち物足りなくなってしまうだろうけれど……
 いいや……今は幸福に酔いしれておこう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ