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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

過去の亡霊

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過去は過去! 今ではすっかり……

 私が共感能力者(エンパシー)
 共感能力者(エンパシー)って確か、他人の強い感情、思いに触れた事がきっかけで、その者の心を我がことのように感じる能力だ。リオネルがそんなような事を教えてくれた。
 私のお母様や先々代勇者のランツ曾おじい様がそうだったって聞いている。殊にランツ曾おじい様の能力は強く、周囲の人間全員の感情が全部丸わかりだったとか。
「共感能力は、魔法による心話とは別種のもの、魂の共鳴なのです。ランツには魔力はなく、当然、心話も使えませんでした。でも、彼は『勇者の剣』が何を感じ、何を思っているのか常に直感的にわかっていたのです」
 へえええ。
「ランツの能力は、聖王に準じるレベルでした。対面するだけで、目の前の人物の心の中が透けて見え、どんな人間かおおよそわかってしまうという……ある意味、便利で、ある意味、不便な能力でした」
 黒髪三つあみの魔法使いは溜息をついた。
「彼は周囲の者全てに無防備に共感していたのです。知りたくない相手の知りたくない感情まで全て、ね。善人面した悪人とかを容赦なく排除しまくったから、現在、彼はたいへん粗暴な勇者として認識されていますが、周りの思念全部を感じてしまうのです、精神衛生上、汚い思考の人間をそばに置きたくないと思ったのは当然です」
 はあ。
「あなたの能力は……ランツのものとは違うようです」
 それはさっきも聞いた。どう違うの?
「あなたの共感能力者(エンパシー)としての能力レベルはお母様とさして変わりません。精神が高揚した時に、ふとしたはずみにその能力を発動させてしまう程度です。日常生活には支障なしのレベルです。でも、」
 でも?
「あなたはランツ以上に、『勇者の剣』に共感しています。あなたの高い能力が発揮される相手は、あの剣が限定。まあ、ものの考え方も、義侠心にあふれたところも、怒りっぽいところも、プライド高いところも、魔を憎み仲間を愛する情が深いところも、理性よりも感情を優先するところも、暴力が大好きなところも、よく似てますものね。非常に相性がいいんです。思考や感情を感じ取るばかりではなく、あなたは剣と人格を一体化できてます。だから、今も、剣から自在に力が引き出せているのですよ」


 へ?


 今のソラ耳?
 よく似てるって、何、それ失敬な!
 あの馬鹿剣と私のどこが似てるのよ!
 それに、私と『勇者の剣』が相性がいい?
 そんなことはない!
 戦闘以外、あの剣、わざと重たくなって私に持たれまいとしてるのよ!
 全然懐かないのよ! 仲良くしようとする意思すら感じられないわ! あの剣は私を嫌ってるのよ!
「それは違いますよ、姫勇者様」
 クスクスと魔法使いが笑う。
「剣は拗ねてるんですよ」
 剣が拗ねる?
「ええ。あなた自身が嫌いなわけではありません。自分の相棒であるあなたが、自分を第一の相棒と認めていない事が、剣には許せないのですよ」
 私が剣を相棒として認めていない……?
 魔法使いはまるでジライみたいに妖しく笑って、横目で見てきた。房中術基本所作、流し目かしら、これ?
「あなたの心を占めているものは『勇者の剣』ではないでしょ? 剣は使い手のあなたが、自分以外のものに夢中になっているのが嫌なんですよ」
 え?
「恋する乙女は、大嫌いなんですよ、あの剣は」
 カッと頬が熱くなった。
 なに、この人、何者?
 ずけずけと私の内面を口にして……無礼だわ!
 魔法使いは悪戯っぽく笑うばかりだ。
「あの剣の心を読むのは、カルヴェルよりも私の方が上手なんです。ねえ、姫勇者様、むくわれない恋なんて、忘れてしまってはいかがです? ナーダにとって、あなたはかわいい大切な娘。真面目で道徳的なナーダは、あなたを決して恋人とは思いませんよ」
 そんな事……
 あんたに指摘されるいわれはない!
 お父様そっくりな声で、『むくわれない恋』だの『決して恋人と思わない』だの言わないでちょうだい!
 私の怒りに何かが同調する。
 私以外の何かも、こいつに怒っている。
 何、ニコニコ笑ってるのよ、ムカつく男だわ!
 あんたなんか、黒いくせに!
「おっと」
 笑みを苦笑に変えて、魔法使いが私を見つめる。
 私の右手は宙へとあがり、空を渡ってきた剣を、その掌に握りしめる。
「黒の気は完全に消しているのに……もうバレてしまいましたか」
「黙れ、魔族」
『勇者の剣』からも怒りが伝わる。
 いや、怒りだけではない。
 悲しみ……
『勇者の剣』は泣きながら怒っているのだ。
 そして、目の前の者をすぐさま浄化したいと願っている。
「もっとゆっくりあなたとお話したかったのですが、別の機会にしましょう」
 逃げもせずその場にたたずみ、魔法使いが楽しそうに微笑む。
「シャイナ皇宮をよく調べて御覧なさい、三年前に何があったのかを含めてね。あなたの可愛いM奴隷ちゃん、このままでは魔の手に落ちますよ」
 うるさい!
 黙れ!
 消えなさい、あんた!
 私も剣もそれを望んでいる!
『勇者の剣』が魔族を斬り捨てる。
 確かな手ごたえ。
 剣の放つの光に飲まれ、魔法使いの姿であったものが消えうせる。
 あいつがつくった明かりの光球も消滅した。
 魔族を浄化できたのだ。
 しかし……
『勇者の剣』が残念そうだったので、私にもわかった。
 今のは分身だ。本体ではない。だから、敵は逃げようともしないで斬られたのだ。
 お父様そっくりな声の、ムカつくニヤケたヤサ男。カルヴェル様の知り合いと言っていたけれど、本当かしら?
 そこで、手の中の剣がグンと重たくなる。思い出したように重量を増すな、馬鹿! 私は馬鹿を床に落っことした。
 でも、重くなったってことは魔族はそばからいなくなったってわけで……
 月明かりしかない広い部屋で、私は溜息をついた。
 ここ、何処だろう?
 謁見の為と思われる広い部屋だった。夜中に内廷を勝手にうろつきまわって、入り込んでいいわけもない場所だ、常識的に……
 う〜〜〜ん。
 この場合、おとなしく待つのが吉!
 気絶したふりをして、床の上に寝っ転がった。
 警備兵が先に来たら、移動魔法で魔族に運ばれてここで戦闘をしたと説明しよう。
 ジライが先なら、アーメットを来させてあの馬鹿剣を運んでもらおう。ついでに、あの魔族とのやりとりをシャイナ皇宮には内緒にした方がいいか相談しよ。私の『可愛いM奴隷ちゃん』って皇帝のことよね。皇帝が魔の手に落ちそうって本当かしら? それに皇宮で三年前にあったことって?
 床は硬くて痛いけど、心地いい冷たさだ。床でも眠れそう。私は瞼を閉じた。


 ジライの迎えの方が早かった。
 偉い! さすが、私のストーカーね。よくぞ部屋からいなくなった私を見つけ出した。うっとーしくって、いつもはうざったいだけだけど、今日だけは褒めてあげる!
 ここは王族クラスの客人と皇帝が謁見する間で、内廷参内可能な高貴な家臣と皇帝が政務を行う事もある部屋なのだとか。
 ジライに連れられ、警備兵にも召使いにもバレないようもとの部屋に戻った。重たい馬鹿はアーメットに運んでもらった。


 翌朝、私の部屋で、ガジュルシンに千里眼防止の結界を張ってもらってから、みんなに、昨晩のことを話した。
 お父様と声がよく似た魔族の外見を簡単に説明すると、『青い瞳の女性的な顔だちの高貴な美貌の方でしたか?』と、シャオロンに聞かれた。
『高貴な美貌』? 高貴というのはお父様のように品格の備わった方の事だと思う。ニヤけた顔のイケすかない奴だったとしか言えなかった。まあ、確かに眼は青かったような。
 魔法陣に立っていたかと聞かれたから、好き勝手に歩き回っていたわと答えた。
「昔、オレ、ラーニャ様がおっしゃった通りの外見の、カルヴェル様の知り合いの魔法使いに会ったことあるんです、セレス様とジライさんと一緒に。魔法陣に囚われたまま、強力な魔力を操り、聖なる魔法でオレ達を助けてくださいました。『魔法使いナーダ』だと名乗られましたが」
「偽名に決まっておるわ。カルヴェル様の知り合いで、勇者ランツと『勇者の剣』とも親しかった者など、おそらくこの世に二人とおるまい。おぬしとて察しはついているのであろう?」
 腕を組んだジライがそっけなく言い、シャオロンはそうですねと苦笑を浮かべる。
 ガジュルシンも、妙に表情が硬い。
 ガジャクティン、アーメット、アジンエンデは顔を見合わせるばかりだ。事情がわかってないのは私を含め四人のようだ。
「昨日の魔族、有名な奴なの?」
「有名ですな」
 ジライがガジュルシンへと視線を向ける。話してもよいのか? と、問うように。
 ガジュルシンが大きく溜息をついた。
「僕から話すよ……ラーニャ、君が昨日会った魔族は、先々代勇者の従者だった僧侶ナラカだ。父上の伯父……つまり、僕とガジャクティンの大伯父だ」


 えっと……


「僧侶ナラカ様って、先々代勇者ランツ様が大魔王を討伐した時に殉死なさったんでしょう?」
 と、勇者おたくが兄に尋ねる。
 私も、そう習っている。大僧正候補で結界魔法が得意だった、僧侶ナラカ。神聖魔法も回復魔法も超一流だったと教わっている。
「そういう事になっている」
 え? 嘘だったの?
「大魔王との戦いで、僧侶ナラカは大魔王の呪いを受け、魔界に封印されたんだよ。魔法陣の呪ごと魔界に飛ばされ、『時間』が止まった結界の内に三十六年間、繋がれていたそうだ」
「魔界に三十六年?」
 糸目を丸くしガジャクティンが聞く。
「魔界って瘴気に満ちてるっていわれてるよね? 今世に出てきた魔族がまき散らす瘴気ですら人体にも自然にも有害なのに……そこに住むもの全てが瘴気を吐く世界で、人間が生きていられるはずないよ」
「うん。生身なら、ね。僧侶ナラカは呪ごと魔界に飛ばされ、『時間』が止まった結界に封じられた。だから、瘴気を大量に浴びても死ななかったし、魔に体をのっとられる事もなかった。大魔術師カルヴェル様の魔法によって、精神だけ魔界から救出されたのは封印から十七年後、肉体が解放されたのは三十六年後のことだった」
 ガジュルシンの顔に苦いものが浮かぶ。
「魔界より戻った僧侶ナラカの肉体は瘴気にまみれ、穢れきっていたそうだ。総本山で僧侶ナラカが闇に堕ちぬよう大僧正様がつきっきりで治癒にあたられ、カルヴェル様も大僧正様を助けられたのだけれども……完治を前に大伯父は失踪したんだ」
 失踪?
「何で?」と、思わず、私は聞いた。
「私情からの行動だ。後、半年、いや三か月、おとなしく治療を受けていれば大伯父は魔に堕ちなかったのに……置手紙を残し、僧侶ナラカは総本山を離れた。それには『二十五年後に戻る。それ以前に大魔王が復活した時は、自分の心が魔に堕した証。討伐を頼む』と書かれていたそうだ」
「二十五年?」
 なに、その期間?
 ガジュルシンがちょっと皮肉めいた笑みを浮かべた。
「大伯父は完治後の自分の余命を五十年と考えたんだ。憎まれっ子だから意地汚くそれぐらい生きるはずだ、と。総本山を離れ、勝手をするので余命は半分でいい、だから見逃してくれ、ってことだよ。二十五年後に、浄化されに総本山に戻るから、と」
「『大魔王が復活したら自分の心が魔に堕した証』というのはどういう意味だ?」と、アジンエンデ。
「僧侶ナラカは大魔王の呪で魔界に封じられていた。三十六年、大魔王の呪と共にあったんだ」


「同化するには充分な時間だ……大伯父が魔に堕ちるということは、ケルベゾールドの力の一部が今世に復活することを意味したんだ」


 むぅ……
「大魔王の力の一部ってことは……大魔王そのものではない?」
 との鋭いつっこみは、シャオロン。
「そうです」
 と、ガジュルシン。
「でも、大伯父が今世にいる限り大魔王の復活もありえず、ある意味、今世は平和となります。ですから、大僧正様は大伯父を信頼し、魔に堕した大伯父を放っておいたのです。むろん、監視はつけていましたがね。しかし……大伯父は十年ほどおとなしくしていた後、監視の目をごまかして逃走してしまったのです。そして、この度の大魔王復活……インディラ寺院としてはもはや僧侶ナラカを神の名において浄化しなければいけないのです」
「何故、僧侶ナラカがいれば大魔王が復活しないはずだったんです?」と、シャオロン。
「同じものは地上には出現できないからです。先代の大魔王がセレス様にかけられた呪いがありましたよね、その……」
 そこまで言ってガジュルシンは顔を赤く染め、顔を下に向ける。口はぱくぱくしてるのだけれど、後の言葉が続かない。言いにくそうな第一王子に代わってズバッと、ジライが言う。
「『千人斬り』を例にとる。十三代目大魔王の憑代よりかけられたあの呪、祓えねばセレス様の体をのっとり、憑代及び十三代目大魔王が今世に再び復活するというしろものであった。大魔王が今世から消えても呪は今世に残り、その呪より地上に舞い戻る事すらありえたのだ」
 え? それで? だから、何なの?
「先代大魔王の呪の影響が今世に残っている限り、次の大魔王召喚はありえぬ。呪での復活と再召喚が同時に起きては一つの世界に大魔王が二体存在する事となるゆえ」
 ん……と?
「先代の力の一部が今世にある場合、そこから復活できる可能性もあるから、別の奴に召喚されても大魔王が拒否るってこと?」
 私の問いに、『さようにございます、さすがラーニャ様』とジライ。『さすが』は余計。
「なるほど」と、シャオロン。
「なのに、大魔王が復活してしまったんですね、ということは」
「可能性は二つです」と、ガジュルシン。
「大伯父が新たな憑代となった……これが一つ目。無理やり憑依されたのか、自ら降ろしたのかはわかりませんが……大伯父が地上にいる限り、大魔王となれるのは大伯父だけなのですから」
「二つ目の可能性は?」と、シャオロンが促す。
「大伯父は今世に既にいない、です。死亡したのでも、異空間に籠っているのでも、別の世界に移住したのでも……何であれ、大伯父さえこの世界にいなければ、次のケルベゾールドが今世に出現できます」
 死亡していたのなら良かったのですがと、ガジュルシンが溜息をつく。
「大魔王となっていないのだとしても、大僧正様との約束を反古(ほご)にして今世から消え、しかも封じられたのではなく好き勝手に行動しているとわかった以上……大伯父の堕落は明らかです。僕は大伯父の血族として、又、インディラ寺院の代表として、僧侶ナラカ浄化に全力を尽くします」
「二つ目の可能性が真実だったとして……現在、別の人間に大魔王ケルベゾールドが降りている場合……僧侶ナラカが異次元から今世に戻って来たらどうなるんですか?」
 シャオロンの問いに、ガジュルシンは首をかしげた。
「わかりません、前例がないので……。惹かれあって同化するか、異分子として大伯父が処分されるかだと思います」
「では、僧侶ナラカを見かけたら大魔王と思えということですね」
「はい、そう思ってください」
 ガジュルシンは氷みたいな表情に固まっている。柔和な彼とは結びもつかない表情だ。
「でも、大魔王なら……」
 私は口をはさんだ。
「『勇者の剣』でしか斬れないわ。あんたがいくら望んでも、あんたの力じゃ僧侶ナラカを浄化できないんじゃないの?」
「うん」
 ガジュルシンは頷いた。
「でもね、血族だからこそ使える神聖魔法というものもあるんだ。僕ならば、超一流の僧侶であり攻撃魔法すら使えた僧侶ナラカの能力の大半を封じられる。憑代が優秀であればあるほど大魔王は今世で魔界本来の力を使えるようになってしまうだろ? 僕は憑代の能力を狭める魔法が使えるんだ。君が大魔王を倒す時に僕は役に立てると思うよ」
「血族だから使える神聖魔法って何?」
 ガジャクティンが兄に尋ねる。
「僕だって僧侶ナラカの身内だ。その魔法、僕にも教えてくれる?」
「おまえには無理だよ、ガジャクティン」
 ガジュルシンが静かにかぶりを振る。
「高位の神聖魔法だもの」
「う」
 中級までしか神聖魔法が使えないガジャクティンが、顔をしかめる。
「でも……もしかしたら、これから精神力が強くなって唱えられるようになるかもしれないじゃない。何って魔法? 呪文だけでも教えて」
「おまえには無理だ」
「兄様!」
「呪文のさわりを詠唱しただけで、おまえの魔力は枯渇するだろう。おまえでは信仰心も魔力も足りない。術にみあう素地がなさすぎるんだ」
 ぶるぶると身をふるわせてから、ガジャクティンがぷいっとそっぽを向く。納得はできないが、兄を説得するのは無理だとあきらめたのだ。
 私は話題を変える事にした。
「で、その僧侶ナラカが言ってた事なんだけど……三年前、皇宮で何があったの? あいつ、その事を調べてたみたいよ。霊と交信してたっぽかったわ」
「三年前に今世皇帝が立たれました」と、シャオロン。
「それは、父君の先代皇帝が崩御なさったからで……謁見の間の玉座のそばに幽霊がいたのなら、先代皇帝陛下かもしれませんね」
 え?
「先代皇帝の死因は?」と、アジンエンデ。
「公式発表では病死となっています」と、シャオロン。
 ふ〜ん。
 て、思って聞いていたら、アジンエンデの他は皆、表情に変化がない。あ、そ、知らなかったの、又、私だけ?
 覚えてないわよ、隣国の王様が何時頃、何で亡くなったのかなんて。後宮の住人の私が他国に赴く事なんて、普通、ないんだから、関心ないわよ。
 あれ? てことは……
「シャオロンのお弟子が皇帝の格闘の教師に誘われたのって四年前じゃなかった?」
 突然の話題の変化。それも、かなりどうでもよさげな話題だったのに、シャオロンは普通に答えを返してくれた。
「はい、そうです」
「じゃ、先代皇帝の格闘の師匠だったわけね、最初は?」
「そうですね。先代皇帝が亡くなったので、ひきつづき今世皇帝の師匠として、リューハン様は皇宮に残られました」
 それが何か? と、問うシャオロンに、何となく気になったから聞いただけと答えた。
 何か……ひっかかるんだけど、何にひっかかってるんだか、わからない。モヤモヤする。
「先代皇帝が死んで得したのって誰? 今の摂政?」
「いいえ」
 他国の政治事情にも詳しい、インディラ王家の御庭番の頭領であるジライが答える。
「現在の摂政ドルンは、先代の下でも同じ職に就いておりました。病弱な皇帝に代わって、国を治めていたのです」
「先代皇帝って病弱だったの?」
「と、なっておりました。表に滅多に姿を見せず、内廷に籠っておりましたゆえ。政務に向かぬ阿呆だったとの噂もあります」
「幾つで亡くなったの?」
「二十二にございます」
 それは若い。
「先代の時代からドルンは実権を握っていたってわけね?」
「さようにございます。今世皇帝が即位してからの三年、摂政は特に不穏な動きもしておりません。せっせと私腹を肥やしているぐらいで」
 それは不穏とは言わないのか。まあ、先代の頃も同じ事してたんだろうから、特別、不穏でもないのか。
「不正がバレたから、先代皇帝を口封じしたとかありえない?」
「どうでしょう。不正の口封じ程度に、デメリットの大きい殺人はそうそう選びません。実権のない皇帝なんぞ騒いだところでたいした脅威ではありませんから」
 むぅ。
「本当に殺人であったのなら、それ相応の理由があったとみるべきでしょうなあ」
 先代皇帝が生きてたらマズい事……
 何だろ?
 何で殺されたんだろ?
 いや、まだ殺されたと決めつけるのも早いか。
 三年前、何か事件が本当にあったのだろうか?
 僧侶ナラカの言葉を全面的に信頼するのも何だけど、あの謁見用の部屋で彼は死者と語らっていた。私があそこに行ったのはナラカにとって予想外のハプニングなわけだから芝居をしていたとも思えない……皇帝が魔に狙われているとか言ってたしね、あいつ。
「それよりも、気になることがございまして」と、ジライ。
「昨晩、お部屋からいなくなられたラーニャ様を探し、私は内廷をしばし探索したのですが……」
 ジライが見てきたものを聞いて、一同の目が点になる。そんなモノが内廷に本当にあるのだとしたら……ここは相当ヤバいということだ。
 ジライは鳥でムジャと連絡をとり、三年前の皇帝の死を含め皇宮の事件調査にあたらせると言った。インディラ王家の御庭番の副頭領であるムジャは、今、たまたまペクンに滞在中らしい。情報屋組織と接触して必要な情報を買わせ、ペクンのインディラ寺院・シャイナ教神殿などを調べさせるそうだ。
 皇宮内はジライが調べる。まあ、任せとけば大丈夫か。千里眼防止用の結界が張られている場所があるのなら、その場所だけチェックしといて、後でガジュルシンと調査すればいいわけだし。
 私達はできるだけかたまって行動することを決め、魔族のたくらみを潰すまで何か理由をつけて皇帝と行動を共にすることにした。
 その理由として最適なのは……
 ガジュルシンの提案に私は「え〜〜〜〜〜〜〜」っと、思いっきり不満を伝えたんだけど、それはいいですねと強くシャオロンが支持したのでそれに決定してしまった。
 え〜〜〜〜、嘘ぉ……
 やらなきゃ……ダメ?
日替わり後に更新をしてきましたが、リアル事情により難しくなりました。
今後は、一日一本ペースで何らかの作品をいろんな時間にアップしていきます。
+注意+
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