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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

極光の剣と龍の爪

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私の知ったこっちゃないわ! 男達の夜!

 セレス様の従者だった『龍の爪』の使い手シャオロン様は、好人物だった。
 忍者ジライがついて来てくれているとはいえ、後宮育ちの僕等は世俗にうといし、アジンエンデは南の文化を知らない。世慣れぬ僕達の後ろ盾となってくれる方が、良いお人柄の方で本当に良かった。


 僕とガジャクティンとアーメットは、シャオロン様の格闘の弟子アキフサの家に泊めてもらうこととなった。
 アキフサはジャポネの神官のような格好をしていた。赤っつらでぎょろっとした眼の、濃い髭の男性だ。小さい子供ならばその顔を見ただけで泣き出しそうな異相だったが、たいへん愛想のいい、面倒見のいい方だった。
 食事の給仕も妻だけに任せず、汁をよそったり膳を運んだりと積極的に手伝う。恐ろしげな外見に似合わず、家庭的な方のようだ。挨拶に訪れた子供達は、男女とも皆、父親によく似た顔をしていたけれども、よく笑う愛嬌のある子供達だった。


 八畳の部屋で僕等三人は一緒に休む事となった。僕は荷物より、シベルア語辞典とシベルア語日常会話集を取り出した。シベルア語について共通語で書かれた本は王宮に数冊あったが、その逆の本はなかった。教本なんて作ったことないけれど、アジンエンデの為に、わかりやすい共通語単語帳などの学習本を作ろうと思う。


* * * * * *


「三人で寝るのなんて、すっごい久しぶりだよね」
 三つ並んだ布団、その左端の布団に寝っ転がっているガジャクティンは、上機嫌だ。ごろんごろん、布団の上を転がっている。う〜〜〜ん、顔も体も声もナーダ父さんそっくりなのに、中身がまんまガジャクティンだから変な感じ。まあ、そのうち慣れるだろうけど。
 王子の二人はターバンも外し、俺らは夜着に着替え、もう後は寝るだけとなっている。
「八年ぶりかな? 昔は、夏の別荘じゃ、キングサイズのベッドで、ナーダ父さんと俺らと姉貴と雑魚寝したよな」
 そう口にしてから、ガジャクティンにとっては十年ぶりになるのかもしれないと俺は思った。
「楽しかったよね」
 ガジャクティンはニコニコ笑っている。うん、めちゃくちゃ楽しかった。枕投げしたり、拳闘士ごっこしたり、父さんからおもしろいお話いっぱい伺ったり、父さんの体にぶらさがったり……
 けど、それは姉貴十才の夏が最後で終わった。『私、もうレディーなのよ、男達と寝るなんてはしたない真似できないわ』と、ませた口を姉貴がききはじめたからだ。
 じゃ、姉貴を除いた三人とナーダ父さんの四人で寝りゃいいやって俺は思ったんだけど、姉貴一人だけを疎外しちゃいけないと真面目な父さんは思ったみたいで、子供達との就寝をやめてしまった。
 姉貴十一の夏は、父さんに昼間いっぱい遊んでもらった記憶がある。俺もガジュルシンも姉貴も、夜は、一人で、それぞれの部屋で寝た。けど、幼かったガジャクティンは父さんにひっついて、寝つくまでという約束で一緒に寝台に横になってもらっていた。今にして思えば、父さん、持込の仕事、夜中とかにやってたんだろうなあ。本当、子煩悩で働き者の王様だよ。うちの親どもに爪の垢を煎じて飲ませてやりたくなる。
 で、姉貴十二の夏には、俺はもう王子じゃなかったし……インディラ忍者の隠れ里で過ごしてたからなあ。
 王子達と忍者。身分が違っちまった俺らが、同じ部屋で、同じように布団につくなんて本国じゃありえない事だ。侯爵家じゃそれぞれ個室だったし、昨日のハリハールブダン上皇の家じゃ同じ家の寝台で寝ることになってたけどガジュルシンは徹夜だったしなあ。
 布団の上で欠伸をしたガジャクティンが、ガジュルシンの背を見つめる。机に向かって共通語のアンチョコ本を作ろうとしているのだ。赤毛の巨乳戦士の為に。
 善意の塊で真面目なガジュルシンだから、多分、ある程度形になるまで、書き続けるつもりだ。共通語もできないんじゃ、あの女戦士、こっちで苦労するのは目に見えてる。早く渡してやりたいんだろう。
 でもな、いい奴なんだけど、時々、鈍いんだよな、ガジュルシン。
 俺はガジュルシンが書いているものを覗き込むふりをして、その耳元で囁いた。
「寝ようぜ、ガジャクティン、待ってるぞ」
 机から顔をあげたガジュルシンが、びっくりしたように俺へと視線を向ける。間近で見ると、こいつ、睫、長いよな。
「あいつ、二年半近く異空間に籠もってたんだぜ。カルヴェル様の分身とは一緒だったみたいだけど、ずっと一人だったんだぞ」
「あ」
 ガジュルシンの形のいい眉がさがり、アーモンドのような目が細められる。弟思いのガジュルシンは、今、何をすべきかわかってくれたようだ。
「兄様、おしまい?」
 机から離れた兄を見て、ガジャクティンの顔がパーッと輝く。犬だったらきっと、嬉しくって振り切れんばかりに尻尾を振っていることだろう。
「うん、昨晩、徹夜してしまったし、今日はもう休むよ」
「それがいいよ! 無理すると兄様、倒れちゃうもの!」
 真ん中の布団に入ってとせがむ弟に、僕は端でいいよと答える兄。王子様方をおしのけて、忍の俺が真ん中ってわけにはいかないだろう。ガジュルシンには中の布団に入ってもらった。
 蝋燭の火を消さないでってガジャクティンが言うんで、机の上のをつけたままにしといた。夏の別荘でも、そいや、そうだったな。今じゃもちろん平気だろうけど、ウシャス様の寝所から俺らと同じベッドに転がり込んできた時、ガジャクティンは最初は三つだった。真っ暗闇が怖いってよく泣いてたっけ。
 あのかわいかった小さなボーズが……今や、俺よりも上も横も遥かにデカい。俺より背が高いガジュルシンでさえ、ガジャクティンのそばじゃ子供みたいに見える。
 くそぉ……
 親父の東国の血が怨めしい。


* * * * * *


 又、失敗してしまった。
 僕は正論ばかりをふりかざし、人の情を疎かにしてしまう。
 異次元空間から戻ったガジャクティンを、僕はずっと叱り続けていた。現実から切り離された空間に、自己の利益をはかる為に籠もるなど、許されざる罪だ。その点においては、僕は、生涯、ガジャクティンを許す気はない。人としてやってはいけない過ちを犯したのだから。
 けれども、僕は弟の気持ちをわかっていなさすぎる。
 寂しくなかったはずがない。
 外見が大人びているせいで誤解されがちだが、ガジャクティンの内面は非常に幼い。未発達な精神は十歳相当ではないかと思う。その昔、周囲の大人達から僕と比較されすぎたせいで対人恐怖症の気があるのだ。劣等感も強い。家族と気の置けない家臣以外とはまともに会話してこなかったので、幼さが残ってしまっている。
 社交話術や身につけた知識で表面は取り繕っているが……ガジャクティンは子供なのだ。
 異空間に二年半もいたなんて……寂しくって寂しくってたまらなかったろうに、『優秀な従者』となって褒められたい一心でガジャクティンは頑張ったのだ。
 ラーニャに『私なんか足元にも及ばないほど超優秀になっちゃったわね』『従者として守ってちょうだい』と、言われた時のガジャクティンの嬉しそうな顔……
 怒るべきところは怒った上で、褒めてやるべきだった……
 異空間ではどうだった? と、話をふってやると、僕がまだ怒ってると思ったのか、おどおどとガジャクティンは話し始める。
 カルヴェル様の分身と籠もった空間は、ガジャクティンの目には一軒家の中のように見えたそうだ。窓も出入口もなかったけれども、食事はカルヴェル様の分身が三食出してくれ、水と火の魔法を用いて風呂もわかしてくれたようだ。
「最後には分身のお力を借りなくても、水を湧かすのも、火を起こすのも一人でできるようになったんだよ」
 と、得意そうに語る頃には、どんな風に自分は頑張ったか話したくてしょうがない感じになっていた。
「魔法授業ばっかだと体がなまっちゃうでしょ? だから、籠もる前に『雷神の槍』も持って行きたいってお願いしたんだ。僕、槍も印可だからね、雷撃放たれずにちゃんと持てたんだよ」
「すごいなあ、ガジャクティン」
 と、アーメットが褒めてくれたものだから、弟の笑顔が一層にこやかなものになる。精神的に幼いガジャクティンはたいへん倣岸だが、よっぽどひどい事を言われない限り、アーメットは怒らない。ただ弟を褒めてくれる。弟が本当は小心で劣等感が強い事を知っているからだ。
「勉強の合間に肉体と槍の鍛錬をしたの。分身が魔法で出してくれた木人と戦ったりしたんだ。二年半も籠もっちゃったから、持ってって本当、良かったと思う。魔法関係のものは全然、物質転送できなくちゃってたし」
 ん?
「本当は二年半も籠もる気はなかったのか?」と、アーメット。
「うん。できれば一ヶ月、長くても半年にしとけって言われてたんだ。僕、成長期だし、長く籠もったら大きくなっちゃうでしょ? 一ヶ月ぐらいなら特訓したのバレないかなあと思ったんだけど、一ヶ月じゃ魔法習得はやっぱ無理だった。父様からも兄様からも怒られるのは覚悟の上で、後五ヶ月と思って修行を続けたんだけど」
 明るくガジャクティンが言う。
「帰れなくなっちゃったんだ」
 え?
「僕らのいた異空間、大魔術師様の魔法を阻害する強力な力に囚われちゃったんだって。籠もってから三ヶ月後くらいかなあ」
 何だって……?
「囚われたってどういうことだ?」と、アーメット。
「外界との通路を全部封じられちゃったんだって」
 僕とアーメットが布団から上半身を起こし、弟を見つめる。僕等にあわせて弟も体を起こした。
「誰に?」
 ガジャクティンはかぶりを振った。
「知らない。カルヴェル様は誰がやったかご存じだったみたいだけど」
「それで……帰るに帰れず二年半か?」
「うん。次元通路が封じられたといっても、通れないのは魔法素因を含むものだけ。だから、食料も水も空気もこの世界から普通に持ってこられたしね、普通に暮らしていたよ」
 そんなニ年半も……
 不意のアクシデントだったとしても……
 本人が望んでいなかったのに閉じ込めていただなんて……
 カルヴェル様は、きっと全力で弟を助けようとしてくださったろう。
 でも、それでも許せない。
 結果として、カルヴェル様は僕の大事な弟の時間を奪ったのだ。
「……怖くなかったの、ガジャクティン?」
 と、僕が聞くと、ガジャクティンは大きくかぶりを振った。
「全然」
 そして、明るく笑う。
「一人だったら怖かったと思うよ。でも、分身とはいえ二度も大魔王を討伐した英雄と一緒だったんだもの。当代随一の大魔術師様が、絶対、どうにかしてくださるって信じてた」


 僕は父上と同じくらい大きくなってしまった弟を抱きしめた。
 本当に馬鹿だ。
 臆病でひとみしりなくせに……
 勇者とか、従者とか、過去の英雄とか、家族とか……
 一度、心を開いた者に対し、こいつは何の疑念も抱かない。無条件に相手を信頼してしまう。
 二度と今世に戻って来られなかったかもしれなかったのに……そんな危険な状態にあったことに気づいてすらいない。
 二年半も異空間に閉じ込められていたのに……
「おまえが無事に今世に戻ってこられて本当に良かったよ」
「うん」
 ガジャクティンが無邪気に笑う。
「半年じゃ、僕、一部の神聖魔法と初級の攻撃魔法の火と雷ぐらいしか覚えられなかったと思う。異空間に籠もったのバレたら半年だろうが二年半だろうが怒られるんだから、二年半かけてばっちり回復魔法や補助魔法まで覚えてきて得しちゃった」


* * * * * *


 あ〜あ。
 ガジャクティン、往復ビンタくらってるし。
 ガジュルシン、弟相手だと手が早いなあ。
 まあ、怒られても仕方ない、しょうもないこと言ったガジャクティンが悪い。異空間のお籠もり、全然、反省してないみたいだし。
 しかし……
 大魔術師様の分身を閉じ込めただなんて……一体、誰が?
 時間軸の違う異空間でのことだ、実時間に残っていた大魔術師様本人が気づくのが遅れたせいもあるだろうけど……数十分、そいつはカルヴェル様を凌駕する魔力でガジャクティンと大魔術師様の分身を異空間に閉じ込めていたわけだ。
 巧妙に出し抜いたんだとしても……相当な実力の奴でなきゃできない。世界の三本の指に入るっていうハリハールブダン上皇なら可能かもしれないが……
 三本の指って……
 そいや、後、誰だろう?
 魔術師方面は、俺、あんま情報ないんだよな。残り二本のうちの一本がカルヴェル様なのか? カルヴェル様は別格すぎて三本の指には入ってない可能性もあるけど。
 ううむ。
 親父に聞いとこう。


* * * * * *


『絶対、もう二度と命を弄ぶような魔法には関与しません。父様や母様を悲しませるような事はしません』
 と、誓ったので許してやった。
 三人で床につく。
 ガジャクティンがしょんぼりしていたので右手を差し出してやった。嬉しそうに僕を見て、僕と手をつないで、ガジャクティンは目を閉じた。
 本当に、てんで子供だ。実年齢の十四歳より、ずっと幼い。
 まあ、周囲に家臣達の目が全くないから甘えてるんだろうけれど。僕は何度もインディラ寺院に修行に行っているけれど、ガジャクティンやラーニャは生まれてからずっと忍やら召使やらに囲まれて育ったのだ。王族として常に虚勢を張っていたのだ。
 少しぐらい甘えさせてやっていい。
 もう二度と馬鹿な事をしないなら。
 僕が側にいられるのもあと少しだけかもしれないし。
 ガジャクティンが寝息を立て始めたので、そっと手を離し、仰向けになって天井を見つめる。
 僕の想像通りなら、もうあまり時間はない。
 僕は……なすべきことをなすだけだ。
「眠れないのか?」
 すぐ横からの声。
 アーメットが心配そうに僕を見ている。
「眠れなくても、目を閉じて体を休めてろよ」
 アーメットから見ると、僕は病がちな、かわいそうなひよわな王子だ。
 保護欲をかきたてられるのか、アーメットは常に僕の健康を気遣う。
 苦い笑みが浮かんだ。
 健全な魂のアーメットは知らない。
 僕が何で体調を崩しやすいのか。
 確かに、僕は体力がない。でも、とりたててどこが悪いわけでもない。無茶をしなければ、普通の生活を送れる。
 しょっちゅう吐いたり、熱を出したり、卒倒するのは、ストレスのせいなのだ。
 僕は善人でも善良でもない。そうみせようと芝居をしているだけだ。だから、時に、自分の感情を御しきれなくなり、行き場の無い感情が荒れ狂い自家中毒を起こしてしまう……ヒステリーを起こす代わりに自分の体を攻撃している、ただそれだけなのだ。
 僕は馬鹿が嫌いだ。
 強欲な人間にも反吐が出る。
 魂の醜い人間など、この世から消し去ってやりたくなる。
 声が大きいだけの愚かな人間を前にすると……腹が立って、相手をズタズタに切り裂きたくなる。困った事に、感情を爆発させれば簡単に僕にはそれができてしまう。強い魔力があるから。
 いつも、理性で凶暴さを無理やり押さえつけているのだが……そうなると、何もできなくなる。話すことすらも。その場に棒立ちとなってたたずむ僕は愚かな人間の発言を延々と聞かされるはめとなり、ストレスが高じ、自家中毒となり倒れる……というわけなのだ。
 なまじ魔力があるせいで、僕は、幼い頃から、人が言葉にしない感情を知ってしまっていた。
 偽りの仮面をつけて媚を売る大人達をどれほど嫌悪したことか……
 だから、僕は後宮か寺院にしか居られなかった。
 人格者である父上と単純明快な忍者であるジライがつくった後宮には、悪人が入り込む余地はなかった。非常に清浄な場所だった。
 むしろ、聖域である寺院の方が穢れていた。権力欲にまみれた俗人のごとき者、虚栄心の強い者、嫉妬や憎悪に憑かれた者……聖職者にふさわしくない僧侶も数多い。だが、大僧正様は別格だ。あの方は何も持っていない、何も拘っていない、全ての者に慈悲の目を注ぐだけだ。魔族すらも、大僧正様は許し、愛しておられる。大僧正様のおそばにいるだけで僕は癒された。
 大僧正様は、僕を研ぎ澄まされた刃と例える。刃自らが切れ味を鈍らせたく思っても、それはかなわぬ望み。刃には刃にふさわしい生き方がある。自然であれ、と常におっしゃる。他を切り裂く事を恐れるのであれば、性を変えようとあがくのではなく、己をおさめるべき鞘を探せ、とも。
 けれども、鞘とは何だろう? 僕が自然であったら……誰一人、僕の側にいられまい。激しい感情をぶつけられたら、皆、疲れ果ててしまうだろう。
 アーメットも、きっと……
「僕のことは気にしないで、先に寝て。体が疲れてるから、どうせすぐ眠るよ」
 そう言ったら、アーメットがムッと眉をしかめた。
 子供の頃と同じような顔……
 裏表がまったくない、綺麗なアーメット。彼の精神には邪気がないので、側にいるのは心地いい。健康的な笑みも、見ていて気持ちがいい。元気よく走り回る彼の姿にはほれぼれしてしまう。
 だいぶ前から自覚している。
 僕はアーメットが好きなのだ。
 身内としてではなく、一人の人間として……。
 彼を見ているだけで僕は幸福になれる。
 見ているだけでいいんだ。
 それ以上は望まない。
 前に話してくれた。房中術訓練として、アーメットは女性経験も男性経験も積んでいる。そして、僕に言ったのだ。
『野郎とやっても肉体的には気持ちよくなれるってのはわかったよ。けど、男を女の代替にするのって、犯るのも犯られるのも、やなんだよね。ゾッとするっての? 気色悪いよ』。
 彼の言葉を絶望と共に聞きながら……
 彼が男性相手につんだ房中術訓練がどんなものだったかを想像し……欲情してしまった。 
 僕は若い。時折、肉体が勝手に彼に反応してしまう。
 知られたら、アーメットに嫌悪の瞳で見られてしまうのに。
 それだけは嫌だ。
 僕はアーメットに何も望んでいない。最期の時がくるまで、そばにいてもらえたら、もうそれだけで充分だ。
 嫌われさえしなければ……それでいいんだ。
「周りに気を使う暇あったら、寝る努力しろよ。ったく、見栄っ張りのガキなんだから」
 そう言って、アーメットが何を思ったか、僕へと右手を差し出してくる。
「ほい」
 ?
「おまえが寝るまで手ェつないでいてやるから、さっさと寝ちまえよ」


 僕はどうも……
 取り乱し、大声をだしたようだ。
 気づいた時には僕はアーメットに後ろから抱きしめられて、口元をおさえられていた。
 上半身を起こして布団の上に座る僕を……アーメットが後ろから暴れないように抱きしめ、口をおさえている。
 背中に……夜着を着たアーメットの胸や腹や……体温を感じる……
 苦しい……
 胸が激しくときめいている……
 心臓が破れそうだ……
「馬鹿、ガジャクティンが起きちゃうだろ?」
 アーメットが頬を、僕の頬へと寄せてくる。
「今更、恥ずかしがるなよ」
 なに……を?
「わかってんだからさ」
 なに……を?
 アーメットの息が熱い。
 背筋がぞくぞくした。
「おまえの気持ちぐらいわかってるよ」
「……僕の気持ち?」
 頭がカーッとする。
 ダメだ……
 理性がふっとびそうだ……
 アーメット……


「寝るまで手をつないでいてやるよ。おまえ、寝つき悪くって、よくぐずったよな。俺が一晩中、手つないでやったり、抱っこしてやったろ? 忘れたとは言わせないぜ。寝つくまで手をつないでいてやるよ。それとも抱っこの方がいいか?」


* * * * * *


 不覚……


 まさか、あのガジュルシンに手をふりほどかれるとは……
 あんな力があるとは思わなかった。


 布団を被り、ガジュルシンは俺の布団に背を向けて眠っている。
 頭から湯気を出しそうなほど怒りながら。


「馬鹿! 僕を幾つだと思ってるんだ! 抱っことか、二度とそんな恥ずかしい事、言うなよ!」


 と、怒りの往復ビンタを三セットも俺にくらわせて、ガジュルシンは布団を被った。
 けっこう、腕力あるじゃないか……
 ほっぺたが痛い……


 まあ、あれから八年なんだし。
 昔通りのわけないか。


 失敗、失敗。


 俺も横になって、目を閉じた。
 ふってわいた、兄弟三人で眠れる、今だけの幸運に感謝しながら。 
 次回からは新章 『シャイナに忍び寄る影』に入ります。

 最初の話は、『世界は広い! くじけそうな心!』で。

* * * * * *

 明日からはしばらく『女勇者セレス』の更新をしますので、ラーニャちゃん、ちょっとお休みです。
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