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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

極光の剣と龍の爪

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戦う理由! 勇者として!

 上皇様のご自宅と教会の前は、広場ってほどじゃないけど、空間が開いている。
 私はそこで、赤毛の女戦士――アジンエンデと対峙していた。
 カルヴェル様、上皇様、ガジュルシン、ガジャクティンは上皇様の家の前におり、周囲の家々の前には老人や子供がいた。窓を開き、家の中から覗いている者もいる。皆、突然、始まったイベントに興味津々って感じだ。白銀の鎧姿の美女VSセクシーな赤毛美人(しかも知人)の大剣対決だ。見なきゃ損よね。
 アジンエンデは顔を朱色に染めたままだ。大剣を抜き、様子を見る為か両脚を大きく開いて腰を落とし下段に構えていた。
 対する私も下段だが、こちらはその構えしかできないだけだ。まともに持ってたら腕がしびれてしまうので、剣先は地面につけている。しかし、重そうに持っているようには見えないよう、涼しげな表情はつくっている。
 家畜の鳴き声が聞こえる。
 無邪気にざわめく子供達の声もする。多分、なにやってるの? とか、なんでアジエンデは裸なの? とか言ってるんだと思う。
 アジンエンデの顔の色が、どんどん赤くなってくから。
 勝負に集中できていないのだ。
 きっと、とっとと勝負を決めたいと思ってるはず。この公開羞恥プレイ状態から解放されるには剣の勝負を終わらせるしかないもの。
 でも、私からは仕掛けない。というか、仕掛けられない、剣が重くて。
 私が守りの構えを崩さないとみてとり、アジンエンデは『極光の剣』を右肩に担ぎあげた構えで、私の左側へとまわりこむように走って来る。
 私は下段の構えのまま、相手の動きに合わせて体の向きを変え、半円を描くようにし剣先を振り回した。
 私の死角をつこうと大きく動く相手に対し、防御の構えの私は小さく動くだけですむ。向こうが剣の間合いにつっこんできたら、剣先をあげるだけでいいのだ。
 むろん、その反撃をかわされたら、重い剣を持つ私に次の手はない。相手がいつ仕掛けてくるか見極めようと、私は必死に相手の動きを目で追った。
 アジンエンデがくるっと身を翻した……と、思った時には剣の切っ先が迫ってきていた。
 反射的に剣をもちあげて防いだのだが……
 何が起きたか一瞬、わからなかった。
 届く間合いではなかったのに、剣は私の体を貫くほど迫っていた。
 再びアジンエンデが反対側に回転する。
 違う角度から、また、ぐんと剣が迫って来る。
 彼女は巨大な両手剣を……右手、左手ともちかえて片手だけで握って、まるで細剣(フェンシング)のような構えで仕掛けてきていたのだ。
 しかも、軽々と。
 二手、三手とアジンエンデの攻撃を防ぐうちに、腕が楽になってきた。『勇者の剣』の重量が少しづつ軽くなってきているのだ。剣の名手に対する私の動きを『勇者の剣』はお気に召しているようだ。
 アジンエンデは地面ぎりぎりに身を低くしたかと思うと倒れこむように足を狙ってき、回転と共に立ち上がると振り向きざまに宙を薙ぐ。機敏で軽快、そして奇抜な動きだ。巨大な両手剣を、左右どちらの片手でも扱え、時には両手で握ったりする。
 間合いはつかみづらいし、動きの予想がつかない。
 防戦一方にならざるをえない。
「思ったよりも、やるな。私の剣をここまで受けられるとは」
 アジンエンデの口元には笑みが浮かんでいた。大型肉食獣を思わせる笑みだ。
「だが、きさまのハエが止まるような剣では、私を捉えられん」
 ムカッ。
 こっちが重たい剣で苦労してるとも知らないで〜
 アジンエンデの剣は、変幻自在。本来、両手で持つ重量の武器を両の片手で扱え、下半身にバネがある為に瞬時に一気に距離をつめることができる。
 だが、それは……
 正規の両手剣の鍛錬を積んできた者に、片腕で挑む無謀な行為でもあった。
 体重をのせた強力な一撃を当てられれば、アジンエンデは片手では重い剣を支えられず落としてしまうだろう。又、彼女からの攻撃も片手の時はさほど威力がないとみていい。おそらく、突きと牽制のみだ。敵にとどめを刺す叩き斬るような行為は、両手でなければ不可能だ。
 勝機はある。
 問題は変則的に動く彼女の剣を、いかに捉えるかなのだ。
 素早さではどうあがいても勝てない。『勇者の剣』はだいぶ軽くなったものの、『持っていることを忘れるほどの軽さ』には程遠く、並みの両手剣よりも重い。
 間合い(リーチ)も負けている。剣を持つ手だけを前に突き出し体を横にして戦える相手に対し、こちらは両手で剣を支えて構えなくてはいけない。攻撃可能な角度も狭い。
 私は周囲に視線を走らせ、建物の位置をすばやく把握する。
 戦いを始める前、方位は確認しておいたのだ。
 私は後退する時は東を背にするよう意識していた。
 アジンエンデは余裕の笑みだ。
『それなりには使えるが、自分よりは劣る相手』と、私を見下しているのだ。
『極光の剣』を自在に使える彼女に対して、『勇者の剣』との仲があまりよろしくない私では、確かにその通りではあるけど。
 私はひたすら防戦に徹し、機会を待った。
 彼女に隙ができる時を。
 焦らずに待てば……
 その時がやってくることを私は知っていた。
 前足で地面を蹴って後方に飛び退ってから、しゃがみ、右で攻めるとみせて左手に持ち替えた剣でひねるように攻撃をしかけかけ……
 彼女の動きが鈍る。
 その視線は私の後方に向いていた。
 彼女の顔がカーッと真っ赤に染まった。
 ようやく来たのね……
 私はほくそえみながら、『勇者の剣』をできるだけ振り上げ、体重を乗せたそれを一気に振り下ろした。


 私の背後からは……
 東の畑で働いていた村人達が近づいて来ている。
 上皇様は『極光の剣』の使い手に準備をさせると言った時、東の畑に使いをやると言っていた。
 私が来るまで、彼女がそこで働いていたのだとしたら……
 彼女と近しい者もそこで働いているはず。
 そう思い、アーメットを東の畑に向かわせ、勝負前にジライにも周囲で働く者を村に向かわせるよう命じておいたのだ。


 案の定、東からは……


「ハリハラルド! ×××××××!」
『極光の剣』を地面に落としたアジンエンデはしゃがみこみ、胸を隠すように両腕を組んでいた。真っ赤に染めた顔を、三十代ぐらいの、剣を佩いた逞しい男性に向けながら。
 この人が上皇様の息子――アジンエンデの旦那様なわけね。
 男は茶色い髪を掻き、朴訥そうな顔で慰めるように彼女に話しかけた。
「×××××××、×××××××………」
 東の畑にいる人達に、『アジンエンデは『極光の剣』の後継者として、晴れがましく戦ってる。是非、見に行って欲しい』と、アーメットに伝えさせた。
 彼女の夫は純粋に、妻を応援に来たのだろう。
 ハリハラルドはさっさと上着を脱いで、アジンエンデの体の上からかけてやった。下着姿にしか見えない彼女の体を隠す為に。
 しかし……
 彼女の体にかかった途端、それは跡形も無く消え失せる。布切れも糸の一本も残さずに……
 上に何もまとえないって、こういうことだったのね。
「××××××」
 ハリハラルドは眉をしかめ、上皇様を睨みつけた。
「××××××××××××!」
 息子に怒鳴られた上皇様は、チッと舌打ちを漏らし、パチンと指を鳴らす。アジンエンデの体は宙より現われたフードマントによって隠された。
 ホッと息をついた女戦士は夫に礼を述べてから、『極光の剣』を手に立ち上がり、私をキッ! と、睨みつけた。
「今日のところは、おまえの勝ちだ。だが、偶然、勝ちを拾っただけだと忘れるなよ」
 夫に肩を抱かれ、女戦士は自宅へと戻って行った。
 うぅ〜ん、残念、泣かせられなかったわね。
 だけど、勝てたのだし良しとしよう。
 と、そこで、がっくっと膝をついてしまった。
 重い。
 手の中の『勇者の剣』の重量が、急に増えたのだ。男性一人分の重さといったところか。
「まだまだ持ち手としては認められんと言うておるのだ」
 大魔術師カルヴェル様が短距離の移動魔法で、私の目の前の宙に現われる。
「もっともっと剣の才をみせよと言っておるのだ」
「もっと戦えってことですか?」
「うむ。セレスとて、剣を魔法剣として使用できるようになるまで一年半、ラヴラヴ状態になるまで二年かかったわ。その剣を持って気長に世直しを続けるしか道はないのう」
 私は『勇者の剣』を手放し、地面に置いた。
 つまり……当分、軽くなるのは一時的ってことね。
 勝負の間は、私の剣の技に応じて徐々に軽くなっていくことはあっても……普段は持って欲しくないと……私に触れられたくないと言っているわけね。
『勇者の剣』を屈服させるまでには、まだまだ時間がかかりそうだわ。
 老魔術師様はホホホと笑った。
「今、ハリハールブダンにアジスタスフニルと連絡をとってもらっておる。勇者として旅立つ前に、両手剣の名手だった男と会っておけ。学ぶべきことが、きっと多いぞ」


 日が暮れても、お母様の従者だった赤毛の戦士とは連絡がつかないようだった。
 上皇様とカルヴェル様、それにガジュルシンが、真剣な顔で、私にはわからない言語で話し合っていた。どうも、居るはずの場所に居ないようなのだ、あの赤毛のおじ様。
 探知の魔法っていうのを使って、今、三人で世界中を捜索しているらしい。
 たいへんそうだなあとは思うけれど、魔力のない人間では人探しのお手伝いのしようもない。
 村には宿屋はないし、上皇様の家には間仕切りはあるけど、部屋はない。
 ので、女の私はアジンエンデの(正しくは旦那様のハリハラルドの)家に、男どもは上皇様のお家に泊めてもらう事となった。


 アジンエンデの家まで、ガジャクティンが『勇者の剣』を運んだ。重たい剣を上皇様の家に置いていこうとした私を、『メイン武器を置いて行くなんて、馬鹿じゃないの?』と怒って義弟が勝手に担いで運んでくれたのだ。ジライに連れられてアーメットが(忍者なりの)情報探索の為に姿を消してしまったので、他に運び役はいないのだ。
 家の中から出てきたアジンエンデは、室内だというのにフードマントを被ったままだった。そこから覗く腕や靴はレイの赤い装甲だ、まだあの赤い鎧は脱げていないようだった。『極光の剣』の使い手は、ぶっきらぼうに入れと顎でしゃくって家の奥へと行ってしまった。
 その背をガジャクティンがポーッとした顔で見送っていたので、その耳元で囁いてやった。
「H」
 ガジャクティンはきょとんとして私を見つめ、それから顔をカーッと紅潮させ、大きな声をあげた。
「なに、言ってるのさ、ラーニャ! 馬鹿じゃないの? 僕は、ただ、憧れの赤毛の戦士アジャンの跡取りに出会えた感激で、」
 私はふふんと笑って言ってやった。
「スケベ」
 ガジャクティンの顔が更に赤くなる。
「違うって言ってるだろ! どこまで、頭、悪いんだよ、いやんなるなあ、もう!」
『勇者の剣』を私に押しつけ、ガジャクティンは叫んだ。
「僕は女の人の裸になんか興味ないよ!」
 ずっしりと腕に重たい剣を抱きながら、私は図体はやたらデカいけど四つも年下な義弟に意地の悪い笑みをみせてやった。
「あらまあ、じゃあ、男の人の裸の方が好きなわけ? 義姉としてあんたの将来が心配だわ」
「バカ!」
 ガジャクティンの顔はタコのように真っ赤だ。
「そんなんでもない!」
 ガジャクティンは私に背を向け、でっかい背中を見せた。
「ラーニャとはもう口ききたくない!」
 そのままズンズン帰って行く義弟に、思わずふきだしてしまった。
 女性の裸を意識しまくっているのに、素直に認められない。うろたえながら、誤魔化そうとする……どう見ても、童貞っぽい。王族十四歳にしてそれはちょっと情けないけど、勇者に関わりのないことは全て排除してきたガジャクティンの人生に女性が入りこむ余地はなかったのだろう。
「入らないのか?」
 シベルア語で尋ねてきたアジンエンデに、
「今、行くわ」
 と、答えた。私とガジャクティンの会話はインディラ語だったから、彼女にはわからなかったはず。
『勇者の剣』と着替えなどが入った革袋を家の壁のそばに置き、中を見渡す。
 入口から向かって右の壁には食器棚やら衣装ケースやら大箱やらが並んでいる、しかし、左の壁の前には家具がなく、さまざまな武器が飾られるように設置されていた。弓、短剣、片手剣、槍、棍棒……いざって時もこれだけ武器があったら対応できるだろう。『極光の剣』もその中にあり、取りやすいようにだろう、その周囲には他に武器はなかった。
 テーブルの上にはパンとスープと鳥の腿とサラダが二人分あった。彼女の旦那さんはいないのだろうか?
「座れ」
 と、言って、アジンエンデはフードマントを外して椅子の背にかけると、客が座るのも待たず、さっさと席についた。
 テーブルの上の美味しそうな食事と、赤い下着姿のような彼女を交互に見ながら、私も席についた。
 挨拶も祈りも何もなく、無言で彼女は目の前の皿にとりかかった。
 私はご馳走になるお礼を述べてから、食事を始めた。鳥の肉はとろとろだし、香辛料に欠けるあっさりとした味のスープもなかなか、青臭い匂いだけど食べてみるとしゃりしゃりしていてサラダは爽やかな味だし、焼いてから数日経っているだろうパンは硬かったけど美味しかった。
「美味しい」と、素直に感想を言っても、
「そうか」と、あっけない。
「料理が上手ね」と、褒めても、
「そんなことはない」と、切り捨てる。
 村にはもっと上手な人がいるってことなんだろうけど、私の方を見ようともしないでひたすらガツガツ食べている。
 無視されてるみたいで、ちょっと居心地が悪い。だから、私に注目してくれる言葉を選んでみたりした。
「その赤い鎧、脱げなかったのね」
 鶏肉をかじりついたまま、アジンエンデが緑の瞳でジロリと私を睨む。
「……おまえに勝てなかったから、な」
「それ、脱げないんじゃ、困るんじゃない?……トイレとか」
「ハリハラルドが舅殿から、鎧を外す魔法を聞き出してくれた。腕でも靴でも一部位を残しておけば、他は外せるんだが……」
 鳥の骨を皿の上に投げ捨て、彼女は布で手を拭いた。
「一時的なことだ。一時間もしないうちに外した部位が体に戻ってしまう」
「『極光の剣』を見事に操らないと、その鎧、外れないのよね? 誰がどの基準をもって見事に操ったって判断するわけ?」
 アジンエンデはフンと荒い息を吐いた。
「知らん。アジ族の剣か、舅殿のいずれか、だろう」
「それまで裸同然でいろと……嫁いびりね」
「舅殿の性的ないやがらせは、今日に始まったことではない。……あの方は色気過剰な格好を私にさせたがるし、媚薬やら、催淫効果つきの幻術やらを、私やハリハラルドにやたら使われる」
 え――! あのロマンス・グレーな上皇様、本当は、×××な変態だったわけ?
「あの方は……私達を本当の夫婦にしたいのだ」
「本当の夫婦……?」
 アジンエンデの顔に自嘲の笑みが浮かぶ。
「私とハリハラルドは形だけの夫婦なのだ」
「形だけ……? じゃ、性交渉なし?」
 赤髪の女戦士の頬が朱に染まる。
「そういうことだ」
「じゃ、あなた処女なのね!」
 私は両手を伸ばし、目の前の女戦士の手をがしっと握った。
「私もよ!」
 十四、五歳になれば女は嫁ぐ今の時代、十八、九になって未通は珍しい。聖職者でもない限り。
「なんで形だけの夫婦なの?」
「……互いに事情があるのだ」
 アジンエンデは私の手を払った。
「ハリハラルドには好いた女がいるのだ。この家ではなく、その女の家で暮らしている」
「え?」
「私には年が同じ兄弟姉妹が七人いた」
 同い年の兄妹姉妹が七人?
「病で死んだ一人と外の村に嫁いだ二人をのぞき、今もこの村には、親父殿の血を引く者が男がニ人、女は私を含め三人いる」 
 えっと……
 そういえば、読まされたわ、リオネルに。痛快娯楽大衆本『女勇者セレス』を。お母様達の大魔王退治の旅を描いたその本の内容は真実とはかなり違うらしいんだけど、おおまかな出来事は合ってるし、庶民が先代勇者一行をどう理解してるか知る為にも目を通しておきなさい、と。
 全七十一巻もあるけど、お父様も登場人物の中にいたから頑張って読んだのよね。でも、あの本、気にくわないことに、従者の中で、お父様を一番、軽く扱ってる。お父様に関する描写が一番少ないのよ! 次にジライが少ないんだけど、それはどうでもいい。大僧正候補で旅の最初から従者だったお父様をクローズアップして当然なのに、お父様に関する描写ってすっごいあっさりしてるのよ。
 あの本に、確か……
 赤毛の戦士アジャンがHしまくって、女の人を八人妊娠させたって書いてあったわ。自分はケルティに戻りたくないから、王族の血を引く跡取りを残す為に。あの本によると、男三人、女五人が生まれる予定になっていた。
「ハリとアジとの血が混じり合い一つとなることが、親父殿と舅殿の望みだった。それゆえ、五年前、私の義妹アジナターシャがハリハラルドに嫁ぎ正妻となった」
 え?
 正妻?
「実直なハリハラルドと、おとなしく可憐で料理の上手なアジナターシャとの仲はたいそう睦まじく……翌年にはハリとアジの両部族の跡取りとなるべき男子が生まれたのだ。しかし……」
 アジンエンデは赤髪を掻きあげた。
「二年前、私のもとに『極光の剣』が飛んで来てしまったのだ」
 おもしろくなさそうにアジンエンデが言葉を続ける。
「私の剣技が兄達より勝ると、剣は判断したのだ」
「実際、そうなんでしょ?」
 と、聞くと、ああと、女戦士は頷いた。
「ケルティでは男女の別なく戦の訓練をうける。女の剣は家を守る為にあり、戦には出ないのが普通だがな。私は剣の道が楽しく、適齢期になっても誰に嫁ぐでもなく戦士達に混じって戦の稽古をしていた。それが……悪かったのだ。アジの長老達は『極光の剣』を持つ女の私こそがハリの跡取りの妻にふさわしいと強硬に主張し、譲らなかった。ハリハラルドには私との婚姻の意志はなかった。だが、このままでは部族がまっぷたつになりかねんところまでアジの長老との仲が険悪となったので、」
 まあ……『極光の剣』の持ち主といずれ『知恵の指輪』を継ぐ者が結ばれて子供が生まれれば、正真正銘、両部族の王っぽいわよね。
「仕方なく、部族を守る為に、ハリハラルドは最愛の妻アジナターシャを離縁して妾とし、私を形だけの正妻に迎えた。そういう事だ」
 ん?
「妾ってことは夫人じゃないの?」
「あたりまえだ」なにを馬鹿な事を聞くというように、アジンエンデ。
「ケルティじゃ、夫人は一人しか持てないの?」
「正妻は一人だ。妾の子は違法な結びつきで生まれた子供だ。母方の財産にしか相続の権利を持てない」
「妾の子は跡取りになれない……?」
「ああ。養子にしない限り、な。アジナターシャが正妻の時に生まれたハリレグネルはハリハラルドの現在の継嗣だが、以後、アジナターシャが産む子にはハリの部族王の世継ぎの権利はない。更に言えば、先妻の子より現在の妻の子の方が優遇される。私がこれから子を産めば、私の子がハリの次期部族王となってしまうのだ」
「インディラでは夫人は何人持ってもいいのよ」
 文化差異(カルチャー・ショック)を感じながら、私は言った。
「第一夫人が正妃で最も尊敬されるけど、世継ぎの王子は長男がなるのよ。どの夫人が産んだ子でも、世継ぎになれるの。その王子が王位にふさわしくないと父王が判断すれば廃嫡されるけどね」
「いいな」
 アジンエンデはニッと笑った。
「その方がいい……」
 アジナターシャって人、仲のいい義妹だったのね、きっと。
「世継ぎを産みたくなかったし……」
 アジンエンデの目は、壁に飾るように架けられている『極光の剣』へと向いていた。
「『極光の剣』が私を選んでくれたのなら、その意味を知りたかった。その意味を知る前に、ただの女となり、子を生み、夫と子供の為に生きるなど……嫌だった。だから、ハリハラルドと形だけの夫婦となった」
「意味?」
「その武器と共に『アジの部族王』としてどう生きるべきか……だ」
「『アジの部族王』としてどう生きるべきか……?」
「アジはハリに統合された。同じ祖先神を戴く部族は一つとなった。もはやアジはいない。だが、この剣を持つ限り、私は『アジの王』なのだ。王としてなすべき事をなさねばならない。だが……何をなすべきなのか、ずっとわからないのだ」
 聖なる武器と共に生きる意味……
 武器に選ばれた意味……
「私が生まれる前、この国はひどい状態だったそうだ。シベルア人に支配され、部族王は次々に殺され、財産を奪われ、重税をかけられ、ケルティは困窮にあえいでいた。女勇者一行の助けを借りて国を救った親父殿や舅殿を、私は偉大だと思う。王である以上、私もそうありたいと思う。村ももちろんだが、この国をも守りたいと思っている」
 アジンエンデは苦い笑みを浮かべた。
「今の所、さして王らしいことはしてないがな。魔族の襲撃から村を守るぐらいだ」
「魔族の襲撃……?」
「一ヶ月に一、ニ回ある。だが、小物しか来ない。そんなものから村を守ったとて、王の務めを果たしたとは言えん……おまえには勇者としてなすべき使命がある。大魔王を討伐し、この世界を守る為におまえは戦うのだろう? いいな。生きる意味がはっきりしていて」


 生きる意味……?
 大魔王が復活した時……私は……
 グスタフお兄様がご病気だから勇者を務めなきゃと思った。
 お父様をお守りする為に、勇者として頑張ろうと思った。
『勇者の剣』が私を拒絶したから、悔しくて、何とか屈服させてやろうと思ってきた。
 でも……
 私は、ケルベゾールドを倒さなければいけないと……実感をもって思っているのだろうか?
 私が知っている世界は、王宮や別荘、ごく限られた世界だけ。
 私が守らなきゃいけないと思ってるのは、お父様やお母様、家族や家臣達……
 勇者は正義と愛の心をもって世界を救うのだと、リオネルは繰り返し説いていた。それは理屈としてわかっている。けれども……
 私には守るべき世界も倒すべき魔族も、よくわかっていない。知らないのだ。ずっと後宮に居たから。
 生きる意味など、考えたこともない。
 私はアジンエンデほど真剣に、聖なる武器の持ち手としての義務を果たそうとはしてきていない。


……私が『勇者の剣』に嫌われた理由がわかったような気がした。


「褒めてもらって嬉しいけど、それ、買いかぶりよ。私、まだ、一度も実戦したことないし……『勇者の剣』ともあんま仲良くないの。まだまだ修行中の勇者なのよ」
「ならば、実戦を積んで、真の勇者になればいい」
 アジンエンデの頭は単純だ。私は口元に笑みを浮かべた。北国の女戦士に好感を抱きながら。
次回「初めての戦い! 重たいわよ、あんた!」で、十五話目にしてようやく姫勇者が初めて魔族と戦います! が、しかし……
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