挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

姫勇者と従者達

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

12/115

両手剣の達人? 突然の旅立ち!

 大魔術師カルヴェル様がいらっしゃらない事には、私達は旅立てない。
 と 言っても待つのにも限界はあると思う。
 各宗教団体にそれぞれの神からケルベゾールド降臨の託宣が下ってから、国も宗教団体も魔族に対する備えを強化し、大魔王の憑代について調査を進めている。世界中が、誰の肉体にケルベゾールドが降りたのか、今、何処に潜伏しているのか調査しているのだ。
 各国の協定で、有益な情報はインディラ寺院とエウロペの王宮に伝える事となっている。
 何処かから有力な情報が寄せられたら、それは即座に心話でガジュルシンに伝わる。引き延ばしなど不可能だ。私達は、その有力情報を基に、勇者として旅立たねばならない。
 その場合は、アーメットにずっと女装してもらって、私の影武者をやってもらうとジライは言っているけれど……冗談じゃない。そんなの認められないわ。私は勇者として生きるって約束したんだから!


 侯爵家の前に人だかりができてるのを上階から遠目に見るぐらいで、勇者一行はずっと侯爵家に滞在して一歩も敷地外に出なかった。
 何度かどこそこの国の誰々が従者候補として王宮に到着したとか連絡があったみたいだけど、私の名前を使ってジライが勝手に返事を出し、丁重に、皆、お断りしたようだ。


 大魔術師様がいらっしゃるまで、私達は侯爵家で修行をした。


 アーメットは両手剣の修行をした。師匠はガジャクティン。
 十になるまでしか王宮にいなかったアーメット。その両手剣の腕前は、ガジャクティンに言わせると『お話にならない』レベルのようだ。うまくないなあとは、私も思ってたけどね。
『勇者の剣』が重く感じられるのはアーメットの剣士としての技量が低いからだと糸目の義弟は断じ、自ら教師役を申し出た。アーメットがこれから先ず~っと勇者の身代わりになるかもしれないからねとも言って。
 しかし……
 二人の稽古を横でたま〜に見学して、私は、アーメットの数少ない長所を発見できた。
 アーメットは我慢強い。めったに怒らないのだ。
 私が生徒だったら、十分ももたないわ。顔の形が変わるほどガジャクティンをぶん殴って、稽古を終わらせている。
 教え方は下手じゃないと思う。でも……
 ガジャクティンの口のひどさはリオネル以上だ。無神経で、高ビーで、年長者への敬意が欠片もない。何でこんな事もできないの? こんな事もわからないの? 馬鹿じゃないの、の発言と態度を崩さない。
 図体は並みの大人よりデカいけど、中身は十四歳のお子様。ガキすぎて傲慢なんだとわかっていても、見てるだけでムカついた。ガジャクティンからは、絶対、何にも教わるものかという気になる。


 ガジュルシンは私の修行に付き合ってくれた。
 昼は、私の周囲に人が近づいてこないよう結界や幻術を張り、負傷した私を癒す為に、常にそばにいてくれた。
 夜は、侯爵家に滞在中の宮廷魔法使いからいろんな事を教わっているようだった。本で読んで呪文だけは覚えている魔法の使い方とか、魔法の性質とか魔力の込め方とか、実践的な魔法のコツのようなものを。
 私は魔法を使えないからよくわからないんだけど、ガジュルシンはどうも魔法の天才らしい。それも、大魔術師レベルなのだそうだ。カルヴェル様の真の後継者たりうる実力なのだと、宮廷魔法使いが興奮して教えてくれた。
 数系統の魔法が操れる事も凄いが、もっと凄いのは魔力の膨大さらしい。ガジュルシンの移動魔法には回数制限はなく、跳べる距離も半端ないとか。
 移動魔法が得意と言われる宮廷魔法使いですら、国をまたぐ移動魔法を一回でも使えば魔力が尽きるのが普通なのだから、ガジュルシンの魔力は異常とも言えた。
 まだ経験を伴っていないので、魔法の使い方に無駄が多いとのことで、宮廷魔法使いはさまざまなアドバイスをしているようだった。


 で、私は……
 毎日、日が沈むまで、『勇者の剣』と戦っていた。


 私は、今まで、いつもお父様の事を考えていた。
 お父様、今、何をしているかしら? ご政務で苦労なさっているのかしら? お昼には後宮にいらっしゃるのかしら、それとも夜?
 勇者のお勉強をする時も、お父様に褒めてもらえるよう頑張ろうと思ってたし(身についてないけど)……
 素敵な衣装を見ても、これを着た私を見たらお父様は何っておっしゃってくださるかしらと想像して……
 それから、乙女だから、その……初めての×××のことを……あーでもない、こーでもないと妄想……じゃない、夢想したりして胸をときめかせたり……
 何をするでもお父様の事を考えてしまっていた。
 意識してやってるんじゃない。息をするみたいに自然に、お父様の事を考えてきたのだ。
 習慣にもなってしまっている。
 意識して何かに集中しない限り、どーしたってお父様の事を考えてしまう。
 だから、『勇者の剣』と戦い続けた。
『勇者の剣』に私の偉大さをわからせて、屈服させる事だけを考えた。
 寝ても覚めても『勇者の剣』の事だけを考えようとした。


 毎日、ガジャクティンに頼んで、『勇者の剣』を裏庭に運んでもらった。 
 周囲が木で囲まれた場所にガジュルシンに結界を張ってもらって、私は戦った。
『勇者の剣』は私が触れようとすると、地面にめりこむ。
 しかし、私は負けない、『勇者の剣』に罵声を浴びせ続け、踏んづけてやった。地面深くにめりこんだら、棒で小突いたり、石を投げてやったりした。『逃げるなんて、卑怯だわ!』って馬鹿にしてやりながら。
 重くなるだけじゃなくって、『勇者の剣』は、私めがけて雷を落したり、雷撃魔法を放ったりした。といっても、向こうにしてみれば軽い抵抗なんだと思う。一撃で殺すほどの致死性の高い攻撃はされなかったから。せいぜい失神する程度だ。
 神聖防具の鎧をつけてるから、多少は、ダメージは軽減されている。それでも、毎日、傷だらけ、火傷だらけになった。
 ガジュルシンは卒倒しそうなほど真っ青な顔で私を見守り、癒してくれた。ずいぶん心配もされたけど、平気と答えておいた。
『勇者の剣』が手ごわいから、私はがむしゃらになれた。
『勇者の剣』ととことんぶつかりあって、私って人間を理解させなくっちゃって、闘志もわいた。
「あんたになんか絶対に負けないわ!」
 全身に痺れを感じながら、私は『勇者の剣』を睨んだ。
「今世が滅びたら、あんただって困るでしょうが! 理想を追い求めるのは平和な時だけにしてちょうだい! 馬鹿だろうが阿呆だろうがカスだろうが女だろうが、誰だっていいじゃない! あんたを使って大魔王を倒したい奴がここにいるのよ! 協力したらどうなの?」
 鞘を踏んづけてやったら、燃える鉄のように熱くなって反撃してきた。この馬鹿剣がぁ!
「大魔王が復活したのに、仕事をサボるなんて最低よ! あんた、我がままだわ! ラグヴェイ様の血筋じゃなきゃ嫌だの、両手剣が上手に使えなきゃ嫌だの、男でなきゃ嫌だの……ごちゃごちゃうるさい! 理想は理想! 現実は現実よ! 妥協しておとしどころを見つけなさいよ! あんた七百年以上、この世に存在してるんだから、ちょっとは大人になったら?」


 私の説得方法に、おじい様はびっくりしていた。カルヴェル様がいらっしゃったらよく相談なさいとも、おっしゃった。しかし、昨日には、
「あまり賛成できないやり方だけれども……『勇者の剣』には思考力も感情もある。物扱いしないで、ライバルとして扱う事は、あながち間違いではないかもしれないね」との言葉をくださった。


『勇者の剣』に私がズタボロにされるのだ。超過保護なジライが、ああだこうだぎゃあぎゃあわめくだろうと思ってた。邪魔をしたらぶん殴ってやろうとも思っていた。
 でも、ジライは勝負中の私には全く接触してこなかった。ガジュルシンがそばにいたから、警護と治療は完全に任せてるって感じだった。
 休憩用の飲み物と食べ物を、ほどよい時間にそっと用意してくれてたから、覗いてはいたんだと思うけど。


 部屋に戻ると、いつも湯浴みの準備は整っていた。お風呂から上がった私の手足や腰を、ジライは長時間マッサージしてほぐしてくれた。ガジュルシンから回復魔法をかけてもらっていたけれど、ほぐしてもらうと筋肉がこわばっていたんだとよくわかる。ジライのおかげで体は随分、楽になった。
 で、その後は、髪やら肌やら爪やらの手入れをしてくれる。座ってるだけで全部やってくれる。気持ちよくってうたた寝しちゃうと、ベッドに運んでくれる。おじい様との夕食の時間の前には必ず声をかけてくるけど、私が眠そうだと、そのまま放っておいてくれた。で、夜にふと目覚めると、夕飯を食べてない私の為に、夜食をサッと準備してくれる。
 なに、これ?
 なんなの、この細やかなサービス。
 私付きの侍女だって、ここまで完璧にお世話してくれなかったわ!
 私はジライを見直した……むろん、ほんのちょっとだけど。
 お母様がジライを第一の奴隷にしている理由が、少しだけわかったがした。優秀な奴隷っていいものなのねえ。
 夜食を食べながら、給仕してくれるジライに聞いてみた。
 昼間の私の勝負を見てどう思う? って。
「お美しいと思いながら、陰ながら拝見しております」
 と、ジライは答えた。
「あの阿呆剣を、ラーニャ様は真摯にお相手しておられる。いずれはアレにもラーニャ様の気高きお心が伝わりましょう。ご納得がゆくまで、ラーニャ様が思う通りにあやつを躾ればよろしいかと」
 発言内容はあいかわらず大ボケだけど、私のやり方を肯定してくれてるのはわかった。
「ラーニャ様こそセレス様の跡を継ぐべき貴きお方。ラーニャ様があの剣を用い、ケルベゾールドを滅ぼす日を私は心待ちにしております」


 カルヴェル様がいらっしゃった時、私は『勇者の剣』と戦っている最中だった。


 軽い電撃を浴びたせいで、気絶してたんだと思う。
「ホホホホ、無茶しておるのう」
 笑い声で、私は目覚めた。
 地面に寝っころがっている私のすぐそばには、ガジュルシンが居た。治癒魔法をかけてくれてたみたい。
 で、ちょっと視線を上に向けると、空中に黒いローブが浮かんでいるのが見えた。
 白髪白い髭の皺だらけのおじいちゃん。魔法使いの杖を持った黒のローブのおじいさんが宙に浮かんでいた……
 私は痛む体をどうにか動かして上体を起こした。ガジュシンが背を支えてくれる。
「カルヴェル様……おひさしぶりです」
「うむ。大きゅうなったのう、ラーニャ。今では、すっかり、セレスによう似た別嬪の姫様じゃな」
 お母様の神聖魔法の師――当代随一の大魔術師カルヴェル様。
 大魔術師様はインディラ王家とは懇意だ。
 毎年、年明けには必ず子供達の人数分、変わった魔法道具(マジック・アイテム)を転送魔法で贈ってくださった。萎れることのない花の挿さった一輪挿しの花瓶とか、空中を泳ぐ魚とか、歌う鏡とか、返事をする小箱とか、玩具のようなものを。
 最後にお会いしたのは、確か、ガジュルヤーマの誕生祝いの席。大魔術師様はインディラ王家に家族が増える度に顔を出してくださっていたとか。私が覚えているのはガジャクティンの時と、ガジュルヤーマの時だけだけど。
 カルヴェル様の視線が、私から地面に転がっている剣へと動く。私と戦い、踏まれ、土や埃をかぶり、『勇者の剣』も汚れている。
「ふむ」
 カルヴェル様は顎髭を撫で、首を傾げられた。
「しばらく、こやつと二人っきりにしてくれまいか? 腹をわって話してみるわ」
 やっぱり魔法剣と話せるのか大魔術師って凄いなあと思い、私は素直に頷きを返した。
 ガジュルシンに支えられながら、私は屋敷の中へと戻って行った。


「おぬしと戦うのは、もう御免だそうじゃ」
 カルヴェル様がホホホホと笑われる。
『勇者の剣』はカルヴェル様の魔法で、私達――ガジュルシン、ガジャクティン、アーメット、ジライの前の宙を漂っていた。
 私の部屋に集まった一同は、皆、宙を彷徨う剣を見つめていた。
「おぬし、こやつに持ち手と認められるまで、ずっと挑戦を続ける気じゃろ?」
 その問いに、頷きを返した。ガジュルシンに疲労回復の魔法までかけてもらったから、すっかり元気になった。やろうと思えば、今日も夕方までばっちり戦える。
「ラーニャのようなおなごは大嫌いゆえ、何万回挑まれようが、答えは変わらぬ。天地がひっくりかえっても主人と認める気はないそうじゃ」
 む。
「じゃが、倒されても倒されてもへこたれず、不死人(ゾンビ)のように立ち上がり、知能のない単調攻撃を繰り返し続けた根性だけは認めてやる。三日も拒絶され続ければ脈なしと気づくのが普通じゃが、その当たり前の判断すらできない馬鹿さ加減には感服する。天晴れ、だそうじゃ」
 それって……褒めてるの?
 大魔術師様はニヤリと笑った。
「おぬしの根性に敬意を表し、大魔王を倒すまでの間だけならば妥協して力を貸してやってもよいと言ってるぞ」
 本当に?
 パーッと目の前が明るくなったような気がした。
 良かったね、ラーニャと、横でガジュルシンが言った。
「ただし」
 ん?
「『力を示して欲しい。持ち手にふさわしい剣の才を見せて欲しい』だそうじゃ」
『持ち手にふさわしい剣の才を示せ』?
「剣術の腕前をみせろってことですか?」
「そうではない。おぬしがどれほどの剣の技量かは、こやつは柄を握られただけで察する事ができる。そうではなく、実戦をせよと言っているのじゃ。剣の名手と名勝負をするとか、魔族を千体倒すとか、目に見える形の実力を示せと言うておるのじゃ」


 勇者として活躍してみせろってことね……


「僕が闘ってあげてもいいよ」と、ガジャクティン。又もや、上から目線だ。何だっけ、何とか流の両手剣の印可らしいけど、本当、生意気。
「いいや、ガジャクティン。おぬしでは駄目じゃ」
 と、大魔術師様。
「『勇者の剣』は自分を用いて戦ってみせろと言うておる。岩をも触れただけで切り裂く『勇者の剣』。これとまともに戦えるのは、同じ聖なる武器を持つ者だけじゃが……」
 老魔術師様の視線がジライに向く。変態だけど、こいつ、聖なる武器『ムラクモ』の使い手なのよね。
「おぬしは駄目じゃ。絶対、手を抜くゆえ」
 そう断言され、ジライはチッ! と、小さく舌打ちを漏らした。
「又、どうせ戦うのであれば、両手剣同士のがよかろう。しばし、待て、両手剣の達人を呼び寄せてやる」
 両手剣の達人?
 老魔術師様は懐から水晶珠を取り出され、それも宙に浮かした。呪文を詠唱すらしない。カルヴェル様がほんの少し魔力を高めただけで、水晶珠がまばゆく光り始める。
 水晶珠の中に、何かが映る。
 何か赤いものがある。
 カルヴェル様がホホホホホと笑い声をあげられる。
「久しぶりじゃの、アジスタスフニルよ」
《あんたか……》
 水晶珠から声が響いた。
 水晶珠には人の顔が映っていた。
 赤髪、赤髭の、ワイルドなおじ様。野性味あふれてて、ちょっと格好いいかも。
 頭しか見えないから、その人がどんな所で何をしているのかはさっぱりわからない。けど、相手の視線は大魔術師様にぴったりと合っている。魔力の源を目できちんと捉えているのだ。
《何の用だ?》
 あからさまに不機嫌そうに眉をしかめて、赤髪のおじ様が尋ねる。
「おぬしはわしに借りがある」
《は?》
「十九年前の事じゃ、大魔王の城からはよう出たがっていたおぬしを、わしが移動魔法でエウロペまで運んでやったではないか。まさか、その恩を忘れたとは言わないであろうな」
《十九年前だぁ? いつの話してやがるんだ、クソじじい! ンなもの、時効だ! 俺の知ったことか!》
「ホホホホ。あいかわらず短気じゃのう、おぬし。実はの、セレスの娘の今世の勇者のことで」
《断る!》
 気持ちよいほどの即答だ。
「頼みごとの内容ぐらいは聞け」
《言ったはずだ、あの時! 俺は、あのくそいまいましい女と変態忍者には、金輪際、二度と関わらねえとな! 傭兵時代だって、エウロペとインディラじゃ、絶対、仕事しねえようにしてたんだ。あの二人にうっかり出遭わねえようにな!》
「安心せい、ここにはセレスは居らぬ」
 あら、でも、大魔術師様、ジライはここに居るわよ……ほら、そこに。
 ジライが知らん顔をするようにそっぽをむく……相手にこっちの映像が見えてないから、あえて、伏せる気ね。
「なので、おぬしの都合さえよければ、移動魔法で運んでやるゆえ、ここまでパパーッと来てくれんかの? 『極光の剣』と共に」
《『極光の剣』?》
「うむ。セレスの娘が、セレスの時のように『勇者の剣』に嫌われておっての。すまぬが、おぬし、しばし稽古をつけてやってくれんかの?」
 水晶珠の中の赤髪の男が不審そうな顔をする。
《あんた……見えてないのか?》
「ん?」
《……見えてないんだな?》
「何がじゃ?」
 赤髪の男はフンと鼻で笑った。
《『極光の剣』のことで相談したいんなら、ハリハールブダンと連絡をとれ。あの剣は、今、俺の手元にはない》
「何? しかし、それでは、今、おぬし、先祖の加護がないのか?」
《ああ。だが、心配無用だ。魔族から身を守る術は上皇様からいただいている》
「じゃが、おぬし」
《ハリハールブダンと話せ。俺はもう両手剣は使えん》
 水晶珠の中の映像がプッツリと途絶えた。
「お?」
 大魔術師様が驚いておられる。相手側から強制的に映像を切られたからだ。大魔術師様の魔力をはねのけるなんて、あの赤髪の男の人、すごい魔法使いって事なのかしら?
「ジライ」
 名を呼ばれ、変態忍者が大魔術師様のそばへと近寄る。
「おぬし、アジスタスフニルの事、なんぞ知っておるか? わしは五年ばかりあやつとは会っておらんのじゃが」
 ジライは肩をすくめた。
「私は大魔王討伐の旅の後、会っておりません。そういえば、最近、アレが傭兵として働いているという噂も流れてきておりませんな」
「……ふむ。わしが知らぬ間に、何ぞあったのか」
「さっきの赤毛の人って、もしかして、セレス様の従者だった赤毛の戦士アジャン?」
 と、聞いたのは勇者おたくだ。
 カルヴェル様は頷かれた。
「さよう。わしが知る限り、この世で最も巧みに両手剣を操る男であった、神魔の器となれる、比類なきシャーマン戦士であった」
 すごぉいと無邪気に喜ぶガジャクティン。水晶珠ごしとはいえ過去の英雄を見て、興奮しているようだ。
 でも……
 俺はもう両手剣は使えんと、あの人は言っていた。それって……
「……ケルティに行ってみるか」
 そう言ってから、私達を見渡した。
「おぬしら、共に来い。ケルティの上皇様に会わせてやる」
「しかし」
 慌ててガジュルシンが口をはさむ。
「北方三国は国境を閉鎖し、他国とはまったく交流していません。通行書無しに国境を越えれば、国際問題となります」
「うむ。じゃから、移動魔法でこっそり行くのじゃ」
 老魔術師様は口を前に指を一本立てていた、『内緒』という合図で。
「ケルティの上皇様はわしの魔法の弟子での、なかなか話せる奴じゃ。姫勇者一行の非公式の訪問も、気を悪くせず、歓迎してくださるじゃろ。アジスタスフニルのことで会いに行く大義名分もあることじゃし、この機会に上皇様に顔を売っておいて損はないと思う。皆、共に来い」
「でも、そんな突然……先方にも都合が」
「いやいや、その心配は無用。あやつ、分身魔法が使えるでの。忙しいようなら分身をわしの方に寄越すじゃろ。来訪の意思のみ今、伝えておく。一時間後に出発するゆえ、皆、準備をしておけ」


 そんなわけで、突然、私達は旅立つ事となった。
 いつ旅立ってもいいように、もともと支度自体はしてたから、準備はすぐに整った。
 私は、グスタフ兄様のお部屋で、兄様とおじい様にお別れの挨拶をした。
 グスタフ兄様はここ数日の私と『勇者の剣』の戦いの事をおじい様から聞いていた。あまり剣を苛めないでおくれよと言って笑い、
「美しい年頃の姫君に勇者の任をお任せするのは心苦しいが……この世の為、どうか勇者として働いてくれ、ラーニャ。病が癒えたら、僕も必ずラーニャのもとへ駆けつける」
 その日が来るといい……ううん、必ず来て欲しい。そう思って、私は指先が黒くなっている兄様の右手にそっと自分の手を添えた。
「はい、兄様。兄様がお元気になられるその日まで、『勇者の剣』と共に頑張ります」
「王宮からは侯爵家から連絡をいれておく」と、おじい様。
「姫勇者の旅立ちを国をあげて見送れなかった事を国王陛下は残念に思われるだろうけれど、『大魔術師カルヴェル様に連れられて、どこぞへ行ってしまった』のなら、皆、納得しよう。大魔術師様の権威はある意味、強国エウロペ以上だからね」
 おじい様は愉快そうに笑われた。
 勇者一行が向かう先を、おじい様もグスタフ兄様も『知らない』事にした。
 通行許可書無しに北方のケルティに行くなんて、馬鹿正直に言えないものね。


『勇者の剣』はガジャクティンに背負ってもらった。
 私、ガジュルシン、ガジャクティン、アーメット、ジライの五人は大魔術師様の移動魔法で一瞬のうちにエウロペからケルティに運ばれていった。
 本当、魔法って便利だ。


 こうして、後に、姫勇者一行、或いは、ラジャラ王朝勇者一行と呼ばれる私達の旅は始まったのだった。
 次回から新章 『極光の剣』と『龍の爪』 に入ります!

 最初の話は、『北方の上皇様! 父よりは義父の方が……』で。

+ + + + +


 活動報告の方に書きましたが、ラーニャちゃんの更新、少し先となります。が、どうぞよろしくお願いします。

 ラーニャちゃんの更新前に、にじファンの方にちょこちょこっと書くと思います。形となったらアップ前に、活動報告に書きます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ