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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

私がそこにいたから

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幼い日の出会い! お父様との約束!

「大魔王となった、私の願いは一つ……あなたと剣と聖書と共に死にたかった……それだけです」


「とはいえ、死んでくれってお願いしてもあなたは嫌がるだろうし……あなたを守ろうと、皆、必死になるでしょうからね。悪の大魔王役を楽しんでやらせていただきました」


「第一王子の声ですか? 呪って声を奪ったのに、理由はありますよ。私の能力封印の魔法を使ったら、彼は多分、死んでいました。あの子、真面目ですもの、短時間で私の能力の大半を封じようと無茶するでしょうし……無茶してるって事をあなた方に内緒にして。肉体に負荷をかけすぎて、その場で死ななくとも、確実に寿命を削ったでしょう。さすがに、それは痛々しすぎる。あの子は、私の妹サティーの孫、ナーダの息子です。大切な血族だと思っています。あの子には、ひどく嫌われていますがね」


「ミズハ様は、完全な巻き込まれですね。『再生』の奇蹟がもたらせる神が欲しかっただけなんです。どこの何って神様でも良かったんですが使役神のあの方は手に入れやすかったんで、憑依体のタカアキ様にちょっかいを出してあなた方に関わらせるようにし向けました。キョウを襲って、ね。ミカドの神官長のあの方は私の思い通りに動いてくれました」


「ミズハ様は大事に、封印してましたよ。決して、穢れぬように、ね。あなたの為です。再生だけなら、私でもできます。けれども、光の御力による再生でなければ意味がない……。だから、ギリギリまで私の内に封印しておいて、あなたに殺される前に、外へ飛ばしました。そして、これから、あなた方と縁を持った白蛇神様は、『再生』の力を振るわざるをえなくなる……周囲の者達の情にほだされますよ、あの方、神様にしては人間的すぎますから」


「意味がわからない? もうすぐわかります。今、時の結界を張ってるので、外の時間は止まっているんです。この結界を解いたら、きっと聞こえてきますよ、みんなの声が」


「とはいえ、ここまでこぎつけるの、大変でしたよ。あなた方、予想以上に強いわ、カルヴェルが従者を増やしちゃうわで、てんてこ舞いでした」


「偽善的ですが、誰も殺したくなかったんです。人殺しが趣味というわけではないので。なのにあの人数でしょ、予定以上の召喚魔法を使わなきゃ対応できませんでした。四天王も邪龍も、破壊の本能のままに暴れ回るし……すごい事になりましたよね。分身にこっそり新従者達を護衛させて、攻撃の軌道を微妙に変えさせたりして、死者は出さないよう気を配ったんですが……本当、カルヴェルには仕事を増やされました」


「聖書ですか? 分断したモノは、召喚に使用したものが全部ではありません。そうですね、六分の一ぐらい私が持っていました。圧縮魔法でもう跡形もないですけどね」


「まずは、聖書の断片をあなた方に消してもらう、それにつれ剣の能力が低下する、無限の守護の力が使えなくなる、そこからあなたと相討ちになって死んでもおかしくない状況作りに走ったんですが……剣身を砕いたのは、本当、予定外だったんですよ。あの時は、ミズハ様を私から切り離す前だったんで、斬られるわけにはいかなかったんです。精神衝撃からあなたが立ち直って帰ってきてくれて、良かったです。あなたの弟では心中相手としてもの足りなさすぎですもの」


「姫勇者様、すみませんでした、あなたの『勇者としての生』を、私が奪いました。許してください。自分がわがままだという自覚はあるんですよ。でも、あなたに出会え、あなたとなら古えからの代理戦争を良い形で終わらせられると思ったら、もう……歯止めがききませんでした」


「何で、そう思ったかって? あぁ……そうでした。思い出させてあげます。あの夏の日を……私とあなたが初めて出会った日のことを」


* * * * * *


 夏の間、家族と過ごす、別荘が私は大好きだった。
 ウッダルプルはうだるように暑いのに、別荘のあるデカンティナは涼しくって過ごしやすい。別荘の敷地内には、お母様の牧場と別宅があって、森もあるし湖もある。後宮の庭園よりずっと広くて、綺麗だ。


 その日の勉強を終えた私は、森に行った。うるさいチビガキの相手はしたくないんで、ちょっと遠くまで、湖の船着場の近くのお花畑に向かった。名前は知らないけど、白い小さな花がいっぱい咲いていた。
 護衛役として、勝手にジライがついて来てた。覆面に黒装束の暑ぼったい格好で。
 ので、使う事にした。
 ご本で見た花冠を作りたいんだけど、編み方がよくわかんないのだ。
 作った事がないと、ジライは答えた。でも、花が見えるように編みこんで輪を作れば良いのですね? と、確認をとってから、器用に指を動かし、それらしい形を作っていった。忍者って何でもできるのねえと、感心した。
 途中から私は作りかけのそれを奪い、教わりながら、作ってみた。どうにか、不格好な輪っかができたんで、ジライの頭にのせてやった。覆面の上から花冠は、とっても変だったけど、ジライは喜んだ。
 次に作った花冠は、最初から最後まで自分でやったものだ。いびつだったけど、私が被った。
 ここからが本番。私はお父様の為の花冠制作に入った。お父様は、今、別荘で持ちこんだお仕事をなさっている。本当は邪魔しちゃいけないんだけど、花冠を口実に、ちょっとだけお顔を見に行こうと私は企んでいた。


 私と一緒にお花畑に座っていたジライが、突然、立ち上がり、『ムラクモ』を抜いた。水の飛沫がお花畑に飛んだ。
 さっきまでほやほやしてたのに、ジライは、湖に向かい、おっかない低い声で怒鳴った。
「何用じゃ? ここはきさまが、立ち入って良い場所ではないわ」
 ジライは私と湖の間に入っている。よく見えない。賊? 湖の方には誰もいないみたいだけど、忍者の目には何か見えるのかしら?
「頼み? 今さら、きさまが、我に何を?」
 私には聞こえないけど、ジライには何か聞こえるみたいだ。ムカついた。
「だれと話してるの、ジライ?」
「賊にございます」
 それはそうだろうけど。
「だぁれ? 知り合いなんでしょ?」
「昔、ちょっと……」
 ジライは湖に向かい、刀を構えたままだ。睨んでるだけで、斬りかかる感じはない。
「ちょっと何なのよ!」
 かなり、ムカついて怒鳴った。今にも殺されそうな状況なら、そうならなかったかもだけど。
「私は『誰』か聞いたのよ、それって普通、どういう知り合いですとか、何々さんですとか答えるもんでしょ? 子供だからってゴマかすんじゃないわよ、マヌケ!」
 ぐっと喉をつまらせ、ジライが『申し訳ありませぬ』と答えを返す。
 その時、頭の中に声が響いた。思念だ。
《とても元気が良いお嬢様ですね。はじめまして、私は、ムジャと縁のある者です》
「ムジャ? ジライの部下の?」
《ええ。正しくは、ムジャの育ての親、忍者ガルバの……身内のような者です》
 忍者ガルバがどういう人か、私は知っていた。ナーダお父様と、お父様のお母様、お父様の伯父に仕えた忍者。ずぅっと昔はインディラ(いち)の忍者だったそうで、ムジャ達多くの忍者を育てた人だ。
《理由あって本名を明かせません。ナーダ国王にお願いした事があるのです。が、今の私では国王の前に顔を出せないので、忍者ジライに頼んでいるのです》
「何で、顔を出せないの?」
《私は穢れているので、尊い国王の御前には行けないのです》
「じゃ、お風呂に入ってから出直して来なさい」
 私の頭の中に、快活な笑い声が響いた。
《お風呂じゃ落ちない汚れなんです。もう一生、何をやっても綺麗になりません》
「あら」
 ずっとバッチイなんてかわいそう。私は同情した。
「それなら、私が頼みごとを聞いてあげるわ。言いなさい」
 本当に? と、思念が揺れる。こいつは口調は丁寧だし、軽いことを言うけど、何か暗い。そんなイメージが伝わる。
「いけませぬ、ラーニャ様」
 ジライがとがめるように、私を見た。ので、言ってやった。
「私に危険はないわ。あんたが守るもの」
「しかし……」
「お父様から『忍者ガルバ』の話は聞いた事がある。ガルバが家族も部下も何もかも犠牲にして戦って守ってくれたから、お父様は、今、生きてるんだって。恩人なんだって。恩には恩で報いるものよ。お父様の代わりに、私が恩を返すわ」
 しばらくの沈黙の後、頭の中にあたたかな思念が伝わった。
《誇り高く、義理がたく、恐れを知らず、情に厚い……あなたは、素晴らしい王族ですね、まだお小さいのに》
「小さくないわ、もう八つですもの」
 私は胸をそらせた。
「さあ、おっしゃい。あなたの頼みを私が聞いてあげる」


《ナーダ国王は、忍者ガルバの遺髪をお持ちなのです。ムジャがガルバの死を報告する時に共に渡すと言っていたので、今でも、絶対、持っているはずなのです。ナーダならば、必ず……。あ、いえ、ナーダ国王ならば、大切にしているはずなので……それをお借りしたいのです。少しの間で、良いので……》


 お父様から遺髪の入った守り袋を借りて、私が湖の側に帰って来ると、思念は驚いたように私に話しかけてきた。
《ずいぶん早かったですね、何と言って借りたのですか?》
「そのまんまよ」
 湖に近づこうとする私を、ジライがひきとめようとする。
 足を踏んづけてやった。危なくなったら、あんたが守ればいいの。それが忍者でしょ? 王女の私の行動を妨げるな、馬鹿と、怒鳴っておいた。
「忍者ガルバの身内が来てる。ガルバの遺髪が見たいんだけど、穢いから王様の前には顔を出せないって困ってた。ジライに頼む所に私が居合わせたのもきっと神様の思し召しだから、遺髪を貸してってお父様に頼んだの」
《全部……話してしまったのですか?》
「ええ、そうよ。良かったわね、お父様、守り袋を持ち歩いてたから、すぐに借りられたわ」
《ナーダは? ついて来たのですか?》
「ご政務中よ。あんた、お父様に会いたくないんでしょ? お父様には、絶対、後をつけないでって頼んでおいたから来ないわ。神様にかけて誓ってもらった」
《そんな説明でナーダが納得したのですか?》
「私が大丈夫だって言ったし、ジライも一緒だから」
《何故、大丈夫だと言い切れるのです? 私は賊ですよ?》
「賊でも平気。だって、あんた、すっごい悲しそうだもん。その悲しみはいやせる人がいやすべきだわ」
 思念の主の心は暗い。でも、それは深い悲しみのせい。何となく、私にはわかっていた。
「それに、本当に危ない奴なら、見てすぐに、ジライが斬る。あんた、問題ありだけど、大悪人ってわけじゃないし、忍者ガルバの本物の身内なんでしょ? なら、恩は返さなきゃ。遺髪、どこに持ってけばいいの?」
 しばらくの沈黙の後、せつないような、苦しいような、喜ぶような、複雑な感情の混じった思念が伝わって来た。
《ありがとう……セレス様のお嬢様……とても嬉しいです。あなたのような優しい方にお会いしたのは……本当に何年ぶりでしょう……感謝します》
「おおげさ」
《大袈裟じゃないですよ……このところ穢れた私を憎む方達としか会っていなかったので……正直、何もかもが嫌になりかけていたのです……しかし、あなたが居るのなら……あなたのような方が今世に居るのなら、短慮な行動は慎しみます。ガルバの髪の毛も、こうして持って来てくださいましたしね》
「きちんと返してよ。お父様の大事な物なんだから」
《お返ししますよ……二、三本、無くなりますが。髪束だから大丈夫ですよね……湖に守り袋ごと入れてください。大丈夫、濡れませんから……セレス様のお嬢様、感謝します……いつか、このご恩はお返ししますね》


* * * * * *


「そう言っておきながら、あなたを殺しちゃったのですから、私も相当な大悪人ですよね」
 ナラカの笑い声を聞きながら、思い出した記憶に唖然とする。
 そういえば、そんな事があった。でも、さっきまで、偽の記憶にすり変わっていた。私は忍者ガルバの身内を名乗るおばあさん忍者に会って、お父様から借りた守り袋をその人に渡し、泣いている姿を見た……そう覚えていた。
「あの時の髪の毛、何に使ったの?」
 ナラカが笑うのをやめ、静かに瞳を伏せる。
「再生の術に……。ガルバを甦らせたんです」
 甦らせた……?
「あの時、ガルバは浄化されていて今世には居ませんでした。魔を憎む正義の味方の仕業です。邪法で死にかけていた体をつくり直し、若返らせましたけれどもね……ガルバには何の力もなかった。魔界の力をこの世にもたらす事も、瘴気を放つ事も、何一つ……けれども、存在自体が悪だと……光の教えの方々はアレを浄化したのです」
 十九年前、僧侶ナラカが堕落したのは、自分の影だった忍者ガルバを救う為だった。病に伏していたガルバは、間もなく死ぬはずだった。
「私やガルバは、数え切れぬほど、光の使徒達から命を狙われ、闇の教えの者から恭順を促されていました。この地上を乱す事なくのんびり暮らしたいって、ささやかな願望はことごとく砕かれ、そして……ガルバは殺されたのです」
 死の床にある人に会いに行けば、魔に堕ちる……魔界での瘴気の穢れが落ちていないナラカは総本山を離れてはいけなかった。なのに、行った。自分の命よりも大切な人に会いたかったから。
「それまでは光の勢力の者は誰一人、殺さないようにしていたんですがね……私に敵意を向けて来る奴は、皆殺しにしてやりましたよ。殺して、殺して、殺しまくって……どんどん心は荒んでいきました。今世なんて滅ぼしてしまえって気分でした。大魔王をこの身に降ろそうかとも思いましたね」
 魔に堕ちてまで迎えに行った人が、殺されたのだ……ぶち切れる気持もわかる。やっちゃいけない事だけど。


「ナーダの元にガルバの遺髪がある事を思い出し、貰いには行ったものの、半ば以上、うまくいくとは思ってませんでした。いろんなものに絶望しきっていたので……」


「あの時、あなたに出会えなければ、私は完全に闇に堕ちていました……あの時から、私はあなたのファンなのですよ。あなたは私の悲しみに共感してくれた……共感能力者だとも気づいていました」
 ナラカが私に微笑みかける。
「あなたはまさに光でした。漢らしい性格が、本当に素敵で……誰に似ているのかは、後になってから思い当りました」
「『勇者の剣』……?」
「ええ。そっくりでした。乱暴者で、意地悪で、わがままで、でも、己の正義を貫く事をためらわない、潔くて優しいところなんか、もうそっくり」


 似てない! と、誰かが叫んだような気がした。
 誰かが怒っている。すっごい不機嫌だ。イライラしてる。
 何っていうんだろ……自分はもっと高潔だと言いたいのだろうか。


 今のは……?


 私は、キョロキョロと辺りを見回した。
 しかし、闇が広がるばかりで、上半身だけのナラカしかいない。
 でも、今、感じた感情は、間違いなく……
「ええ、彼です」
 ナラカがにっこりと微笑む。
「あなたと私と私が持っていた聖書と剣は共に砕けたんです。混ざり合って、皆、この空間に居るんですよ」


『勇者の剣』もここに居る……?


「あんた、無事だったの……?」
 剣身が砕け、能力の大半を失って、圧縮魔法で潰されたのに……
 生きてるの……?
「無事じゃないですよ、姫勇者様」
 ナラカがおかしそうに笑う。
「だから、私達、全員、死んだんです。幽霊になってここに居るんですよ」
 幽霊と言われても、ピンとこない。私は前と同じ姿だし、思考できるし、ナラカと会話してる。
「厳密に言えば、皆、実体を失い、精神的な存在になったって事です。姫勇者様の今の肉体は精神がつくりだした幻。今世に存在しているけれど、何もできない……そういうモノになってもらったんです」
「何の為に?」
「古代からの馬鹿馬鹿しい代行戦を終わらせる為ですよ、私、ずっとそう言ってるでしょ?」
「そうだけど……」
「闇の聖書を分断化したのも剣を砕いたのも、力を削ぐ為です。お二人とも、今、たいした能力がない上に、実体が無いんです。何もできませんよ」
 ナラカが愉快そうに笑う。
「姫勇者様に剣と運命を共にしていただいたのはですね……光の力の暴走をおさえてもらいたかったからなんですよ。世界の消滅を望まぬあなたの思いと共感させる形で、『勇者の剣』の実体を消滅させたかったと……おおまかに言えば、そういう事です」
 知恵の巨人が見せた未来の中には、世界が闇に包まれたり、まぶしい光に包まれて何も見えなくなったりしているものがあった。あれは魔界の王やエウロペ神からの御力のバランスが崩れたという事だったのか?
「私がグスタフ様ではなく、あなたを選んだ理由は、おわかりいただけました?」
 私が共感能力者で、『勇者の剣』とよく似た性格だったから……?
 私がこいつらと心中したことで、最悪の未来が防げたんなら、まあしょうがないかなって気になってきた。巨人の見せた未来じゃ、一行全滅+世界消滅もあった。私とナラカが逝っただけで済んだのなら、上出来よね。
 享年十八歳は早いけど……みんなは無事だったんだし……ナラカも思ったよりはいい奴みたいだし(声は好きだし)、『勇者の剣』も一緒だし、幽霊でもいいかって気になってきた。
「『勇者の剣』は友人です。計画上、殺さなければいけませんでしたが、消滅させる気はありませんでした。剣身が砕ける時の衝撃も姫勇者様が半分引き受けてくださったから、剣の魂も無事でした。本当に良かったです」
 それに対し、怒鳴りちらすようなイメージが伝わる。『コンチクショウ、おまえなんか、友人じゃねえや。よくも騙しやがったな』って感じかな? 泣きながら怒って喜んでる感じ? ナラカが真の悪党じゃなくって嬉しいみたい。
「姫勇者様が納得してくださったのなら、時の結界を解除します。私達は今世で、一人の男の内に宿ります」
 闇の中に映像が浮かぶ。
 砂漠で片膝をついて跪く、インディラ忍者装束の男が居た。兜と口布で顔はわかんないけど、この人が忍者ガルバなのだろう。向こうは時の結界外なので、ぴたっと固まったまま動かない。
「『勇者の剣』の聖なる力が浄化魔法を拒み、『闇の聖書』が魔の力の影響をはねのけ、不老不死のこの男は永遠に生き続けます。私達と一緒に、ね」
「どういう事?」
「私達が今世に存在していれば、エウロペ神も魔界の王も、新たな形での今世への介入はできない。まあ、二人の神官戦士は永久に争い続けるのではなく、ただ存在するだけなんですが……永久に子孫の行く末が見守れるから『勇者の剣』的にはOKだそうです」
 何となく聞いてみた。
「それって『闇の聖書』的には、どうなの?」
「さあ?」
 と、ナラカが残っている右肩をすくめた。
「私、『勇者の剣』の思考を読むのは得意ですけど、『闇の聖書』の方は読んだ事がないんです。瘴気だらけで悪意に満ちてて醜いんですもの、必要最低限しか触れずにきました」
 ずいぶんな差別……
「いいんです」
 ナラカが狡い感じに笑った。
「前から言ってますよね? 私、美しくないものは嫌いなんです。汚らしい魔が何を思おうが知った事じゃありません。私の愛する世界を、私の望む形で守れれば、満足なので」


* * * * * *


「伯父上らしい」
 お父様が、口元に手を当てて笑った。
「それから、ナラカが時の結界を解除して、私達、ガルバの中に入ったの。一人の体の中に、本人+私+ナラカ+『勇者の剣』+『闇の聖書』って状態。でも、ガルバ本人が一番強くって、譲らない限り、体はガルバのものなんですって」
「ほう」
「これからどうするのか? って聞いたら、今世の片隅でのんびり暮らすんだってナラカが答えた。光や闇の勢力が介入してこられない、良い場所を見つけたって言ってたわ」
「ほう? 何処です、それは?」
 私はかぶりを振った。
「内緒だって。私も一緒に行くのにって文句を言ったら、私とはもうすぐお別れだから教えないって言われた。『姫勇者様の分は肉体の残滓を持っていけば充分です。迎えが来たら、応えてください』って。意味わかんなかったんだけど……しばらくしたら、何ていうのか、すっごく胸が痛くなったのよ。胸がつぶれるような痛みってヤツ……私の死を嘆く人間と共感したの。一人じゃなくって、複数の思い。どれが誰のだってはっきりはわかんなかったけど、みんなだってわかった」
 私はお父様に微笑みかけた。
「お父様のお気持ちも感じたわ」
 お父様が笑みを返してくださる。
「ええ。私もあなたの死を惜しんでいました」
「帰らなきゃって思った。『勇者の剣』が寂しそうなんで、胸がチクッとしたんだけど、それでも、帰りたかった。大きくって逞しい(ヒト)……だと思う、姿は見えなかったけど男の人がおでこにキスしてくれた。『さよなら』って……だから、さよなら、グザビィエって私も伝えたの」
 目元にじわ〜と熱いものが浮かんできたんで、急いで拭いた。
「ガルバさんから伝言。えっと……正確に伝えてくれって言われたのよね……『陰ながら御身様のご治世をお見守りいたします。どうぞ、良き王として、民が笑って暮らせる国をお造りください』って言ってたわ、確か」
「民が笑って暮らせる国……」
 お父様は青い瞳を細め、目頭を押さえた。
「そう言いましたか……」 
 お父様が静かに身を震わせる。
「したくもない還俗をして、国を豊かにしようと日々努力してきたのに、アレはまだ足りないと言ったのですね、『民が笑って暮らせる国』はまだ出来ていない、もっと『良き王』になれと……本当に勝手な男です」
 お父様が、アジンエンデとカラドミラヌがガルバから私の毛や血を託されたんだと教えてくださった。再生魔法の為に、ナラカが準備させたわけだ。
「すぐ側に居たのに、ガルバは、姿をみせてくれなかったんです。私の影を自称してたくせに、何一つ私の願いを叶えてくれないんだから……。不忠者で……最悪の忍者です」
 お父様が天井を見上げ、私もつられて見上げた。
「伯父上もガルバも『勇者の剣』も『闇の聖書』も、この地上の何処かに存在しているのですね……自分達が存在し続ける事で、光と闇の繰り返される戦いを抑止して……」


 ナラカは、最強最悪の大魔王と呼ばれるだろう(そのわりには被害がほぼ無いんだけど)。悪役として、表舞台から消えるのがあいつの望みだったから、それでいいんだろうな。


 そして……姫勇者ラーニャは最後の勇者として華々しく散った。
 私は、別人となって、ひっそりと生きてゆくだけだ。


「お父様、エウロペでの約束を覚えてる?」
「あなたが勇者としての使命を果たしたら、その時には、あなたの夢をかなえさせてあげるのでしたよね? 覚えていますよ」
「お願いしたい事があるの」
「ええ。何なりと。あなたの望む通りにしましょう、ラーニャ。あなたはこの地上の救い手です。あなたはどんな事でも私に願う資格がある」
 穏やかな笑みを浮かべるお父様を見ていると、胸がつらいほどバクバクする。
 お父様が好き。
 目まいがするほど好き。
 おそばにいて声を聞いているだけで、幸せ。
 お父様を私の手で愛してさしあげるのが夢だった。


 だけど……


 私の夢は、以前とは、違うものに変わっていた。
 次章『伝説が終わっても』。
 姫勇者ではなくなったラーニャと従者達のその後です。
 ラーニャの恋、ガジュルシンの余命、第二王子に復帰したアーメットの身の振り、失明したガジャクティンの変化、シャオロンの旅の終わりなど。
 最初の話は『愛しく思うもの! 死が二人を分かつまで!』です。

 明日は「女勇者セレス」の番外編の最終話+おまけをアップします。「女勇者セレス」、完結です。 その後、「姫勇者ラーニャ」を更新します。  
+注意+
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