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姫勇者ラーニャ 作者:松宮星

姫勇者と従者達

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私、負けない! でも、これはマズいと思う!

 寝巻きのまま、アーメット用の部屋のベッドの上に寝転がってボンヤリと天蓋を見つめていた。
 今、何時だろう?
 今頃、アーメットはエウロペの国王陛下の御前かしら? と、ぼんやりと思う。
 本当なら、私がその場にいるはずだったのに……
 新たな女勇者として……
 でも、仕方ない、国王陛下の御前になんか顔を出せない。
『勇者の剣』を持つことすらできない女なんて、勇者になんかなれるわけがない。


 目にじわ〜っと涙が浮かんだ。


 むなしかった。


 勇者のスペアに選ばれた時は、え〜〜〜〜、やだぁ、めんどくさ〜〜〜い、と、思った。
 私が生きている間に大魔王が復活するかどうかわからないし、勇者そのものではなく勇者のスペアである事も気に食わなかったし、弟のアーメットがいるのに何で女の私が勇者の勉強しなきゃいけないのよって反発心もあった。
 家庭教師のリオネルはうるさいし、くっだらない授業ばっかするし、物覚えが悪いって私を馬鹿にするしで……勇者のお勉強はつまらなかった。
 それは私が真剣にやらなかったせいでもあるんだけど……


 処女でいなきゃいけないのも嫌だった。
 そりゃあ、お嫁に行かないですんだのは嬉しかったけど……
 本当なら、姫君の私は十四、五には他国に嫁ぐか降嫁させられてたもの。
 勇者のスペアだから王家に残れて、ずっとお父様の側にいられたのだ。それはわかっている。
 でも、清い身でただ見つめ合うだけのプラトニック・ラブなんて私の好みじゃない。
 欲望のままに……激しくぶつかり合いたかった……
 鎖や縄で綺麗にからめとってあげて、逞しい体に私の印を鞭で刻み、蝋燭で彩ってあげて、羞恥心をあおる言葉をさんざんかけてあげて、お父様が望まれるのなら張り型だって使ってあげるし、敏感な所に器具をはめ、針でいろんなところを刺してあげて……
 愛あるプレイでたっぷりと可愛がってあげた後、よく耐えたご褒美として私の処女を与える……
 夢だったのに……
 お父様と両思いと確信したあの日からずっと、早くナイス・ボディのぷりんぷりんの女王様となって結ばれたいと思っていたのに……
 勇者のスペアにされたせいで、夢はお預けとなった。グスタフ兄様の子が大きくなるまで、私は処女でいなければいけない。三十になるぐらいまで、お父様と愛し合えないのだ。
 ならば、せめて、その一歩手前までのプレイを……と、思ったのだけれども、誘ってもお父様、静かに微笑まれるばかりで、決して二人っきりになってくださらなかった。劣情に負けて私に手を出したらマズいと恐れてらっしゃるのか、私の初めてのSMプレイで結ばれたいと先の楽しみと思ってらっしゃるのか……


 私は勇者のスペアでいるのが嫌で嫌でしょうがなかった。かなうのなら、やめてしまいたかった。


 でも、口にはしなかった。


 だって、お父様が期待してくださったから……


『勇者はこの世を救える唯一の存在です。世の為、人の為、自らを犠牲にして勇者たらんとしているあなたに、私は敬意を表します』 


 頬を涙が伝わる。


 私はお父様の期待に応えられなかったのだ。 


 恥ずかしくって、この世から消えてしまいたかった。


 ノックがした。
 返事をする気力もなかったので無視していると、お声が聞こえた。
「ラーニャ、少し話せるかな?」
 ヤンセンおじい様のお声だ。この部屋に王宮に行けなかった私が隠れているのを、おじい様はジライ達から事情を聞いて知っている。
 私は慌てて腕で涙をぬぐい、ベッドから体を起こした。
「はい! どうぞ!」
 小柄で柔和なお顔のおじい様がお部屋に入って来る。セレスお母様のお父様だ。武術に縁のない細いお体をしているけれど、昔、巡回裁判官として民の権利を王侯貴族や聖職者の横暴から守り続けたご立派な方なのだとお母様から伺っている。
「ここにおいで、一緒に話そう」
 ソファーに腰かけたおじい様。私はその隣に腰を下ろした。
 ヤンセンおじい様が、皺がいっぱい刻まれた顔を私に向け、微笑まれる。何処となく……ナーダお父様を思わせるやさしい微笑みだ。
「魔術師協会に連絡をお願いした。間もなく、この屋敷に大魔術師カルヴェル様がいらっしゃるよ」
「大魔術師カルヴェル様が?」
 お母様の神聖魔法の師で、お母様の従者だった大魔術師様が?
 おじい様は頷いた。
「『勇者の剣』はたいへん誇り高く気難しい剣だ。ラーニャのお母様のセレスも、あの剣が重くて、うまく扱えず、とても苦労をしていた」
「それは……知ってます」
「うん」
「でも、お母様の時はどうにか持てたのでしょ? 私は持ち上げる事すらできなかったけど……」
「それはカルヴェル様のご助力があったからなのだよ」
「え?」
「おまえのお母様の時もね、『勇者の剣』がとことん重たくなって、地中何十メートルにも埋もれてしまった時があったんだ。その後、カルヴェル様が剣を説得して魔法をかけてくださったから、最高に重くなっても成人男性の体重並の重量で済んでいたんだ。ラーニャ、カルヴェル様に間に入っていただいて、剣を説得してもらおう」
 剣を説得……
 魔法剣相手に話が出来るのかしら……?
「それで……持てるようになるのかしら?」
「どうだろうね」
 おじい様は穏やかに笑みを浮かべられた。
「ラグヴェイ様の血筋の方でも、全員が全員、あの剣を持てたわけじゃないんだよ。昔から、あの剣は、気に入らない者に持たれると、とても重たくなったそうだ。腕が未熟であったり、心ばえがよくなかったり、理由はさまざまなようだ……侯爵家の中には剣に認められず、生涯、『勇者の剣』を背負えなかった方もいらっしゃったとか」
「………」
「ラーニャは幼い頃からセレスに両手剣を習ってきたのだよね?」
 私は頷きを返した。
「では、腕が未熟な為、嫌われたわけじゃないね。ラーニャのものの考え方の何かを、剣は嫌ったのだろう」
「それって……」
 目にじんわりと涙が浮かんだ。
「私が勇者失格のダメ人間って事でしょ?」
「それは違うよ、ラーニャ」
 おじい様は私を抱きしめた。
「『勇者の剣』の好悪の感情が必ずしも正しいわけではないんだよ」
「………」
「争いを厭い、非暴力によって、世界を平和に導いた聖人がいらっしゃるとする。世の多くの人間はその方を尊敬するだろうが、『勇者の剣』は戦いを放棄した意気地のない男とその方を嫌うだろうね」
「………」
「おまえと『勇者の剣』は気が合わなかった。ただ、それだけなのだよ。どちらかが間違っているということはない、どちらも正しいんだ」
「………」
「けれどもね、ラーニャ、互いに尊重しあえば、主義主張が違う人間でもわかりあえる。目的の為に協力しあう事もできる。共に生きる事もできるんだよ」
「……そうかしら?」
「そうだよ。たとえば……おまえのお父様とお母様、そっくりかい?」
「お母様とジライ?」
 誰にでもやさしくて正義感にあふれていて、愛あるプレイで皆を幸せにしている女王様のお母様。
 部下を容赦なくいたぶって偉そうに威張りまくってるけど、私やお母様にはとことんMなジライ。
「……全然、似てないわ」
「うん」
 おじい様はやさしく微笑まれる。
「でも、二人はとても仲の良い夫婦だろ? 全く違う人間だからこそ惹かれ合い、わかり合ったんだ」
「………」
「おまえと『勇者の剣』はわかり合う事もできる。おまえがあきらめず勇者であろうと努力を続ければ、『勇者の剣』も心を開いてくれる。私はそう思うよ」


 そうか……


 そういうことなんだわ……


 何がいけなかったのか、わかった。


 私は、ただ、受身だった。
『勇者のスペア』となれと言われて嫌々引き受けて……
 押しつけられる勉強を何の為にやるんだかわかんないまま、漫然とやって……
『勇者が倒れたから勇者に昇格』と、言われてそのまんま引き受けて……
 勇者様〜と、ちやほやされるのも悪い気がしないなと、ちょっといい気になって……
 お父様からの期待に応えようと思ったりしていた。


 でも、違うんだわ。


 それじゃいけなかったんだ。


 私に足りなかったのは攻めの姿勢。
 言われた事を言われた通りにやろうとしちゃいけなかったんだ。


 だって……


 私は女王様だもの!


 獲物を踏みつけ、なぶり、屈服させ、支配するべき私が……
 周りの言いなりに、勇者になろうとしちゃいけなかったんだ。


 勇者として絶対的な威厳をもって、全てを支配する!
 私がやりたいように、正義を貫く!


 こうでなくっちゃいけないんだわ!


『勇者の剣』に認められなかったなんて、メソメソしてちゃいけなかったのよ。
 私の偉大さがわからない愚かな奴には、わかるまで徹底的に教え込んでやればいいだけ。
 調教してやればいいのよ!


「おじい様……ありがとう」
 私はおじい様を真っ直ぐに見つめた。
「私、負けない! 『勇者の剣』に私こそが持ち手と認めさせる! 絶対、あきらめない! 何度でもあの剣に挑戦するわ!」
 おじい様がうんうんと頷かれる。とても満足そうに微笑みながら。何か……やっぱ、似てるわ……お父様に……。素敵なオ・ト・ナ。包容力にあふれてるのに押し付けがましいところが全然なくって、とっても上品。
「大魔王復活の託宣があってから、まだ四日。魔が勢力を伸ばし始めるのは数ヶ月先の事だ。のんびりしているわけにもいかないが、きちんと準備を整える時間はまだある。焦って平常心を失ってはいけないよ、少しづつでいい、『勇者の剣』と心を通わせ合っていきなさい」
「はい、おじい様」
 少しづつ、私の支配下に置いてやる! 屈服させてやるわ!


 その時、チャイム音が鳴り響いた。


「おや、もういらしたのかな?」
 おじい様が立ち上がり、扉へと向かう。
「今の音、なぁに?」
「移動魔法でどなたかがいらっしゃったって合図だよ。この屋敷には移動系の魔法を制限する防御結界が張られていてね、ここの座標を知っていても家人の許可がなければ外から屋敷に渡ってこられないし、許可を得た場合でも出現する時は必ず玄関ホールと決まっている。ラーニャも着替えて玄関ホールまでおいで」
 私達がこの屋敷に来た時も、さっきの音がしたのだろう。出現した場所も、確かに玄関ホールだった。
 おじい様が出て行った後、寝巻きを脱ぎ捨て、即行でエウロペ風のシャツとズボンに着替えて部屋を飛び出した。


 玄関ホールの壁の模様におじい様が指を這わせていた。
 あの模様が防御結界を制御する仕組みになっているのだろう。
 正面階段の上からホールの様子を窺っていると、ジライとガジャクティンとアーメットがそばにやって来た。国王陛下との謁見を終えて、戻っていたのだ。アーメットは、兜と口布無しのインディラ風忍者装束だ。もう私の変装はしていない。
「王宮、どうだった?」
 って聞いたら、
「広かった」
 と、アーメットは答えた。馬ッ鹿じゃないのっ! て思ったけど、とりあえず怒りはのみこんだ。とりたてて何も言わないんだから、謁見は無事に終了したのだろう。
 玄関ホールの空気が振動し、何もない空間が光り始める。
 人の輪郭のようなものが見え始める。
 移動魔法で人が出現する瞬間を見るのは初めてだった。
 わくわくして待っていると……


「あら?」


 空より現われ出たのは若い男だった。
 大魔術師カルヴェル様じゃなかった……


 でも……
 何で?
 どうして、ここに?


「おまえ、何しに来たんだよ!」
 階段の手すりを乗り越え、アーメットが玄関ホールに着地する。
「こんな所に来てる場合じゃないだろ、おまえ」
 移動魔法で現われた者はアーメットを手で制し、正面階段の上にいる私に向かい丁寧に頭をさげて礼をした。
「インディラ寺院を代表して勇者の従者となるべく参りました。どうぞ、僕をあなたの従者の列にお加えください」


 て、言われても……
 OKなんて言えるわけないじゃない!


「どういうこと? 説明してよ、なんで、あなたがインディラ寺院代表なのよ!」
 階段を駆け下り、私は玄関ホールの男の元へと走った。
「寺院代表には僧侶でなくてもなれるんだよ。深い信仰心を持って、寺院で学んだ経験があればね」
「でも、寺院には大僧正候補とか優秀な方がいっぱいいらっしゃるわ!」
「うん。だからね、他の従者候補の方々と力比べをして正式に従者候補の座を勝ち取ってきたんだよ」
「いつ?」
「昨日」
「嘘! 王宮のあなたが僧侶様達と力比べなんかできるわけないじゃない!」
 そう言うと、その者はにっこりと笑みを浮かべた。
「僕、さきおとといから王宮を抜け出していたんだ。部屋に幻影を残して、こっそりとね」
「えぇ〜? 忍者の監視もあるのに、どうやって?」
「移動魔法で」
「え?」
 その者の笑みが少し、悪戯者っぽいものに変わる。
「内緒にしてたから、知らなかったろう? 僕は神聖・回復・強化・弱体魔法が使えるし、攻撃魔法も移動魔法も使えるんだ。さきおとといに王宮から総本山に自分の魔法で移動し、たった今、自分の魔力で総本山からここまで跳んで来たんだよ」
 私の横でアーメットがあっけにとられた顔をしていた。アーメットも知らなかったのね、彼が移動魔法が使えたなんて。しかも、国を渡る距離が跳べるだなんて……それも、四日の間に二回も移動魔法を使ってる? 宮廷魔法使いより凄いんじゃない? 超一流だわ!
 その者は懐から手紙を出し、私へと差し出した。
「大僧正様からの書簡。これに僕をインディラ寺院代表として、勇者の従者として推薦すると書いてある」
 私は手紙を受け取った。が、開きもせずに、目の前の人物をまじまじと見つめた。


 インディラ国第一王子ガジュルシン。


 王国の跡取りのあんたが……
 勇者の従者になるですって……?


「やるねえ、兄様」
 と、ガジャクティンが下々の子供みたいに口笛を吹く。


 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!
 そんなの、ダメに決まってるじゃない!
 どーするのよ、ナーダお父様、怒るわよ!
+注意+
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