逸話:焦りと心配
「・・・・・くそっ」人気のない公園で日本左衛門は舌打ちをした。
その表情は焦りに満ちていた。
家を飛び出し京都中を探し回ったが、少女が通う学校の制服を探したが見つからなかった。
『何処に入るんだ?』胸騒ぎが治まらず自分の無力さを改めて痛感させられた。
「くそっ。こんな事なら姫の学校の名前を聞いておくべきだった!」傍にあった木を力任せに殴った。
「あら?月影さん?」背後の声で振り返ると先日買い物に行く時に会った近隣住民の女だった。
『この女なら姫の学校を知っているはず』
「こんにちわ。少しお尋ねしたいのですが、宜しいですか?」
内心は焦りながら冷静に努め友好態度を取る。
「なんですか?」
「実は沙耶の学校に行きたいのですが、引っ越して来たばかりなので地理が分からなくて」
困り果てた表情の日本左衛門の演技は抜群だった。
「まぁ、そうでしたの。沙耶ちゃんの学校なら五条通りの月草高校ですよ」
案の定、女は自分が望んでいた情報をくれた。
「そうですか。ありがとうございます」
礼儀正しく一礼して去ろうとしたが呼び止められた。
「あの、沙耶ちゃんの事でもう一つ言っておきたい事が・・・・・・・」
女の深刻な表情を見て焦る気持ちが沸き上がったが沙耶の事と聞いて耳を傾けることにした。
「・・・・・何です?」声を押し殺しながら尋ねる。
「実は・・・・・・・」
女と別れた日本左衛門は急いで沙耶のいる学校に向かって走っていた。
『嫌な予感が当たっちまった!』速度を緩めずに走りながら舌打ちをした。
「実は沙耶ちゃん。虐められているって噂なんです」
女から聞かされた話は日本左衛門に大きな衝撃を与えた。
「単なる噂だと良いのですが、学校も黙認しているようです」
この話を聞いた日本左衛門は胸にどす黒い塊が動くのが分かった。
『俺の姫を傷つける奴は誰だろうと許さん』
あのはにかんだ笑顔に影をさす輩は許さない。
自分を家に泊めて世話をしてくれた菩薩の化身。
からかうと怒るが自分を気遣う事を忘れない。
その恩人に害なす者は神仏だろうが鬼だろうが容赦しない。
『教師だろう朝廷だろうが何だろうが、ぶっ殺してやる』
「姫、無事でいてくれ」
日本左衛門は近くのタクシーを拾い学校に向かわせて走らせた。
愛する女の無事を祈りながら・・・・・・ |