私はからっぽの人形。
何もない、何も持っていない人形。
私の中ではいつも、
《カラカラ‥カラカラ‥》
と空虚な音が響いている。
どうすれば この音は止まるのだろう。
何かあれば、何か持っていれば止まるのだろうか……。
ある日
私の前を、目をキラキラ輝かせた少女が通った。
私はその 私にはない輝く眼が羨ましくなった。欲しくなった。
私は少女にお願いした。
その眼を下さい、と。
『いやよ。どうしてあげなくちゃいけないの』
私は拒絶された。
でも 断られると、余計に欲しくなるもの。
私は少女から眼を奪い取った。
私の目には、キラキラと輝く瞳が納まった。
でも、空虚な音は止まらない。
《カラカラ‥カラカラ‥》
と鳴り続ける。
どうすれば この音は止まるのだろう。
ある日
私の前を、艶やかな黒髪の女性が通った。
私はその、私には無い漆黒の髪が羨ましくなった。欲しくなった。
私は女性にお願いした。
その髪を下さい、と。
『無理よ。この髪は私の自慢なんだから』
私はまた拒絶された。
でも我慢できなかった。
私は女性から髪を奪い取った。
私の頭には、艶やかな黒髪が納まった。
でも、空虚な音は止まらない。
《カラカラ‥カラカラ‥》
と鳴り続ける。
どうすればこの音は止まるのだろう。
透き通るような白い肌になっても、
すらりとした細身の体型になっても、
小鳥のさえずりのような可愛い声になっても、
その音は止まらなかった。
《カラカラ‥カラカラ‥》
と鳴り続ける。
どうやっても この音は止まらないのだろうか…。
そんなある日
私は一人の少年と出逢った。
いつものごとく 私はその少年のものが欲しくなった。
いつものごとく 私はその少年にお願いをした。
その笑顔を下さい、と。
そして いつものごとく断られるんだろうな……と考えた。
『いいよ。僕のでよければあげるよ』
聞き間違いかと思った。
もう一度 尋ねてみたが、私は拒絶されなかった。
少年の一部を手に入れた私の中で
《ガタッ》
と、一度 大きな音がした。
でもそれだけだった。
空虚な音は止まらない。
《カラカラ‥カラカラ‥》
鳴り続ける。
でも私は少年に興味を覚えた。
今まで カラカラ‥としかいわなかったものが、大きな音をたてたからだ。
私はもう一度少年にお願いした。
○○を下さい、と。
『いいよ。あげるよ』
私はまた拒絶されなかった。
何をお願いしても 少年は拒絶しなかった。
私の願いを 少年は全て受け入れてくれた。
そして そのせいで少年は、何もかも無くしてしまった。
動けなくなってしまった。
それでも、
私の心の中では まだ空虚な音が鳴り響いていた。
《カラカラ‥カラカラ‥》
と。
でも私にはもう、そんな事はどうでもよかった。
気にならなかった。
ただもう一度 少年に会いたい……と。
少年と話したい……と思った。
私は少年にもらったモノ、今まで奪い取ってきたモノを返していった。
ひとつずつ…、ひとつずつ…。
少しずつ…、少しずつ…。
少年は段々と形を成していき、それに反して 私は段々と何も無くなっていった。
とうとう 最初に奪ったモノを返し終え、
私が元の姿に──何もない姿に戻った時、少年は再び動き出した。
そして私に、にっこり と笑顔を向けた。
私は何も持っていない からっぽの姿だったけれど、
心の中には、何かじんわりと熱いモノが溢れだしてきた。
そして、いつの間にか
あの空虚な音は聞こえなくなっていた。
私はからっぽの人形。何もない、何も持っていない人形。
でも 私の中で、空虚な音はもう鳴り響かない。
私には何もない、何も持っていない。
でも 私の隣には少年がいる。
居てくれている。
私の中はもう空虚な音ではなく、
何かじんわりと熱いモノで今も満たされている……。 |