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幽明の織 作者:時嵩いちか
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2-3. エレベーターのなか

 箱を元の位置に戻して、わたしとおじいさんは一緒に階段を下りていった。

 上るときは長かったのに、階下につくのはとても早かった。

 エレベーターは二つあった。ボタンを押すと、先ほど、女性たちが乗っていったエレベーターとは別の方が来た。
 開くと、誰も乗っていない。わたしは、おじいさんと一緒に乗り込んだ。

 エレベーターの中は明るくて、ようやく安堵(あんど)した。

 ほどなく上階に着き、エレベーターを出ると――人だかりが出来ていた。

「えっ……? あっ……」

 警察らしき人たちまでいる。あんなに誰もいなかったのに、警備員らしき人が無線で何か話している。事件でもあったのかな?

「あっ! (りん)!」

「あー……よかったぁ、知早矢(ちはや)、帰ってなかったんだ……」

 友達の知早矢が走ってきてくれた。探しててくれたんだ。安心と喜びが交互にくる。

「凛、だいじょうぶ? 怪我とかしてない?」

「どうしたの、大げさだなぁ」

 わたしがそう言って笑うと、知早矢は「だって……」といいながら視線をとなりのエレベーターに向けた。

「え? ……ッ」

 息を呑んだ。

 となりのエレベーターが、血まみれになっていたからだ。


 警察の人が説明してくれた内容は、こうだ。

 警備員が巡回していると、エレベーターのほうから大きな音がした。

 不審に思い近づいてみると、なかから人の話し声がした。それから、水が滴るような音。

 そしてエレベーターのドアが開くと――なかは血まみれだった。

 わたしは、現場に居合わせた人間として、事情聴取をされた。迷子になった話。おじいさんの話。
 でも、おじいさんはどこにもいなかった。
 わたしが千早矢と話している間に、どこかへ行ってしまったのだろうか。

 エレベーターのなかは、血にまみれているだけで、遺体などはなかったそうだ。彼女たちは、どこにいってしまったのだろうか。

 あのエレベーターはなんだったのだろう。今は使用禁止になっている。



「……あのエレベーターが呪われてたのかなぁ……」

 わたしは今、お兄ちゃんのお見舞いに来ている。
 数日前のことが、夢のように感じられた。お兄ちゃんには言ってないけれど。入院中にストレスになるようなこと、言いたくないし。

 お兄ちゃんはトイレに行っている。入院してから一週間経つけれど、まだ酸素チューブが取れていないので、酸素ボンベを付けたまま行っている。
 車輪が付いた台にボンベが乗ってるの、初めて見た。

「やっと心電図のコードも取れたし……今は点滴の時間じゃないから、チューブだらけじゃなくて楽だよ」

 とか、笑いながら言っていた。
 かわいそうだ。早く退院してほしい。

 付いていこうか? と聞いたら「来ないでくれ」と言われた。

 だから、病室で一人で待っている。同室の患者さんも、リハビリとかで散歩に行っているので誰もいない。誰かがわたしの問いに答えることは無い。

 ない、はずなのに。

「エレベーターもまずかったね。でも、彼女たちのほうが危険な存在だったんだよ」

 耳元で声がした。

 ――ぞっとした。

 少しトーンが低かったけれど、今の声は。

「おじいさん……?」

 振り返ると、透明な窓しかなかった。外には、カモがいる庭が見える。

 ――そうだ、そういえば。

 あの青い光の零れていた通路。なんで窓からビルが見えていたんだ。

 あの時わたしは、地下にいたんじゃなかったのか。

 あの非常階段から繋がっていた灰色の通路。あそこは。

 なんで窓がなかったんだ。上の階のはずなのに(・・・・・・・・・)

「……凛? どうした?」

 はっとして顔をあげると、心配そうな目でお兄ちゃんが見ていた。

「あっ、ううん。ぼーっとしてただけー」

 あははと笑うと、わざとらしかったのか、お兄ちゃんは神妙な顔をしている。

 危険な存在だったのは――彼女たちのほう。
 では彼女たちは、エレベーターのなかで何をしていたんだろう。

 あのおじいさんは、何者だったんだろう。
 助けてくれたのかな。じゃあなんで、窓から出ることを勧めたんだろう。
 なんで、窓から出ないと言ったら、笑ったんだろう。

 わからない。自分じゃ答えを導き出せない。

 その答えは、未だに誰も、教えてくれないままでいる。
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