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幽明の織 作者:時嵩いちか
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2-2. 窓

 カン、カン……

 階段が長く感じる。ふと階下を見ると、先ほどの女性グループらしき人たちは、エレベーターの中に吸い込まれるように入っていった。
 エレベーターからこぼれる明かりが、やけに眩しかった。目に痛いくらいに。

 カン、カン……

 なんかこの階段長くないか?

 振り返るとおじいさんが付いてきている。狭い階段を上っているんだから当たり前なんだけど。

「あっ」

 目の前に、大きな円形の、白い発泡スチロールみたいなものが倒れていた。少なくとも、五、六本はある。階段を(ふさ)いでいて、上がれない。

「なにこれ……」

緩衝材(かんしょうざい)っていうんだよ。荷物を保護するやつだ」

 おじいさんがそんな事を言った。それにしては大きすぎる気がするけれど。わたしの身長くらいあるよ、これ。

「どければ良いよ」

 わたしは頷いて、その通りにした。おじいさんも一緒にどけてくれた。大きかったけれど、そこは発泡スチロールなので、軽かった。簡単に持ち上げることができる。階段の端に立てかけると、やっと人がひとり通れるくらいの隙間ができた。

 わたしはお礼を言うと、また一緒に階段を上る。
 なんでこんなところにあんなもの置きっぱなしにしてるんだろう、このビル。

 カン、カン……

 やっとドアまでたどり着いた。安心してドアノブを回すと、ガチャガチャという音と共に、硬質な抵抗感があった。

「開かない……うそぉ……」

 せっかく登ってきたのに。わたしが悲しい声を出すと、おじいさんがドアの上を指差した。

「あそこに窓があるよ」

「え、あそこから出るんですか?」

 危ないよ。何を言ってるんだよ、このおじいさんは。

 おじいさんは、ドアの横にあった木の箱を手早く積み重ねて、わたしに登るように促した。本当に、その時は何を考えていたのか分からないが――わたしは危ないと思いながらも、その木の箱に足をかけた。

 幸いというか何と言うか、窓には鍵がかかっていなかった。

 カラカラと開けると、廊下が見えた。さっき通ったあの広い通路とは違って、灰色に淀んだ空気が流れている。
 窓がないせいかもしれない。狭い通路の奥には、暗い色のドアが見えた。

 そして、どこからか鳥の声がした。ぎゃー、ぎゃーという大きな鳴き声。

 上の階に行ける。行ったほうがいいのかな。でもなぁ。
 おじいさんが登れない気がする。

 というのも、狭いのだ。
 わたしはともかく、おじいさんはこの窓を通れないだろう。ご年配だから、こんな高いところに登ったら怪我をしてしまうかもしれない。

「危ないですよ、ここ。通れないですよ、おじいさんが」

 向こう側に鍵がある保障もないのだ。行ったら戻れない。この窓は。

「一緒に降りて、エレベーターで行きましょう」

 そう言うと、おじいさんは少し驚いたような顔をして、それからニコリと笑った。
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