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幽明の織 作者:時嵩いちか
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2. エレベーターと少女の話

妹のターンです。
 お兄ちゃんのお見舞いのあと。

 わたしは友達と、駅ビルの中にあるリサイクルショップに寄った。

 そのお店は一階と地下にまたがった二階建てで、エスカレーターで繋がっていた。
 一階と地下には別々の入り口がある。
 上の階には本が置いてあって、お兄ちゃんが好きそうな本はないかと――物色してみたが、良いものはなかった。わたしはエスカレーターで地下に降り、下の階も見て回った。

 おもちゃがたくさんおいてあった。それと、少量だが服もあった。
 色んなものがごちゃごちゃと置いてあり雑然としているのに、わたしは何だかだらだらと、その場に留まっていた。
 お兄ちゃんになにか、買っていきたかったのだ。

「……あれ?」

 見ると、いつの間にか店内が薄暗い。
 棚の隙間から覗き見るが、誰もいない。時計を見ると、夜の八時を過ぎていた。

「あっ――す、すみませんでしたぁ……」

 誰ともなしに謝って、わたしは店を出ることにした。
 エスカレーターが止まっていたので、流石に登る気にはならずに地下のドアから出ると、やはり薄暗い。閉店時間を過ぎていたことにも驚いたけど、一緒にいた友達は何処に行ってしまったのだろう。
 わたしが下の階の奥まったところにいたから、気づかなかったのかもしれない。
 見るとスマホの充電も切れていた。ああ、ダメだ。とにかく友達を探そう。
 駅ビルの地下は、もうどの店もシャッターが降りていた。

(おかしいなぁ、警備員さんとか居てもいいのに)

 だれもいない。

 ぼやけた明かりだけを残したまま、ビルのなかは静まり返っている。
 仕方がない、駅に向かおう。
 そう思ったときに、わたしは自分が迷子になっていることに気が付いた。上の階に行けない。このビル、こんなに広かったっけ。

(こわい……)

 一度そう思ってしまうと、認印を押されたように恐怖がせり上がって来る。
 ああ、どうしよう。人の気配がしないビルはとても居心地が悪く、ずっと地下っていうのも何だかイヤだった。降りているシャッターの色が、床が、(すす)けて見える。いつもはもっと明るくて、小綺麗だったと思うんだけれど。

 そうこうしていると、広い通路に出た。左右に窓があって、仄暗(ほのぐら)く青い光がもれている。窓の外にはビルが望める。
 今度はやけに床が真新しいけど、最近出来た通路なんだろうか。

「……あ!」

 奥に階段が見えた。やっと地下から抜けられると思い、わたしは小走りになった。
 少し息を切らしながら、カン、カンと硬質な音を立てて、階段を上る。
 非常階段のようだった。手すりは冷たくもなく、温度を感じさせない。

 半分まで上ると、階段の下から人の気配がした。
 覗き込むと、そこには数人の女性がエレベーターの前に立っていた。薄暗いなかで、階を示す灯りがここからでも見えた。

 エレベーターなんかあったんだ。気が付かなかった。

 一瞬、そちらへ行こうかとも思ったけれど――なんだろう、なんだか。

 白い帽子を被った女性。同じ色のワンピースを着ている。ベージュのパーカーを着ている女性。パステルピンクのシャツを着ている女性。顔は見えないが、全員が友人同士のようで、和気藹々(わきあいあい)と話している。エレベーターを待っているのだろうか。

 ――エレベーターのほうが安心かな。わたしは立ち止まって考えた。

「このまま上ったほうが良いよ」
「わっ!」

 背後から声がして、振り返ると見知らぬおじいさんがいた。髪はすべて真っ白で、顔にも年月が刻まれていたが、背筋が伸びていて姿勢がよかった。
 穏やかそうな目をしている。

「えっ、あ……」

「ここまで上ったんだから。急いだほうが良いよ」

「は、はい」

 元々、あのグループの輪に近づきにくかったせいもあって、わたしは素直に階段を上った。
 後にして思うと――あのおじいさんもいきなり背後に現れて、不気味なのかもしれないけれど、その時は何故かそうは思わなかった。
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