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幽明の織 作者:時嵩いちか
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7-2. バンザイ寝

「なんかバンザイしながら寝ちゃうんだけど」

 朝起きると、本当にだるい。

 この身体になってから、変化したことが色々ある。異性になったから、とかいうのもあるけれど――身体のふしぶしが痛いし、一気に年を取った気分だ。年齢的には若返ったはずなのに。

『それ肩こりとか、わきのリンパつまってるんですよ』

 つけっぱなしの耳元の『貝殻のカフス』から、答えが返ってきた。
 いつツバメの声が聞こえるか分からないから、外さないようにしている。

「リンパってなに?」

『リンパ液のことですよ。脇に大きなリンパ線があって、それが老廃物とかでつまってるんです』

 ツバメが説明してくれた。つまってるから、バンザイしてるらしい。
 流そうとしてんのかな。

『バンザイ寝しちゃうと、余計に肩が凝っちゃうんですけどね~』
「そうなんだ。詳しいな」
『まぁあなたの老廃物って、拡大すると人間の顔面の形してるんですけど』

「……なに言ってんのお前?」
『久々留さんの身体はけがれてるので、呪いとか人の悪意とか、とても良くないものが身体の中に詰まってるんです。それが脇の下に詰まっててですね――』
「やめろ! 頭おかしくなる!」

 ツバメの説明は、こんな感じなのが多い。分かるようなわからんような……。

『ちゃんとダイエットして下さいね~』
「ダイエット……サウナとか?」
『あっ、いいじゃないですかサウナ。毒素が出ますよ』
 そんな反応をされたので、なんだか笑ってしまった。

「穢れとか呪いとか言うけど、結構物理なんだな」

 言いながら、オレは準備を始めた。子猫がいるから、そんなに長湯できないけど。久しぶりだったので、楽しみだ。


「……忘れてたわ」

 オレは女湯の前に立って愕然とした。受付のレジ前で、「女性一名様ですね」と言われた時に気がついたのだが。
「なんで言ってくれねぇんだよツバメ」
『まだ女性の感性になってないんですか?』
「うーん……」
 そんなこと言われてもなぁ。オレ、自分のこと女だって思ってないよ。思わなきゃいけねぇのかな、やっぱ。
 何かいやなんだもんよ。

『じゃあ帰ります?』
「帰らない」
『おっ、無抵抗ですか?』
 なんだその言い方。

 オレは返事をしないで、脱衣所で服を脱ぎ始めた。
 こんな所で帰って、一生スーパー銭湯に来れないなんて冗談じゃねぇよ。オレがどれだけスーパー銭湯好きだと思ってんだよ。外も寒いし年末だし、トンボ返りなんて絶対ゴメンだよ。

 この越谷の銭湯は初めて来た。せっかくだから楽しみたい。

 くそっ、このカップ付きインナーとかいう、シャツに胸当てみたいなのが付いてる服、やっぱり脱ぎにくいな。脱ぐときに巻き込んじゃうんだよ。そうやってマゴマゴしてると、隣のロッカーに人が来た。
 おばあさんだった。

 一瞬ビクッとなったが、それ以上は特になんとも思わなかった。若い人を見ても同じだった。ああ、本当に感性が女になってんのかな。それとも、オレって元々こんな感じなのかな。
 良く分からないんだけど、『感性が変わる』って状態に抵抗があるんだよな。
 そもそも女性の感性ってなに? ってなっちゃって。


 そんなことを考えながら浴場に行って、軽く体を流してから、大好きなジェットバスに向かった。

「痛い!」

 思わず声を上げてしまう。
 足が疲れていたので、内腿うちももをジェットに当てたら物凄い痛かった。
 大げさじゃなくて本当にネガティブな気持ちになった。

 ショックだった。まさか、生きることに対する無気力感をジェットバスで味わう羽目になるとは。今までこんなことなかったのに! 何だよこの身体!

 ……ああもうけがれてるんだか呪われてるんだっけもう。

 いやになったからサウナに入った。
 三分くらいでだるくなって、よろよろしながら水に入った。

「……まずい……」

 身体一つでこんなに違うなんて。オレの大好きな風呂が、まるで修行場だよ。

 それでも水に入りながら、騙しだましサウナやジェットバス、炭酸風呂なんかに入っているうちに調子が良くなってきた。

 おっ、これいいんじゃね? 体重減ったんじゃね?

『頑張りましたね、久々留さん!』
「へへっ」
 風呂から上がるころには、すっかり機嫌も良くなって、ツバメの言葉も素直に嬉しかった。
 どーれ、痩せたかなぁ!
 ちょっと期待して体重計に乗ったら、体重が増えていた。

 呪われてんのか。
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