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幽明の織 作者:時嵩いちか
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5-2. 友達

「信之さん、付いて来なくても良いのに……」

「僕がいたところで、安全になるってわけじゃないけどね。心配だから」
 うどん屋がある春日部から、約束の場所――川間までは、電車で行けばわりと近い。

「どうしようか――念のため、僕は他人のフリでもして、様子を伺ってようか? 何かあったら、すぐに警察を呼ぶから」

「……はい。すみません、何から何まで」

 正直、何をやっているんだろうと自分でも思う。
 きっと恭介君も、同じなのだろう。ただ彼は僕と違い、もっと差し迫ったものがあると思うけれども。

 駅のホームでそんなやり取りをすると、彼を先に行かせた。
 とりあえず、付いていくという形だ。
 話あうなら、どこかの店にでも入るかもしれない。近くに店があるのかと聞いたら、「少し歩いた先にファミレスがあります」と言っていた。

 改札をくぐり階段を降りる。地下を通り、また階段を上がると――コンビニの前に女の子が立っていた。
「――恭介」
 そう声をかけるのが聞こえた。

 あっ……友達って女の子か。『むつき』って、女の子でもいい名前だもんな。
 ん? ああ、いや。生まれ変わってるんだっけ。
 どうしよう。ここで見ていると、ただの不審者だよな。

 ――そう考えている間に、二人が歩き出したので慌ててついていく。

 なんだかやけに緊張するな、他人の尾行なんてしたことないし。

 目の前を歩いている二人は、男女のせいか普通の恋人同士みたいに見えた。何かたまに話しているが、道路を走る車の音やらで聞こえない。別段、揉めそうな気配もない。

 ――なにをやってるんだろうか、僕は。

 さっきからずっとそんな思いが付きまとうが、仕方がない。あまり深く考えないようにしよう。

 川間は近いが、降りたことがない駅だ。ここで恭介君を見失ったら、最悪迷子になってしまう。付かず離れず歩いていると、程なくしてファミリーレストランの看板が見えた。

 二人の後を追うようにして、ドアをくぐる。カランカランと、ベルの音がした。
「いらっしゃいませ。こちらの席でよろしいでしょうか?」

「あ、いえ。こっちの席でいいですか? えっと、ドリンクバー近いんで」
 半笑いでそう言うと、店員さんは笑顔で応対してくれた。なんだか言い訳がましいことを言ってしまうあたり、自分は演技が下手なんだと思う。

 恭介君たちの後ろの席を確保して、やっと安堵した。店の中だったら、事件なんて起きないだろう。
 しかし疲れたな。病気をしてからというもの、ずっと薬を飲んでいるせいか体調が思わしくない。階段の昇り降りだって辛いからな。

 ――胃腸に優しいものでも頼もう。

 ファミレス自体が久しぶりだったので、メニューを開いた時はちょっとワクワクした。このチェーン店久しぶりだな。うちの近所にもあったけど、つぶれちゃったんだよな。

(あっ、好きだった雑炊がなくなってる)

 一瞬、恭介君たちのことを忘れてメニューに食い入ってしまう。

「ごめんな、オレ腹減ったから、先になんか頼んでいいか?」
 女の子の声で、そんな台詞が聞こえた。

 顔をあげると、恭介君の後頭部が見えた。ボックス型の座席からは、二人の顔や表情なんかは見えない。
「……いいけど」
 憮然とした様子の、恭介君の声が聞こえた。顔が見えなくても、目に浮かぶようだ。早く話がしたくて、仕方がないのだろう。

「お前も頼めよ。恭介」
「……雑炊」
「それ、もうねーよ」
「嘘」
「嘘じゃねーよ」
 メニュー見ろよ、全然変わってんだろ。そんな風に言う彼女の声は、まるで男の子のようだった。

「……おい、どうしたんだよ恭介」
 直後、少し戸惑ったような声がした。

「……うるせぇよ」
「なに、泣いてんだよ」
「うるせぇ……泣いてねぇ。ドリンクバー行ってくる」

「待てよ、まだ注文してねぇだろ」

 じゃあトイレだ、と言い残して恭介君は席を立った。

 僕も少し遅れて、席を立つ。去り際に覗き見ると、彼女は神妙な顔をして俯いていた。黒い髪に、少しぽっちゃりとした体形。顔色が悪くて不健康そうだった。

 でも、どこか……強い意志を感じる目。そう思って、彼女の頭上を間近で見て――納得した。
 彼女の頭の上には。

 『使命:彼と猫を守ること』と書いてあったのだ。
 
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