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幽明の織 作者:時嵩いちか
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5. 使命が見える男の話・その2

お読み下さってありがとうございます!
*信之に戻ります。
「志賀君、大丈夫なのかい?」

 秋人さんが、心配そうな顔で訊いてくる。
「えっと……大丈夫じゃなさそうです」


 恭介君が仕事を休んだ、その日。
 彼は、昼の二時前に店に顔を出した。
 はじめは、「仕事……」とうわごとのように言っていたんだけれど、秋人さんが座るように促すと、そのまま黙って席についた。
 幸い、客は来ていない。

 恭介君は、『友人が亡くなった』という理由で休みを入れていた。
 そのせいか、ずいぶん落ち込んでいるように見える。
 店に顔を出すということは、一人でいるのが辛いのだろう。少し悩んだが、僕は彼の隣に座った。

「信之さん……すみません」

 いつもはしっかりとした彼だったが、消え入りそうな声で、こう続けた。

「……辛くて。それと……相談したいことが」

 痛々しかった。きっと、大事な友達なんだろうと思い、彼の肩を撫でる。

「いいよ。なに?」
 ……ん?
 こんな時だが、頭上の使命が目に入ったので、つい読んでしまった。

 『使命:彼女を支えること』になっていた。

 あれ……確か、恭介君の使命って『彼を支えること』じゃなかったっけか?
 なんで相手が変わってんだ。


 その時、ピロリン♪という、軽い音がした。恭介君の携帯らしい。「ちょっと待って下さい」と言いながらガラケーを取り出すと、慌てたような仕草でチェックしている。
 どうしたんだろう。
 そう思っている間に、彼は誰かとメールのやり取りを繰り返していた。それが終わったらしく、恭介君はこちらへ向き直る。あまり顔色が良くない。
 秋人さんも、心配そうにカウンターの向こう側から覗きこんでいる。

「あの……信之さん」 

「うん」

 真剣な眼差しだ。少し緊張しながら、彼の言葉を待つ。

「相談したいことっていうのは、その……昨日亡くなった、俺の友達のことなんですけど」

「あ――う、うん」
 彼はしばらく、言いにくそうに眼を伏せていたが――やがて、意を決したように言葉を紡ぎだした。

「夕べ、俺――友達が死んだとき、そばにいたんです」

「えっ……あっ……そう、なんだ」

 驚いた。何があったんだろうか。

「それから、救急車とか警察とか、色々あって。家に帰ったときに気が付いたんです。携帯にメールが来てて」

 恭介君は、自分の手の中にある携帯を開いたり閉じたりしながら、こう言った。

「睦月から――死んだ友達から、メールが来てたんです。死んだ後の時間帯に(・・・・・・・・・)
「……なに?」

 死んだ後の時間帯? つまり、亡くなった後に、本人からメールが来ていた、ということだろうか。

「内容は……行けなくなったって言ってたんですけど。そんなわけないんです、あいつ。うちに来てて、死んだんだから――」
 言いながら、暗い表情で眼を伏せた。

「それで――さっき、またそいつからメールが来たんです」
 そういうと、携帯を開いてメールを確認しはじめる。
「死んで、生まれ変わったから、会いたいって」

 恭介君の声が震えている。悲しんでいるのか、怒っているのか、喜んでいるのか――判別のつかない声色だった。

「だから、今から二時間後に――川間の駅前で、会おうって、今」
「えっ、会うの?」
「はい」
 どう考えても怪しいだろソレ。

「こんなこと聞くのもなんだけど、友達の子って、なんで亡くなったんだ?」
「……刺されたんです。犯人は、捕まっています」

 うっ、事件なのか。僕の言いたいことが分かるのだろう、恭介君は顔を伏せている。

「あいつ……オレを、かばったんです。それで――」

俯いたまま、携帯を握った手が震えていた。

「そうか……ごめん、辛いこと聞いちゃって。でも、危ないんじゃないかな……いくら犯人が捕まってるからって」

「俺も思っています、犯人の仲間なんじゃないかって。でも、もしも本人だったらと思うと――」
「それは判るけど」

 僕は、彼を落ち着かせようと、出来るだけ穏やかな声で言った。

「気持ちは判るよ。でも、警察に言った方がいいんじゃないか?」
「……もしも本当に生まれ変わってるんだったら、警察に……睦月が犯人の仲間扱いされるような気がして……」

「ん? ああ、そっか」
 要するに、『生まれ変わった』友達が、警察から疑われるのがイヤなのか。

 確かに怪しいよなあ、名前(かた)った他人なんて。
「それに……可能性があるなら……すがりたくて……」
 泣きそうな声だったが、泣いてはいなかった。昨日、散々泣いたんだろう。(まぶた)()れている。

「分かったよ、じゃあ僕も一緒に行こう」
「え――」

 恭介君は驚いたが、僕は構わず厨房に声をかけた。

「秋人さん、ちょっと出かけてもいいですか?」

「いいよ、どうせ暇だし」
 僕たちの話を聞いていたのか、いなかったのか。分からないけど、秋人さんはあっさりとそう答えてくれた。
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